彼女
「んーっ」
苦しそうな、唸っているような、それでいて思わず漏れてしまっているような可愛い声。
読み終わった本を棚に返しに行くとそんな声が聞こえてきた。
一つ奥の通路を覗くと全身をぷるぷるさせながら必死に一番上の棚に手を伸ばす女の子がいた。
"彼女"だ。よくこの図書館で見かける彼女。
いつもなにやら難しい本を読んでいる。その真剣な表情と伏し目がちに本のページをめくる姿がすごく綺麗だなと思っていた。
たぶん、僕より随分年下だと思う。それでも大人びた雰囲気の彼女にいつも魅せられていた。
けれど、体を震わせ一生懸命本を取ろうとする姿は小動物みたいで可愛らしい。
僕は彼女の後ろからそっと本を抜き取った。
「はい。これでいい?」
「へっ?」
突然のことにことに驚いている彼女も、両手で本を抱えペコッと頭を下げる姿も可愛い。
僕は思わず笑っていた。
そんな僕をじっと見てくる彼女も全部可愛い。
「ぷるぷるしながら背伸びする君がすごく可愛かった」
つい彼女にそんなことを言っていた。
綺麗な彼女も可愛い彼女もどっちも好きだなあなんてぼんやり思いながら。