占い師の女
今日も相変わらず、つまらない。
俺は使い古したジーンズを履き、自分なりにコーディネートしたシャツを着た。
まあ慌てることはない。
俺は時間に追われることはないのだ。
最近はご無沙汰の煙草を咥えた。
今はそんな気分なのだ。
しかし・・・・。
===== ゴホッ ゴホッ =====
情けないことだ。
俺は煙草に、むせてしまったのだ。
本当にどうしたんだろうか。
学生時代から馴染んでいた喫煙習慣なのに。
今は休めという事なのか。
俺は咳き込みながら仕方なく灰皿で煙草を処理したのだった。
まあいい、これも長い人生の一部だ。
そう自分自身に無理やりな理由をつけ納得させた。
「ふう。」
俺はソファーに深く腰を掛け直し、朝刊を眺めた。
(ふむふむ。)
様々な情報が自分の視覚を経由して、脳内に送り込まれる・・・・・はずなのだが。
(・・・・。)
「はあっ。」
俺は机に朝刊を放り置いた。
もう耐えがたいのだ。
最近はめっきり集中力がなくなった。
活字を読むにも、体力を要すると感じるようになっていた。
つまり言い換えれば、苦痛なのである。
自分自身に呆れて、ソファに寝っ転がったのだった。
そして眠りに就く訳でもなく、天井を眺めているのだった。
~~~~~ ピンポーン ~~~~~
「あっ。」
(面倒臭えな。)
チャイムの合図で、ズルズルと俺はソファから床に落ちてから、ゆっくりと立ち上がった。
急がないのは何の要件なのか、察しがついているからなのだ。
~~~~~ ガチャ ~~~~~
玄関を開けると、そこには誰もいなかった。
そして見下ろすと弁当の大きさのものが置いてあった。
と言うか、これは弁当なのだ。
俺は毎日、三食の食事は宅配弁当で済ませている。
これは自分にとっての、いわゆるライフラインなのだ。
買い物も調理も、一人暮らしの自分に取っては面倒なのだ。
本当に何もしたくない。
自分には身寄りはいない、死別してしまったのだ。
したがって、誰かのために生きるという理由もない。
俺は無職だ。
そして、これといった趣味も無い。
ここ最近は全く外出もしていない。
「ふう。」
思わずため息が出た。
それは無理もないのである。
毎日同じ繰り返しなのだから。
もはや曜日の感覚はおろか、月の感覚すら無くなってきている。
俺は何気に本棚に手を伸ばした。
手にしたものは、少々重かった。
それは一つ一つ分厚いページで構成されていた。
まあ高校の卒業アルバムなのである。
そしてオレの目に留まった。
彼女は俺を見つめている錯覚に襲われる。
まさしく彼女は俺の初恋の人。
成就しなかったものの、この頃の俺は充実した日々を過ごしていた。
あまりに素晴らし過ぎたのだ。
そのせいなのか、未だに俺は独身、結婚の経験はない。
まあ自分の人生は自分自身の責任・・・・、別の他人の責任ではない。
そう自分に言い聞かせて、俺は卒業アルバムを閉じた。
切っ掛けとは、このことを言うのであろうか。
俺は玄関でスニーカーを履き、ドアを開けた。
改めてみると、空が眩しい。
いつからだったのだろうか。
俺が最後に外出したのは・・・。
久々の徒歩で、すぐに俺は疲れた。
運よく近くにベンチがあり、俺はそこに座り込んだ。
「ふう。」
やはり運動不足は、いけない事だと思う。
間もなく呼吸は整い、俺は周囲を見回し始めた、
ここは近所の公園ではないか。
丁度良い事に、近くに飲料の自動販売機がみえた。
久々の徒歩で喉が渇いていた俺は迷わずに、その自販機でスポーツ飲料を購入した。
キャップをもぎ取るように外し、ペットボトルにしゃぶりついた。
(う、美味い・・・。)
こんなにスポーツ飲料が美味しかったことは、今までなかったのではなかろうか。
感動もよろしく、もう一つ自分は周囲に何かを発見したのであった。
(あれは・・・?)
それは何かの屋台か販売所なのかと思ったのだが、違ったのである。
そこには若い女が、恐らく自前の机と椅子を設置し座っていた。
何かを販売している風でもない。
そしてその女は、少々怪しげな雰囲気を醸し出していた。
黒いトンガリ帽子、何気に露出の多い黒いスリットスカート・・・・、おまけに胸元も怪しく開いている。
こんなふしだらな格好で公衆の面前に姿を現すなど、全くけしからん人間だ。
憤りで血圧と脈拍が急上昇をするのを、自分自身で感じた。
そう言いつつ気が付くと俺は、その女の前で立っていた。
本能とは誠に恐ろしいものである。
「こんにちは。」
女は薄笑いを浮かべながら、俺に挨拶の言葉を投げかけてきた。
意外だった。
俺のような男にこんな態度を示してくるとは・・・。
下心があるかと言えば、否定はできない。
それが男の性ではなかろうか。
そんなことを考えたりもしたが、期待はし過ぎるものではない。
「あ。」
女は急に、少しだけ驚いた顔をしていた。
(な、なんなんだ・・・?)
流石に俺は、この女の顔を見つめた。
「んん・・・。」
彼女は静かに唸っていた。
(一体、なんなんだ・・・?)
そして次の瞬間、女は言った。
「貴方、死相が出ているわ。
それも、そう遠くない未来に・・・。」
「な、なな・・・。」
何という失礼な女なのだ。
俺が死ぬだと・・・、俺は今まで特に大きな病気も怪我もしていない。
健康体そのものの人間なのだ。
まさか、事故死するとでもいうのか。
・・・・・とにかく。
「不愉快な!」
当然、俺は女に対して怒りを露わにしたのだった。
いくら露出度の高い恰好をしていても、こんな女は非常に不愉快である・・・・!
「ちっ!!」
公園内で、周りの目もあるため、もう俺は場を離れることにした。
「あ、お代は結構だから。」
「当たり前だ!!」
捨て台詞をはいた俺は、速やかに占い師らしき女から去った。
「まったく・・・。」
俺はブツブツ言いながら道を歩いた。
ひょっとして交通事故にでもあうかも、と思い周囲には気を付けた。
しかし特に問題もなく、帰宅は叶った。
「はあ・・・。」
夕方風呂に入り、俺は先ほどの占い師の女の肢体を思い出していた。
幸せとは、こんな些細なものなのかも知れない。
この日は宅配弁当を食べた後に、帰り道のコンビニで買った「焼き鳥」と「缶酎ハイ」を楽しんで寝床に就いた。
特に夢を見ることなく、グッスリと眠った。
~~~~~ その日から半年後 ~~~~~
俺は一人で布団の中にいた。
そしてオレは悟っていた。
半年前の占い師の女の言っていたことが、当たっていたのを・・・・。
俺は目をつむり、永遠の眠りに就くことにした。
事故死でも病死でもない、安らかな死だ・・・。
俺の人生は終了した。
享年95歳




