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最後の夏


 いつも遠くから見ていた。心の中で頑張れって叫びながら。

 伝わらなくても、その姿を見ているだけで良かった。

 見ている私がいつも勇気を貰っていた。


 高校最後の夏が終わる。彼の夏も終わった。


 いつものようにこっそり見に来ていた県民体育館の裏通路。

 誰も来ないであろうこの場所で、もれてくる体育館の中の歓声を聞きながら、私は泣いていた。

 決して涙は見せない彼に、私の方が感情を抑えられなかった。


「う、うぅ」


--パサッ


 突然視界が暗くなる。頭に掛けられた大きめのスポーツタオル。掛けられたタオルをそのままに顔をあげた。


「え……」


 今まで話したことも目を合わせたこともない彼が目の前にいる。

 

「もう、帰ったのかと思った」


「どうして……」


「いつも観客席にいる君を探してた。サツキさん、だよね?」


「なんで知って」


「これ」


 彼が差し出してきたのは二年前、私が体育館で落とした手作りのお守り。必勝という言葉と名前が刺繍されている。

 

「ずっと返せなくてごめんなさい。俺のお守りになってた」


 二年前、怪我をして途中棄権になった私は大会が終わったあと部活を退部した。

 そんな縁起の悪いものをお守りにしてたなんて。


「二年前の大会の時、足を引きずりながら一生懸命仲間を応援するサツキさんが誰よりも輝いて見えてた。俺にもその目を向けて欲しいと思った。見てて欲しいって」


 知らなかった。彼が私を見ていたなんて。


「いつも、見てたよ」


「知ってる。俺もいつも見てたから」


 高校最後の夏は終わった。

 けれど私の夏はこれから始まるのかもしれない。


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