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「おいおいおいおいおい、急に世界観がおかしいんじゃないか?なんだよ、銃を持ったロボットが襲ってくるって。そんなSF漫画チックな事、現実で起こってたまるか!」
いや、現在進行形で起こっているのだから困ってしまう。二足歩行でありながら猛スピードで追ってくるのはロボットとしては革命的な技術だろう。テレビで見たロボットはトコトコと可愛い擬音の走り方だったが、あれはもはやドタドタである。
幸い走り撃ちで照準がブレているのだろうか、銃弾は横を掠めていく程度でまだ1発も当たっていない。背負っていたアハトも、後ろから撃たれているこの状況では、背負っていると盾として全ての銃弾を受けてしまう可能性がある。
肉体は唯の人間と大差なさそうと思われるひ弱な彼女に、間違っても弾を当てるわけにはいかないので、苦渋の決断でお姫様抱っこという形を取りながら全力で走る。
道がわからないので、取り敢えず適当に走り続けているが案外前から来たりはしないのでどうにかはなっている。しかし、後ろでは複数のロボットが機械音声で「脱走者は排除」だの、「死刑、死刑」だの恐ろしい事を端的に述べまくっている。
「怖い怖い怖い。絶対に俺達を逃がさないつもりじゃん。1体くらいなら足でもやれたけど、いつのまに5台も6台も追ってきてるんだ」
重量感のある足音は道を乱雑に進む毎に増えていく。追いつかれる速度じゃない事が唯一の救いか。とは言っても今の限定解放状態の脚力と大差ない程のスピードは誇っているので普通に怖いが。
「このまま適当に逃げ続けても埒があかないんで隠れるか撒くかしたいところだけど、廊下に特徴がなさすぎる。既に迷子だよこれは」
扉は幾つかあったが、どの扉も自分達が出てきたような重厚感がある鉄製の扉しかなかった。追いつかれる前に速攻で蹴り破る事は可能かもしれないが、先が行き止まりだった場合が大変な事になる。
そんな事に一々ビビっていてはいられないのだが、自分1人じゃない事が余計に気を使う。確実に進めそうな場所じゃないと進めない。
そんな中でどれだけ走ったのかわからないが、ようやっと視界に階段が映る。これだけ走って階段がやっと現れるのはどれだけこの建物が広いのかをわからせられる。
「上と下、どちらを選ぶべきか。うーん、漫画とかなら風の流れとかで判断できるんだろうが、そんな事はできないし」
銃弾が飛び交う中で少し立ち止まり、感じられる風があるか確かめる。意識してみても風はあるのだがどちらからどう流れているかなんてのはわかるはずもなく、後ろからの足音も近づいてきていたので直感で上を選ぶ。
直感と言っても理由は一応ある。これだけ窓のない密閉された空間ならば上の方の階層である可能性は低い。それにもし上の階層だったとしても、上がれば地上には出られる可能性が高い。この建物が丸々地下に埋まってでもしなければ。
「ほっ、ほっ、ほっと。こいつやっぱり歳不相応に軽い気が済んだよな。何歳かは知らないんだけどさ」
「へー、君達って年齢も知らない仲なんだ。なのに命を張ってまで助けるなんて、その娘に惚れでもしてるんじゃないの?」
独り言を言いながら階段を軽々と登って踊り場へ辿り着いた時、独り言が聞こえたのか上から声をかけられる。その声には最近聞き覚えがあった。
「お前は双子の片割れ。名前は確かジャックとか言ってたか?」
「俺の名前なんてどうでもいいだろ?どうせお前は今から死ぬんだから」
手に持った小さなナイフをこちらに向けて、簡単に死を宣告される。先程の礼儀正しそうな片割れとは違い、言葉遣いも態度も喧嘩腰だ。吊り目なのでそれが余計に引き立てている。
「銃で止められなかった癖に、そんなちっぽけなナイフで俺を止められると思ってるのか?」
「兄貴に勝ったからって調子乗ってんじゃないのか?兄貴も可哀想だぜ、戦うのが得意じゃないのにお前の見張りなんてやらされて」
「質問に質問で返すなんて、会話する気がなさそうだな」
通す気が全くなさそうな片割れとここで会話しても意味のない事だと早々にわかる。それを向こうも察したのか、ナイフを構えていつでも戦える態勢をとっている。
こちらとしてはできるなら戦いたくないのだが、そんな事は敵であるジャックには関係ない。足に力を込めて、一気に横を飛び越えようと準備をしていたところ、ジャックが予想外の行動を起こす。
「ま、会話する気なんて更々ないな。俺は兄貴と違って敵に対して丁寧にも優しくも接するつもりはない!」
ジャックは持っていたナイフの持ち方を変え、自分の手に向けて刃を入れる。瞬間、飛び散る血飛沫が地面へポツポツと落ちた時、それは起こった。
今まで確かに周囲には何もなかった。地面は影で見えづらい所はあったが、何かが起こりそうな起伏はなかった。
それが今はどうだ。体は謎の透明な何かに貫かれ、体からは血が噴き出ている。何かしてくると直感で判断し、立っていた場所から飛んで離れようとしていたところを貫かれたので体はその場に浮いていた。幸いな事に、抱えていたアハトは咄嗟に踊り場の端へ落としていたので傷はなさそうだ。
「直感でその娘を庇ったんだ。君も案外、善人っぷりを見せるじゃん。てっきり君も僕達と同類のクソ野郎かと思ってたんだけど」
「う……うるせぇな。それよりも……これは一体なんなんだ。お前の力は兄弟との意思疎通じゃないのか」
「1度見ただけで判断するのは危ない、と言う事だ」
ジャックがまた手を横に振るったことで肩にあった異物感がなくなり、浮いていた体は支えをなくし地面へ叩きつけられる。
「さ、次でちゃんと死んでくれよ?」
ジャックは笑顔でそう言った。




