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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘
3/62

1-3


「今月、初検挙おめでとう!黒くん、それに新人のアハトくん」


 気絶した男を連れ、アハトと一緒に特殊対応課の支部まで来ていた。そこではこの支部にいる人間2人のうち1人が出迎えてくれていた。


「改めまして初めまして。私がこの支部の課長である目黒だ。そして彼が日威黒、彼には実働部隊として行動してもらっている」


「日威黒だ。日中はアルバイトをしていて、主に夜動いている。よろしく」


 友好の証として右手を出すが、アハトは一向に握らない。それどころか自己紹介をすらする気配がない。こちらを見る無機質な目は、ここへ来るまでもずっと変わりがなかった。


「ところで、黒くん。君はまた何も言わずに、犯人を捕まえに行ったね。アハトくんが居なければまた死んでいたかもしれないぞ」


「すいません、偶々火の玉が浮かんでいるのをみてしまって。見てしまったからには止めないといけないですから」


 この言い訳は半分本当だが、半分は嘘だ。犯人を見つけたのは偶々ではない。現れそうな場所をあらかじめリサーチしておいた上で、毎日バイト帰りに探していたのだ。


 しかし、元々止めるつもりはなかった。放火していると言っても、まだ人的被害は出ていなかったので、勝てる見込みの無い戦いよりも報告を優先するつもりだった。


 そこで聞いてしまったのだ。


「次は人を燃やしてみたいなあ」と。


 そんな事を言っている奴をここで逃せば、次のニュースは殺人事件になるかもしれない。それを見す見す放置する事はできなかった。


 結果としては惨敗だった訳だが。


「まぁ良い、いつもの事だ。だが、次からはアハトくんと行動するように。アハトくんには君の家に住んでもらうから、情報伝達はすぐにできるだろう」


「……待って下さい?僕の家はただのアパートで、2人で住むには狭いと思うんですが。というか男女が1つ屋根の下は不味いでしょう!」


 広さがもしあったとしても、倫理的によろしくない。これを聞かされているアハト本人が、何も思っていなそうなのが余計にまずい。


 会ったばかりの男を信頼しているはずがないので、腕っ節が強い故の余裕なのか、ただの鈍感なのか。どちらにせよ一緒に住む事は避けねばならない。


「アハトくんには親族が居なくてね。私の家は嫁がうるさいし、今頼れるのは君だけなんだよ。」


 そんな事を言われたら断り辛い。


「1人で家を借りるというのは?というより、それが1番良いじゃないですか!」


「金がありません。この仕事は危険な割にお金が出ない。それは貴方もわかっているはずです」


 特殊対応課の仕事は、火を操っていた男と同じような異能力者と、時には戦わねばならない。命懸けの戦いだって起こりうる。


 だが、給料は雀の涙ほどしか貰えない。具体的に言うと、月に貰っている給料は学生アルバイトと同程度かそれより下だ。


 完全に使いっ走りだが、事件の少なさと拘束時間を考えると仕方がないのかもしれない。課長は普通に貰っているらしいが。


「私は構いません。ですので貴方が決めて下さい」


「もし、俺が無理だと言ったら?」


 ここで初めてアハトの表情が変わる。わざとらしく落ち込む顔に。


「仕方がありません。命令があるまでは野宿します」


 それを言われて、断れるような人間性はしていない。


「わかった、わかりましたよ。隊長、覚えておけよ!」


 そうして今日、計らずも日威黒の人生で初めて、女性との同棲が決定したのである。女性というより16歳くらいの少女なのだが。

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