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異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


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第21話 約束された勝利のソイ

 そして出てきたのは――


 『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』だった。


「きたっ……!」


 思わず声が出てしまう。

 元の食材がコーヒー風味の大豆っぽい豆、という時点でこれ以外まったく候補が思いつかなかったけど、きてくれた……!

 これは勝ったも同然!


「…………驚いたな。新型の魔道具か? 物をすり替える瞬間がまったく見えなかった」


 アルノー村長は身を乗り出し、机の上の『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』をまじまじと見つめている。袋には異国の文字、見慣れない印刷技術、滑らかすぎる素材――どれを取っても、この世界の常識からはかけ離れているから、興味津々なのだろう。


 ただ兄さんと違ってアルノー村長は魔力が見えないから、スキルによる神食品の召喚を魔道具によるものと思っているみたいだ。手品の延長線上で捉えているのかもしれない。


「女神様の奇跡ですから、すり替えてなどいませんよ」


 私はニッコリと微笑んで答えた。

 実際は日本で買った食品を素材と引き換えに転送してもらってるみたいなので、すり替えみたいなものだけど。


 アルノー村長は無言で手を伸ばしかけて、しかし途中で止めた。

 疑念と警戒、それでも抑えきれない好奇心が彼の指先を揺らしている。


「一回見ただけでは信じられないでしょうから、村長がご用意された食材も、女神様の奇跡で食品に変えてご覧に入れましょう。ただし、すべてを神食品にできるわけではございませんので、可能であれば肉豆を多めに持ってきていただけると助かります」


 神食品以外を出す形になっても特に問題はないが、肉豆で『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』を出せたなら、それはそのまま栄養不足の人たちに配る分として確保できるので、一石二鳥だ。


「……だからその、『神食品』というのは何なんだ」


「女神様が特別にご寵愛くださった、神々の国の食品です」


 嘘じゃないよ。

 女神様が、八百万の神が住まう日本でわざわざ買ってくださった食品だからね。


「…………まあ、いい。わかった」


 全然わかってなさそうだし、すごくツッコミを入れたそうな雰囲気だったけど、そうするといつまでも話が前に進まないと思ったのだろう。アルノー村長は客間から一度出ると、すぐに肉豆と小麦粉を持って戻ってきた。


 彼は皿の上にこんもりと盛られた未調理の生肉豆と、小麦粉の入った布袋を机の上に置くと、先ほどよりも真剣な表情で言った。


「これでいいか?」


「ありがとうございます。肉豆は女神様の奇跡と相性が良いのです。奇跡が起きる確率も高くなります」


 一度召喚できたということは、女神様の準備が間に合っている可能性が高いからね。


 私はお皿を素材として巻き込んでしまわないよう、両手で肉豆をすくい上げてから、再びスキルを発動すべく意識を集中した。



 〇



 そして肉豆と小麦粉に複数回スキルを使った後。

 机の上には、三つ出来上がった『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』と、三つ……いや、『三本』出来上がった白パンがそれぞれ並べられていた。


「ひとつ、聞きたいことがある」


 アルノー村長は1メートル近い、長くて硬くて武器になりそうな三本の白パンを見ながら言った。まるで剣でも見つめるような眼差しで、その異様に長大な白パンを値踏みしている。


「はい、なんでしょう?」


「見たことのないパンだが……これらもその、『神食品』というものか?」


「え?」


 私は思わず聞き返してしまった。

 でもすぐにアルノー村長がなぜそう思ったのか気がつく。


「いえ、これらのパンは私の故郷……リースト村で食べられていた普通の白パンです」


 そういえばポーラさんの家で見たこの村の白パンは、リースト村の物と種類が違っていた。

 ここに並んでる三本はフランスパンみたいな感じだけど、この村のパンは硬めのベーグルみたいな形だった。だからわからなかったのだろう。


「普通の、白パン……?」


 アルノー村長は怪訝そうな表情で眉をひそめた。彼の視線は三本の白パンを行き来し、明らかに『これのどこが普通のパンなんだ?』と言いたげだ。


「あ……すみません、よくよく考えたら私の故郷でもこの大きさは普通じゃありませんでした。普通はもっと短くて、せいぜい肘から手首ぐらいの長さです。これだけ長くなっているのは……女神様の力ですね」


 私は慌てて弁明した。確かに、いくらなんでも1メートル近いパンが普通なわけない。リースト村のときもそうだったけど、これどういう現象なのだろうか? もちろん私の希望じゃないんだけど……あれかな、神食品じゃないものが出るなら、せめてインパクトのあるパンを、って無意識に求めちゃってるのかな。


 アルノー村長は眉間の皺を深くしながら、改めて長大なパンを見つめている。


「そう……か。元になった小麦粉の量からは、出来上がるはずがない大きさになっているのも、その……女神様の力、か?」


「はい、そうだと思います」


 たぶん。

 実際のところ、私にもどういう理屈でこのサイズになっているのかはわからない。


 まあそんなこと言ったら、この世界の唯一神である女神様が日本で1Kアパート借りて、徒歩で買い物してたのが一番意味わからないけどね。

 あれだけお膳立てしたから、今はきっとネットスーパーを使っていると信じてるけど。久々に新しい神食品も召喚できたし。


「……………………そう、か」


 そして沈黙が訪れた。アルノー村長の表情は、もはや困惑を通り越して諦めにも似た何かに変わっている。目の前で繰り広げられる常識外の現象をどう受け止めればいいのか、考えているのだろうか。


 彼は私がスキルを使っている最中、いろんな角度から見てみたり、背後に回ってみたり、宙に手をかざしてみたり、いろいろ試してたからね。もはや手品とか、そういう次元のレベルじゃない何かが起こっていると、理解はしていると思う。


「では、ひとまず女神様の奇跡、その一端はご理解いただけたということで……次を体感していただくとしましょう」


 私は『森永製菓 おいしい大豆プロテイン コーヒー味 900g』をひとつ手に取りながら、ニッコリと微笑んだ。当然だけど、見るだけでは終わらない。この神食品の真価は、やはり味わってもらわなければ伝わらないだろう。

 アルノー村長の表情が再び警戒色を強めた。


「待て、体感……だと? これ以上、何かあるのか?」


「それはもちろん。『神食品』と言ったじゃないですか。『神』と頭についているとはいえ、食品は食べるものですよ?」


 あたりまえのことを言っているつもりなんだけど、村長の顔はますます険しくなっていく。まるで毒でも盛られるとでも思っているかのような表情だ。

 確かに、得体の知れない食品を食べろと言われたら、そう思うのも無理はないかもしれない。これプロテインだから、正確には飲んでもらうんだけどね。


「いや……それは、そうだが……」


「安心してください。ビッッックリするぐらい、美味しいですから。それでは台所へ向かいましょう。案内してください」


 私は有無を言わさぬ調子で立ち上がった。

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