3. 黄色のドレス
やばい…。やろうやろうと思っているうちに、あっという間に明日が結婚式だ。
このところ大樹の取材が立て込んで、雑誌社との調整や編集後のチェックに時間を取られて、スピーチ原稿に手がつかなかった。
「あー、もうどうしようスピーチ!! 誰かー!」
「アハハ、誰もいないぞカズ」
「社長! 助けてくださいよー。社長はもう原稿できたんですか?」
「当たり前だろ、おまえと一緒にすんなよ。彼女に考えてもらえよ」
「いないの知ってて言わないでくださいよ!」
「ほら、もうオフィス閉めるぞ。続きは家で考えろ」
なんとか原稿を整えて、当日の朝を迎えた。
「いい天気だなー、さすがあのふたりの結婚式だよ」
ベランダから空を見上げて、ぼんやりと雲を眺めた。
「カズさん!」
タキシード姿の大樹。そして、隣にはウェディングドレス姿の結奈ちゃん。
「うわーっ、本当に綺麗だね! 大樹、結奈ちゃん、おめでとうございます」
「和也さん、ありがとうございます!」
「カズさん、ありがとう! ここまでこれたのも、本当にカズさんのおかげです」
「なんだよー大樹、泣いちゃうだろー」
『スピーチご担当の方、事前打ち合わせを行いますのでこちらへどうぞ』
式場のスタッフに倣って、流れを確認する。
そういえば、結奈ちゃんの幼なじみはまだ来ていないようだった。
開始までまだ時間があったから、外の風にあたろうと会場の外に出た。ウェルカムドリンクが配られていて、俺もシャンパンのグラスを取ってひと口流し込んだ。
ふわっ。
目の前で、黄色いドレスの裾が風に舞った。
目を奪われて顔を上げると、肩まで伸びた茶色の髪がサラサラと風に揺れていた。
ハイヒールの足元を気にする女性の横顔を見た瞬間、急に時間の流れがスローダウンした。
…本屋で見た、作家センセイ?
ドレスの女性は俺の視線に気付いて、一瞬おどろいたような顔をした後に、ふわりと微笑んだ。
どうして、あのセンセイがここに!?