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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
井谷戦争
86/107

2-12『日渡武豊連合神治』

 約束の上半暦を迎えた。


 昨日声明を出した際に、銀谷国の兼望様が「靜金通貨100億は銀谷が用意するから、俺に100億1000万払え」と要求してこられ、萌加様がそれを承諾したことで支払額は増したものの当日に膨大な額を輸送する手間は省かれた。


 しかし萌加様は、


「わたしたちが用意する靜金通貨は1000万と500枚あればいいよ」


 と仰り、そのうちの500枚を竜洋に握らせて、直ちに銀谷へ向かうように命令された。


 また僕も、靜通商協労者々に手紙をしたためたため、それを竜洋に持たせた。


 竜洋は早朝、日渡を出発した。


 さて、なぜ竜洋だけが出ていったかというと、僕と花菜と萌加様には仕事があったからである。


 昨日の深夜、武豊国の臣、豊岡とよおかはじめさんが磐田神社に訪れ、会談の申請があった。耐久たえひさ様から「なるべく早いと良い」という話も出ていたため、僕らは今日、磐田神社で武豊国との会談に臨むことになったのだ。


 武豊国からの出席者は、神の武豊耐久様、臣の豊岡壱さん、巫女の野辺のべつかささんである。


 一方僕ら日渡国からは、萌加様と僕と花菜が参加する。


 今回の議題は、日渡の軍事拡大に関してとされている。内容は我々上神種には明かされていないが、神々では既に少し打ち合わせてあるようで、先ほど萌加様から「驚いても、驚きを前面に出さないようにね」と言われた。


 そして会談早々に、耐久様から提案が来た。


「貴国は、今後靜国と対立していくに当たり、軍事面での不安を抱えている。強大な敵を前にして、国の正規軍隊が存在しないのでは話にならないのではないかと我が国は憂いている。南隣の貴国が靜に占領されてしまえば我々とて肩身が狭く、また西部に靜が領地を持てば西部における濱竹の影響力が落ちて二大統率国の均衡が崩れ、連邦全体にとっても好ましくない結果に至るは明白であると考える。よって武豊国は、連邦の均衡を保つべく日渡国を軍事面で支援し、貴国の軍拡を補助することを申し出る。同時に見返りとして、兼ねてより我が国に不足していた統治能力を求め、現状日渡国を急成長させている日渡式分散神治制に武豊国も加わることを望む」


 これに対し、僕と花菜は顔を見合わせた。驚きを前面に出すなと言われていたため、声を上げることはなかったが、お互いに目を見開いて「どういうことだ」と思っていた。


 向かい側に座る壱さんや司さんが平然としていることから、おそらく武豊国は神、臣、巫女で打ち合わせていたのだろうと察する。


 というか、これだけ大きな話を打ち合わせて来ない方がおかしいのだ。


「つまりは、軍事の全面を武豊が担ってくれる代わりに、分散神治の中に武豊を加えて武豊の国域まで日渡の国政で統治するってこと。まぁ事実上の合併だね」


 萌加様は僕と花菜にそう言うと、


「わたしはこれ、すっごく有難いと思っているの。だからごめんね、臣と巫女の意見は聞かないで独断で決めたんだけど、提案を受け入れることにしたよ」


 と仰った。


「僕は異論ありません」


「私もないです」


 僕と花菜は萌加様にそう言った。萌加様はそれに微笑まれると「ありがとう」と返され、今度は武豊国の面々の方を向いて返答された。


「日渡国は、武豊国からの提案を受け入れ、日渡国の国防及び拡張軍事力を武豊国に委任するものとする。同時に、日渡国の国政で武豊国域まで統治することを認め、武豊上神種の日渡国政への参画を求める。また、日渡議会にて議題として取り上げる範囲を武豊国域にまで拡張し、武豊国の統治区を日渡国同様にゆくゆく廃止し、それまでは統治区長の日渡議会参入を義務化する。しかし、武豊国はひとつの国であり、その国域は日渡萌加神の加護のもとに在らず、ただ武豊耐久神の加護のみが及ぶものとする。その国域における実権は武豊耐久神にあり、日渡萌加神及びそれに従う下野始神種並びに上神種は、武豊国域における武豊耐久神及びそれに従う下野始神種並びに上神種の決定を覆してはならないものとする」


 萌加様の言葉に、耐久様は「全て承認する」と返されると、握手を求めた。


 その手を萌加様が取って、日渡国と武豊国の間で約定が交わされた。




ーーーーー

ーーー




 日渡国と武豊国の約定は、その日のうちに靜連邦全加盟国に通達され、誰が言い出したか、それは“日渡武豊連合神治”と呼ばれることになった。


 しかし、当然それは各国の批判の対象となる。何しろ、その目的は「日渡が靜と対立するに当たって本格的に軍拡をすること」にあり、その第一歩として武豊国を実質的に吸収したという状態になったからだ。


 特に厳しく非難したのは靜とその周辺国家、いわゆる中部諸国である。


「統率国の許可を取らず、2カ国間において連邦の安寧を左右するような重大な取り決めを行い、周辺国家に対して不安を煽るような政策方針を掲げた日渡国は、自身の行いし決断が如何に連邦に対し不利益であるか省みる必要があるだろう」


 日刊靜の取材に応じた靜するがはそう発言した。また、記者から「靜国は今後どのような対応を取りますか?」と質問されると、


「毅然とした対応をし、日渡国の国家方針を連邦の不利益とならないものに改めさせる」


 と言った上で、


「靜国は、日渡国が態度を改めない場合、然るべき組織による武豊国の解放を進める用意がある」


 と告げた。これは、世論(主に日刊靜や濱竹日報、沼日刊紙などの有力紙)が日渡武豊連合神治を日渡国による武豊国の強制併合の第一歩だと位置付けたことに基づいているが、この発言に対し連邦内からは、


「靜が軍事行動をちらつかせることで更なる緊張関係が発生している」


 だったり、


「日渡と武豊は双方の合意の上で連合状態にあるため武豊解放は靜による一方的な侵略行為にしかならない」


 だったりと、靜を非難する声も生じ出した。


 これらの論を展開した国は主に濱竹を中心とする西部諸国と井谷国であった。靜はこれらの国からの非難に対し、


「連邦を軍事的脅威に晒そうとしているのは靜国ではなく日渡国であるのは明白だ」


 と言い張り、


「統率国をなじる行為は連邦の足並みを乱す行為であるが故に、軽率な判断に基づく我が国への非難は非常に危うく、遺憾と言わざるを得ない」


 と、靜を非難した国々を非難した。


 そんな応酬が続こうが、日渡国の体制は変わらない。それどころか、再び連邦を騒がせる事態を招くことになった。


 それが、“井谷-渡海個別同盟”(通称:井海同盟)の締結であった。


 靜はこれを受けて、


「日渡は第二の井谷となり得る反靜的な危険国家となった」


 と宣言し、周辺国家に対して警戒するよう呼びかけると共に、連邦全加盟国に日渡を井谷と同様、連邦内危険分子と認定するよう働きかけた。


 流石の連邦諸国も、井谷との同盟には難色を示して、靜の提案通りに日渡国は連邦内危険分子に指定されたのだった。




ーーーーー

ーーー




 武豊との会談を終えた翌日、夏至前90日。僕と花菜と萌加様は福田神社を訪れた。


 この頃、声明を発表してまだ1日足らずだというのに、連邦各国から国に対して非難の書状が幾つも届いていた。


 しかし僕ら神治首脳部は、これら非難の声を無視する方針を定めていたため、一切とて聞き入れず国家を運営していくことにしていた。


 そして竜洋が湊を無事に連れ帰ったことと、靜通商協労者々に属していた少女を捕獲してきたことがあったため、今こうして福田神社に会いに来たという次第である。


「目的は一切分かりませんでした。私、ずっと眠らされていたので……」


 まず巫女館に立ち寄って湊の様子を確認すると、彼女は特段外傷を負っているわけでもなく元気にしていたが、迷惑をかけたことに対してかなり申し訳なく思っているようで、


「連れ去られて、これほどにまで迷惑をかけたのに、情報のひとつも提供できなくて申し訳ない限りです……」


 と、終始虫が息をするような小さな声で僕らに謝っていた。


「いいや、無事に帰ってきてくれただけで充分すぎるくらいだよ。情報は全部、靜通商協労者々の者から話を聞くから、全く気にしなくていいよ」


 萌加様が湊にそう声をかけられると、湊は瞳を潤しながら「ありがとうございます」と言った。


 本当に、無事に帰ってきてくれてよかった。


 僕は何か声をかけた方が良いのかと思ったが、そこに明様がいらして「そろそろ話をしたいのだけど」と僕らを急かしたため、湊との話はこれ以上できなかった。


 明様に呼ばれて本殿に上がると、そこには竜洋と巡様がいた。


「あれ、靜通商協労者々の子を捕らえたと聞いていたけど……?」


 萌加様が部屋を見渡してそう訊かれると、明様が頭を掻いて首を振った。


「ごめんなさいね、逃げられたの」


「うぇ!?」

「はい!?」

「えぇ!?」


 驚きの声を上げたのは萌加様だけでなく、僕と花菜も含まれている。


「え、じゃあ情報は? いや、それよりも重犯罪者を取り逃しちゃ大問題だよね、急いで確保しなきゃ……!」


 焦る萌加様に、明様が「冗談よ」と笑う。


 ……。


 冗談って。タチ悪すぎだと思う。


「でもね、諸事情あってその子は消させてもらったわ」


 明様はそう仰ると、一体の御霊を創り出し、


「彼女は昨日の夜に、自室で自殺を図ったわ。喉を掻っ切って死のうとしたものだから、話もできなくなってね。それで仕方ないから御霊にして処分したの」


「ちょ、ねぇそれわたし何にも聞いてないんだけど」


 萌加様はご立腹な様子でそう明様に仰るが、


「大丈夫よ、情報は聞くだけ聞いたから」


 と明様が仰り、竜洋に何やら指示を出された。


 明様の命令を受けて、竜洋が紙を僕らに配ってきた。


 そこには、靜通商協労者々の構造図が書いてあった。


「この図の通り、靜通商協労者々は南四連邦の上神種から資金を得て行動していたそうよ。で、組織を構成していたのは宇治枝国に収容されていた犯罪者4名。これらは恭之助が犯罪者を恩赦したことで外に出ているそうよ。さらにこの組織は、依頼者は不明ながらも常に靜の三大神への忠誠を誓わされていたというわ」


 図には、靜通商協労者々の上に靜国があり、その背後に南四連邦と書かれていて、靜通商協労者々を構成する者の背後に宇治枝国と書かれていた。


「つまり、この誘拐事件は靜の指示だった可能性が高いってこと?」


「そうなるわね。で、その裏で糸を引くのは十中八九南四連邦ね」


「恭之助が恩赦を出した理由も知りたいね。もしかしたら、靜に頼まれて組織結成のために死んでもいいような罪人を貸し出した可能性がある」


 明様と萌加様はそのようにお話しされる。


 やはり靜の仕業だったのか。そこまでして西部に関東の技術を入れたくないというのか。


「じゃあ、とりあえず恭之助に恩赦の話を聞こう」


 萌加様はそう仰ると、東の空へと飛んでいった。


「あーもう! 私、こんなに靜が卑怯な真似してくるなんて思ってなかった!」


 萌加様が不在の中、花菜がそう言った。


「全くだね。そんなに西部に関東の技術が入るのが嫌なのかな。僕らが発展することが、靜にとっては不都合なのかな?」


 やはり対靜路線は変更できない。このまま靜と対立して生きていけるように、国を強く、豊かにしていかなくてはならない。


 そのためにも、何としてでも神類文明最高峰の技術を手にしておかなくては。


「大智。今回の誘拐事件の背後に南四がいるやもしれん状況でも、南四に見聞隊を派遣するのか?」


 竜洋にそう訊かれた。


「あー、そうだね。それは予想外だったからなぁ。南四の見聞は諦めた方がいいかもしれないけど、早急に世界最高峰の技術を得なきゃいけないとも感じているよ」


「となると、頼る方向を同じ協商に所属している中京にしてみてはどうだ? 南四には劣るが、それでも向こうには向こうの独自技術がある。靜との関わりも希薄だから、それなりに話が通るやもしれんぞ」


 竜洋は僕にそう言った。なるほど、靜と繋がりの深い関東を頼ると今回のような事件が再発しかねないのは確かだ。だったら竜洋の言う通り、中京を頼るのが筋というわけか。


 そんなことを考えていたら、萌加様が恭之助様を連れて戻って来られた。


「なんだい、なんだい。みんなこんなに真剣な顔して」


 恭之助様は相変わらずおちゃらけたように仰る。


「湊を誘拐した組織が、宇治枝に元々収容されていた罪人だったの。彼らはあなたが恩赦を出したことによって解放されて、靜の命令に従う犯罪組織を立ち上げたのよ」


「へぇ、そうなのか。で、どうして俺が呼ばれたのさ?」


 明様の言葉に恭之助様が返されると、明様は大きなため息を吐いて、


「あなたが恩赦をしなければ、この組織は生まれなかった。訊くわ、どんな理由で恩赦を出したの?」


 その質問に恭之助様は「あー、そういうことか」と何か納得したように頷くと、


「だとしたら、全くの偶然だよ。俺が恩赦をした理由は、靜に頼まれたからじゃない」


 と仰ってから、


「その少し前に、宇治枝の重犯罪者を一斉処刑してね。それで務所に残っていたのが全部軽犯罪者になったってのと、去年の不作の影響で国民生活が困窮していたから、税の徴収を減額したんだよ。で、国民に支援もしなきゃいけないもんで務所の犯罪者を養えなくなったから、恩赦を出すことで務所を空にしたんだ。十分に更生した軽犯罪者たちだから大丈夫だと思ってたんだけどねぇ。まさかそんな組織を作って銀谷に逃げていたとは。ほら、兼望って何もしないから捕まらないんだよね」


 とのことだった。


「つまり、恩赦は靜の命令ではないし、宇治枝国民の生活のためだったと?」


「そうそう。だから驚きだよ、そんな犯罪組織が生まれていたなんて」


 萌加様の質問に恭之助様はそう答えられると、


「で、どうするんだい?」


 と僕らに訊かれた。


「何がよ?」


 明様がお尋ねになると、


「その様子だと、誘拐事件の裏に靜がいたんでしょう? このまま対立していくのか、それとも和解を探るのか。和解するなら、頼ってくれれば喜んで間を取り持つよ」


 そう和かに仰ってから、


「でも対立するなら、宇治枝国の神として厳しい対応をせざるを得ないなぁ」


 と真面目な表情で仰った。


「それは今から考えるわ。何せ、裏にいたのは靜だけじゃなかったもの」


 そう明様が仰ると、恭之助様は驚いた表情になり、「おいおい、初耳だよ。俺に相談なく靜が他の国と連んだと言うのかい?」と言われる。


「そんなの知らないわよ。そもそも靜の独断なんだから、この作戦にあなたが噛むことはなかったんでしょう?」


「そうだけどね、靜のお膝元としては悲しいものなんだよ。中部諸国だとしたら、組織を匿っていた銀谷か、それとも島谷か谷津か。いずれにせよ俺を真っ先に頼ってくれないのは辛いものだなぁ」


 恭之助様が泣き真似をなさりながら仰る。それに対して萌加様が「妖精自治領の辺りから、靜にしてみれば恭之助はどっちつかずの存在になっているからねぇ……」と仰って、相談されないのも無理はないと頷かれた。


 恭之助様は酷く項垂れておられたが、それは本心か演技か、およそ8割ほどが演技であろう。


「まぁ、なに。安心なさいな。背後にいたのは南四連邦よ。あなたに相談がないのも無理はないんじゃないかしら?」


 明様がそう仰ると、恭之助様は回復なさるのではなく、今度は頭を抱えて悩ましそうにされると、


「それはそれで重大案件じゃないか! 靜が南四と結託して連邦内の国家の上神種を誘拐するなんて。だとしたら、南四による靜連邦への過度な干渉が始まっていることになってしまうじゃないか!」


 と叫ばれ、


「こんな情報が連邦にばら撒かれればどうなるか! 連邦の権力が南四に渡っていて、靜がその傀儡になっていると騒ぎ出す輩が出てくるに違いない! 絶対に、この情報を出しちゃならん! これは靜とともに連邦そのものが消滅する一手になってしまう! どうか俺に任せてくれ、秘密裏に靜に抗議してやるから! 関係の悪い日渡から出しちゃダメだ!」


 焦ったようにそう仰って、何度も僕らに念押しをされた。


「わ、わかった。こっちからは言わない。わたしから言うのは、靜通商協労者々の背後に靜がいたことと、その構成員が宇治枝で恩赦された犯罪者たちだったってことに留めておく」


 萌加様は恭之助様にそう仰る。すると恭之助様が、


「いや、日渡は靜通商協労者々を全員爆殺して、組織を壊滅させて福田湊を無事に救出しただけにしておくべきだ。靜通商協労者々にはこれ以上触れないほうがいい。南四の上神種が絡んでいるんだとしたら尚更だ。組織は壊滅した、どんな背後団体がいるかは不明、調査は宇治枝国に依頼、それで手を引いて欲しい」


 と強く仰った。


「でもそれじゃあ、わたしたちが靜と対立する大義名分がどこにもなくなっちゃう。湊を誘拐したのが靜ってのは明らかなのに、それすらも開示できないんじゃ、わたしたちは抗議もできなくなっちゃうじゃん!」


 萌加様が恭之助様を叱責される。しかし恭之助様は、


「それでいいじゃないか! 靜と対立しても何も良いことがない! 日渡には勝ち目がないぞ、相手は祖神種なんだから。対立を選べば、ただただ無駄に連邦内の緊張度を上げるだけで何も利害がない。だったら黙っておくべきじゃないか!」


「そう言うってことは、後々宇治枝から調査結果として上がるのは“靜通商協労者々と靜国には何の関係もなかった”ていう内容なんでしょ? で、それなのに靜のせいにしたわたしたちに謝罪を要求して、何らかの罰則を受けることになるんでしょ? そもそも調査を靜に近しい宇治枝に託すなんて公平性がない。その時点で、結果が靜に有利なものになることくらい明白じゃない!」


 そう萌加様が怒鳴られた。それに対して恭之助様が言い返そうとされたそのとき、


「分かったわ、恭之助の提案に乗るわ」


 と明様が仰ったのだ。


「ちょっと明……!」


 萌加様が抗議されようとしたのを遮って、明様は話される。


「その代わり、宇治枝が立ち上げる調査機関に私と私の推挙する者を2名ほど含めなさい」


 明様の言葉に、恭之助様が「誰だい、その2名って」と尋ねられると、明様は悪そうに笑って仰った。


「御厨あかりと、創造神よ」


 その言葉に、恭之助様と萌加様は言葉を失ってほおけていた。




ーーーーー

ーーー




 神紀5000年、夏至前87日。兎山明が井谷国にやってきた。


 明が俣治に持ちかけた相談は、日渡が有事になった際に井谷軍の支援を受けたいというものだった。


 俣治は、連合神治を開始した日渡が靜との対立路線を歩む上で軍事力のなさが問題になっていることを理解していた。


 常設軍のある武豊と組んでいても、武豊軍は決して強いわけではないし、日渡全域を網羅できるほどに軍を展開できる力もないことを知っていたため、当然靜と対立している井谷に願い出てくることは分かっていた。


 俣治は、支援する条件として、有事の際に井谷国を支援することを提示した。


 これは軍事的なものではなく、補給や作戦立案などの面においてであった。


 なぜ軍を出せと言わなかったかというと、日渡や武豊の貧弱な軍事力を借りたところで足手纏いにしかならないからである。


 また、俣治が欲しているのは明の頭脳であり、軍事力ではなかったからだ。


 明はこれに対し署名したが、これは日渡国と井谷国の対等な同盟ではなく、兎山明と井谷俣治の個人間における同盟になった。


 つまり、日渡萌加や武豊耐久が、これらの約束を守る必要はないというわけであり、また萌加や耐久からの応援要請に俣治が動く必要はないというものである。


 俣治は明の要請にのみ応じる義務があり、俣治の要請には明のみが応じる義務を有するというわけだ。


 つまりは、井谷国と渡海自治領の同盟である。


 これが“井谷-渡海個別同盟”である。


 しかし、当然それは対靜戦争を見越しての同盟であるわけで、連邦内で受け入れられるものではなかった。


 よって日渡国は、連邦諸国から連邦内危険分子と認定されたのだった。


 この決議の際、日渡を危険分子に認定することに反対したのは武豊国と濱竹国、それと沼国であった。


 武豊国は、日渡国と連合神治をしているため当然の対応と言えるが、濱竹国と沼国がなぜ反対したのかというと、濱竹国は井谷と日渡が結託したところで自身の軍事力に及ばないため危険でないと判断し、沼国は靜に対する抗議の姿勢として正しい対応を取っているからだとした。


 つまり沼蛇松は、日渡は靜と本気で敵対しようとは思っていないだろう、抗議の姿勢を取っているだけだろうと読んだのだ。


 それも当然で、靜と戦争をしたところで祖神国家以外に勝ち目などないからである。


 蛇松は、抗議しているだけの国を本気で潰す方が問題であろうと考えていたのだ。




 また夏至前84日には、宇治枝国が日渡萌加の依頼を受けて福田湊誘拐事件の調査を行う機関を設置した。


 調査委員として、宇治枝恭之助と兎山明、そして御厨あかりと創造神カリナが呼ばれた。


 なお、御厨あかりは自身の権能で御霊の状態での出席をしていた。


 しかし実際は、身バレ防止のために明が施した細工である。


 この機関の調査により、靜通商協労者々が宇治枝国の元罪人であったことが明らかにされるも、靜との密接な繋がりは認められないことや、活動資金をやりくりしていた団体も不明であることが開示された。


 しかし、靜通商協労者々の要求内容が靜国に非常に有利なものであったことや、当時靜国が日渡国の要請に応じず靜通商協労者々から福田湊の解放に踏み切らなかったこと、つまりは統率国の役目を放棄したことなどから、靜通商協労者々と靜国との繋がりが完全にないと言い切れないとし、関係性を明らかにするよう靜国へ要求した。


 靜国はこれに対し「靜通商協労者々とは無関係であり、我関せぬ組織だ」と主張。解放に応じなかった理由としては「靜に有利な要求であったため、それを利用して日渡国の国政を改めようとした」と言った。


 当然、これに対して日渡国は「靜国との繋がりを疑ったことはあまりに早計で愚行だった」と反省の辞を発表したが、解放に応じなかった理由に対しては「極めて悪質な内政干渉である」とし、「靜国には如何なる理由があれども統率国の責務を全うする義務があるはずだ」と批判した。


 しかし靜はそれを受けて、「統率国は、連邦の秩序を守ることが最大の義務である」と主張して、現在進行形で軍拡を進める日渡国に対して「連邦の安定化のために武豊国との連合神治体制を即座に解体し、靜に忠実な構成国家となれ」と命じたが、日渡国は「統率国の責務は内政干渉ではなく連邦全域を豊かにするべく平等な技術支援を行うことである」と反発した。


 夏至前81日に開催された日渡議会で、武豊国の首脳部も集まる中、磐田大智は演説を行なった。


「我々は今、統率国靜より不当な内政干渉を受けている。靜国は関東統一連邦の最新鋭技術を我々西部には投入しないと言う。ならば自らそれを導入せんと動けば、我が国に過度な嫌がらせを行う有様である。統率国ともあろう国が、連邦の西部を冷遇した統治を続けた上で、我が国の内政に干渉し、軍備も認められないというのならば、はたして国家とはなんぞや。靜の言いなりになることが連邦加盟国の務めではない。国家とは、自政を以てして自主、自立が護られるべきものである。他国からの内政干渉など如何なる理由があれども認められないのである!」


 そして磐田大智は、兎山明と井谷俣治が結んだ個別同盟を、日渡、武豊、井谷の3カ国間における同盟へと進化させ、強固な軍事同盟とする方針を発表した。


 それと同時に、中京統一連邦と関東統一連邦にそれぞれ見聞隊を派遣し、独自に世界最高水準の技術を持ち帰る計画も発表した。


 これらは濱竹日報に掲載されて連邦全体に広まっていき、靜の耳に入った頃合いを狙って大智は声明を発表した。


「これより我が国は対靜戦争を想定して、自国を最大限守れるように井谷国との軍事同盟の締結に向かう。もし靜国が連邦の安寧を考えるのならば、この同盟には賛同できないはずだ。我々は理由なく靜と対立しているのではない。我々の目的は、西部に世界最新鋭の技術が導入されず、西部のみ発展の波に乗り遅れた格差社会になっていくのを防ぐことにある。つまり、我々は靜国が西部にも関東統一連邦の技術を導入するか、我が国が独自に関東や中京に見聞隊を派遣することを認めてさえもらえれば、対靜戦争を見越した軍拡を行う必要はないのである。井谷国、武豊国、日渡国の会談は夏至前73日である。それまでに靜国が西部開発に乗り出すか、我が国の見聞隊派遣を認めたのならば、この会談は行わないものとする」


 この声明に連邦各国は驚愕した。それもそのはずで、靜に対して上神種である臣が一切の敬語を使わずに物申したからである。


 それと同時に、靜の対応に注目が集まった。


 ここで日渡と井谷の軍事同盟が締結されれば、もはや戦争は避けられない状態になる。日渡の対靜軍拡は留まることを知らず、井谷の独自の軍事技術をもってして連邦西部まで火薬庫になってしまうのは明白であった。


 戦火を避けるためには、靜が西部に関東の技術を投入すればいいだけであり、連邦各国もなぜそこまでして西部に関東の技術を投入しようとしないのか疑問でしかなかった。


 この声明をもって、連邦内から靜に向けられる視線が厳しくなっていき、既に靜に正当性はなくなっていた。


 そして夏至前76日に、靜国の臣、静岡呱々邏が声明を発表した。


「靜国は、日渡国の臣より発せられた脅迫に近い声明を、非常に危険な要求文言と捉え、統率国として最大限の危惧と非難の意を示す。そして、連邦の安寧を考えれば井谷-渡海個別同盟の拡張は許し難く、統率国として該当諸国に直ちに同盟交渉を停止するよう命令する。代わりに靜国は、日渡国からの強い要請を受け、連邦西部地域にも関東統一連邦の技術を投入することした。しかし、日渡国及び武豊国には、連合神治体制を解体しなければ最新鋭の技術を投入しないものとする」


 これを受けて、日渡国と靜国のおよそ40日に及ぶ対立は形式上幕を閉じたのである。


 日渡国は武豊国との連合神治体制を解体する決断を下すが、その解体方法は以下のようなものだった。


「日渡国は対靜軍拡方針を取り下げるが、自衛の常設軍の設置やより円滑な神治体制の構築に向け、武豊耐久神の同意のもと、武豊国を吸収合併するものとする」


 夏至前71日の日渡議会において、萌加はそう宣言した。そして耐久は、儀礼に則って萌加に対し、神権の譲渡を行なった。


 これを以て、協定周知解体後から2500年あまり続いた武豊国は、日渡国に吸収されて消滅した。


 武豊耐久は神である権限や支配領域の全てを日渡萌加神に譲渡し、下野始神種となった。


 日渡国は武豊国域を吸収し、その国土を北に広げると、旧武豊国域に武豊自治領を設けてその領祖に武豊耐久を置いた。また、小臣には豊岡壱が、小巫女には野辺司が就任し、実質的な武豊国の存続が認められた。


 なお、武豊耐久は殺されたわけではないため、臣と巫女の繋がりも残ったままであり、壱や司が死ぬことはなかった。


 しかし、その影響で豊岡家と野辺家を日渡上神種に括ることができず、武豊耐久が保有する上神種家、すなわち武豊上神種が残ることになった。


 また、武豊国に存在した下級上神種である広瀬家(旧広末国の臣家)と神増かんぞ家(旧広末国の巫女家)、敷地しきじ家(旧屋敷島国の臣家)と岩室家(旧屋敷島国の巫女家)は、そもそも耐久との繋がりが存在しないため日渡上神種として萌加に渡された。


 現在、日渡国を構成する上神種家は、


日渡上神種

 日渡派

 ・磐田家 臣:大智

 ・豊田家 巫女:花菜

 ・(鎌田家) 美有(仮死状態)

 兎山派

 ・(御厨家) あかり(養子・影武者)

 渡海派

 ・福田家 渡海自治領小巫女:湊

 ・東河口家 渡海自治領小臣:竜洋

 武豊派(旧広末派)

 ・広瀬家 詳細不明

 ・神増家 詳細不明

 武豊派(旧屋敷島派)

 ・敷地家 詳細不明

 ・岩室家 詳細不明

武豊上神種

 ・豊岡家 武豊自治領小臣:壱 ほか2名

 ・野辺家 武豊自治領小巫女:司 ほか1名


 となっている。


 連合神治を解体し、対靜軍拡をしないとしたことで靜からの条件を満たしたため、晴れて日渡国も大連邦協商の恩恵を受けることになったのだった。

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