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異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


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第23話 豊かになった暮らしの象徴

「……話はわかった。つまり村人には干したり塩漬けした肉ではなく、できる限り新鮮な肉を焼いて食べたり、今まで以上に肉豆を食べるよう指示すれば良いんだな?」


「この村だとお肉はとても高いようなので、それじゃ足りないかもしれません。肉豆も食べたがらない人が多いかもしれないので、主食を白パンではなく、茶色いパン……つまり全粒粉のパンにする、という対策も同時にやったほうが良いかと」


 毎日食べるものだから、一番効果があるはずだ。

 元はと言えば、白パンを毎日食べるようになってから発生した病気だし。


 しかし、私の言葉を聞いたアルノー村長は困ったように眉をひそめ、小さくため息をついた。


「それは……難しいな」


「なぜですか?」


 私は首を傾げながらアルノー村長に聞き返した。

 病気に至った経緯を考えたら、主食を全粒粉パンに戻すのがもっとも効率的で確実な解決策だ。


 この世界ではまだまだ精製した白い小麦粉は一般的じゃないし、需要と供給のバランスが逆転している前世と違って全粒粉のほうが安いから、戻すこと自体は難しくないと思うんだけど。


「この村にとって白パンは、『豊かになった暮らしの象徴』だ。今まで茶色いパンしか食べられなかった村人たちが、ようやく手に入れることができた憧れの食べ物なんだよ。それを今さら『体に悪いから茶色いパンに戻せ』なんて言ったら……村人たちは納得するだろうか?」


「それは確かに……厳しいでしょうね」


 何しろ、白パンを食べても他の食べ物で栄養を補えていれば、何も問題はないわけで。つまりは白パンそのものが体に悪いわけではなく、結局のところ肉や魚など、他の栄養豊富な食べ物を気軽に食べられない貧しさが、根本的な問題なのだ。


 これから先、村の人たちにはもっと豊かになってもらうか、肉豆などを使ったもっと美味しい料理を発明してもらうかしないといけないのだろうけど……一朝一夕にはいかないだろうし、それらを達成する前に茶色いパンを強制されたら、不満が爆発するかもしれない。


「うーん……であれば、わかりました」


 私はしばらく考え込んでから、パンッと手を打った。


「それでしたら、『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を村人全員に配りましょう」


「……意味がわからないんだが」


「つまりですね、村人の皆さんには心苦しいお願いをする代わりに『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を栄養補給しながら楽しんでもらって、不満を抑えつつ、根本的な問題解決に取り組んでいただくという感じですね」


 栄養成分表示を見たら『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』にもビタミンB₁は入ってるけど、これだけで十分に補えるわけじゃないだろうし、私が無限に供給できるわけではないから根本的な解決にはならない。でも村人たちの不満爆発を抑える力はあるはず。だって、ビッッックリするほど美味しいから。


 私なんか前世で、『なんでこんなに美味しいんだろう?』って、似た味を探すことまでしてたからね。

 結論から言うと、ぶっちゃけ味はかなりの部分が、コーヒー牛乳に近い。


 ただ……不思議なことに、飲み比べると全然違うんだよね。

 ほぼ味はコーヒー牛乳な気がするのに、なんだろう……旨味、みたいな?

 あと大抵のソイプロテインは粉っぽい印象があったけど、それがまったくなくてすごく飲みやすかったのもビックリだった。


 ちなみに、人によっては『でも、プロテインなんて……若い男性や、筋トレするような人が飲む物でしょう?』と思うかもしれないけど、そんなことはない。

 むしろダイエットに頑張る女性や、お肉とかお魚を毎日食べられないような人や、健康志向の人ほどオススメだと思う。


 だってさ……毎日、お肉とかお魚とか、豆とか、推奨量食べられるかって言ったら……ねぇ?

 できる人はできるんだろうけど、私は無理だった。


 カロリー計算が大変だし、用意するのが手間だし、お肉とかお魚を食べたくない日だって多々あるし、タンパク質の推奨量って結構な量があるし。


 私、前世でも食べるのは大好きだったけど、お腹の容量や消化能力は普通どころか、やや弱めだったからね……。もっといっぱい食べたいのに全然食べられなくて、随分と悔しい思いをした記憶がある。


 そう考えると、今世で健康的な身体を得られたのは僥倖だった。

 女神様の加護を受けてからはあまりにも健康的すぎて、ついつい食べすぎちゃうのが玉に瑕だけど。


「不満を抑えつつ、根本的な問題を解決……か」


 アルノー村長が難しそうな顔で唸っている。

 それを見て私は首を傾げた。


 はて、なぜだろう?

 この世界……いや、もしかしたら前世の日本以外の国が全部、束になってかかっても太刀打ちできない美味しさを誇る『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』の素晴らしさを知っていれば、そんな難しい顔にはならないはず……あっ。


 ……そういえば私、アルノー村長にまだ『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味』を飲んでもらってないじゃん。


「すみません、アルノー村長。新しいコップをくださいますか?」


「ん? なぜだ?」


「まだアルノー村長に『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味』を飲んでもらっていなかったもので。新たに作らせていただきます」


「あー……それなんだが……」


 アルノー村長が気まずそうな表情で目を伏せる。


「どうしたんですか?」


「すまない……私は牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロしてしまうので……遠慮させてもらう」


 牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする……乳糖(にゅうとう)不耐症(ふたいしょう)だろうか?


 乳糖不耐症というのは、牛乳などに含まれる乳糖ラクトースという糖を、体が上手く消化できない状態のことだ。

 通常、乳糖は小腸でラクターゼという酵素によって分解され、体に吸収される。でも乳糖不耐症の人はこのラクターゼの量が少なかったり、働きが弱かったりするらしい。


 これは病気というより体質に近くて、前世だと日本人やアジア人ではかなりの割合がそうだという。赤ちゃんの頃は乳糖をちゃんと消化できるが、大人になるにつれてラクターゼの量が減っていく人が多いんだそうな。


 私はこれを知ったとき、目から鱗が落ちた。

 なるほど……子どもの頃は牛乳一リットル程度がぶ飲みしても余裕だったのに、大人になってから同じことをすると『ポンポン痛い……』ってなるのは、そういう理由だったのか、と。


 ただし乳糖不耐症だからといって必ず牛乳を避けなければいけないわけではなくて、一杯や二杯など、許容量内であれば大丈夫な人が多いという。

 それに毎日継続して牛乳を飲み続けていると、乳糖を分解できるように体が適応したりして、そもそも症状が出なかったりするらしい。


 だから牛乳を適量飲んで特に問題がない人は、乳糖不耐症について大して気にする必要はない……っていうのが私の結論。

 もちろん牛乳が嫌いで体質的にも合わないって人は、無理して飲む必要ないと思うけどね。


 という思考を刹那のうちに終わらせて、ふと浮かんできた疑問をアルノー村長に聞く。


「でも、それならなぜ冷蔵庫に牛乳があったんですか?」


「牛乳は妻と子どもが好きでね。私と違って普通に飲めるようだし、滋養強壮に良いということはわかっているから、用意はしてあるんだ」


「なるほど……」


 私は納得して頷いた。仕方がない。

 個人的には牛乳で飲むほうが美味しいと思うんだけど、『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』は水でも十分、美味しく飲めるのだ。


「じゃあ水で……」


 そこまで言ったところで、食器棚の中にある緑色のコップらしきものが目に入った。ひとつだけではなく、何十個も縦に重ねられている。紙コップみたいだ。

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