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異世界聖女の現代グルメ ~万物を食べ物に変えるスキルで世界平和を目指します~  作者: 霧島樹


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第20話 村長宅訪問

 ポーラさんにお悩み解決宣言をした後。

 私はその足で、この村のトップである村長を訪ねることにした。


 というのも、今回治癒聖術で回復したミレアちゃん、ラルフくん、エリーゼさんの三人は、脚気としてはかなり症状が進行した、いわば『氷山の一角』にすぎないからだ。


 軽症者は他に何十人もいる。しかも今はまだ動けていても偏った栄養の食事が続けば、いずれ彼らも重症化して倒れる可能性が高い。

 三人にだけ神食品を与えて「はい、解決☆」じゃ、根本的な対策にはならないのだ。そもそも神食品はいつかなくなるし、普段の食事を改善しなければ今回の三人だってまた症状が再発するのは変わらない。


 それなら最初から村人全員に原因を周知して、症状が進行している人を優先的に配れる分だけでも神食品を届ける。そして当面の栄養不足を補ってもらいつつ、その間に村長主導で村人一人ひとりに普段の食生活を改善してもらうのが良い。


 そう思って村長の自宅を訪ねたのだが――


「断る」


 ――開口一番、それだった。


 ここ、クービエ村の村長であるアルノー・ソヤードは、非常に頑固なわからず屋だった。


 年齢は四十代前半。髪は濃い焦げ茶で軽くウェーブがかかっており、こめかみから耳元まで綺麗に刈り揃えられている。

 服装も質素ながらよく手入れされており、落ち着いた口調と堂々たる物腰は、言ってしまえばナイスミドルの部類に入る……のだが。


「例の病は隣街の司祭様や、流行り病の研究者でさえ何もわからなかったのだ。ただのシスターであるキミに何がわかる。というより、栄養不足の人間に配る神食品とはなんだ? そもそもキミはいったい何者だ? どこからやってきた」


 アルノー村長の目は、疑念というよりも警戒に近い色を帯びていた。

 ……あ、彼が頑固というより、私の説明が足りなさすぎたかも、これは。

 勢い勇んであれこれ話したけど、自分自身の話をしなさすぎてた。

 傍から見ると怪しすぎるね私。


「私は……」


 言葉に詰まる。

 何者か、と言われても困ってしまう。私から聖女という役割を取ったら、何者でもないからだ。強いて言うなら彼の言った通り、ただのシスターだろう。田舎出身の世間知らずな、食いしん坊シスター……うん、専門家が解明できなかった病の原因を突き止められる理由が、まったくわからないね。


 一応、『この歳になって治癒聖術に目覚めたけど、地元は治癒聖術使いが間に合っているから王都の教会本部へ向かっている』という表向きのカバーストーリーはあるんだけど、この場じゃまったく役に立たない。


 仕方ない。ここは聖女を名乗って、信じてもらうしかないか。

 王都で認定を受けるまでは、むやみに名乗らないほうが良いと兄さんに言われたけど、人助けなのだから許されるだろう。


「私は、『食の聖女』です。二千年ぶりにお目覚めになった女神様の加護を受け、食によって世界を平和に導く力を授かりました」


「帰れ」


「返事が早すぎません?」


 反射神経で言ってない?

 いや気持ちはわかるんだけど。


「ポーラがどうしてもと言うから会ったが……聖女を騙るなど、頭がどうかしているとしか思えん」


「それは私もそう思います。ただ私は、聖女を騙っているわけではないもので」


 私の言葉にアルノー村長は深いため息をついた。彼の表情は明らかに呆れと失望が混じっている。


「……ミレア、ラルフ、エリーゼを破格の対価で治療したことは感謝する。一日に三人もの重傷者を治療できるほどの力を持っているのだから、キミは将来安泰だろう。なぜ司祭にならずシスターなどやっているのかは知らんが、こんなバカなことはやめて真面目に働け。今なら『偽の聖女が現れた』と帝国軍に報告しないで追い出してやる」


 帝国軍に報告という言葉を聞いて、私の背筋に冷たいものが走る。

 王都での認定前に聖女と報告されるのは、いろいろとマズい。

 でも、放っておけば病気で命を落とすとわかっている人たちを見捨てることはできない。


「やはり女神様から授かった奇跡の力をお見せしないと、信じてもらえないようですね」


 私は予定通り、懐に手を伸ばした。そこには小さな布袋が入っている。治癒聖術で脚気の治療をした各家庭から、わずかな通貨とともに受け取った肉豆だ。


 肉豆はこの村だと安価に買えるらしく、本当はもっと大量に渡された。持ちきれないので全部はもらってないけど、村長にスキルを見せることになると予想して持ってきていたのだ。


 アルノー村長は私が布袋を机の上に出したのを見ると、ソファーの背もたれに体重を預けて、つまらなそうにため息をついた。


「奇跡の力……か。なるほど、わかった。見世物として面白かったら、王都へ向かう駄賃ぐらいは払ってやる」


 完全に手品か何かを見せる気だと思っているっぽい。

 その瞳に感情はなく、ただ形式的に視線をこちらへ向けているだけのように見えた。


 私は机の上にある布袋を開け、中に入っている黒い肉豆を見つめる。


 肉豆は『畑の肉』という異名があったことから、前世で言う大豆みたいなものかな? と私は予想していた。しかしどうやら大豆に似てはいるけど、少し違うものであるらしい。

 ポーラさんの家で肉豆の煮豆を食べさせてもらったけど、たとえるなら若干のコーヒーに似た風味がある大豆、といった感じだった。


 となると、召喚できる神食品の候補は『あれ』以外にない。

 ビタミンB₁が豊富かどうかは忘れたから、それは召喚してみないとわからないけど、衰弱した身体を回復させるのに役立つのは間違いないし、何より凄まじく美味しいから栄養補給には最適だろう。


「どうした? 早く奇跡とやらを見せろ」


「……はい」


 そうは言いながらも、よくよく考えたらこれが神食品になる保証はない、という事実に気がつく。


 二日前、女神様の拠点になっているという日本の1Kアパートがネット完備だったことから、その日のうちに家電量販店でパソコンを買ってもらい、設定も念話越しに説明して完了した。


 でも女神様は『ねぇ、わたしのいんたーねっと、壊れたんだけど』なんて言ってくるくらいのデジタル音痴だった。そんな調子だから、ネットスーパーをちゃんと使えているかどうかは正直、怪しい。


 ……ぶっつけ本番じゃなくて、事前にポーラさんの家で試しておけばよかった。

 でも神食品にならなかったとしても、この世界の何かしらの食品にはなるし……奇跡であることは変わりないから、問題ないか。


 そう思って布袋を両手に持ち、スキルを使う。

 すると袋が黄金色の輝きに包まれ、光の粒子が新たな姿を形作り始めた。

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