『勇者の帰還』
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「プロギタリストことディノスさん、ちょっくら一曲弾いてくれませんかね」
「仕方ないな…金はあるんだろうな?」
「もちろんですね」
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「あんた、ギタリストだろ?ならちょっくら1曲弾いてくれよ」
「…断る、他を当たってくれ」
「待てって、金ならあるからさ!1曲。1曲だけでいい!」
「…仕方ないな。1曲だけだぞ?」
「ありがとう、通りすがりのギタリスト!俺はアンディさ!」
「いや別に聞いてないんだが…」
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ディノスは、ギターの腕前だけは落とさなかった。毎日毎日必死に練習していたからだろうか。ギターさえ極めれば、あのときに戻れると思っていた。
そしてアルマと同じように、もはや描かれることもほとんどなかった彼のイラストが"なぜか"ここに来て急増したのも理由なのだろうか。それとも、もう二度も彼を失いたくないという彼の思いが理由なのだろうか。
あるいは、その全てか。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
響け、響け、響け。でなければここで死ぬ、ここで死ね。
一つ言っておかなければならないことがある。この世界の最強は確かにメギドラやディオラムスたちであるが、最も凄い者は誰か…と聞かれると彼らではなくなる。
彼らでないなら、それは誰なのか。
それは…
「アニキ…!?」
「…!?」
悪夢の命を蝕む触手がついにボロボロのアルマの急所を捉えたとき、それは顕現した。
カミナリだ。
カミナリが、悪夢の触手の一つを焼き落とした。
「出してやったぞ、カミナリ。アンディ、メギドラ………アルマ!」
『拠り所の世界が滅んだ』というのに本来の能力を取り戻した。前代未聞の大偉業を果たした『雷音』ディノスが、ついに堂々と真の意味で顕現したのだ。
矛盾という言葉があるらしい。最強の矛と最強の盾がぶつかり合ったらどうなるか、というものだ。だが、今回は違う。
「アニキ……!!そうとなれば、あんなやつとっとと潰すっすよ!」
「おう」
最強の矛と最強の盾がついに揃い、悪夢戦第2ラウンドが始まった。
勝敗は割愛する。
悪夢は覚め、ついに勇者たちが再臨したのであった。
「へぇ〜、やけに上機嫌かと思ったらそんなことがあったんですね」
「そうなんっすよ〜カミナリだけに、神。っすね」
「黙れですわ」
悪夢を撃破した3日後、やっとメギドラたちも帰ってきた。こっちも余程激戦だったのだろう。彼らをボロボロにできるほどの存在が、この世にいると考えると非常に恐ろしい。
「それで?ディノスも治安維持隊に加わるってわけですね」
「そうだな。ギターの弾き語りってのは収入がなかなか安定しないし、せっかく力が戻ったならそっちの方が役に立てるだろうし、あとアルマと一緒にいたい」
「これどう考えても最後が理由の8割だろ」
メギドラが呆れながら突っ込む。明らかに最後の言葉だけ力強かったし、何よりディノスは否定しないのが明らかに全てを表している。
「じゃあまあ、これから仕事があるからまたあとでな」
「はいはい。まあこっちもまだまだやることはたくさんあるんですがね…」
ため息をついているメギドラと別れ、ディノスとアルマは彼らの持ち場へ向かった。持ち場といっても基本ぶらぶらしてるだけである。だが、おろちばーすは本来滅びるはずだった世界。
次の世界への刺客は彼らを待ってあげるなんてことはしなかった。