2. 結婚
「カズさん、来週の結婚式、スピーチよろしくお願いします!」
「あー、はいはい」
わかってるよ…と、手をヒラヒラさせて答えた。はー、まだノーアイディア。間に合うかな…。
来週、俺がマネージャーをしているタレントが結婚式をあげる。なぜか、俺が友人代表のスピーチをすることになった。
「大樹、おまえ友達いないの?」
「カズさーん、そんな寂しい子みたいに言わないでくださいよ〜。俺のこと、一番理解してくれてるのカズさんじゃないですか。他に適任いないですって!」
「まぁいいけどさー。結奈ちゃんどうするって?」
「結奈は幼なじみに頼むって言ってました」
山下 和也、39歳。芸能事務所に勤めていて、担当のタレントが、松島 大樹。大樹を担当して、もう10年になる。この10年、いろんなことがあったけれど、来週、加納 結奈さんという女性と結婚することになった。
「いいなー、結婚。結奈ちゃん、めっちゃいい子だしなー」
「カズさん、誰かいい人いないんですか?」
「いない! 残念ながらいない! あー」
「カズ、うるさいぞ。騒ぐな騒ぐな」
「もー、社長まで! 誰か紹介してくださいよ」
アハハと笑った後に社長が言った。
「いまの大樹があるのはカズのおかげだ。本当に良くやってくれたと思ってる。いつも大樹を優先してくれて、結婚どころじゃなかったよな」
今度はおまえの番だな!と、俺の肩をバシッと叩いた。
俺の番て言われてもな…。思わず苦笑した。
「カズさん、結婚するならどんな人がいいですか?」
大樹に言われて、改めて考えてみた。若い頃は、あれもこれもと条件があったような気がするけど、いまはどうだろう。
「そうだなー、空みたいな人がいいなぁ」
「空…ですか?」
「そう。どこにいても、どんなに離れていても、見上げたら、ずっとそばにいるって思わせてくれるような人…かな」