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異世界帰りのアルバイター  作者: 糸島荘
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 痛い痛い痛い痛い痛い。全身が痛い。殺さない程度に体を痛めつけられて、動く事すらままならない。これだけ体に傷がつけられたのはいつぶりだろうか。


 それもこれも先輩が頼りないせいだ。先輩がもっとまともな異能力だったなら、私の異能力である天使の腕にあるクールタイムを待つ必要もなかった。


 先輩に散々言っておいてあれだが、天使の腕を抜きにした私はお世辞抜きで弱い。異能力は腕を出さずとも無効化することができる。なので集団の1人を直接触って、言霊による支配から解放する事ができた。


 しかし、私にできたのはそこまで。所詮、身体能力はそこらにいる同年代の女子高生よりも低い自信がある。


 身体能力の低さから、1人触ってふらついていたいた所に、後ろから躊躇いなく斬り掛かってきた。


 ふらついていたお陰で足がもつれながらも避けた所を起点に右脇腹、左肩、右太腿と色んな部位を少しずつ死なない程度に集団は斬り掛かってくる。


 ただの商店街の住民にそんな技能はないはずだが、言霊がそれを可能にしているのだろう。無数の傷を負い、全身が痛い。普通の女子高生なら傷を負った痛みで悲鳴を上げるのだろうが、生憎私にそんな物は内蔵されていない。


 私にあるのは先輩もやられてこの状況をどうしようもないという諦念と、痛みに耐える時にでる呻き声だけ。それ以上は何も感じない。しかし、私はそこで薄らと願ってしまった。


 助けて欲しいと。


 何かをぶつぶつと先輩が言っているが、何を言っているのか声が小さすぎて聞こえない。そして返事も返せない。喉が潰されてしまった訳ではないが、何故か口から声が出ない。まるで誰かに声を出すなと指示されているような、そんな感じだ。


 先輩はぶつぶつと喋るのを辞めず、地面を這いずりながらこちらへ進む。それをみて、呆気に取られたのか男は言霊で指示を出さないので、這いずる彼を誰も止めない。


 這いずって辿り着いた先は、私が血を流して血溜まりとなっていた場所だ。そこで先輩は見間違いじゃなければ血を舐めた。啜ったりするのではなく、ただ一度舐めただけだった。


 先輩のそんな意味不明な行動を見て場は固まる。しかし、次の瞬間に先輩は全身を覆うほどの紅い光に包まれた。


「なんだなんだ?血を舐めたと思ったら急に赤く光りやがって。諦めて自爆でもしようってのか?もしそうだとしてもここを曲がれば当たらないだろ。そうだ、念の為お前ら3人はそこで見とけ」


 男は流れるように言霊を使い、見張りとして私を囲んでいた3人を残して角を曲がる。自爆しようとしているのなら規模にもよるが、概ねその選択は正しいと私も思う。


 街一つ吹き飛ばすなんて威力だったら、家の影に入ったところでこの距離なら消し炭だ。もしそれが本当に自爆だったらの話だが。


 先輩の異能力はあくまで「再生」だ。自爆なんてできる異能力ではない。しかし、私はこうも考えている。異能力の虚偽申請ではないかと。


 異能力の申請は実際のところあやふやなもので、機械が完璧なものを測定してくれる訳は当然なく、目視と本人からの自己申告だ。異能力の延長線上にあるものなら、偽ることは不可能ではない。


 私は先輩の異能力が「再生」である事に違和感を覚えていた。私が前に会った事のある同じ異能力者の再生力はちょっとした怪我を治す程度で、包丁で刺されてまだ生きていられるような異能力ではなかった。


 個人差で片付けられるような力の差ではない事が明白だと、最初に負った火傷が治った時から思っていた。数時間も経たずに体を貫くような傷が、痕も残らず治りきるなんてはっきり言って異常だ。


 だから私は煽った。もし隠している力があるなら最初から使って欲しかったから。自分の力を隠して得する事なんて、ただのフリーターにとっては大差ない筈だ。


 そして今、実際に先輩は()()を使おうとしている。


「先輩、貴方の本当の力を私に見せて下さい」

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