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ヤンデレ
冷たい、錆びたフェンスに手をかけ身を乗り出す。
一度遠くを眺めてから下を見る。
「ねぇ、死ぬの?」
「え?」
少し浮いた足を地につけ振り返ると知らない男性がいた。
長い前髪の隙間から見える、切れ長の瞳は儚く揺れている。
「いらないなら僕にくれない? 君の命」
「命を、あげるなんてどうやって……」
「簡単だよ。愛してくれるだけでいいんだ。一生、僕だけを。僕だけのために」
「…………」
「もちろん、僕も君を愛してあげる。僕だけの愛の対象として」
この人は変だ。初対面の人に漠然とそう思った。
フェンスを越えた先の世界よりもこの人の方がよっぽど怖い。
「それが、これからの君の命の意味になるんだよ」
けれどそんな恐ろしいことを優しく笑いながら言う彼の瞳に捕らえられ、きっと私はこの人から逃げられないのだと感じた。