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異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


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第26話 壮大な目標

 すっかり協力的になったアルノー村長にお願いして、大量の肉豆を集めてもらい、私は村人全員に行き渡る以上の『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を召喚した。その数、なんと五百パック以上。


 さすがの女神様でも在庫の準備が追いつかなかったのか、一度に全部を召喚することはできなかったけど、それでも全部揃うまでにかかったのは八日ほど。そう考えると、かなり早いほうだと思う。


 だって普通に個人で買ってたら八日どころか一か月でも無理な気がする。

 法人で買ったのかな? 手段は聞いてないけど……女神様、お疲れ様です。

 数が揃えられなかったら栄養不足になってる人を優先的に配ってもらうつもりだったけど、全員に配れるならそれに越したことはないからね。


 ちなみに食品は女神様が日本で買っていると言っていた以上、これだけ召喚すると元手となるお金が気になるところだと思うけど、その辺りは心配ない。女神様がパソコンを買うときに諸々の資金源を確認したところ、彼女には億単位で日本円の貯金があることが発覚したからだ。


 なんでも日本に転移した際、人助けをして謝礼をもらって、そのお金を元手に予知能力を使いながら宝くじを買って、一等を当てたらしい。

 それどう考えても反則だし、そのお金で贅沢してるんだったら女神様ズルすぎでしょ……って思うところなんだけど。


 話によると、女神様はそのお金を1Kアパート関連や、私の召喚に必要な日本の食品を買うことぐらいにしか使っていないという。

 なぜか聞いてみたところ、女神様には人間と同じような欲がほぼ一切ない、ということがわかった。唯一の楽しみは自分の作った人間たちが、幸せそうに生きているのを眺めること、らしい。


 その話を聞いたとき、私は今後もっと女神様に優しくしようと思った。

 だって、女神様は食欲もなければ、何かを美味しいと感じる味覚さえもないらしいのだ。そんなの悲しすぎるし、唯一の楽しみは人間が幸せそうに生きていることを眺めることなんて……健気すぎる。


 千年、二千年とか長い間、眠りにつくのも人間のために消費した力を回復するためで、別に寝たいと思って寝ているわけじゃないらしいし。とはいえ、女神様ご本人は欲がほぼないことを大して気にしてはいないみたいだったけど。


 ……あれ? 何の話をしてたんだっけ。

 あ、そうそう、『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を五百パック以上召喚した話だ。


 大量に召喚できたそれらの品は、アルノー村長から村の人全員に配ってもらうことになった。その際に、アルノー村長からビタミンB₁が不足しやすいという話も合わせて伝えてもらい、白パンから茶色パンへの切り替えや、肉豆をしっかり食べるなど、食生活の改善についての指導も行ってもらえることになった。


 更にアルノー村長は紙容器や紙コップの製造を村の主要産業として育て、経済的な発展を目指すと同時に、肉豆を使って『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』の再現にも取り組むという壮大な目標まで掲げるらしい。


 私がそそのかした……じゃなくて、アドバイスした結果とはいえ、最初に話を聞いてもらったときとはテンションがまるで別人のようだった。あのときの慎重な表情はいずこへ、という勢いで前のめりに夢を語り始め、気づけば周囲の村人たちから徐々に巻き込んで、最終的には村全体が夢と希望に満ちていた。


 そんなだから、もちろん当初の懸念事項だった『白パンから茶色パンに主食を切り替えたら、村人の不満が爆発するかも』なんて気配はまったくない。というか、アルノー村長のテンションが高すぎてそれどころじゃなかった。村の人たち少し引いてたし。まあ、『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を飲んだら村の人たちも同じテンションになったけどね。


 当初はどうなることかと思ったけど、なんとかなって本当によかった。

 そんなこんなで、この八日間でアルノー村長の奥さんや娘さんともすっかり仲良くなったんだけど、そろそろ村を出なければならない。

 あくまでこの村は寄り道で、私の目的は王都の教会本部で正式に聖女として認められ、聖教国へと向かうことなのだから。


 そして村に来てから九日目の朝、アルノー村長の奥さんや娘さんに別れの挨拶をして、村長宅を出た後。

 私はアルノー村長の案内で中央広場へ向かい、村の皆さんと最後のお別れをしていた。


 ポーラさんやミレアちゃん、ラルフくん、エリーゼさんやその家族の人たちに、それぞれ治癒聖術で病気を治してもらったことを感謝される。

 その後ろには他にもたくさんの村人たちが並び、笑顔で手を振ってくれていた。中には涙ぐんでいる人の姿さえある。どこからか「聖女様万歳!」という声さえ聞こえてきた。


「えっ……ちょっと、アルノー村長! 秘密にしておいてほしいと言ったのに、もしかしてバラしたんですか!?」


 私は慌ててアルノー村長の袖を引っ張り、小声で抗議した。


「わ、私は何も言ってません!」


 村長はすごい勢いで首を横に振る。


「おそらく、リシア様が八日間で重症や軽症の村人も含め、多少の不調を訴える者までほとんど全員を、治癒聖術で癒して回ったからかと……」


「あ……」


 そうか……『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』の召喚が打ち止めになった後は暇だったから、脚気の症状が軽い人も全然関係ない不調の人も、最低限の報酬で治して回ってたけど……よくよく考えたら普通の人間は一日にそう何回も治癒聖術を使えない。


 それを連日続けて多数の村人たちを治しまくったものだから、アルノー村長が異様に気を遣っている点や、この世のものとは思えないほど美味しい『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』がなぜか村に出回っている件も相まって、私が聖女だと噂になってしまったのだろう。


 一部からしか聖女様万歳という声が聞こえてこなかったところを見ると、全員が本気で信じているわけじゃないんだろうし、そもそも言った本人はただの誉め言葉のつもりかもしれないけど……でも、噂になるだけでもマズくない?


 万が一にでも帝国に知られたら、大変だ。ここの村は帝国領だし。

 村の人たちは味方でも、どこから情報が漏れるかはわからない。


 一応、王都へは徒歩ではなく、紙コップを王都へ売りに行く商人さんの馬車に同乗させてもらうことになってるけど……軍馬とかで追いかけられたら、まず逃げられないだろうし。


 そんな風に戦々恐々としていると、アルノー村長は朗らかに笑いながら言った。


「ははは……ご安心ください、リシア様。帝国は国境に接している領土がとても広いため、帝国軍が展開できる範囲には限りがあるんです。確かに王国の王都は近いですが、帝国側の主要な拠点はずっと遠くにあります。仮に聖女の噂を聞きつけた帝国が、もっとも近い駐屯地から軍を動かすにしても……少なくとも二週間はかかるでしょう」


 アルノー村長がそう言った直後。


「村長! 大変です!」


 遠くから、村の衛兵が駆け寄ってくる。

 顔は青ざめ、息を切らせていた。


「帝国軍です! この村に、聖女を捕らえにやってきたとのことです!」


 今さっきの話をまるっと覆す言葉に、私は目が飛び出るほど驚いた。

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