4. 幼なじみ
「あの…シャンパン、どこでもらえますか?」
「あ、良かったら僕が取ってきますよ」
「どうぞ」
新しいシャンパンのグラスをセンセイに渡した。
「ありがとうございます」
ニコッと笑って、センセイは俺の手からグラスを受け取ると一気にグラスを傾けた。
おいおい、一気飲みかよ…。
「もう1杯、持ってきましょうか?」
「あ…いえ…もう大丈夫」
パタパタと手で顔を扇いで、落ち着かない様子でセンセイは言った。
「実はこれから、友人の結婚式でスピーチをするんですけど、もう朝から緊張しっぱなしで…。でも、シャンパン飲んだら落ち着きました」
「そうですか、良かった」
「ありがとうございました。それじゃ」
友人の結婚式でスピーチ…。
もしかして、結奈ちゃんの幼なじみって…センセイなのか!?
「あ、あの! もしかしてスピーチって、結奈ちゃんの…」
「あ、そうなんです。結奈のお知り合いの方ですか?」
「あ、いえ、僕は新郎の…大樹のスピーチをすることになっていて…」
「そうなんですね、松島さんのお友達の方でしたか」
「あ、いや、僕は友達ではなくて…」
「?」
「大樹のマネージャーなんです」
「え? マネージャーさんがスピーチされるんですか!?」
「もう10年の付き合いなので、やって欲しいって頼まれて」
「そうだったんですか。頼まれたら、断れないですよねー」
ふふふ、とセンセイは笑った。
「私、青山 みな です。どうぞよろしく」
「あ、山下 和也です。こちらこそ」
「山下さん…。初めまして、じゃないですよね。少し前に、本屋さんの前で…」
覚えてたのか…あんな一瞬のこと。
俺はあの後、本屋の中で店員とのやりとりを見ていたけれど、センセイが俺を見たのは、拾った紙を渡した、あの一瞬くらいだったのに。
俺が頷くと、
「やっぱりそうですよね! 背が高いなぁって印象に残ってました」
そこからは、何を話したのかあまり覚えていなくて、ニコニコ笑って話すセンセイの顔を、しばらく見ていた気がする。
微笑んだ時にできる、えくぼがかわいい…。