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最終話 世界を救った英雄達

KGBのエージェント達が動き始める。ボリスラーフと音声不通になったからか、もはやバレるのも時間の問題だ。


ルビャンカを出ると、デミヒューマンの手を握り急いでモスクワ駅まで走った。


「先輩?世界救った?」


無邪気に聞くデミヒューマンだが、少し不安な目をしていた。


「…ごめんな。わからないんだ」


俺はそうとしか言いようがなかった。


「Товарищ Борислав был убит!」(同志ボリスラーフが殺された!)

「Есть враг!」(敵がいるぞ!)

「безусловно не пропустить! Быстрее! Быстрее!」(絶対に逃すな!急げ!急げ!)


おそらくバレたのだろう。


「どーするの?」


ここからモスクワ駅まで行くのは時間がかかる…最終手段を使うしかない。


「デミヒューマン。あそこに大きな車と2人の兵隊さんが見えるな?あの2人の気を引かせてくれ。その間にあの車を盗む。俺がエンジンをかけたら、あの車に飛び乗れ」

「…こわい…」

「大丈夫だ。俺もついてる。だから、泣くのはまた後だ。ここから生きて帰りたいなら、やってくれないか?」

「…うん」


涙を抑え、デミヒューマンがソ連兵に向かって行く。


「Эй. Здесь опасно. Что случилось с твоими родителями?」(おい。ここは危険だ。親はどうした?)


ソ連兵の気を引き始めた。デミヒューマンはまだ幼い。揺動にはうってつけだ。

今のうちに裏に回り込んで、あのBTR-60を盗んでやる。強行突破だ。

開けられていたBTR-60の天板ハッチから入り、エンジンをかける。


「Что происходит!」(何が起きた!)


デミヒューマンがソ連兵の背中を登りBTR-60へ飛びつく。タンクデサント用の手すりに掴まると、ハッチから中に入ってきた。そのまま勢いよくアクセルを踏み走り出す。なんとしても逃げなくては…!


乗用車や一般市民をどかしつつモスクワ駅を目指す。脱出口はシベリア鉄道しかない!

警察がサイレンを鳴らし追いかけてくる。


「デミヒューマン!これ被れ!」


デミヒューマンにレインポンチョを着せさせ擬装させる。


ソ連軍の軍用車も追いかけて来ており、AK-47を撃ってきた。さらにスピードを上げ、曲がり角を駆使してモスクワ駅まで走った。時刻的に間に合うかどうか…。


駅に到着すると、機関砲で反撃し次々ソ連兵を倒していく。


「デミヒューマン!ホームまで走れ!」


列車出発まで時間がない!

デミヒューマンがホームまで走ったのを確認すると、ハッチを開け俺もホームまで走った。


ソ連兵の連中が追いかけて来るが、銃撃戦でパニックになった人混みに巻き込まれ、ホームにたどり着かない。


俺とデミヒューマンが列車に乗ると、数秒後に扉は閉まり、発進した。


こうして、俺達にとっての暗黒の土曜日は終わった。だが、気は緩められなかった。いつKGBやソ連兵に会うかわからない。トレンチコートを羽織り、バレないことを祈った。


キューバでは、B59潜水艦はとある決断をした。


「…そうだな。同志ヴァシーリィの言う通りかもしれない。核発射は、中止だ」


副艦長だったヴァシーリィは、他2人の説得に成功。核発射は行われなかったのだ。



10月28日…


「同志諸君。よく集まってくれた」


会議室の議長席に座るのはフルシチョフだった。周りには将校が座っていた。


「同志ボリスラーフはどうした?」


その言葉に将校達は言葉が出ない。


「…あ、あぁ。フルシチョフ閣下。同志ボリスラーフは体調不良です。代打として私が出席しました」

「そうか。後で伝えてくれ。今回集めたのは聞くまでもない、キューバでの衝突の件だ。先程、ケネディ大統領から私宛てに連絡が届いた。アメリカ側は、外交交渉を行いたいと申し出た。私はその場で答えた。外交で解決しよう。戦争をすることに、私は反対だ」


10月28日。ソ連とアメリカは会議で外交交渉を行うことで一致。ソ連はミサイル基地及び核兵器の撤去。アメリカは海上封鎖の解除及びキューバへの侵攻は一切行わないこと。キューバは国連の監視下とするというものだった。キューバでは、この外交交渉に納得がいかず、ソ連とアメリカに不満を表した。



数日後…


「アメリカ人。起きろ」


シベリアのとある駅でKGBに見つかった俺らは、列車から降ろされ手錠をかけられ、軍用車に乗せられた。


「先輩…ボク達…死んじゃうの…?」


デミヒューマンは今にも大泣きそうだった。私はエージェントとして成果を出したが、人間としては最低だ…こんな幼い子が殺されるのは、相棒として俺の責任だ。


だが、次のKGBエージェントの一言が事態は大きく変わった。


「アクリス。デミヒューマン。よくやった」

「…ヤルクス?」


そのエージェントの正体は俺のかつての相棒、ヤルクスだった。


「お前…なんで?」

「ボスから言われていた。今回の作戦をミスれば、私の手でアクリスとデミヒューマンを始末しろとな。だが、お前は今回の任務をこなした。キューバ危機を解決したのはあくまでアメリカとソ連だが、世界を危機に晒させた裏ボスをお前は倒した。あのままボリスラーフがいれば、核は発射されていただろう。KGBもキューバも変わっていた。お前らが裏で未来をつくった。今作戦でわかったよ。あの時、俺は自分の任務のために動いていたって気づいたんだ。お前のことを考えていなかった。すまなかったな。お前はデミヒューマンを立派なエージェントに仕立て上げ、その場から逃げなかった。この作戦もお前を信用できてなかったが、そういった行動で俺は見直した。改めて、すまなかった」

「ヤルクス…。お前も、変わったな。俺こそ、処刑から見捨ててすまなかった」


こうして、11月20日にキューバのミサイル基地は完全撤去。同時に海上封鎖を解除。キューバでは社会主義を強化。アメリカとはさらなる対立を続行。政権も変わることはなかった。

キューバ危機解決後、アメリカとソ連は緊急通信手段であるホットラインの設置と米ソによる会議である米ソデタントを行った。



さらに数日後…


「デミヒューマン。お別れの時だ」

「…」


デミヒューマンは拗ねて俺をずっとハグしている。

デミヒューマンの能力を見たニヴルヘイム上層部は、デミヒューマンを1人で活動できるよう訓練することになった。「可愛い子には旅をさせよ」とはまさにこのことだった。

俺も1人で活動しなくてはならなくなった。ヤルクスは上層部として司令官になり、デミヒューマンも独り立ちする。独りで任務を熟すのはまた別の難しさがあるが、やるしかない。まだ、俺達にはキューバ危機前の任務の残りがある。あのW54と秘密を知っていたKGBとボリスラーフについて、俺は調査しなくてはならない。


「デミヒューマン。もし、また会った時は一緒に任務をしよう。お前も強くなって、俺も強くなって、ニヴルヘイム最強のコンビを組もう」

「…また、会えるの?」

「もちろんだ」

「…うん。じゃあ頑張る」

「いい子だ。いってらっしゃい」

「行ってきます」


そう言って、デミヒューマンはグリフォンと共に歩いて行った。


「まるで親だなアクリス」


ヤルクスがそう茶化す。


「相棒だよ」


だが、やはりなんだか悲しかった。別れの経験が少ない俺は、こういうのに弱かった。


「さて、任務をやってこよう。キューバ危機は終わったが謎が多すぎる」

「司令は私がやろう」

「頼んだ」


そう言って、俺とデミヒューマンのストーリーは一旦幕を閉じた。

『テュルソスの蜂蜜』を読んでくださりありがとうございました。この作品は『007』や『キングスマン』『ミッション・インポッシブル』といった王道のスパイ作品に憧れて書いた作品でした。ロシア語が未熟な中、自分の知識と翻訳アプリを使って書いたため、少々おかしな部分もあると思いますが、お許しください。

スパイ小説×天才子供×世界情勢というカテゴリはあまりないのでは?ということと、書いたら面白いんじゃないかという思いで作りました。

実はこの作品で初めて描いたシーンはB59潜水艦が核発射しようとするところなんです。それからキューバ危機の話にどっぷりハマってしまった私は、このキューバ危機をある組織が裏で止めたという、一種の歴史改変ストーリーを作ることにしました。

個人的に、かなり話が短くなってしまったので、次回作はもうちょっと長くしたいなぁと考えてます。

『テュルソスの蜂蜜』はテュルソスシリーズ第一作として、これからも続編を投稿して行こうと思いますので、何卒よろしくお願いします。

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