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第4話『無断バイト騒動』

雅也たちが通う高校では、アルバイトをする場合、生徒指導部に申請をしなければいけなかった。無断がアルバイトが発覚すると停学謹慎処分になることは、直接担任の尾形から説明を受けたわけではなかったが、入学からの約3ヶ月で2組や他クラスの生徒と親交を深めていた雅也には、その情報を把握していた。それだけに、賢哉がアルバイトをしていることを駿から聞かされた雅也は驚きを隠せなかった。

「あれ、うっちーに言ってなかったっけ? 俺もかどけんも、同じハンバーガー屋でバイトしてるんだよ」

駿は平然と言ったが、雅也は眉間に皺をグッと寄せながら、

「え、そうなの?」

「かどけんが話してるもんだと思ってた」

「生徒指導部に申請ってした?」

「俺はしてない。多分、かどけんもやってないんじゃないかな」

「学校にバレたらどうするの? 無断バイトって、謹慎処分になるんじゃないの?」

諭すように雅也は小声になった。

「まあ、よっぽど大丈夫でしょ」

それでも特に気に留めていないような駿や、バイトを理由に学校を休む賢哉に呆れつつも、雅也は何とか2人の無断バイトが学校に発覚しないことを心の中で願っていた。

チャイムが鳴ると、尾形は入ってくるなり険しい顔で連絡があると一同に告げた。それは2組の男子学級代表をしている光岡龍二がしばらく学校を休むことになるという内容だった。

「あいつ、何かやったんですか?」

悠喜が興味津々になって前のめりになって尋ねた。

「光岡君は、生徒指導部に届けを出さずにアルバイトをしていました。無断アルバイトは謹慎処分の対象になります。アルバイトをする場合は、必ず生徒指導部に届け出を出して許可を得て行ってください。ただ、あくまでも皆さんが優先すべきは学業です。アルバイトをしていたから成績が悪くなったとか、提出物をやる暇がなかったというのは言い訳にはなりません。分かりましたね」

尾形は更に難しい顔になり、一同に言い聞かせるように告げた。ふと雅也は、賢哉や駿の無断アルバイトが気がかりになっていた。自分が無断バイトをしているわけではないのに、今では大事な友人となっている賢哉や駿のこととなると、他人事とは到底思えなかったのだ。


その日の昼食は、賢哉が欠席のため、雅也と駿、悠喜の3人で囲むことになった。今朝の尾形からの報告を聞いてからというもの、雅也の頭の中は賢哉と駿のバイトのことでいっぱいだった。

謹慎処分になった龍二とはクラス内でほとんど会話を交わしたことがなく、龍二は俗に言う明らかな陽キャタイプだったため、比較的大人しい雅也とは噛み合う要素がなかった。学級代表とは言いつつも、授業中では私語も態度も酷く、忘れ物も多く、ノリと勢いだけでクラスのリーダーになったようなものだった。龍二の謹慎処分の連絡そのものに大した驚きを示さなかったが、派生して賢哉や駿の無断アルバイトが発覚しないかどうかのほうが、雅也にとっては死活問題であった。

「何でバレたんだろうね」

何気なしに雅也が呟くと、悠喜はまるで分かりきったように、

「そりゃこういうのは誰かがリークしたか、バイト先に先生と鉢合わせになったか、どっちかでしょ」

週刊誌のネタ提供でもあるまいと思ったが、情報のリークは学校内でもあり得るものかと雅也は訝しい顔になった。

「かどけんやきのしゅんがアルバイトしてること、他に誰か知ってる人いる? 気をつけないと、生徒指導部にチクられちゃうよ」

急に雅也は不安な衝動に駆られた。だが駿はケロッとして、

「まあ、その時はその時だよ」

「そんな呑気な……謹慎になったら学校だって来れないし、勉強だって遅れるちゃうんだよ」

「分かってるよ、そんなこと」

「謹慎っていつまでとかって、期間とかあるのかな?」

そもそもが『謹慎処分』という言葉と縁のない雅也は、何もかもが分からないことばかりだった。

「確か、謹慎の間に各教科の課題が出されて、それが終わったら謹慎が解けるらしいぞ」

悠喜が教えてくれると、雅也は腕を組んで、

「じゃあ、課題をやらなかったら、その分期間は伸びるってわけだ」

「まあ、そういうことになるわな」

「なるほどねぇ……」

賢哉や駿の心配と同時に、雅也は龍二という学級代表が不在になることも気にかかる要素であった。


この日、会議室では生徒議会が行われた。生徒議会は、生徒会役員と『クラス議員』という係になった各クラスの代表生徒が一堂に会して、学校行事やルール等について話し合いを行う場であった。生徒会もクラスの係も前期と後期というそれぞれ半年という任期があり、雅也はこの前期、1年2組の『クラス議員』であった。今回の生徒議会の議題の一つに、ちょうど無断アルバイトの件があり、生徒会役員を中心に意見交換が行われていた。しかし、変にボロが出ることを恐れた雅也は、珍しく今回は自ら挙手をして発言をしなかった。

議会が終わり、第一棟の突き当りにある会議室を出て、職員室前を通過しようとすると、雅也は尾形から声をかけられた。

「木内君、ちょっと良いかしら」

もしや賢哉や駿の無断アルバイトがバレたのかと、肝を冷やした。

職員室へ入ると、雅也は尾形と共に佐藤のデスクへと向かった。担任と学年主任と何かを話すということは、良いことではないだろうと雅也は察しがついていた。

「あの、お話というのは……」

雅也は恐る恐る尾形と佐藤に尋ねた。

「実は木内君に相談というか、お願いがあってね」

「はぁ」

「光岡君が謹慎でいない間、木内君に学級代表代理をお願いしたいの」

突然の尾形からのお願いに、雅也はキョトンとした。

「え、学級代表代理? 僕がですか?」

「確か君は、クラス議員もやってるそうだな。掛け持ちは大変かもしれないが、光岡が復帰するまでの間だけだ。何かあったら俺たちもフォローに入るから」

どっしりと座り腕を組んだ佐藤に真面目な顔で見られた。

「いやいやいやいや……もっとふさわしい子がいると思うんですけどね。今のあのクラスで、僕が学級代表代理っていうのは、荷が重いと言いますか……」

雅也は佐藤に恐縮するように言ったが、内心では龍二の代理、言わば尻拭いをしなければいけなくなることが不満だった。

「何とかお願いできないかしら」

担任や学年主任から頼み事をされることは光栄だったため、これも好機に捉えるしかないと思った雅也は、しばらく考えたのち、首を縦に振った。

「分かりました……。僕なんかで良ければ、学級代表代理、やらせていただきます」

「ありがとう、木内君」

尾形にホッとするように言われたが、小学校でも中学校でも学級代表をやったことがなかった雅也にとっては、右も左も分からない状態で不安であった。


その日の晩、雅也は心の内を話そうと賢哉に電話を掛けた。学級代表代理のことを告げると、賢哉は驚いた様子だったが、すぐ納得をしたような返事を返した。

「は、お前が学級代表代理? まあけど、あのクラスで代理ができるのはお前ぐらいだと思うぞ。安代の判断は正しいんじゃないか」

「代理ってことだから、結局光岡君が帰ってくるまででしょ。けど、戻ってくるのがいつになってくることやら」

昼食の時、各教科の課題を終えたら謹慎処分が終わることを話していた悠喜の言葉を思い出した。ほぼ接点がないとはいえ、龍二のキャラを把握している雅也は、各教科の課題を素直に早く龍二が終えるとは到底思えなかった。

「あ、それよりも、バイトの件、今日きのしゅんから聞いてびっくりしたよ。変なことになる前に、生徒指導部にちゃんと申請出したら?」

雅也は今日一日の不安な胸中を賢哉に伝えた。

「申請出したって、断られることもあるんだよ。それに承認されるまでにも、めっちゃ時間かかるんだから。家庭の事情とかそういう理由だったら、素直に通るみたいだけど」

「え、そうなんだ……」

学級代表代理を任されても、クラス議員をしていても、まだまだ知らないことばかりだということを、賢哉との電話で雅也は嫌というほど実感していた。

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