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先生
誰もいない教室。開けた窓に、なびくカーテン。
私は自分の席で宿題をする。放課後の日課だ。
四時五十分、ゆっくりと、時折立ち止まりながらそれでも確実に近づいてくる足音。
そして、この教室のドアが開く。
「椎名さん、そろそろ帰ってね」
「はい、もう行きます」
教室に入ってきた水沢先生は窓を閉めていく。
私はその間に急いで教科書とノートを片付け鞄を持つと先生と一緒に教室を出る。
先生と並んで廊下を歩き、各教室を見回る先生に合わせて私も立ち止まってはまたついて行く。
「先生、私水沢先生の授業好きです」
「嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう」
「水沢先生のことも好きですよ」
自然な流れでなんでもないことのように私の気持ちを告げる。
「僕は椎名さんみたいな良い生徒に慕われて幸せだよ」
一年後、私は生徒ではなくなる。
そうしたら水沢先生は私を一人の女として、慕われて幸せだと言ってくれるだろうか。