2-08『甘い蜜はいかが?』
第二章、ここから。
神紀5000年、冬至後27日。
靜国の静岡神社に宇治枝恭之助がやって来た。
「安久斗から統率権を取り上げたんだって?」
「人聞きの悪いことを言うな」
恭之助の対応をしたのは靜するがだった。彼は恭之助の言葉に苦笑いを浮かべた。
恭之助は相変わらず戯けた様子で、「でも事実上そういうことでしょ?」と笑う。するがはそれに肯定も否定もしないでお茶を一口飲んでから、
「で、何の用?」
恭之助にそう尋ねた。
訊かれた恭之助は、わざとらしく思い出したような仕草をして「そうそう」と前置きし、
「南四が靜と会談したいってさ。なんでも、今後の支援計画を話し合いたいとかなんとか」
そうするがに言った。するがは手帳を開いて少し考える。
「……早くても35日以降だね。それまでは少し、年始のごたつきが残ると思うから」
「なるほど、じゃあそう伝えておくよ」
恭之助はそう言ってから机の上に置かれた饅頭を手に取った。
「で、南四は誰からの通達なのかな?」
その恭之助にするがが尋ねる。恭之助は饅頭を口に入れる直前のところで止まり、視線をするがに向けて返す。
「南四の窓口は夏半だけだよ。それ以外は始神種とまともに話してくれる相手じゃないさ」
「そうかな? 済田とか意外と話が通じそうだけど」
「いいや、全然。東輝と千羽は言うまでもないけど、済田もかなりの祖神種第一主義だよ。そうじゃなきゃ、南四連邦が今、ああではないよ」
ああではない、すなわち祖神種第一主義の形相ではない、と恭之助は言う。それもそうかとするがは納得した。済田国の神、政樹は南四連邦の頭脳とも言われる存在で、彼が打ち出した政策が南四連邦の政策に直結していることは協定・協商の中で有名な事実であった。
南四連邦が反人類、反妖精、祖神種第一主義を掲げている時点で、その政策を打ち出した済田政樹も始神種以下がまともに話ができる相手ではないわけだ。
「夏半が南四の中でも特別柔和ってだけか」
するががそう言う。しかし恭之助は、
「そうとも言えないね。何しろ彼女も歴とした南四の祖神だよ?」
そう返した。するがは「じゃあなんで窓口なんだよ」と訊くと、恭之助はまた戯けたように笑ってから言った。
「簡単なことだよ、相手が俺だからさ」
その言葉に、するがは大きなため息を吐いて、
「ほんと、処世術にだけは長けているからな、お前」
呆れたと言わんばかりの声だった。
恭之助はその言葉を聞きながらようやっと饅頭を口に頬張り、甘さに緩む頬に任せてニヤリと笑った。
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ーーー
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南四連邦と靜連邦の会談は、神紀5000年の冬至後42日に行われることとなった。
当初、35日に予定されていたこの会談だったが、日渡国で起きた兎山派上神種殺害事件の関連で井谷国に対しての対応に追われ、靜の三大神は南四連邦に延期の申し入れを行い7日ほどずれ込んだ。
「なんだか大変なことになってるんじゃないか?」
会場となったのは、南四連邦夏半国横浜神社の大会議室で、そこに靜の三大神が入るや否や、東輝洋介がニタリと笑みを浮かべながらそう声を掛けた。
「君たちに心配されるほどのことじゃないよ。僕等は僕等、貴公等は貴公等だ」
するがが洋介にそう返す。あおいとしみずは洋介を睨むだけで何も言わず、そのまま三大神は指定された席に着いた。
この会議の出席者を紹介しよう。
まず、南四連邦より盟主、東輝国の祖神、東輝洋介。その盟友、夏半国の祖神、夏半若菜。連邦を支える頭脳、済田国の祖神、済田政樹。そして千羽国の祖神、千羽舞。
次に靜連邦より二大統率国がひとつ、靜国の祖神、靜するが、靜しみず、靜あおい。同連邦の窓口、宇治枝国の始神、宇治枝恭之助。
以上8名による会談となる。
司会・進行は、この会談を調整した宇治枝恭之助と夏半若菜が担う。
「じゃ、揃ったことだし始めようか」
全員が席に着いたのを確認して、宇治枝恭之助が口を開いた。一同が頷き返して、会談が始まる。
「まずはこちら側、南四連邦より靜連邦に対する提案です。東輝国祖神、洋介さん」
若菜がそう言うと、洋介が口を開く。
「我々南四連邦は、先の大戦にて軍事同盟と化した大連邦協商を元来の協商集団に戻し、以前靜連邦に対して確約した技術支援を本格的に開始したいと思う。ついてはまず、猪頭半島を南四連邦と靜連邦の共同開発特区に選定し、靜国清水港を重要軍事開発港に、猪頭国土肥港と谷津国焼津港を重要交易港として我々南四連邦に対して開港していただきたい」
洋介からの提案に対し、靜の三大神は小声で話し合う。
「支援の開始は良いとして、開港はどうなの?」
「支援を受けるには資材の搬入口を作る必要があるのは確かだよ」
乗り気でないあおいに対してするががそう言う。
「陸路じゃ限界があるからね。港を開くのは別にいいと思う」
しみずも開港に対して反対はしない。しかし、しみずには引っかかっている部分があった。
「それより、なんで土肥港なんだろうね。近くに沼国の沼津港があるんだから、そっちを開けばもっと安易に交易が進むと思うんだけど」
「確かに。猪頭を共同開発特区に指定したから半島への足掛かりが欲しいのかもしれないけど、中途半端な位置だね。猪頭の開発にだけ重きを置くなら下田港や伊東港の方が余程目的に適っていると思えるね」
「敢えて沼に近い土肥港を指定してきた理由を明確にしたいところね」
しみずの抱いていた疑問は三大神の中で共有され、南四連邦に対する質問となった。
「開港することには構わないよ。こちらとしても、交易路の確保のために港は必要不可欠だと認識している。また、軍事開発においても我が連邦最大の清水港を活用することは最善の選択であると認識しているよ。とはいえ、疑問がないわけでもない。土肥港なんだけど、あそこは近くにもっと大きな沼国の沼津港がある。大して距離も変わらないし、安定した交易路を確保するなら、大国である沼国の港を活用するべきだと思うんだけど。我々双方の最善の利益を考えてみると、土肥港の代わりに沼津港を開港しては如何だろうか。それとも沼津港ではダメな理由があるのかな?」
するがは南四連邦に対してそう尋ねた。するとすぐに済田政樹が挙手をして答えた。
「たしかに交易港として沼津港の方が優れていることは我々も認識するところです。こちらでも、初期案では沼国の沼津港を指定するべきだろうとなっておりましたが、先の汚染調査の資料を見返してみると、沼国は神治に人類を参入させていて、そこに生息する人類に対して柔和的な政策をしているとのことが記されておりました。人類文明に汚染されているわけではないにしても、あのような下等生物を擁護するような国の港を開くように説得するのも変な話な故、その南方に位置する土肥港を交易港として指定した次第です」
「とはいえ、沼国は大国だよ。神の蛇松も物分かりが良いし、国や連邦が豊かになるような政策に理解を示して協力してくれるはずだから、交易港としての機能はしっかりと果たしてくれると思うけど」
しみずがそう言うが、それでも政樹は首を振る。
「そうは言いますがね、親人類政策を取っている時点で我々から見れば信用もへったくれもないんですよ。沼国がもし、今の政体を改め、人類を排斥するのならば、沼津港を重要交易港に指定してもよろしいですよ」
政樹の言葉を聞いて、三大神は顔を見合わせた。混ざり合う視線で何かを打ち合わせたのか、一同が向き直ってからするがが挙手をする。
恭之助によって指名を受けると、するがは話し出した。
「確かに沼国は人類を神治に取り込んでいるけど、その独自の統治システムでこそ彼の国は安定する。また沼国が保護する人類、香貫宮家もまた、神類に逆らうことなどせず、沼国が親人類である以上に香貫宮家が親神類であるからこそ成り立っていると言っても過言ではないんだ。そんな状態の沼国から香貫宮を排斥してしまっては、沼国はおろか、香貫宮が影響を与えている東部と猪頭の人類が立ち上がって我が連邦全体の治安まで悪化しかねない。それはあなたたちも望まない結果ではないかな? そういう面から考えて、沼国の政体を変更するのは難しいと考えるよ」
「ならば沼津の開港は受け入れられん。こちらの提案通り土肥を開港せよ」
するがの言葉に洋介はそう返した。
「はいはい、分かったよ」
しみずがうんざりしたようにそう返す。三大神はこれ以上交渉の余地はないと諦め、猪頭国の土肥港を重要交易港として開港することを決断した。
そうして、南四連邦による靜連邦の支援態勢は整えられた。靜連邦は重要軍事開発港として靜国清水港を、重要交易港として谷津国焼津港と猪頭国土肥港を南四連邦に対して開港し、最先端技術を輸入する拠点とすることとした。
しかし、議題はこれだけではない。
猪頭半島を靜連邦と南四連邦の共同開発特区とすることについては、靜はまだ返事をしていない。
「で、猪頭半島を共同開発特区に指定することについてだけど」
靜あおいがそう口を開いて南四連邦の面々を見た。
「具体的には何をどう共同で開発するというのかしら?」
「国の開発や山地の開拓といったところだな。靜連邦には山地も多い。山地は放っておけば妖精や人類の巣窟となり、我々神類の統治を脅かす存在に力を与える場所となる。それを防ぐためにも、山地を切り拓き新たな都市を築き、妖精や人類ではなく神類の居住地とすることが文明保護の観点から有効だと判断する。その実演場として、我が連邦から近い猪頭半島を指定し、靜連邦に技術を与えるべき研究地域としていけたらどうかと考えている」
洋介の回答に、三大神は再び顔を見合わせた。
「たしかに実演場は必要だ。技術を貰ったとしても、その技術の使い方が分からなければ使いようがない。南四連邦が直々に指南してくれるというのであれば、技術を使いこなせる者も増えて、連邦全体の早期発展が見込まれるね」
「でも、一歩間違えば猪頭半島全域が南四の影響下に入る可能性があるよ。ボクはそこまでして共同開発をする意義を見出せないね」
「でも、共同開発なのでしょう? だったら私たちの影響力も残るでしょうし、そう簡単に猪頭諸国が連邦の枠組みを越えて南四に流れるとは思えないわ」
しみずは共同開発に反対の意を示していたが、するがとあおいが共同開発に賛成をしたため、三大神の意見としては賛成で固まった。
しみずはそれ以上反対せず、左手の爪をヤスリで手入れし始めた。
「分かった、じゃあ猪頭半島はそちらの提案通り共同開発特区に指定しよう。これに関しては猪頭諸国の神々を含めて後日調整していきたいけど、異論はあるかな?」
するがが南四の祖神に向けてそう訊くと、「異論ない」と洋介から言葉が返ってくる。
「それじゃ、そろそろ靜連邦と南四連邦の共同声明をまとめようか」
恭之助がそう提案して、共同声明の作成が始まった。
そして出された共同声明は、以下のようなものだった。
『【第一回】南四-靜連邦協商会談における南四連邦の支援政策と靜連邦の受諾宣言』
《南四連邦の支援政策》
南四連邦は靜連邦に対して、大連邦協商の規約の定めるところにより神紀5050年まで技術支援を行うこととなる。ついては靜連邦に、以下の開港を求め、軍事技術、国土開発その他支援の拠点の設置を望むものとする。
【重要軍事開発港】
・清水港(靜国)
【重要交易港】
・焼津港(谷津国)
・土肥港(猪頭国)
また、猪頭半島を南四連邦と靜連邦における共同開発特区に指定し、確実たる技術支援を行えるものとするべく要求する。
《靜連邦の受諾宣言》
上に就て靜連邦は、南四連邦からの全要求を受け入れむと決断す。猪頭半島の共同開発に至ては後々猪頭諸国(猪頭国、熱山国、流水国、猪東国、河頭国、降田国)を踏へて、南四連邦と協議を重ねたし事を求む旨を伝へけり。
《その他特記事項》
南四連邦は靜連邦からの要求を受け入れ、猪頭諸国を交えた会談の調整に応じることを宣言する。
この共同声明は世界中に通達された。
今まで軍事的な役割としてしか注目されてこなかった大連邦協商が、改めて協商的な存在を果たし始めたことを世界に知らしめた宣言となった。
これに対し、桜咲メグを筆頭にした関西統一連邦およびその同盟国家である西側諸国は、
「大連邦協商は早期解体が望ましい」
という見解を示し、その存在に対して危機感を露わにした。
また、西側勢力として唯一協商に属する中京統一連邦は、自身の同盟国らが巨大な反協商勢力を築き上げたことに対して、
「大連邦協商は、世界を脅威に陥れるために存在しているのではない。神類文明をより永く存続させるために存在している。その目的と相反する言いがかりで東西世界に軋轢を生じさせるは甚だ遺憾である」
と西側に表明すると同時に、
「靜連邦は緩衝材としての役割を放棄せぬよう、また、靜連邦を緩衝材として保ち続けるよう、靜連邦および関東統一連邦には重々意識をして、協商規約の定める範囲内において支援を受けるなり行うなりするよう求める」
と、靜連邦と関東統一連邦にも声明を発表した。
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「お、揃ってるみたいだね」
靜するがが席に座っている俺たちを見て、和かに言ってきた。そしてその笑みを崩さないまま俺を見て、
「集めてくれてありがとう。君には感謝しているよ、太平」
などと言ってきた。
感謝してくれているのなら、それ相応の報酬を求めたいところだ、祖神種様よ。
などと思っていたら、するがに続いて恐ろしい面々が現れた。
登場順に、東輝洋介、夏半若菜、済田政樹、千羽舞。言わずもがな南四連邦の祖神らだ。
南四の祖神らと靜の会談に、俺たち猪頭諸国が招かれるなど前代未聞の出来事である。
今まで、両連邦の会談を何度か熱山でやったことはあったが、あくまで議場を貸し出すというだけであって発言は許されなかった。それが今回、俺たちにも発言権がある会談を催すと靜が言ってきたのだ。
しかし、それも当然の話であろう。何しろ靜のやつ、俺たちに何の了承もないまま半島全域を南四と靜の共同開発特区に指定したのだから。
とはいえ、我々はそれに憤慨しているわけではない。西部の濱竹、中部の靜、東部の沼、半島の猪頭と、靜連邦の各地域の中心地はそう言われているものの、自分で言うのも虚しくなる話だが、群を抜いて猪頭の発展具合が著しく低いのだ。
それどころか猪頭半島は、我が国猪頭のみに限らず、そこに存在する全6ヶ国の成長が芳しくないのだ。
我々猪頭諸国は、連邦内における経済や技術格差に頭を悩ませてきた。そんな中、舞い込んできたのがこの“共同開発特区”の案件であった。
靜が勝手に決めた話であって、それには文句のひとつも言いたいが、こちらからしたら願ってもない話であってありがたい限りだというのも事実なのだ。
だから我々猪頭諸国は、今日、冬至後57日に靜国静岡神社で行われるこの会談に、それなりに胸が高鳴っているのだ。
会議が幕を開けた。
南四連邦から開示された猪頭半島開発計画は、想像を絶したものだった。
『猪頭半島開発計画』
1、熱山国、降田国における居住区域の拡大
山を切り拓き、民が住めるような平場を拡大させる。
2、猪頭国、猪東国に大型軍港を建設
靜連邦には、水戦力の拠点が猪頭半島にのみ存在しない。緩衝材としての力を強めるためにも、猪頭半島を強固な要塞とすべし。
3、流水国、河頭国に最新鋭陸戦軍事拠点を建設
半島の要塞化の一環で陸戦力の基地を設置すべし。また、我が関東統一連邦が誇る最新鋭の陸戦力も投入する。
4、夏半国および靜国方面に鉄道を敷設
半島は山地が多く交通に難を抱える。それを解消すべく、文明最先端技術を惜しみなく投与し、夏半や靜、ゆくゆくは東輝や名護などの大国へ至る鉄道を設ける。
想像を絶するというよりも、想像がつかないというべき案件だ。
殊に4の鉄道は、するがを含めた我々靜連邦の者らにとっては聞いたこともないものであった。
「すまないけど、もう一回この“テツドー”とやらについて詳しく聞かせてもらえないかな? さっぱりイメージが湧かないんだ」
ひと通り概要を聞いてから、するがが東輝に聞き返した。
「鉄道とは、異世界の技術だ。サハ大陸で使われていたんだが、知らんか?」
「全く。俺は留守番してたからね。しみずなら知ってるかもしれないけど」
「そうか。まぁ多分聞いても分からないだろうな。俺たちも衣堆から話を聞くまで全く使い方が分からなかった」
「んで、どういうものなのか教えてくれないかな?」
「あぁ、すまんな」
そして東輝は鉄道について話し出した。
「鉄道は、二本の細い鉄の上を専用の車を走らせる運搬方式だ。者も荷物も船より速く大量輸送が可能になる」
「どうやって動くんだい?」
「サハ大陸で採れる大地液油を使って動く。異世界ではもっと高度に発展しているようだが、悔しいことに我々にはその技術がない。辛うじてサハ大陸が有していた異世界の油駆動装置を解析して我が連邦で試作機が完成したのが去年の暮れのこと。それを初めて投与するのがこの猪頭半島となる」
「つまり、世界の最新鋭技術を分けてくれるというのかい?」
「そうだ」
「嬉しい話だねぇ」
東輝からの話にするがは頬を緩めて俺たち猪頭諸国を見渡した。そして尋ねてきた。
「どうだい、君たちは鉄道ってやつ、どう思った?」
「物流、外交の面において優れたものだと思う」
そう発言したのは河頭咲良だった。それに頷く猪東綾人と流水掬。
対していまいち良い顔をしていないのは降田ツメキだった。
「半島の国中に造られるなら問題ないと思う。僕のとこのような辺境こそ欲しい代物だけど、辺境には造れないとか言われたら利点がない」
彼が治める国は半島の最南端に位置し、船による移動ならば有利だが陸路では難しい場所だ。だからこそ、これから陸路主体の運輸方式に世の中が置き換わってしまうと取り残される可能性があり、それを心配しての発言だと思われる。
「たしかにねー。わたしもどういう道筋で造られるのかによるかなー。ほら、熱山って周り山ばっかりだしー、あんまり産業もないしー、今ある街道に沿うなら通んないでしょー? そうなると嫌だなーって」
ツメキの意見に賛同するように、熱山美佑が発言する。
「道筋か。そっちが鉄道の敷設に前向きならば、それについても話しておくべきかもしれんな」
それを聞いて、東輝がそう言葉を投げてきた。
「どうだい、太平。猪頭諸国を代表して、鉄道の建設に賛成するか反対するか」
するがからそう訊かれたが、反対する理由は見当たらないため「賛成するさ」とだけ伝えた。するがは頷いて、東輝に道筋の話を促した。
「まず、鉄道というは鉄の上を走る車だ。そこで注意するべき点は、急な坂や悪路、急な曲がり道は苦手とすることだ。よって、猪頭半島に敷設する場合、山を切り開いたり隧道を掘ったりする必要が出てくる」
「隧道か。未だに人類文明の遺構として残る場所もあるやつだね。山を貫くように空いた不気味な穴」
「そうだ。未だに街道にも幾つか人類が造ったものが流用されているが、あれらを猪頭半島にも造る必要がある」
「技術はあるのかい?」
「当然だ、小国風情が世界の覇権を握る我が連邦の技術を侮るなよ」
「頼もしい反面、とても腹が立つ言い回しだね」
東輝の言葉にするがが顔を顰めて返した。対する東輝はハンッとひとつ鼻で笑い、するがの言葉を受け流した。その余裕っぷりから、格の違いをまじまじと見せつけられた気がした。
「で、だ。隧道や橋を使いながら、夏半の小田島から熱山へ抜け、そこから猪東、河津、降田に抜けるやつをひとつ作る。また同時に、小田島から大山、伊月場、島波を経由し、島波にて靜へ抜けるやつと、沼、流水、猪頭を通って降田に向かうやつを設ける。こうすることで猪頭諸国は島波経由で靜へ、小田島経由で南四へそれぞれ抜けられるようになる。新たな物流の拠点となり得るやもしれん」
東輝は俺たちにそう言った。
「つまりは、この半島全域にその鉄道とやらを通してくれるということか?」
俺が確認すると、そうだと東輝は頷いた。俺たち猪頭諸国は顔を見合わせる。その顔は皆、明るく笑っていた。
「ずいぶん甘い話だけど、信用していいのかい? 一見すると無茶苦茶な計画だし、やっぱりちょっと想像できない次元だ」
対してするがはさっきの嫌味で機嫌が悪くなったのか、どこか嫌そうな態度で東輝に尋ねていた。
「たしかに、いきなり信用しろと言うのも無理な話だろうな。だからこその甘い提案だ。手の内を言うようであまり気が進まないが、今後信用してもらうために世界最新鋭の技術という甘い蜜をお前らにあげるんだ。要するに、先行投資ってやつだ。今後お前らが発展して、緩衝材としての役割をしっかり担えるようになった際に、俺たちと関係が悪くちゃ参ってしまうからな、今のうちから関係改善をする必要がある。そして重要なパートナーとなってくれることがどうして我々にとって不利益であるだろうか」
「つまり、この計画を遂行することで僕らの信用を得ようと言うのかい?」
「そうだ」
赤裸々に話す東輝にするがは少し警戒心を強めた様子だったが、
「分かった。君がそれだけ手の内を話すことは珍しく思えるから、こっちもその覚悟を認めて、その甘い提案を受け入れるよ。ただし、この計画は必ず成し遂げてほしい。でなければ、我ら靜連邦は南四連邦はおろか関東統一連邦を信用することはできない。我々の発展のために、向こう50年の支援を完遂していただくよう要求する」
東輝に向き直って、するがはそう堂々と発言した。
「よかろう、約束するさ」
するがの言葉に東輝はそう言って笑い、右手を差し出した。
その右手を、するがは微笑みながら取るのだった。




