『エピソード・ゼロ』
これが鉄の海を統べる鮫ならば、これが女王に仕える兎ならば、これが自我を持った優しき機械ならば、これが怪異を解決する少年ならば、これが夏虫柄の浴衣をまとった少女ならば、どうするだろうか。
モンスターパートナー。それは、かつて存在していたゲームの名前である。人気はそこそこあったが、惜しくも5周年記念と同時にサービス終了が告知され、9年前に終わったゲームである。続編は作られているようだが、そこは大した問題ではない。なにせ…
「今日得た金はこれだけか。これでは貯金に回す余裕がない…」
このギターを背負った2本の大きなトゲが目立つ、緑色のワニの名前は、ディノスという。モンスターパートナーのサービス終了と同時に現実世界にほっぽり出されてしまった。ゲーム時代の頃は赤いマントを着ていて、自慢のギターを使ったカミナリ攻撃ができるキャラクターであった。それなりに強く、特に初心者に愛されていたキャラクターだった。また、アルマという鉄壁のアルマジロのキャラクターと非常に相性がよく、よく組み合わされていた。
「もっとも、今では見る影もない。くだらん」
赤い清潔なマントは見窄らしいミノに姿を変え、攻撃にも使えた自慢のギターは今ではただの金稼ぎの道具。相棒は死んだ。目つきも悪くなった。ギターに関しては必死に練習し続けたのだが、結局この世界に来てから9年、雷を生成することはいまだにできていない。生き地獄、とはまさにこのことである。
死んでもおかしくはない。ではなぜ生きているのかというと…
「お、いたいた。この前できたクレープ屋のクレープ、クソうまかったんですよね〜なんで今からそこにでも」
この現代社会に似合わない風貌をした龍の名前はメギドラ。彼はこの世界で最も強…いや待てよ、この話は蛇足であるので割愛する。
この世界で唯一できた親友が、ぐちゃぐちゃな精神状態であるディノスの命を繋ぎ止めていた。
まあメギドラ繋がりで龍のお嬢様などの友達もできたが…そこは後々話すとしよう。
しかし彼らも最近本業が忙しく、中々ディノスに時間を回せる余裕がなくなってきたようだ。そこで提案されたのがこの前の『合作』と呼ばれるパーティー。そこで友を増やせ、という話である。
「しかし不安ではあるな、なにせこのオレの扱われようじゃ」
そう、ディノスは異世界…厳密には違うのだが、そこの住民である。未知は不安を呼び、不安は差別を呼ぶ。悲しきかな、これが世界である。ディノスは自分が差別されないかと不安に思っていた。それが、自分の転換点であるとも知らずに。