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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
井谷戦争
92/107

2-17『茨の道を征け』

「日渡国は、渡海自治領と井谷国間に結ばれし個別同盟を、井谷国と日渡国の2カ国間正式同盟に改め、ここに日井にちい同盟の締結を宣言する」


 神紀5000年、夏至後50日。


 日渡萌加は井谷俣治と会談し、今まで渡海自治領と井谷国の間にあった“井谷-渡海個別同盟”を強化し、武豊自治領を含む日渡国全域に井谷の軍事力が影響を及ぼせるような“日井同盟”を締結した。


 この内容は以下の通りである。


ーーーーーーーーーー

【相互支援条項】

 どちらか一方が他国と交戦した際、互いに必要な支援を早急に為す事


【一方向支援条項】

井谷国が日渡国に負う義務

 日渡国で有事が発生し折、その国域に速やかに井谷軍を派兵せしめる事

日渡国が井谷国に負う義務

 井谷国に於ける治水や山地開発などの大規模土木に必要な作業員や物資を随時送らしめる事


【その他】

 両国の神治に関与する永神種及び下野始神種がそれぞれ必要に応じて相手方に要請した際、正当な理由なくそれを断ってはならない事

ーーーーーーーーーー


 これは、言ってしまえば井谷と日渡の軍事同盟であったが、この同盟には「日渡が戦争に陥った際は井谷が軍を派兵する義務があるが、井谷が戦争に陥った際に日渡が軍を派兵する義務はない」とされているため、完全な軍事同盟とは言い難いものになっていた。


 その理由は、井海同盟の延長線上に交わされたものであるからだといえる。そもそも原型の井海同盟が集団的自衛の形を取っていなかったため、今回国家単位で交わされた同盟もそれを引き継いだということである。


 しかし、日渡がこの同盟を締結したことによって、井谷と靜が戦争をする場合に戦火が連邦西部に拡大する可能性が非常に高くなった。


 有事の際、日渡が井谷の支援をすれば、その補給路を断つべく靜や濱竹が日渡を攻撃する可能性もゼロではない。


 また靜が直接出向くことはせず、西部諸国に命令を下して日渡を攻撃するように言うかもしれない。そうなれば西部は、西部諸国の中で潰し合いをしなくてはならなくなるのだ。


 そんな危険な可能性を孕んだ同盟である。


 だからこそ、西部諸国はこの同盟締結を批判した。


 まず最初に日渡国磐田神社を訪れたのは、崖川あさひだった。


「萌加! どういうつもり? あんな同盟結んだら西部は混乱、最悪の場合火の海よ!」


 あさひはそう怒るが、萌加は「靜が戦争を回避すればいいだけじゃん」と言い返した。


 あさひは以降も萌加に様々文句を言ったが、萌加は「だから、この同盟が効力を発揮しない状態を保てればいいんだよ」と言い続けた。


 あさひは埒が明かないと判断して日渡を去った。


 入れ違いで来たのは周知小國だった。


「ちょっと萌加ちゃん、何してんの? あの同盟は危険すぎるよ。西部にとって何にも利がない」


「そうかな? でもそうしないと、西部も靜の傀儡になっちゃうよ。どっちの方が利がないと思う?」


 萌加の反論を聞いて、小國は腹を立てた。


「当然靜に歯向かう方が利がないよ!」


 そう怒って、彼は日渡を去った。


 次に来たのは袋石夜鳥だった。


「何してくれてんの、萌加」


 それに対して、萌加は何食わぬ顔で答えた。


「国を守っているんだよ」


 対して夜鳥は「おかげでこっちは国が潰れるかもしれないんだよ……」と呆れる。


「そんなの、靜が井谷と戦争しなければいいだけじゃん」


 萌加は夜鳥にもそう返した。


 夜鳥は困った顔をして、「それ靜が聞いたら怒ると思うよ……」と呟いた。


 萌加は、西部諸国以外にも非難をしてきた全ての国家に対し「靜と井谷が戦争をしなければ済む話だ」と返し続けた。


 要は、対立の前に対話であると、そう示したのだ。靜と井谷が戦争を回避する姿勢を取れば、自ずとこの同盟は意味を為さなくなる。連邦諸国が、近いうちに戦争が起こるだろうと諦めてしまっていることが問題ではないかと、萌加はそう訴えた。


 戦争を回避する行動を取れ。


 それでも万が一戦争になった場合は、自分たちが最大の利益を得られるように、しかし自分たちが生き残れるように立ち回らなければならない。


 日渡萌加は、自国の神治首脳部にそう言って指示を出した。




ーーーーー

ーーー




 正直、わたしは戦争が嫌いだ。


 初めて国家間戦争を指揮した渡海事変で、敵を殲滅しながら進撃をする正攻法はわたしに向いていないと実感した。


 あれで気を病んで、国家運営を一時的に明に任せることにもなったし、その後も渡海をわたしの手でまとめ上げることはできなかった。


 どうやらわたしは、敵を全滅させないと気が済まないたちらしい。


 程よく切り上げられないらしい。


 そしてまた、割り切れないらしい。


 靜に拾われる以前はどうやって生きてきたのだろうか。どんな風に国を運営していたのだろうか。それら一切の情報がないから、わたしはわたしという者を永遠に理解できていない。


 ただ、真正面から戦う戦争を始めると、敵を全滅させるまで満足できないことは理解した。


 そんな闘い方は、やはり向かないんだ。少なくとも、連邦という国家の集合体の中で行なってはならない闘い方だ。


 それなら、わたしはわたしにできる闘い方をしてみることにした。


 まず、靜に付くか、井谷に付くか。


 わたしとしては靜に付いておくべきだと思った。でも明や大智たちと話し合ってみると、靜には付きたくない、井谷の味方をしたいという意見が多く挙がったから、日渡国としては井谷に付くことにした。


 下手に靜に付いて、渡海だけが井谷に付いている状態が生じると、靜から渡海を滅ぼすように命令されそうだし。いま日渡で内戦を起こせば、ここまでの改革が全て水の泡になる。それだけは避けなければならない。


 次に、井谷に付くなら生き残る道を確保しなければならない。


 そこで使ったのが、井谷には軍を派遣せずに、井谷から軍をもらうという、明が取っていた戦略をそのまま活用するというものだ。


 これで、万が一日渡に他国が戦争を仕掛けてきても、井谷軍が守ってくれることになる。


 また、濱竹議会の最高権限はわたしたちが持っているから、有事の際は濱竹軍も使うことができる。


 実質的に、日渡の背後に井谷と濱竹という超大国を二つ付けておくことに成功した。


 しかし、望ましいのは連邦内で戦争が起きないことだ。だから非難されたら「靜が戦争を回避すればいいんだ」と、責任を靜になすりつけることにした。


 濱竹日報からの取材にもわざわざ応じて「国を守るために、濱竹、井谷と協力しながら、靜に平和的解決に至るよう判断を委ねる」と圧力をかけておいた。


 その結果かどうか分からないが、戦争が起きれば戦火が西部にまで拡大する可能性が格段と上がって、濱竹の参戦までちらついたことにより、連邦の世論は大半が話し合いによる決着を求めるようになった。


 しかし日刊靜だけはわたしたちの行動を非難して未だに戦争を煽っている。つまり、靜の気持ちは変わっていないようだった。


 そうなったら、待っていても仕方がない。


 わたしたちは既に方針を固めていた。戦略はもう立っている。


 今までこんなに靜を困らせるような行動をしたことがないし、しようとも思ったことがないけど、靜に戦争を回避する気がないのなら仕方がない。


 わたしたちは、わたしたちにとって最大の利益を得るために、多少の無茶をしようと決めた。


 それが例え、茨の道であったとしても。




ーーーーー

ーーー




「東岸諸国会議を始める!」


 神紀5000年、夏至後59日。


 世論の優勢がこちらの主張に傾いても靜国が方針を変えないことが分かったため、僕ら日渡国は話し合いによる解決を諦め、靜対井谷の開戦に向けて準備を進めることにした。


 その最初の行動が、東岸諸国会議である。


 明様が招集をかけられ、昇竜川東岸諸国は集まった。


 対靜戦争に向けて、日渡と共に井谷を支援する仲間を集うことが目的である。


 出席した国々は、袋石国、周知国、崖川国、堀之内国、古田崎国、そして僕ら日渡国の6カ国だった。根々川国は井谷との共闘など更々御免だと言って声を掛けても断られた。


 対して、出席された国々も支援に積極的かと言うと、決してそうではない。


「やめておけ、井谷などと組まずに靜に加勢しろ」


 古田崎悠生様がそう仰る。


「そうだよ。せっかく靜から支援を勝ち取ったのに、それを無駄にするつもりかい?」


 堀之内弥凪様も悠生様と同じご意見のようで止められる。


「また対立したら、今度は晒されるかもしれないわ。戦争だもの、何がどうなるか分かったものじゃない」


 崖川あさひ様が深刻な表情で僕らをご覧になった。


「やめておこうよ、今ならまだ戻れる」


 袋石夜鳥様が心配そうにそうお声を発した。


「日渡が井谷に付いて他が靜に付けば、僕らは殺し合うことになる。それは誰も望んでないだろう?」


 周知小國様がそう仰り、力強く集まった神々は頷かれた。


 しかし、萌加様と明様、耐久様はその言葉に決して頷かれず、


「でもそれは、靜が連邦の秩序を守らずに戦争へ走るのが悪い。わたしたちは、ずっと靜に言い続けた。戦争はするな、話し合いで解決しろ。そう訴え続けてきた。それが意味を為さないのなら、わたしは靜に抗議する意味を込めて井谷を応援する」


 萌加様がそう宣言された。


「たかが日渡一国で変わるとは思えんがな。濱竹じゃあるまいし」


 悠生様はそう仰ると、


「もう好きにしろ。俺は関わらない」


 そう言って臣と巫女を率いて退席されてしまった。


「僕も悠生と同意見だね。お暇させてもらうよ」


 弥凪様もそう仰って帰られた。


 残されたのは、崖川、周知、袋石、日渡の4カ国の首脳部だった。


「あのさ、もしかして濱竹を味方に付けることができると確信しているの?」


 夜鳥様が口を開かれた。


 誰もがその発言に集中した。


 日渡は濱竹議会の参画権を有している。またその権限も、議会最上級の上級上神種権限を持っている。


「いいえ。濱竹を味方にできるとは思っていないわ」


 しかし明様はそうお答えになった。


 そう、僕らは濱竹議会を牛耳れるものの、決して濱竹国そのものを牛耳ることはできないのだ。


「安久斗と通じて、あいつの入れ知恵で色々やっているわけではないのね?」


 あさひ様がそう確認なさる。


「ああ。俺たちはただ俺たちが考えた作戦を実行しているだけだ」


 耐久様がそうお返しになった。


「じゃあ、濱竹を味方にできる算段はないわけか」


「そうなるね」


 小國様のお言葉に萌加様がそうお返しになると、夜鳥様、あさひ様、小國様は少し相談なさってから僕らに告げられた。


「だったら、私たちは支持できない。靜とは比較的遠いといっても、濱竹に潰される可能性があるのなら危険しかない。もし濱竹が日渡の味方をするって言うなら話は別だけど、それが想定されていないような言い方だったから乗れない。残念だけど、今回私たちは道をたがえることになりそうだね」


 代表して夜鳥様がそう仰った。


「そっか」


 萌加様はそれだけお言葉を返されると、


「じゃあ、解散だね」


 そう仰って、この会議を終わられた。


 僕らは仲間を得ることはできず、一国で井谷の支援に臨むことになったのだった。




ーーーーー

ーーー




 翌日、夏至後60日。


 濱竹国の浜松神社にて、いつも通り濱竹議会が執り行われようとしていたものの、現状最高権限を有する日渡国の臣、巫女の姿がなかったため、開会が少し遅れていた。


 議場では開議遅延に対する不満が募り出していて、議員の愚痴がちらほらと飛び交い始めていた。


 定刻から遅れること約15分。


「お待ちくださいっ! 議事室には臣様と巫女様のみお通しが叶われますっ!」


 議事室の外で神務局員や警備員が何やら騒ぎ出して、誰かを必死に止めようとしているようだった。


 しかし、そんなことも叶わずに、議事室の扉が開かれた。


 警備隊が取り囲む中、議事室に堂々と入場してきたのは、


「日渡国の神、日渡萌加だ!」


「同じく臣、磐田大智!」


「同じく巫女、豊田花菜!」


「日渡国渡海自治領の領主、兎山明!」


「同じく小臣、東河口竜洋!」


「同じく小巫女、福田湊」


「日渡国武豊自治領の領祖、武豊耐久である!」


「同じく小臣、豊岡壱!」


「同じく小巫女、野辺司」


 日渡国神治首脳部が挙って濱竹議会に入り込み、階段状に広がる議員席の通路を闊歩する。


 警備員がそれを取り押さえようとするが、通路が狭いことと取り囲んでいる者の数が多すぎることが仇となって、上手く足止めできない。


 警備員に混じって濱竹議員も日渡国神治首脳部を取り押さえようとするが、ここで日渡国神治首脳部は全員抜刀し、防衛陣形を作ってその刃を濱竹議員に見せつけた。


 そしてそのまま日渡萌加神が登壇し、議会のマイクを握った。


「日渡萌加である! 聞け、濱竹の議員どもよ」


 この声に、議員は抗議を示した。


「他国の神が議会を仕切るな!」

「濱竹議会だぞ、国に戻れ!」

「議会を返せ!」


 しかしそれに対して萌加は自身の権能を右手に宿らせ、天井に向けて火柱を放った。


 天井に付かないギリギリのところで炎は消えたが、威圧をするには十分すぎる力だった。


「わたしは安久斗ほど優しくない。知っているだろう、わたしが平定のためには虐殺もいとわない、慈悲の欠片もない始神種であることを」


 萌加の言葉に議員の大半が静まり返った。


 それでもまだ野次を飛ばす議員がいたため、花菜の権能の蔦で口を封じて対処した。


「静かになったところで、話をしよう」


 萌加はそう言って、議会を占拠した目的を提示した。


「現在、濱竹議会は我が国の臣と巫女に実質的な権限があり、その時点で既に我が国が濱竹国を統治できる体制が整っている」


「だが濱竹議会は濱竹議会だ!」

「この国のための議会だ! お前らのものじゃない!」

「そうだ!」


 野次が飛ぶ中、「落ち着きなさい」と声を荒げた紳士がいた。


 濱竹神務卿、下池川山樹である。


 山樹は行政総長の二俣ふたまたあおぎと共に演台を見下ろす位置に座っており、今まで口を出さずに議会占拠の様子を見てきた。


 それは相手が議会に関与することが認められている日渡国であったからだ。


 山樹は「神も臣も巫女も不在の中、いま最も逆らってはならない相手は誰か」と問いかけた。


 答えは自ずと出るのだ。


 日渡萌加。彼女は始神種なのだ。


 議会は再び静寂を取り返した。


「この国は現在、神も、臣も、巫女も、直接的に神治に関与していない。そんな中で、他国である我が国の臣と巫女が議会を運営し、その2名に最高権限がある状態だ。それはあまりに歪で脆く、近々訪れるであろう血生臭い混乱に巻き込まれれば容易く転覆しかねない状態といえる」


 萌加はそう言うと、拳を上げて声を大きくして告げた。


「ならばこの日渡萌加が、濱竹国域までも管理し、井谷と靜の混乱に巻き込まれぬよう、安久斗の帰還まで守り抜いてみせよう!」


 そう。萌加は濱竹議会を占拠し、濱竹国そのものを仕切る立場に自身を据えたのだ。


「ついては、それを行えるようにするべく法を作り、日渡萌加神による濱竹国の管理を実現させるべく、これより濱竹議会を開始する!」


「異論は認めない。これは上級上神種の決定によるものである!」


 萌加に続いて大智と花菜が登壇し、彼らはそのまま山樹と梧がいる演壇上部に行くと、定位置(臣席、巫女席)までやって来た。


「起立、礼!」


 大智の掛け声で、濱竹議会が開幕した。


 この日、議会が通した法は、


・議会参画法(改訂)

 →定められた期間内に於いては日渡国神治首脳部全員が議会参画権限を有する事(特例条項)


・緊急特別統治法(新設)

 →神、臣、巫女が長期間不在と成り国家基盤が脆弱となった際は、隣国の日渡がその国域を統治する事を可能とする事


 この二つだった。


 なおこれらは、上級上神種権限によって有無を言わさずに可決させた。


 日渡は、神、臣、巫女が不在の濱竹議会を乗っ取り、その国域を支配下に置いたのだった。


 この行為は、当然ながら連邦全加盟国を驚愕させることとなった。

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― 新着の感想 ―
日井同盟……なんだか日独伊三国同盟を彷彿とさせるような名前ですね。そしてまさかほんとに濱竹を実質乗っ取りしてしまうとは(萌加様もやると決めたらとことんやるからなぁ)、読者目線としても靜別に戦争吹っかけ…
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