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異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


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第37話 王城へ向かう前に

 教会本部から出た後。

 私は王都の東通りにある宿屋、『陽だまりの杯』の前に立っていた。


「ここだ……」


 大司教様からスラム街の問題解決を依頼された私は、本来ならば王国にその活動を許可してもらうため、すぐ王城に向かう予定だった。

 しかし教会本部の若いシスターさんが三日前に預かったという、私へのとある言伝を聞いて、急遽予定を変更したのだ。


「もういないかな、三人とも」


 独り言をこぼしながら宿に入ろうとした直後、内側から勢いよく木製の扉が開き、二人の男性と一人の女性が出てきた。


「む、失礼……ん?」


「あっ、リシアちゃん!?」


「お久しぶりっす!」


 宿から出てきたのは、黒髪の大男に、金髪の姉弟。

 私が故郷リースト村近くの町から、帝国領内のクービエ村まで旅を共にした冒険者パーティー『黄金の風』の面々であるガレンさん、イレーナさん、エイリオくんの三人だった。


「お久しぶりです、皆さん!」


「ここに来たということは、俺たちの言伝を教会本部で聞いたということか」


「はい。王都にはちょうど今日、着きまして」


 彼らは三日前に教会本部を訪問して、私がまだ着いていないことを確認すると、『王都にいる間は東通りにある宿屋、陽だまりの杯に滞在している』という言伝を残してくれたのだ。


「今日って……随分と長くかかったね。クービエ村の病って、そんな厄介だったの?」


「いえ、病自体はすぐ治ったのですが……まあその、それから色々とありまして。結局、王都での聖女認定もまだ時間がかかりそうですし」


 私は苦笑いを浮かべた。

 アルノー村長を説得したり、『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を大量召喚したり、帝国軍に勧誘されたり、オルディス殿下に剣を突きつけられたり、ライナルト師団長の策謀で謎の少年、セルジュくんに氷漬けにされたり……いやホント、色々あった。っていうかありすぎでしょ。


「へぇ……なんか大変だったんすね。お疲れ様っす!」


「ありがとうございます。でも皆さんにまた会えて、疲れも吹き飛びました」


 思わず笑みがこぼれる。

 そんな私の表情を見て、三人も安心したような顔を見せてくれた。


「アタシたちも、旅立つ前にリシアちゃんと会えてよかったよ」


「旅立つ前……ということは、まだ王都近くの新ダンジョンには向かわれていないのですか?」


「いやいや、それだとアタシたち王都に着いてから今まで、何やってたんだって話じゃん」


「もう行って、帰ってきたんすよ! 無駄足だったっすけどね!」


 エイリオくんが明るい調子で言う。

 無駄足とはどういうことだろうか。


「王都の東にある森で発見された新ダンジョンだが……どうやら、帝国軍に包囲されているようでな」


 ガレンさんの話によると、新ダンジョンは王国と帝国の国境近くにあり、しかも互いに昔から自国の領土だと主張している場所にあるという。


 そういえばクービエ村で帝国軍に勧誘されたとき、たしかライナルト師団長が私の役割を『新しいダンジョン攻略で傷ついた兵士たちへの治療』と言っていた。

 あのときはあまり深く考えていなかったけど、あれは『黄金の風』三人が向かっていた新ダンジョンと同じものだったようだ。


「実際は王国軍がその手前で通行禁止にしてたから、アタシたちは話を聞いてきただけなんだけどね」


「冒険者とはいえ、王国人が近づいたら帝国軍を刺激するから危ないって、追い返されたんすよ」


 三人はその後、王都の冒険者ギルドで依頼をこなしつつ、なんとか新ダンジョンへ行けないか情報を集めていたものの……最終的には『王国人の冒険者は無理』という結論に至ったらしい。


「新ダンジョンほどではないにしろ、王都冒険者ギルドの依頼レベルは高い。俺はここを拠点にしても良いと思ったんだが……」


「冒険者といったらダンジョンだって、エイリオが言うことを聞かなくてね。だからアタシらはこれから北の自由都市連合にあるダンジョンに向かうつもり。新しいダンジョンじゃないけど、それでも冒険者は稼げる場所らしいから」


「なっ……姉貴だって最初からダンジョンが良いって言ってただろ! リシアさんの前だからって、妙に大人ぶるのはやめろよな!」


「そんなこと言ったっけ? ってか、アンタだってリシアちゃんの前だからって妙に明るくなりすぎ。新ダンジョンに行けなかったからって、今さっきまで露骨に落ち込んでたくせに」


「い、いやそれは……でも、それは姉貴だってそうだろ!?」


 二人がわちゃわちゃとやり合い始め、ガレンさんは小さくため息をついた。

 ……ああ、こういう空気、なんだか旅の道中を思い出して懐かしい。


「こら、やめんか二人とも。そろそろ時間だぞ」


「あ、そうだった。ごめんねリシアちゃん、ホントはもっと話をしていきたいんだけど……」


「オレたち、前みたいに商隊護衛をしながら自由都市連合に向かう予定なんすよ!」


 エイリオくんが胸を張って言う。

 どうやら私が訪れたタイミングはギリギリだったらしい。


「ごめんなさい、引き止めてしまって」


「いや、イレーナもさっき言ったが、旅立つ前に少しでも話せてよかった」


「うんうん、聖女認定に時間がかかってるって話だけど、リシアちゃんなら絶対に大丈夫だよ!」


「またいつか会えたらいいっすね! 次に会うときはきっと、オレたちもAランク冒険者になってるっすから!」


「はい! 皆さん、どうかお元気で。女神様のご加護がありますように」


 三人と別れの言葉を交わす。

 エイリオくんは大きく手を振り、イレーナさんは去り際に小さくウインクをしてみせた。ガレンさんは無言で頷き、背を向ける。

 その姿が人混みに紛れて見えなくなるまで見送った後、私は王城へと足を向けた。

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