バカが婚約破棄とかやらかしてるんですけど、どう思う?
俺は、日本と言う国に生まれて18年間生きて交通事故で死んだ。両親が両方とも医者だったため、俺も医者になることを決められていた。ものすごくめんどくさい職業だから嫌だとは思ったけど、他にやりたいこともないし、給料がいいからと、高三の時に医大を受験して受かった。入学できたのだが、入学式翌日に居眠り運転した若い男が歩道に突っ込んできて跳ねられた。多分、即死だろうなー。吐血して、肺からのやつだろうなって思って意識が途切れた。次に目を覚まして、目に入ったのは、天蓋だった。
しかも、起きあがろうとしても力が入らない上に首ですら動かなかった。声を出しても思ったように喋れないのだ。そこでやっとおかしいことに気づいて、ぷくぷくの手を見て、首が座ってない赤ちゃんだと気づいたわけだ。まじで驚きすぎた。そして、俺が起きたことで、横にいたらしい人が、俺を覗き込んできた。なんか、白黒のメイド服で、「なんかコスプレしてるー笑」と思ったんだけど、しばらくして、ドレス姿の人も来るわ、やたらキラッキラした男の人も来るわで、「あ、これコスプレじゃなくて、西洋の国に転生したんだなー」って気づいた。
んで、魔法の存在もあることに気づけば、異世界に転生したんだって理解するよね。異世界ネタの漫画は買い漁ってたから、比較的順応が早かったと思う。魔法を使えるようになるんだって思ったらワクワクもした。
だけど、俺に会いに来るのは母親だけ。1ヶ月もすれば俺と母の立場は理解できた。
『無能の第三王子』
このセントリア王国は、基本的に平和だ。南にある友好国のアウリア王国と、そのまた南の国であるミーズィール公国が戦争しているけど、セントリア王国はアウリア王国に食糧援助をするぐらいで、戦争の影響はあまりない。
しかし、どの国も抱えている問題がある。それは、魔物という生物がいて人を襲うということだ。魔物はダンジョンという場所から湧き出てくるが、淀んだ魔力を体内に大量に取り込むことで魔獣化することもある。
魔物の多くは凶暴で、畑や人を襲うようになる。普通の獣よりも数倍から数百倍も、危険な生物だということだ。
魔物に対抗するのは、昔は騎士だけだったらしいが、それにも限界があった。そこで、魔法という神から与えられたとされる技術を、魔物の討伐に利用したものが現れた。それが勇者セルトだった。
まぁこの辺はどうでもいいとして、勇者セルトのおかげで魔法というものがさまざまな人間にも使えるようになった。魔法を使うものたちを魔法使いとも呼び、各地に散った魔法使いたちは徐々に地位を確立し、やがて貴族という身分を手に入れた。魔法が使えなくても戦士(後に騎士)として地位を確立したものもいるが、魔法を使える人間は遺伝するため、現代の魔法使いのほとんどが貴族だった。たまに平民からも出てくるけど、ごく稀だ。
では、魔法とは何か。
魔法は、体内にある魔力を使って、火を出したり、水を出したり、風を起こしたり、土を操ったりする現象全般を指す。持っている属性以外の魔法は使えない。
基本属性は火、水、風、土の四属性があり、珍しい属性だと光と闇などがある。1人の人間は大体一つの属性か、二つの属性しか持たないけど、王族なら三つ以上あるのが当たり前だったりする。
母も、もちろん魔法属性を持っていた。珍しい光属性と、太陽という火の上位属性だ。子爵家出身ではあったが、上位属性と光属性を持っていたことで第二側妃にと、ほぼ強制的に嫁がされたのだ。まぁ、外見が王の好みドストライクだったことも、要因の一つなのだが……
あ、そうそう。この国の王族は、一夫多妻制で、王妃を含めれば嫁は3人もいるのだ。一夫一妻制で育った俺からしたら、複数の女を愛する(愛してない妃も中にはいるだろうが)なんて器用な真似できねぇし気持ち悪いと思ってる。
そんな中で、子爵家の第二側妃である母は、魔法属性がいいことで表立って蔑まれたりはしなかったが、王妃や第一側妃を差し置いて王の寵愛を受けていたために、影では王妃と第一側妃から相当いびられていて、肩身が狭そうだった。2年前に王妃に男の子が、その1年後に第一側妃が男女の双子を出産したことで、一旦、いびりはなくなった。しかし、側妃が出産した直後から、王は母の元へ通い半年もせずに妊娠が発覚した。その後も王は足繁く母の元へ通うことで、王妃や側妃から「私たちのもとには全然きてくださらなかったのに」という反感を買い、母はいびられはじめた。そんななかで、俺を出産というなかなかに酷い環境であった。
ここで話が最初に戻るのだが、俺は、魔法属性を一つしか持っていなかった。全員が1番期待していた母の持つ光や太陽はおろか、王の持つ火、水、風のどれも持っていなかった。では何を持っていたのかというと、
『鍛治』
という魔法属性だった。もはや、魔法じゃなくてスキルじゃんって感じ。実際、この世界にもスキルというものがあって、習得するか生まれながらに持っていると、その分野が大得意になるというものだ。もちろん、鍛治スキルもあった。
つまり、属性はたったの一つしかないのに、唯一の属性が、鍛治属性なんていう聞いたこともない上に、スキルとして存在する。そして、鍛治なんてのは、平民がなるものだから、王族が持ってても意味がない。
という話なので、王族として無能ということだ。一つであっても上位属性があれば、レッテルを貼られることはなかっただろうけど、たらればの話はしても仕方ないな。
俺は生後1カ月で、自分の立場を理解し、勉学に励んだ。せめて無能とは言われたくなくて。いくら前世18歳だとしても普通に嫌だし、難関医大に一発合格したプライドも多少は傷つくのでね。
だけど、兄や姉たちにはさまざまな家庭教師をつけるけれど、俺には最低限の礼儀作法しか教えられなかった。無能なんぞに、教えてやるなんて無駄だと言って。内政なんぞ魔法が使えなくともできるわって言いたかったけど、無駄なのでそれは諦めた。アホに説教しても無駄なのと同じである。
まぁ、宰相であるイーズリル・マクガーデンは俺と同じ考えのようで、俺がこっそり独学で勉強しているのを見かけてからは、いろいろ教えてくれたけど。
そして、十数年後。俺と仲の良い第二王子ことアスタ兄とその双子の妹である第一王女ことアース姉、財務大臣のオルタリー・ハイド、近衛騎士団長のソールディー・ミリワン、宰相のイーズリルなどの一部の人間(主に王国の上層部)以外には、無能だと思われるように行動した。あぁ、あと、俺には無関心だった国王か。
なぜ、そのように行動したのかだって? アスタ兄とアース姉が王宮飛び出したからだよ。というより、飛び出す予定なのを2人から聞かされたんだよ……あの2人は、母親である第一側妃に外見は似てるんだけど、性格が全く似てなくて、とにかく自由奔放すぎた。多分、側妃の実家がそんな感じの性格だから……頭がいいけど机仕事が苦手で、頻繁に逃げ出していた。10歳の時に城下町にお忍びで飛び出し、金持ちそうだからと人攫いに攫われかけたところを冒険者に助けられて冒険者に憧れて……
そっからもう、家出する気満々でさ……表向き、勉強に励んではいたけれど、2人で城下町に住むためにいろいろな行動を秘密裡に進めていたらしい。資金集めとか、知識とか、いろいろ……大した行動力と、5年も周囲に気づかれないようにした狡賢さよ……
2人が11歳になった瞬間、15歳になったら家出する! と、俺は話を聞かされ、元々王位継承争いが起きないように無能として生きてたのに、2人のせいでさらにそうしなきゃいけなくなったわけだ。
2人は宣言通り15歳で家出して(部屋に、家出します。探さないでくださいという書き置きのみ残していた)、王宮が探し出すより先に、翌年には冒険者としての地位を確立してて、連れ戻せなくなったわけだ。
うまくやったよなー、あの2人……
まぁ、冒険者しててもいいから、結婚してという釣り書きも来てることはきてるけど、2人は縁を切ったつもりだから応じないしで、第一側妃側はもう大騒ぎ……
あ、おかげで第一側妃からはいびられなくなったよ! 俺も母上も! ラッキー! と思ったことは内緒だ。
さて、なんやかんやで俺も16歳になった。二つ年上の学園生たち、俺の腹違いの1番上、つまり第一王子と同じ年齢の子息令嬢たちが、学園を卒業することになった。
卒業式の後、学園主催の卒業記念パーティーがあり、卒業生と在校生たちの最後の交流会として参加した。
俺も一応参加した。第一王子を祝いたくなんぞなかったけど、それ以外の一部の人にはお世話になったし、一応な。
俺が所属していた読書クラブの先輩たちと仲良く談笑していた時に、その事件は起こったのだった。
「グランデル・ウェンズ・フィア・セントリアの名において、リュネル・ハイド侯爵令嬢! 貴様との婚約を破棄し、マリエル・グリムゾル男爵令嬢と婚約をすることをここに宣言する!」
会場のど真ん中、大声で宣言したのはうちのバk、げふん、カバ野郎である第一王子、グランデルだった。一応、一応、、俺の腹違いの兄だ……兄なんぞ言いたくないがな……
「バカでも、クソ野郎でもなくて、ただのアホだったか……あーあ、今日の王宮は荒れるな……」
離宮(各離宮に1人の妃に与えられ、妃と妃の生んだ王子が住む場所)とは別にある王宮本殿、王の執務室や応接室、玉座など、内政をする場所となっている場所が、ずっと騒がしいだろう。絶えず人の足音が鳴っているんだろうと現実逃避していると、読書クラブの先輩が慌てた声をだした。
「いやいや、オズワルド殿下! そんななんでもないみたいに言わないでくださいよ!」
「いや、だって、事実なんですもん。」
「もんじゃないでしょ?! ど、どうするの?!」
こうしてる間にも、バカ兄が婚約者であるリュネル嬢と婚約破棄をする理由を声高らかに奏上していった。なんでも、バカ兄の寵愛を一心に受けているマリエル・グリムゾル男爵令嬢に嫉妬して、いじめをしたとか。暴力、暴言、脅迫、階段からの突き落とし、私物破壊、ひどいものでは悪漢に襲わせたとか、いろいろと……
でも、リュネル嬢がそんなことしてるわけないんだよなぁ……
だって、アホ兄の言ってる「嫉妬に駆られて」っていう動機自体、ないんだもんなぁ。
「はぁ……仕方ねぇ……仕事しますかね。」
「え、仕事??」