会いたかったから
ーープルループルループルループルルー
仕事終わりの帰り道、ゆっくり歩きながら電話をかける。
「もしもし?」
出た。よかった。
「もしもし? 今何してた?」
「今駅出たとこ」
たぶんそうだろうと思ってた。最近、かなり疲れているみたいで家に着くと倒れるように眠ってしまうって、朝起きて着信に気付いた時にメッセージを送ってくる。
でも、私は声が聞きたい。
だから電車を降りて家に着くまでのタイミングを狙って電話をかける。
「そっか。仕事お疲れ」
「うん。そっちは?」
「私も今帰ってるとこ」
「そうなんだ」
なんだかいつもより口数が少ない気がする。
一週間の仕事を終えた金曜日。疲れていても仕方ないか。
「電話、迷惑だった?」
「そんなことないけど。どうかした?」
「声が聞きたかったから」
「そっか。でも俺のほうが迷惑じゃないかな」
なんでだろう。電話をかけたのは私の方なのに。
ーーツーツーツー
すると急に電話が切れた。
「え……」
私はもう一度かけようと立ち止まり画面を見ていると後ろから突然抱きしめられる。
一瞬何事かと驚いたが、その逞しい腕と安心する匂いですぐに誰なのか気付く。
「どうしたの?」
「会いたかったから」