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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘
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 今日も今日とて、時給900円の安月給で実労働8時間を終えて帰路に着く。レジの締め作業などがあったので、1人残っていた社員を除けば、最後の1人まで残っていた。


 残業代は出るのでまだ良いが、これから別の仕事依頼を見なければいけない。それを思い出すと気分が憂鬱になる。吸血鬼の性質上、月に照らされて気分が少し高揚しているはずなのだが、晴れぬ憂鬱な気分の方が心の多くを占めている。

 

 今すぐ、家に帰って風呂に入り、布団の中へダイブしてしまいたい。全てを忘れて床にはいることができれば、どれだけ楽になることができるのだろう。


「駄目だ、駄目だ。力を解放してから気分が優れない事が多かったけれど、少し何かがあっただけでモヤってしまうな。こんなのじゃ笑われる姿が目に浮かぶ」


「日威君、もう上がれそうかい?僕ももう上がってしまいたいんだけど」


 微妙な気持ちに浸っていると少し遠くから声が掛かる。こちらの締め作業を一切手伝おうとせず、自分の作業を事務室でしている社員。それ自体は向こうも仕事なので良いのだが、一般アルバイトに無茶を強いるのは勘弁してほしい。


 ここで先に上がっておいて下さいと言うのは簡単だが、それを言ってしまえば今後、給料はアルバイト相当でありながら社員相当の仕事を割り振られる可能性がある。できると思わせるのは、時に害となるのだ。


 バックヤードに入っても見えない社員へ、いつも通りこういう状況の時のために決まった言葉を返す。


「すいません、もう少し待ってもらえるとありがたいです」


「はー。僕は仕事を終わらしているんだけど。日威君が遅いせいで今日も残業だよ。スマホ見てるから終わったら声掛けて」


 性格が終わってる物言いに拳を握りしめるが、息を落ち着かせゆっくり拳を開く。今ここで怒鳴りに行こうものなら最悪、解雇される可能性がある。解雇されなくても労働時間を減らされると困るので何も言う事ができない。


 異世界へ行かされていたせいで、経歴に不自然な穴が空いている。それもあるのか面接の受け答えが下手なのか、何社か受けた面接を落とされている。


 ここで解雇されでもすれば、次の会社を見つけるのは大変な事が目に見えてわかるので、例え諸々の事に違反している社員に対して強くでることができない。


 よくある社会の構図だとも言える。いつも苦汁を飲まされるのは、立場が弱い者ばかりだ。


「あー駄目だ、駄目だ。吸血鬼の力が返ってきた今ならあんなクズになんて負けないとか考えたら。大人しく精算しながら腹でも壊すように呪ってやる」


 吸血鬼に相手を呪う能力なんてないので、完全に気分の問題でしかない。けれどその分、想いもとい呪いを込めておくとする。


 そうやって呪いを込めながらも、5台あるレジの精算も終わり社員に終了だと声をかけて帰宅の準備をする。レジ担当は専用のエプロンがあるので、それだけ脱げば終わりのラフな格好だ。


 脱いだエプロンをロッカールームに直そうとしたところ、指令書と思しき封筒を落とす。落ちたその時、封筒が開き中に折り畳まれて入っていた手紙が露わになる。


 家に帰るまで見るつもりはなかったが、落ちた衝撃で折り畳まれていた手紙が開いており、図らずも内容を見てしまう。紙のサイズはA4とそこそこ大きいサイズだが、書いてある文量はたったの2行。


 それも文字は紙の大きさに見合っていない小ささで、ぱっと見ではなんと書いてあるかわからないほどであった。


 それでも開いてしまったからには内容が気になったので、目を凝らしその驚くべき内容に誰もいないロッカールームで声を上げてしまう。


「『異能力者殺し』アハトと共に暗殺者集団首魁であるレッドオーガを暗殺しろ。場所は赤坂プラザタワー10階、時間は19時に会合があるのでそこを狙え。だと?いや、無茶苦茶言うな!」

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