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先輩には言っていない事だが、私の天使には明確な大きさがない。例えば、全長5cmくらいの指人形サイズで天使を召喚する事もできるし、このビルと同じサイズで呼び出す事もできる。
もっとも現代でそんな巨大サイズの天使を呼べば、神秘の秘匿という対策課の、世界各国の思惑を1発で壊す事になる。
しかし、天使を呼ぶのは何も全身じゃなくても構わない。腕や足、顔だけでも呼ぶ事はできる。顔は布で隠れているので直接拝むことはできないが。
そして今、発動した『天使の一撃』。わざわざ名前を自分でつけた訳ではないが、名前がないと不便だろうと言われたので仕方なくつけてもらった。不便と言って名前をつけた本人は笑っていたので、気遣ってというよりは面白いからだと本人の性格からも予想できる。
1度、天使の巨大な腕で握っておいたので、もう過ぎた事ではあるのだがこうやって今みたいに念じる度、どうしても思い出してしまう。憎きあの顔を。
今回、呼び出したのは廊下である事も考慮して、全身ではなく天使の青い剛腕のみ。何もない空中に腕だけ生えてくる図は誰が見ても奇怪と答えるだろう。
異能力を吸収する事ができる天使の腕は、防御としてはもちろん使えるが、有り余る膂力は腕の大きさにもよるがダンプカー以上の力も出せる。今出した腕の大きさだと壁くらいなら容易く破壊できる。
つまりやりすぎだ。けれどやり過ぎるくらいがちょうど良いとも思う。どうせ無茶しても裏工作でなかった事にはなるのだから。
天使の腕は壁に残った1門の機銃を、躊躇なく壁ごとぶち破る。幸い、壁の向こうは空き部屋だったようで誰もいなかったのは救いだったのかもしれない。このパーティーに来ているメンバーはまともな人間がいない裏の人間ばかりなので、一緒に始末しても構わないとお達しが出ていないので残念と言えば残念だ。
ついたゴミを払うようにアハトが手を振ると、天使も手を振るうのでそこで近くにいたら飛ばされるくらいの突風が巻き起こる。
起こった風に靡かれる髪を抑えながら待っていると、ようやく本来の目的であるトイレに隠れていた赤阪が姿を現す。
「そこの顔がいかにも貧乏そうな庶民君が倒れたと思ったら、次は異能力者殺しですか。あなたがいつか来る事は予想していたけれど、まさか1人で来ないとはね」
「読みが外れて残念。レッドオーガ、アシュリー・ライト。いや、今は赤阪朋美なんて日本人のような名前を名乗っているんでしたね」
「流石、国家公務員。情報収集能力も当然高いという訳ね。そこに転がってる子は話しても見たけど、何一つ知らない顔をしていたけれど」
一体、先輩はどんなアホ面を晒していたんだと気になるが、どうせ前のように何も考えずペラペラと話していたんだろうと想像もつくのでもう考えないようにする。
無駄な事を考えていられる程、目の前に立つ女は捕まえられない。実際のところ、本当のところはわからないとはいえ、彼女は1つの顔として赤阪朋美を20歳だと公表している。例え年齢を誤魔化していたとしても、大して差はないと外見からは読み取れる。ここは幾ら組織だとしても探ることは出来なかった。
そんな若い年齢でありながら彼女は、彼女のグループは色んな国を股にかけながら暗殺を成功させながら誰1人足取りを掴ませない手腕。所属している全員が正確な詳細はわからないものの異能力者である人員の厚さ。
そして赤阪自身の異能力の不明さ。赤阪朋美、いや、アシュリー・ライトは異能力を使って暗殺をしている。その情報は回ってくるものの、じゃあどんな異能力で人を殺したのかと問われると全員口をつぐんでしまう。
実際に見た人間はいない。被害者は全員殺され、目撃者も全員、一般人であろうと殺されていたからだ。
「だからと言って、異能力者が私に勝てる訳がないんです。だって私は異能力者を殺す為だけに生まれてきたのだから」
「そう、そうね。私も貴女とはお手合わせしてみたかったの。転がってあの子とももっと戦って見たかったのだけど、ここは貴女で我慢してあげるわ」
アシュリーは狂気に満ちた笑顔で微笑んだ後、ドレスの何処にしまう場所があったのかもわからないが何処からともなく銃を取り出す。
「貴女に敗北を教えましょう」




