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占い師の女

作者: らすく
掲載日:2023/03/09

 今日も相変わらず、つまらない。

 俺は使い古したジーンズを履き、自分なりにコーディネートしたシャツを着た。

 まあ慌てることはない。

 俺は時間に追われることはないのだ。

 最近はご無沙汰の煙草を咥えた。

 今はそんな気分なのだ。

 しかし・・・・。

 ===== ゴホッ ゴホッ =====

 情けないことだ。

 俺は煙草に、むせてしまったのだ。

 本当にどうしたんだろうか。

 学生時代から馴染んでいた喫煙習慣なのに。

 今は休めという事なのか。

 俺は咳き込みながら仕方なく灰皿で煙草を処理したのだった。

 まあいい、これも長い人生の一部だ。

 そう自分自身に無理やりな理由をつけ納得させた。

 「ふう。」

 俺はソファーに深く腰を掛け直し、朝刊を眺めた。

 (ふむふむ。)

 様々な情報が自分の視覚を経由して、脳内に送り込まれる・・・・・はずなのだが。

 (・・・・。)

 「はあっ。」

 俺は机に朝刊を放り置いた。

 もう耐えがたいのだ。

 最近はめっきり集中力がなくなった。

 活字を読むにも、体力を要すると感じるようになっていた。

 つまり言い換えれば、苦痛なのである。

 自分自身に呆れて、ソファに寝っ転がったのだった。

 そして眠りに就く訳でもなく、天井を眺めているのだった。

 

 ~~~~~ ピンポーン ~~~~~

 「あっ。」

 (面倒臭えな。)

 チャイムの合図で、ズルズルと俺はソファから床に落ちてから、ゆっくりと立ち上がった。

 急がないのは何の要件なのか、察しがついているからなのだ。

 ~~~~~ ガチャ ~~~~~

 玄関を開けると、そこには誰もいなかった。

 そして見下ろすと弁当の大きさのものが置いてあった。

 と言うか、これは弁当なのだ。

 俺は毎日、三食の食事は宅配弁当で済ませている。

 これは自分にとっての、いわゆるライフラインなのだ。

 買い物も調理も、一人暮らしの自分に取っては面倒なのだ。

 本当に何もしたくない。

 自分には身寄りはいない、死別してしまったのだ。

 したがって、誰かのために生きるという理由もない。

 俺は無職だ。

 そして、これといった趣味も無い。

 ここ最近は全く外出もしていない。

 「ふう。」

 思わずため息が出た。

 それは無理もないのである。

 毎日同じ繰り返しなのだから。

 もはや曜日の感覚はおろか、月の感覚すら無くなってきている。

 

 俺は何気に本棚に手を伸ばした。

 手にしたものは、少々重かった。

 それは一つ一つ分厚いページで構成されていた。

 まあ高校の卒業アルバムなのである。

 そしてオレの目に留まった。

 彼女は俺を見つめている錯覚に襲われる。

 まさしく彼女は俺の初恋の人。

 成就しなかったものの、この頃の俺は充実した日々を過ごしていた。

 あまりに素晴らし過ぎたのだ。

 そのせいなのか、未だに俺は独身、結婚の経験はない。

 まあ自分の人生は自分自身の責任・・・・、別の他人の責任ではない。

 そう自分に言い聞かせて、俺は卒業アルバムを閉じた。

 切っ掛けとは、このことを言うのであろうか。

 俺は玄関でスニーカーを履き、ドアを開けた。

 改めてみると、空が眩しい。


 いつからだったのだろうか。

 俺が最後に外出したのは・・・。

 久々の徒歩で、すぐに俺は疲れた。

 運よく近くにベンチがあり、俺はそこに座り込んだ。

 「ふう。」

 やはり運動不足は、いけない事だと思う。

 間もなく呼吸は整い、俺は周囲を見回し始めた、

 ここは近所の公園ではないか。

 丁度良い事に、近くに飲料の自動販売機がみえた。

 久々の徒歩で喉が渇いていた俺は迷わずに、その自販機でスポーツ飲料を購入した。

 キャップをもぎ取るように外し、ペットボトルにしゃぶりついた。

 (う、美味い・・・。)

 こんなにスポーツ飲料が美味しかったことは、今までなかったのではなかろうか。

 感動もよろしく、もう一つ自分は周囲に何かを発見したのであった。


 (あれは・・・?)

 それは何かの屋台か販売所なのかと思ったのだが、違ったのである。

 そこには若い女が、恐らく自前の机と椅子を設置し座っていた。

 何かを販売している風でもない。

 そしてその女は、少々怪しげな雰囲気を醸し出していた。

 黒いトンガリ帽子、何気に露出の多い黒いスリットスカート・・・・、おまけに胸元も怪しく開いている。

 こんなふしだらな格好で公衆の面前に姿を現すなど、全くけしからん人間だ。

 憤りで血圧と脈拍が急上昇をするのを、自分自身で感じた。

 そう言いつつ気が付くと俺は、その女の前で立っていた。

 本能とは誠に恐ろしいものである。


 「こんにちは。」

 女は薄笑いを浮かべながら、俺に挨拶の言葉を投げかけてきた。

 意外だった。

 俺のような男にこんな態度を示してくるとは・・・。

 下心があるかと言えば、否定はできない。

 それが男の性ではなかろうか。

 そんなことを考えたりもしたが、期待はし過ぎるものではない。

 「あ。」

 女は急に、少しだけ驚いた顔をしていた。

 (な、なんなんだ・・・?)

 流石に俺は、この女の顔を見つめた。

 「んん・・・。」

 彼女は静かに唸っていた。

 (一体、なんなんだ・・・?)

 そして次の瞬間、女は言った。

 「貴方、死相が出ているわ。

 それも、そう遠くない未来に・・・。」

 「な、なな・・・。」

 何という失礼な女なのだ。

 俺が死ぬだと・・・、俺は今まで特に大きな病気も怪我もしていない。

 健康体そのものの人間なのだ。

 まさか、事故死するとでもいうのか。

 ・・・・・とにかく。

 「不愉快な!」

 当然、俺は女に対して怒りを露わにしたのだった。

 いくら露出度の高い恰好をしていても、こんな女は非常に不愉快である・・・・!

 「ちっ!!」

 公園内で、周りの目もあるため、もう俺は場を離れることにした。

 「あ、お代は結構だから。」

 「当たり前だ!!」

 捨て台詞をはいた俺は、速やかに占い師らしき女から去った。

 「まったく・・・。」

 俺はブツブツ言いながら道を歩いた。

 ひょっとして交通事故にでもあうかも、と思い周囲には気を付けた。

 しかし特に問題もなく、帰宅は叶った。

 「はあ・・・。」

 夕方風呂に入り、俺は先ほどの占い師の女の肢体を思い出していた。

 幸せとは、こんな些細なものなのかも知れない。

 この日は宅配弁当を食べた後に、帰り道のコンビニで買った「焼き鳥」と「缶酎ハイ」を楽しんで寝床に就いた。

 特に夢を見ることなく、グッスリと眠った。


 ~~~~~ その日から半年後 ~~~~~

 俺は一人で布団の中にいた。

 そしてオレは悟っていた。

 半年前の占い師の女の言っていたことが、当たっていたのを・・・・。

 俺は目をつむり、永遠の眠りに就くことにした。

 事故死でも病死でもない、安らかな死だ・・・。

 俺の人生は終了した。



 享年95歳

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― 新着の感想 ―
[良い点] 享年に突っ込まずにはいられない。 [気になる点] もうちょっと、ところどころに年齢を仄めかす描写や要素は入れていてもよかったのではないかと思う。 [一言] オチまで見てから読み返すと、色々…
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