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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘
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 時間は少し戻って、クロと赤阪朋美が戦闘を始めたすぐ後。正確にいうのならばクロが『ブラッド・インパルス』を撃とうとする直前。


 「先輩、何もできない癖になんでわざわざ敵の親玉と対峙してるんですか。運が良いのか悪いのか。でも先輩にも遠距離で殺る手段があったんですね」


 廊下の奥、ちょうどクロが血を乱射しまくっているのが見える位置にアハトは居た。今いる場所はどうやら従業員専用のそれも非常用の階段のようで、人通りが極端に少ないという観戦するにはちょうど良い場所だ。


 さっき階段を息切れしながら登って居る時、謎の大男に喧嘩を売られたので、天使パンチ(物理)を数発叩きこむと気を失ってしまったくらいしか階段ではほぼ何も起こらなかった。


「運動能力の無さは改善点です。頼んで何か作ってもらうべきですねこれは。また迷惑をかけますが、そもそも貧弱につくるほうが悪いんですよ」


 まだ少し上がっている息を整えながら戦いの経過を観察する。最初は2人が戦っている事がわかったので、すぐに横槍を挟むつもりでいた。


 こちらからの認識では、クロはまともに戦えない。使うとしても良くて相手を釣り上げる為の餌でしかなかった。自己回復の異能力なんてのはそれくらいにしか役に立たないとわかっていたが故に本部から直接下された任務だと思っていた。


 実際の所、目に映る限りは彼が良いベイトになってくれているのは間違いない。間違いないのだが、今見ている彼の姿は別人のようだ。


 辺りに飛び散っていた血を一度手に集めたかと思えば、そこから地面や壁なんて関係なくまた飛び散らせている。血を使って何かをする異能なんていうのは奇妙でしかないのだが、そもそも別の異能力を使っている事に驚きを隠し得ない。


「まさか異能力を偽っていた?何かを隠しているとは思っていましたが、まさか2つ目の異能力が使えるとは。これは本部に要報告です。そうです、折角ならどこまでやれるかを見て見ましょう」


 となり、今現在のクロの暴れ具合を我観せずという立ち位置で階段から観戦している。


 あれだけ派手に無作為に撃ち続ければ赤阪に当たっていて欲しかったが、少し距離が離れていた事を利用して近くにあったトイレへと駆け込んでしまった。


 トイレは袋小路でしかないので追いかけるものだと思っていたのも束の間、クロはエレベーター前から動かず攻撃の手を緩めない。


 その姿は腹いせに辺り一帯を破壊しつくそうとしているように見える。ただ、威力自体はそこまでなのか1発1発は壁に後が残る程度でしかない。


「先輩は一体何を……。もしかして機銃を破壊しようとして……?いやいや、そんな事しなくても先輩が直接倒せばいい話だからないか。ってなんか先輩、足から崩れ落ちてないですか」


 女子トイレから出てこない赤阪は置いておいて、今まで元気に撃ちまくっていたクロが急に倒れる。倒れる寸前、胸を押さえていた気がするので時限式の攻撃をされていた可能性もあるが、赤阪は時たまトイレから顔を覗いたりする程度で一向に出てくる気配はない。


 全体から俯瞰できる位置にいるからこそ、赤阪が様子を伺って警戒しているのがわかる。そこまで警戒させるようなものが、この戦闘でクロにあったのかはわからない。ただ、今なら気づくれずに後ろへ回る事ができる。


 そう判断するや否やアハトの行動は早かった。明確な利が目の前にあり、リスクもそれなりに低い今、彼女は迷わず目的を達成する為に動く。


 足元から崩れ落ちたクロが、とある方向を目がけて最後に撃とうとした事も承知の上で前に出る。最


「流石にここまで先輩がやった以上、私が退く訳にはいきません。不承不承ながら最初から全力でやらしていただきます」


 彼が狙っていたのは乱れ撃ちで壊しきれなかった最後まで残った唯一の機銃。今だからわかるが、彼はきっと異能力以外の攻撃手段を少しでも消そうとした。


「先輩は結局、自分1人では任務もこなせない未熟者です。とは言え、私に頼ったのは正解ですよ」


 目に映るのは最後に残った1つの機銃。何故か倒れた先輩(クロ)が壊しきれなかった1番身を害す可能性のある敵に残された手段。そんなものは先に潰してしまえばいい。


「私なら先輩と違って、全て一撃で決めてしまえるんです」


『天使の一撃』

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