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「大きすぎるだろこのタワー。高さは都心に並ぶありふれた高層ビルのひとつだけど、流石に横が広すぎるだろ」
上を見上げながら、視界に入らないほどのビルを見て感心の声を出す。都心から電車一本でたどり着ける場所に住んではいるが、住んでいる場所は住宅街が多くあるので都会とは如何せん言い難い場所だ。
なので稀に出掛けたとき、立ち並ぶビルの数々には驚かされ続ける所詮は田舎者。そんな奴が一種の城ともいえる建物を見れば、驚きの声が隠せないのは当然だろう。
しかし、それを小馬鹿にするようなテンションで話しかける少女が隣に立っていた。
「恥ずかしいですよ、先輩。そのような見てわかる田舎者具合は辞めて下さい。折角、見た目だけはお洒落をしているのですから、態度や言動もそれっぽくしたらどうですか」
認めたくはないが、見た目だけは常に可憐な美少女なアハトだ。それに加えて、今日は青い髪と並ぶ透き通るような綺麗な青をベースにしたドレスで着飾っている。
普段から目を引く彼女だが、ドレスとの組み合わせによって道ゆく人々が必ずは一回見てしまうまで完成している。そのせいでこの会場に着くまで、何回ナンパされかけたのかわからない。ナンパをしてきた人達は全て、彼女の辛辣な物言いによって撃ち落とされていった訳だが。
そんな彼女の付き添いとして相応しい格好をしようと思ったわけではないが、今から行こうとしている暗殺場所がパーティー会場だということで、収納の奥の奥に仕舞われていたスーツを着用している。
自分で言うのもなんだが、ドレスが似合う彼女と比べるまでもなく、主観で見るとスーツが驚くほど似合わない。スーツに着られているのではないかと周りに思われていそうだ。
それでも流石に、これから1度もやった事がない暗殺を、少しでも目立つ可能性のある平凡な格好で来る訳にはいかなかった。
「それで作戦は考えてきてくれたのか?変な異名がついているくらいだから、これが初めてという訳じゃないんだろ」
「そうですね。ですが、先輩は今回の作戦に組み込んでないです。動きの鈍いど素人を連れて成功させられるほど、今回の任務は甘くないので」
アハトは周囲からの目線を一切気にせず、タワーへ威風堂々と入っていく。ここで彼女を見送れば、彼女の同伴者として目立つことはなくなる。その場合は、何もわからない自分は今回の仕事をほとんど任せきりになる。
受けた任務は紙だけで指示された非公式なもので、絶対ではない。きっと引き受けなくても、他の誰かがやってくれるのならそれでも別に構わない。
しかし、このままアハトを1人で殺しに行かせて失敗でもすれば、死ぬ可能性がなくはない。殺しに行くという事は殺される可能性もあるという事なのだから。まだ交流は少なく、会うたびに散々小馬鹿にしてきた奴だったとしても死んだとなれば心が痛い。
人を積極的に助けたい。そんな英雄じみた妄言を語るほどの善性が自分にあるとは思っていない。けれど、目の前で死地に向かおうとする少女を置いて帰るほどの決断もできない中途半端な男。それが異世界への召喚が巻き込まれる形でありながらも、無事異世界から帰還した日威黒という人間である。
それに勝ち目のない賭けに乗るつもりはない。異能力者相手なら無敵であるアハトが一緒だからこそ、大人しく今回の指示を受けたのだ。
「待て待て。俺も一緒に入るから。俺だって少しは協力できるんだから、これからどうするのかを教えてくれよ。この前みたいに助けるからさ」
アハトの肩に手を置くと、こちらを睨みながら置いた手を速攻ではたき落とされる。心底嫌な顔をしており、冗談混じりで触れてしまった事に少し後悔する。
「……先輩は何もしないで下さい。大人しくパーティーのビュッフェでも食べて、満足したらそのまま家へ帰ると良いです」
舌打ちをしながら足早に、アハトは降りてきたエレベーターに1人で乗り込み、乗ろうとした人達を全員置いてそのまま上へと上がっていった。
「あいつ、協力的じゃなさすぎるだろ!なんであんな奴と2人でバディを組ませたんだ」




