表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『おろちばーす』  作者: ワニ
2章 大罪編
6/6

『嫉妬の大罪』

夜なのに全然明るい。やれやれ、せめて夜くらい暗くあって欲しいし、休ませて欲しいものだが…光り輝くライトはそれを許してはくれないのだった。


「いつのまにかこんな遠くまで来ちゃったっすねー」


「そうだな。まあまあ、今日はどこかに泊まるってのも…」


流石に高級旅館で大宴会とかは無理だが、まあそこらのビジネスホテルくらいなら泊まっても特に支障はない。新鮮な体験でもあるし、今夜くらいはどこかに泊まっても…


なんて甘ったれたことを考えているときだった。


「しかし…なんか寒くないか?そりゃまだ夏でもないし夜だしで寒いのはなんとなくわかるが…それにしてもあまりにも寒い」


「確かに寒いっすね。誰かがおっきい冷蔵庫でも作ってるんじゃないっすか?」


「どうしてその思考に至る」


そう思っていた矢先だった。

突如、耳を劈く悲鳴が聞こえた。


「!?アルマ、行くぞ!」


「はいっす!ころころ〜!」


「その効果音いるか?」


耳を劈く、とはいったが正直そんなに大きな音ではなかった。ただ…ギターという"音"を専門に扱うディノスは音に敏感なのである。

これが後々聖龍をも苦しめる凶悪な魔龍と対峙したときに大いに役立つことになるのだが、そこは置いておこう。


そして、彼らがかけつけた先には…


「あら、逃げる人はいたけれど…立ち向かってくる人は初めてね』


竜を模した杖を持つ、青髪でツインテールの髪型をした女の子がいた。金のバラの髪飾りは光を反射させながら挑戦者を捉える。


「響け、カミナリの音!!」


ディノスは瞬時に理解した。この幼子、只者ではない。そして同時に人類に仇なす者であるということを。

小さなカミナリが、この幼子に降り注ぐ。このカミナリは瞬発力に全てを賭けたので威力はそれほど高くない。先制攻撃専門である。


「こんな女の子にいきなり手を出すなんて、ちょっと良くないんじゃない?」


「なるほどっすね」


青髪の幼子はどうやら杖から発生させた氷の盾でカミナリから身を守ったようだ。まあ…当たっていても大したダメージではなかったろうが。


「私は嫉妬の大罪。大罪を冠する者。償いなんてできっこない大罪を、ね。私は、私が悪い子であるための、使命を全うするわ」


相対せしは、ゲーム『償いの物語』から顕現、全ての"いい子"を羨み、嫉妬する大罪。


救いのない戦いが、鐘を鳴らした。

————————————————————


「雷鳴の音…!」

「盾役っていつも地味だから困るっすよねと!」


「やるじゃない…!」


氷と雷の交差が続き、硬い盾が前線を詰める。冷気と雷気が互いに相殺し合い、発生する光は夜空をも照らす。


「だいたい何のために街を壊す。人間がそこまで憎いか?」


ディノスがそう問いかける。隣国はそういう差別はかなりマシと聞く…物騒ではあるらしいが。

ただ、アルマが例外だっただけでここではそういう差別は珍しくない。もしかしたら、彼女もそういう類ではないのか。


「そんなこと、ないわ」

急に嫉妬の大罪の顔が物悲しげになった。それは、まるで氷のように、冷たく、寒く。


「私は嫉妬の大罪。悪い子でなければいけない存在なの。当然、悪い事をしなくちゃいけないのよ」


「なぜっすか!?どうしてそんなことにこだわるんすか!?悪い子だなんて、どうしてそんな」


「"大罪"だから。それ以外に、何か必要な理由はあるかしら?」


吹き荒れる氷と雷の中で、いかにも平行線な会話が繰り広げられる。聞く耳を持たない彼女に、ディノスはこう宣言する。


「見てろ、嫉妬。お前を見捨てたりなどしないからな」


すっかり勇者としての貫禄を取り戻したディノスは、罪に囚われ苦しむ嫉妬の少女を救ってみせるとそう告げた。それに対し、氷の粒を顔にいくつか付けながら杖を構える嫉妬の少女は…


「どうせ無駄だわ。何もかも…凍ってしまえばいいのに」


嫉妬の大罪はそんな彼に対してそう呟いた。


「中々の手練れみたいだが…攻撃の一つ一つは軽い軽い…!」


ディノスは迫りくる氷を交わし反撃の機会を伺う。もっとも、無数にある氷を全て交わし切ることは不可能なのでいくつかはギターで防御している。アルマの盾と同様に、このディノスのギターもたとえ世界が壊れようと壊れることのないが…流石にメインの盾として使うには面積が足りない。


「こいつはどうだ!?」


ディノスがカミナリを乱射し、嫉妬の大罪へと向かってまるで雨かのようにカミナリが降り注ぐ。地面に雷気が充満し、一つ一つが当たればサイすらも痺れさせる。だが、手練れの大罪の前では無力。


「無駄なことを」


嫉妬の大罪は瞬時に氷の壁を生成し、自らに降り注ぐ全ての雷を無力化。反撃に特大サイズの氷を生成するも…


「どりゃー!!」


「っ…!」


アルマが死角から突っ込んできたため嫉妬の大罪はそれを後ろに跳ねて避け、返しに氷のつぶてを食らわせた。甲高い音を鳴らしながら氷の礫は砕け散っていく。だが、アルマにはほとんど効いていない様子。ディノスが踏み切りを爆ぜ、銀色の光を纏ったギターを構える。


「これでとどめだ…!」


「必殺技とでも言うつもりかしら?隙だらけなのよ!」


嫉妬の大罪は目に見えて隙だらけのディノスに致命傷を与えるため一気に間合いを詰める。氷の刃を左手で握り、ディノスの首元を掻っ切ろうとしたが…


「アニキだけじゃなくて僕のことも忘れないでほしいっすー!」


「しまっ…!?」


隙だらけかと思われたディノスだったが、本当に隙を見せたのは嫉妬の大罪の方であった。ディノスをまず倒し戦局を有利に進めようという判断は確かに間違えていなかったが、決着をあまりにも急ぎすぎた。

賭けに負けた代償は己の身で払うこととなる。


「ぐべっ…!」


アルマの全力の体当たりを喰らった嫉妬の大罪は転がり込む。だが流石と言うべきか、またすぐに体制を立て直したものの…


「これだけのカミナリ、入院は覚悟すべきだな…!」


普通のカミナリとは違って銀色かつ極太のカミナリが嫉妬の大罪に直撃した。普通の人間なら入院程度では済まない気もするが、まあよい。


轟音が辺りに響き、粉塵が辺りに充満する。これにて、嫉妬の大罪攻略戦は終結。ただ…


「いやでも派手に色々ぶっ壊しちゃったっすね。弁償は誰が?」


「こういうのは国が何とかしてくれる。気にすんな気にすんな」


「なんか昔と違って随分投げやりになってないすか?」


自転車がいくつか焦げてるし、酷いものに至っては完全に跡形もないくらい壊れている。まあ、何とかなるだろう。


「とりあえず、まずは彼女の手当てをしないとな…………アルマ?」


壊れた自転車を見て随分やってしまったと後悔しつつ、まずは大怪我を負わせた嫉妬の大罪の手当てをしようと提案するが…相棒からの反応がないことにディノスは違和感を覚える。

彼は嫌な予感を感じつつ、何があったのかそちらに目線を向けると…


「おいおいマジかよ…!」


「あちゃー、これは面倒なことになったっすね」


ディノスの表情はまさしく驚愕のものに変わり、そして彼ら二人は再度戦闘態勢となる。なぜなら…


「第二形態、というものはご存知かしら?———私ね、なれるの」


非力な少女の姿から一転、その姿はおどろおどろしい竜の姿…首長竜と言えばわかるだろうか。その姿へと変貌した嫉妬の大罪がそう告げた。ディノスは舌打ちし、彼もアルマと同じく戦闘態勢へと移り変わる。


「それじゃあ続けましょうか。私が、悪い子であるための戦いを」


全てを妬む大罪が、辺りを震わす咆哮をあげた。

咆哮は夜空に響き、雲をも切り裂く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ