クズは学校へ 第10話
「ここは、……………風呂?」
黒水は奏に「特訓よお!」って言われてから、シモンに強制的に目隠しと手錠をさせられた。
そんな恰好で巨体のムキムキ男に連行させられている時点でもう最悪なことなのだが、これからもっと最悪な、地獄の特訓が待っているのだろうと黒水は予期していた。
「おい!どこに連れて行くんだよっ!」
「……………」
「無言が一番怖いって!」
そんなこんなで黒水が連れていかれたのは――。
――バッシャン!!
「――ちょ、おい!なにすんだよっ!」
黒水は温水のなかへと投げ込まれた。
手錠と目隠しのせいで溺れかけたが、そこまで深くはなく何とか生還した。
「ステイヒア!」
「おい!日本語しゃべれ筋肉ダルマ!」
その言葉もむなしく、シモンの足音が遠ざかっていくのがわかる。
どうしたものかと考えていたが、黒水は自分がテリスを着たままであることに気付く。
「おい、テリス!」
『……………』
「水に浸かると壊れちゃうのかよ……。ほんとオレンジ色はつかえねーな」
『水に浸かって壊れるほど、テリスはやわなものではございません。五味黒水こそこの世界にとって使えない人間に該当すると存じますが』
「そんな早口で反論するなら一発で返事してくれよ……」
AIが顔真っ赤にして捲し立てていると思うと滑稽である。
「そんなことより俺がいる場所、わかるか?」
『五味黒水の位置情報を確認します……。現在地は東京地下第四高等学校<校内超監視牢獄>に配備された大浴場になります』
「やっぱり風呂だったか……。牢屋にこんな広い風呂があるとは……」
目隠ししていても何となくわかる。
足を広げても何かにぶつかる感覚が一切ないのだ。
「そういえばこの世界に来て一回も風呂入ってなかったな……。テリス着たままだけど、案外気持ちいいもんだ」
黒水の声が反響した。
ところで、特訓とは一体何なんだろう……。
てっきりシモンと地獄のスパーリングでもするのかと思っていたが……。
と、そのとき――――。
ガラガラガラッ――
奥で引き戸が開く音が聞こえてきた。
「あれ?黒水様じゃないですか?特訓はどうしたんですか?」
聞きなじみのある声――。
亜紀の声だった。
黒水の背中から冷汗がブワッと出てくる。
「いやっ!これはその……」
「――ああ、なんとなく察しがつきました。ここに連れてこられたんですね」
「物分かりがよくて助かるよ……」
風呂に入ろうとしたら目隠しをした男がいたにもかかわらず、亜紀はとても冷静な対応を取っていた。
「じゃあ、お隣失礼しまーす」
「――えっ、入るの!?」
「そりゃあたし、お風呂に入りに来たんですから」
「そ、そうか……」
チャポンと水の音が鳴り、波動が黒水の体に伝わってくる。
右隣に亜紀が座ったことがなんとなくわかった。
亜紀に聞こえてしまいそうなほど、黒水の心臓が高鳴っていた。
数多とプレイしてきたエロゲにもこんなシチュエーションはなかったぞ……!?
「もしかしてなんだけどさ、亜紀っていま裸?」
「当たり前じゃないですかあ!逆になんで黒水様はテリス着てるんですかって感じです!あっ、でも最新バージョンのテリスなら着たままでも体を洗うことができるそうですよ!どういう仕組みなんですかね!」
「へ、へえ!そうなんだあ!」
「…………‥」
「……………」
――沈黙。
牢獄ではフランクに話すことができたのに、こんな状況じゃ話す内容も浮かんでこない。
黒水の目元に巻かれた布一枚の先に、裸の女子がいるのだから――。
――でもこの状況を受け入れてないか、この女。もしかしたらいけるかもしれない……。
黒水は意を決して口を開いた。
「俺、昨日はめちゃくちゃお前のケツもんだけどさ……」
「はい」
「実はおっぱい派なんだ」
「知ってます」
「えっ……」
「だって黒水様の目線がしょっちゅうあたしの胸にいってましたもん。女の子はそういうのに敏感なんですよ?」
「なにそれエロい……」
黒水の興奮が最高潮に達した。
――もう我慢の限界だっ!
「亜紀っ!」
「はいっ!」
「おっぱい揉ませてくれっ!」
「ストレートなクズ発言っ!大好物ですっ!」
そう言って亜紀は、手錠のついた黒水の腕を持ち上げた。
「ほんとうにいいのか……」
「はい。めちゃめちゃにしてください……」
亜紀の熱気が柔らかい手から伝わってくる――。
亜紀の吐息が黒水の髪を揺らす――。
黒水と亜紀、二人だけの空間――。
――お父さん、お母さん。俺、大人になってくるよ……
心の中でそう唱えたあと、黒水が手を伸ばした瞬間――
「なんでロミロミがここにいるんじゃあああああああああああああああああああ!!!!」
黒水の指に柔らかい感触が伝わることはなく――。
ただ、顔を強い力で押しのけられる感覚が伝わってきた。
黒水は後ろから倒れ、後頭部を強打した。
斧研のドロップキックが炸裂したのである。
「いまは女風呂の時間だぞ!まったく、何考えてんだよこのクズ童貞が!」
その言葉は黒水の耳には届かなかった。
斧研のキックの勢いで目隠しがとれたが、黒水の眼前に広がったのは女子風呂のユートピアではなく、暗い水の中――。
――あともうちょっとだったのにぃ……。
寂寥感を抱きながら、黒水の意識は途絶えるのだった。




