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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

楽園楽園ランランラン

作者: 騎士ランチ

「王国に行きたくない?なら、これでお別れだミナ」


 アレはそう言うと、家を出て行った。それを見て、ミナは何も思わなかった。


 アレとミナは帝国の田舎に住む平民だった。若者が少ない場所だったので、子供を作って町を守れとお互いの親によって婚約者にさせられていたが、二人の間に愛情は全く無かったし、愛が生まれる事も無かった。


 帝国は実力主義を掲げており、才能のある者は取り立てられ良い暮らしをして、そうで無い者は生きる最低現の支援しか受けられない国だった。そして、ミナは才能のある側でアレは才能の無い側だった。


 ミナが唐揚げにレモンをかけると客は喜んだが、アレがレモンをかけると客は怒って帰ってしまう。二人は所作が違った。愛嬌が違った。体臭が違った。声が違った。仕事の結果こそ全てとされている帝国では、この二人が結ばれる事は難しかった。


 アレはミナが仕事で失敗する事を願った。ミナの評価が上がる度に人々は『こんな所に居るのが勿体無い』『婚約者と釣り合ってない』と言ってくるのだ。だから、彼女の失敗を祈った。お似合いの二人になりたかったのだ。


 だが、アレの祈りは通じず、ミナは更に成功を続けた。ミナが唐揚げタワーのてっぺんにレモンをかける仕事を店長から任された時、アレは王国への移住を提案した。


「ミナ、あのさ」

「何?私アンタと違って忙しいのよ。モゴモゴしてないで、言いたい事があったらハッキリ言って」

「うん、それでさ」

「だから、モゴモゴしないでよ」

「ごめん。でも聞いて」

「私と別れたいんでしょ?なら、さっさと出ていって。この家は私名義で家賃も全部私だから」

「いや、そうじゃなくて」

「何をモゴモゴしてるのよ」

「僕と、王国へ行かないか?」


 勇気を振り絞ってアレは提案した。隣にある王国では、聖女の力で国が回っていたが、最近真の聖女が見つかり、今までの聖女は国を追放された。その事で王国を見限って聖女を追う様に王国を出る者が数多く現れているという。


「これって、チャンスじゃないかな?今の王国は空き家だらけだし、真の聖女様の力で働かなくても食べていけるらしいよ」

「ふーん、あんたがそう思うなら、行ったら?」

「僕は、ミナと二人で暮らしたいんだよ。お互いの価値観を同じにしたいんだ。能力に関係なく生きていける王国なら、それが可能なんだ」

「冗談じゃないわ!」


 良い事を言ったから喜んで貰えると思っていたアレは、ミナが怒り出したのを見て、ひいっと声を漏らし尻もちをついた。


「何で私がこれまで積み上げたキャリアを無駄にしないといけない訳?」

「王国へ行ったら、そんな頑張る必要も無いんだよ」

「黙って!モゴモゴしないで!なんなのよアンタ!仕事は出来ない、身体は臭い、子作りは出来ない、でも私の両親の前では真面目に良い子ぶる!どれだけ私の負担になれば気が済むのよ!私が嫌いなら、別れたいなら真っ直ぐにそう言ってよ!」


 アレはミナの言っている事を何一つ理解出来なかった。自分は、ミナとの距離を詰める為にあらゆる努力をした結果、このチャンスを逃さない様に提案したのに、ミナはアレが自分を嫌っていると思っている。


 アレは決心した。『今は』一人で王国へ行こうと。


「王国に行きたくない?なら、これでお別れだミナ」


 アレはそう言うと、家を出て行った。それを見て、ミナは何も思わなかった。これで良い。

 

 アレは王国で何不自由無い暮らしを手に入れ、ミナは帝国で上を目指すもいずれは行き詰まる。その時に彼女を王国に迎え入れたら良い。そう考えて、アレは帝国を出て、王国人となった。


 だが、王国の現状はアレの想像していた様なものでは無かった。真の聖女には何の力も無く、追放された聖女こそが本物だったのだ。王国には働ける者も、戦える者もおらず、アレは生活支援を受ける所か、入国と同時に身ぐるみを剥がされた。


 こんなはずじゃなかった。これなら、帝国の方がずっとマシだ。裸一貫となったアレはその事に気付き、帰ろうとしたが、王国人となってしまい身分証明する物も無いアレは国境で止められてしまう。


「先日、聖女様が国境に結界を張りました。聖女様を偽物呼ばわりした愚かな王国民はそこで死んで下さい」

「僕は帝国民のアレだよ!」


 国境を守る警備兵に事情を説明するが、彼らは裸のアレを見て笑うだけだった。


「あんた達、僕が王国に入国手続きする時、『酸っぱい』とか『はあ?』とか言って笑っていたじゃないか!覚えてるでしょ?僕は聖女に石を投げたり追放に賛成したりしてないよ!」

「すみません。もう少し、大きな声で言っていただけますか?モゴモゴしていてはよく分かりません」


 警備兵はアレの事を知らないフリをして通そうとしなかった。彼らは、聖女を裏切った王族と、それに従った王国民を通すなとだけ言われていたが、アレの様なケースは完全に想定外だった。そして、面倒だし見て見ぬ振りをしようと決めたのだった。


「わ、分かりました。今の家に帰ります。家無いけど」


 そう言って諦めて、何とか王国で生きていこうと決めた時だった。尻に火の付いた王国民が一斉に国境へ押し寄せた。


「どけ、裸族!」

「ひいっ!」


 アレの服を着た男が、アレを邪魔だと突き飛ばす。飛ばされた先には聖女の結界があった。


 ジュウウウウウ


 肉の焼ける臭いがした。結界に頭から突っ込んだアレの顔が焼け爛れていく。アレはバタバタともがくが、焼けた皮膚が結界に張り付いて逃れる事は出来なかった。


 聖女の怒りを目にした王国人は全員その場にへたり込み、警備兵によって瘴気漂う王国本土へと追い返された。


「で、どーするよ?この帝国産か王国産か分からんチャーシュー」

「王国人って事にしとけ。顔も焼けてるし」

「だな。聖女様の怒りが無関係の者に誤爆したなんて報告出来んわな」


 薄れゆく意識の中、アレは思った。自分は選択を間違えたのだと。


「ミ…、君を本気で説…ていれば…二人…」


 自分の隣に顔の焼け爛れた裸のミナをイメージし、その手を取ろうとする。だが、イメージのミナはアレの手を振り払って、アンタのせいでこうなったのよと罵ってきた。


「あ…うん。そうだよね…ごめん」


 こうして、アレは身元不明の王国人として死んでいった。

 それから数年後、ミナの下へアレの死が伝えられた。


「同居人だったアレ氏で間違い無いですか?」

「はい」


 見せられた似顔絵は、アレの衣服を盗んだ王国民のものだった。ミナは当然それに気付いていたが、アレとの関係をさっさと終わらせたい彼女は、その人物をアレだと言う事にして死亡届けを出した。ミナとアレの両親も既に他界しており、嘘がバレる事も無かった。

 

 その後、ミナは唐揚げ屋の店長と結婚し、数年後には『王国を支えた聖女を追放した王子より愚かかも知れない男の話』という小説を出版し、それは聖女追放王子シリーズと並ぶ人気作となった。

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― 新着の感想 ―
面白かったです。 聖女を追放した愚かな王族よりさらに愚かな平民というテーマが斬新で良かったです。 世の中下には下がいるんだなって。 アレは例え王国に行かず帝国に残っても碌な末路迎えないと思う。 人の…
愚かな男の末路を描く、というテーマは良いと思いました。 何かの風刺にも見えますね。 気になる点として せっかく独自の世界観を展開しておられるのですが、 以下の言葉のチョイスが世界観を壊しているので別…
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