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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘


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「捕った」


 右手には刺そうとしていたナイフを持ったアシュリーの左手が握られている。体から血が抜けて正直、力がいつも以上に入らない。けれど今はそれでも良い。


「あら、手首を握ってどうしたのかしら。刺されない為の最後の抵抗なら可愛いものね」


 そう、勘違いしていろ。返事も返さず、一気に息を吸い込む。その姿に少し動揺したのか、握られた手を振り解こうとする。しかし、いくら貧弱だとしてもここぞというときに易々と離す訳がない。


 それがウザかったのか、アシュリーは語気を荒立てる。さっきまであまり感じなかった裏社会の人間としての圧を出しながら。


「ちょっと、流石に鬱陶しいから離して?死にたくないのはわかるけど、今更そうやって時間を稼いでも無駄よ」


「無駄……ですか。確かにお前からしたら無駄な時間かもしれないですね。けれど今、お前は異能力を使って逃げられますか?逃げられないでしょう」


「そんなまさか。……そうですか、貴女の異能力は異能力を殺す異能ですか。あの巨大な腕だけでなく、直接触れただけでも効果があるとは驚きですがそれだけです。貴女を今から殺すのに、もう異能は必要ではないですから」


 わかっていない。まだもう動けないから最後に異能力を封じてやろう、そうアシュリーは思っているのだろう。なんて浅ましい考えだ。一撃も攻撃をもらわなかったので、未だに手を噛まれないと思っている。


 余裕があると言えば、そういう見方もできるが勝利を確信したただの傲慢。油断に塗りたくられたその姿を、その顔を裁きの天使の一撃で崩す。


 今度は逃げる余裕を与えない。腕を掴んでいるのだからそんな余裕は既にもうないのだが。


『第6解放』


 背中側で上半身を顕現させていた青い天使は姿を変える。その形は1つの巨大な槍へ。華美な装飾はされていないシンプルな槍。貫かれれば人1人、腹に穴が開くだけでは済まない。


「必要ない?いえ、足らないくらいよ。お前みたいな勘違い女には拳じゃない、もっと痛みを感じさせてわからせる。人を殺すなんて微塵も思わないように」


「言うじゃない。この距離なら異能力を使わずとも、私が貴女の腹を抉る方が早そうだけど!」


 アシュリーは掴まれている逆の手側の袖からナイフが飛び出す。職業、暗殺者を名乗っているだけあり、体や服の色々な所から武器を取り出せそうだ。しかし、どれだけの数の武器を今から出そうと、それを使って殺そうとしても今更もう間に合わない。


 ナイフが腹へ届く前に、高速の槍が彼女を貫ける。問題はどこを貫くかだ。できる事ならばこちら側としては、アシュリーを殺したくはない。個人としては痛い思いと面倒を押し付けられているので、やってしまっても良いとは思っている。だが、組織に所属する人間としては違う。


 正義側に属するという事は縛られる事が多いという事。故にこの槍も滅多に出す事はないが、ある意味の信頼がそこにはあった。


「貫け」


 その一言で神の槍がアシュリーの隙だらけだった腹を言葉通り貫く。貫いた槍は辺りを一周して血を落とし、また近くで空中で待機する。


 アシュリーの一瞬にして貫かれた腹からは、血液が一気に流れ出ている。その貫かれた傷辺りを押さえながらも、アシュリーは余裕そうに後ろへ飛ぶ。着地した時に口からも血が出ていたので、余裕そうな表情も強がりである可能性が高くなる。


「いったいじゃない。急に人型から槍になるなんてふざけた能力、私聞いてないわ。貴女の異能力(それ)、私と同じタイプね」


「お前と同じ?どこ辺りが一緒だと思ったのか私にはわからないです。そんな事を考察するよりも、死にかけている自分の体を心配したら良いんじゃないですか」


 話している間にも貫かれた腹だけじゃなく、口からの出血が止まらないので、このままいくと失血死まっしぐらだ。だというのに余裕の笑みは崩れない。それどころか腹を押さえている以外は何ともなかったかのように立ち振る舞っている。


 これもアシュリーが持つ異能力の力の1つである可能性はある。もしそうだとすれば、1度触れるか槍を元に戻すかの2択になるが、このまま失血死或いは多臓器不全による死を待ち続けた方が安全だ。


 幸い、前のように体力を使い過ぎて伸びないよう、意識して加減している。例え持久戦へ持ち込まれたとしても、アシュリーがクロのような不死性を持ち合わせていなければどうという事はない。つまりは


「この短いようで長かった戦いももう終わりです。本当は生捕りにしたかった所ですが、私には手加減なんてできなかったようです」


「終わり?終わりですって。私はまだ立っていますよ。今から貴女の首を掻っ切ってころ」


 啖呵を言い終わるにアシュリーの頭を高速の槍で貫いた。

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