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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
井谷戦争
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2-06『血溜まりの彼女ら』

 神紀5000年、冬至後30日。


 日渡国の大池地区にある旧大池邸にて、国立初級学校開校式典が催された。


 日渡の初級学校はサハ戦争期間中、兎山明と磐田大志が国政を担っていた時期に計画され、その後の改革で磐田大智によって制度が整って、濱竹神務局の援助を受けながらこの度開校へと至った。


 開校式典には、日渡の神治首脳部の他に全面的に支援をした濱竹の神、臣、巫女、神務卿、神務局長の出席が予定されていた。


 しかし先日の冬至前17日に、日渡の神、萌加宛に濱竹安久斗より神、臣、巫女の欠席連絡が届いていた。


 安久斗の代わりに濱竹の代表として言葉を述べたのは、濱竹神務卿の下池川山樹だった。


「日渡の国立初級学校の開校を祝し、濱竹国を代表しお言葉を述べさせていただく機会をもらいまして、大変恐縮にございます」


 山樹はそう言って祝辞を述べていくが、彼は一昨年の4998年、ごく僅かな期間ではあったが日渡国の神治に関与したことがあった。


 その際に担当した業務に、この学校設立計画があった。


「私は前職が濱竹の初級学校教員ということもあり、教育の重要さを篤と理解しているつもりです。教育は国を豊かにしますし、同時に国民の皆さんの暮らしも豊かにします。これは間違いなく、この国がこれから成長していくことに繋がる大きな一歩となりましょうし、私もこの計画の一端を担わせていただいたことに加え、ここでこうして祝辞を述べさせていただけていることを栄誉に思います。引き続き濱竹国は、日渡国のますますの発展に寄与できるよう支援を続け、教育制度を充実させていくことを保証しますことを宣言いたします」


 山樹はそう言葉を締めた。


 続いて言葉を述べる磐田大智は、登壇すると、


「僕も、できることなら教育を受けたかったと、今後教育を受けられる幼少年を羨んでいます」


 そう言った。


「我が国において、今まではある種英才的な教育が施されてきました。家業を継ぐために必要な技術や知識を幼少期より詰め込み、15をすぎる頃合いになったらその職を継いで、同じようにして次世代に繋いでいくというのが当たり前でした。僕も臣家の男として育てられてきましたが、それが苦しくて堪らなかったです。きっと皆さんの中にもいらっしゃるでしょう、自分の職業は向いていない、もっと違うことをしたいと、そう思う瞬間があったのではないでしょうか」


 大智の言葉に、ちらほらと頷きが見える。


「ですが、これからこの国は変わります。教育が職業を選択する権利をもたらします。教育が国民の共通認識を生み出します。それだけで、この国は大きく変わるのです。濱竹には遠く及ばずとも、この貧相な様相から脱することはできるでしょう」


 日渡国は決して豊かではない。それは国民も共通の理解として存在している。隣国が超大国ということもあり、貧相さが際立ってしまっていることも一因であるが、それよりも建築様式や服装などの視覚要因が大きかった。


 そうとはいっても、和装ベースの服装に至っては兎山時代に確立されたこの国特有の文化であるわけだが、それがどうしても発展途上さを醸し出してしまっているわけだ。


 教育によってどこまでそれらを変えられるかは不明だが、そこら辺は後々また改革でなんとかするとして、大智は言葉を締めた。


「萌加神が近年、国を豊かにするべく神治の改革に力をお入れになられておりましたが、その成果をようやっと皆さんの実感できる範囲に及ばせることができました。教育は我らが神からの贈り物であり、それを受け取るは国民の義務にございます。さぁ、始神を讃えて感謝してください。国歌斉唱!」


 大智の声で、濱竹より輸入したサハの楽器が奏でられて、国歌『日渡讃歌』が演奏される。


 国民は歌唱の義務があるため、全力でそれを歌う。


 国歌の斉唱を終えると、国民は日渡萌加神から御言葉を賜る。


 萌加は大層なことを語るわけでもなく、ただ「国のために、私や明のために励みなさい」という内容を語っただけであるが、その言葉に涙する国民もちらほら見えた。


 日渡はこの1年ほどで、本格的な萌加の神格化に成功したのだ。


 要因としては複数あるが、一番大きかったのは萌加が‘97年まで一切国民の前に姿を現していなかったことだと言われている。


 おかげさまで国民は、元来日渡萌加に対する印象が薄く、でっち上げの神話でしかその実を知ることができなかったわけだ。


 萌加の神格化に必要だった神話は、下池川山樹とサハ戦争によって獲得した異世界人類によって作られ、大智が臣に就任すると同時に国民へ広められた。


 国民には崇拝の義務が課され、萌加もしくは兎山明を崇めるように言われている。渡海を中心に明の信者も多く、日渡がひとつの国としてまとまるためには、萌加と明が手を取り合って統治していることを示す必要があった。


 そのため、このような式典はもちろんのこと、議会などの些細なことであっても明は萌加と共に出席し何かしらの言葉を述べることで、日渡あってこその渡海だという印象を国民に持たせている。


 もちろん今回も例外ではなく、萌加に続き明も若干の言葉を述べる。


 曰く、日渡のために尽くせとのこと。


 明の神格化は明自身が嫌っているため大々的にはしていないが、旧兎山国としての意識が根深く残る兎山地区の三村では異常なまでの崇拝が見られる。




 それこそ、神として立てようとするほどに。




ーーーーー

ーーー




「式典に、濱竹安久斗が出席をしなかった」


 渡海自治領、兎山地区の一画、井栗いぐり村。


 この村には、かつて兎山国を率いた上神種家『御厨家』がいるが、彼らはこの村を治めることを禁じられていた。


 その理由は、御厨家の持つ過激な思想が原因であった。


「明らかにこの国に対する濱竹の影響力が落ちてきているようだわね」


 御厨家の主人、しょうが持ち帰ってきた情報に対し、妻のこずえはニヤリと笑う。


「日渡から濱竹の影響力が消えれば、今の神治幹部ならば簡単にひっくり返せるだろう。この期に渡海だけでも明様のもとに独立させ、兎山を再建させるべきだ」


 翔の言葉にこずえは頷いた。


 その時、ちょうど扉が叩かれる音がした。


「誰かしら?」


 こずえが扉へ向かうと、そこには実の娘、いちかが立っていた。


「お久しぶりです、お母さん」


「あら、どうしたのかしら。こんな時間に」


 こずえはいちかを見て良い顔はしなかったが、それでも家に上げた。


 というのも、いちかはこの家より出ていき、今は鎌田の姓を名乗っている。


 敵対勢力である磐田家と関係を持ち、日渡親政に参政してしまったため、いちかは御厨家から追い出されたわけだ。


 それと同時に、いちかが愛していた先代の臣、磐田大志を彼女の実の兄に殺されたからというのも大きく、いちかとしてもこの家に留まりたくはなかったわけだ。


 しかしいちかは、今日こうして御厨家にやって来た。


「なんだ、どうした?」


 父、翔はいちかに問うた。


「実家に帰ってくることがそんなにおかしなことでしょうか?」


 いちかはそう言うが、


「理由がないわけないじゃないの、あなた、この家を恨んでいるでしょうに」


 こずえにそう言われていちかは俯いた。ほら見ろ、とこずえは嫌そうに吐き出した。


「あたしは、この国の行く末を案じています」


 いちかはポツリと言った。


「どういうことだ?」


 翔がムッとして訊く。いちかは顔を上げて、実の父を見た。


「鎌田の父上から聞きました。今日の式典に、安久斗様の姿がなかったと」


「だからなんだ?」


「この好機を御厨家が見逃すはずがない、と、我が家は思っています」


 いちかは父と母を見る。父は鋭い眼差していちかを射抜いてくるが、母は視線を逸らした。その仕草と漂う空気感から、いちかは自分たちの考えが間違っていないことを確信した。


「やはりそうでしたか。濱竹の影響力が消えれば兎山を再興できると、本気でそう考えているのですね」


 呆れたようにいちかが言う。


「そうだと言ったら?」


「やめておくべきです、大智くん……いや、日渡の臣を知っているでしょう? 彼は残虐ですよ、臣に就任してからどれだけ粛清したかご存知でしょう?」


「もちろんだ。だからこそ、あんな奴に神治は任せておけまい」


「だからといって歯向かうのは無茶です! 現在日渡はやろうと思えば濱竹の国政を乗っ取れるくらいの権限を持っています。今は濱竹の姿が見えずとも、兎山を再興しようと動けば必ず濱竹が出てきますよ! それに、磐田大智は濱竹安久斗神から非常に信頼を得ていて、さらに磐田大智も安久斗神を頼りにしております。兎山派は、未だかつてないほどに日渡から危険視されており、今動くのは非常に危ないことを理解してください!」


 いちかはそう言った。


「それが鎌田の考えかしら? それとも、あなたの考え?」


 こずえがいちかに問うた。


「鎌田です。あたし個人の考えも同様ですが、鎌田家は御厨家が危険を犯さないか不安に思っております」


 いちかの言葉に、翔とこずえは露骨に不愉快そうな顔をして、


「バカみたいね、今までは一緒に兎山再建を目指していたのに。少し神治に関与できる権利が残ったらこの様。結局、我が家だけが神治から追放されて除け者扱い。あぁだ、厭だ」


 こずえはそう言った。


「その通りだ、鎌田は我が家を裏切ったのだ。日渡派に取り入り、明様を差し置いて萌加神へと乗り換えて。しかしだ、鎌田の協力などなくても兎山の再建はできる。濱竹の影響力が下がった今ならば、俺たちだけで日渡派の青二才どもを一掃して明様中心の国へと戻すこともできよう。鎌田も日渡に与するならば、奴らと共に消してしまっても良いのだ、こちらにはその用意と覚悟がある」


 翔は実娘に太い声で言った。


「どうしてそうなっちゃうのよ……!」


 いちかは途端に悲しくなって、涙を堪えながらそう叫んだ、次の瞬間。


 ドドドドドドドドドドドド


 家の四方八方の壁に、激しく何かが当たる音がした。


 その2、3秒後には窓や壁に小さな丸い穴が開き、黄色い光の筋が飛び交って反対の壁に埋もれていく。


「きゃっ!?」


 いちかは咄嗟に土間の基礎下に潜り込んだ。


 彼女は部屋に取り残された翔とこずえの声を聞かなかったが、数秒して床下にいる自分の首筋に生暖かい粘り気のある液体が滴り始めたのを感じて悟ってしまった。


 いちかは目から溢れ出る涙を堪えられなかった。


 目の前に広がる地面を握り、何に対してか分からない怒りを噛み締めた。


 豪雨のような音が止むと、扉が蹴り飛ばされていくつもの足音が聞こえてきた。


「報告通り、2体確認」


「よし、首を刈れ」


 自分の頭の上で何が起きているのか、いちかは知りたくなかった。しかしその言葉の直後、肉を捌くような音と同時に自分の目の前に血が滴り落ちてくるのを見て、


「…………」


 彼女の中で、何かが吹っ切れた。


「次の目標は鎌田だ、行くぞ」


 そんな男の声と同時に、


「うあぁぁぁぁあああああああ!!!!!」


 いちかは泣き喚きながら能力を発動した。


「『墓石(トムストーン)』!」


 瞬間、家を押し潰す勢いで巨石が降り注いだ。


「うわっ!」

「なんだ!?」


 混乱してざわめく中、いちかは床下を這い回って血溜まりから遠ざかると、床板を跳ね除けて部屋に出た。


 そこには、刀と見慣れない銃火器を持った集団がいた。


「生き残りだ!」

「撃てぇぇぇえええ!!!」


 銃火器からは、雨よりも激しく降り注いだ。


 いちかは自身の権能でそれを弾き飛ばしながら、


「『石棺(クローズ・ザ・)閉鎖(サーカフェス)』!」


 必殺技を繰り出した。


 2つの大きな石が敵の左右から迫り、銃火器を放つ連中を纏めて押し潰してしまった。


 残ったのは5名、銃火器を持つのが4名と、黒く光り輝く刀を持った隈の濃い男だった。


「面白い、貴様が御厨いちかだな」


「……父さんを、母さんを返せ!」


 いちかは泣き叫んで、手元に銃火器を出現させた。


 いちかは石棺の中に閉じ込めた対象の道具を自由に自分のものとして出現させることができるのだ。


 そして銃を発射するも、


「残念、遅い」


 隈の濃い男が土壁を築いてそれを防いだ。


 そして男は、その壁から土の弾を撃った。


 いちかは墓石を召喚してそれを防ぐも、


「背後がガラ空きだ、未熟者」


 いつの間にか背後に回れれた男に背中を斬りつけられて、膝から崩れた。


 そのまま男はいちかの顔面を蹴り飛ばし、髪の毛を掴んで持ち上げると、刀で腹を突き刺してから担いだ。


「よし、予定外はあったが、計画続行だ。鎌田へ行くぞ」


「はっ」


 男は、血に塗れて気を失った、生きているかも分からない女を背に担ぎ、生き残った配下を率いて鎌田家へと向かった。


 空が不気味なほどに赤く染まったような時間、この国では国歌斉唱の義務が課される時間でもあり、静かな農村には家々から響き渡る日渡讃歌が立ち込めていた。


「……宗教じみた国だ」


 男は嫌でも耳に届く歌声に、そう声を漏らした。


「……たい、し……くん……………」


 その歌声に紛れて、女のかすれた声が耳に届いた。


「うるせぇ呻くな」


 男は腰から短刀を抜き、背負ったいちかの喉を掻き切った。




ーーーーー

ーーー




 いつものように、夕方の歌唱をしようと家族に声をかけて、私たちは居間に集まった。


 日渡讃歌を歌い出したとき、ちょうど大光たいこうちゃんが泣き出したから、母があやしに席を外した。


 歌唱の義務は全員で揃ってやらなければならないため、母が戻ってくるまでお預けとなった。


「……いちか、遅いなぁ」


 私はそう言葉を溢した。


「久しぶりの実家なんだから、少しくらい遅くても何ら不思議じゃない」


 妹の美有みうはそう言うけど、今のいちかがあの家を実家だと思って長居するとは思えない。


「やっぱり不安だから、ちょっと見てくる!」


 私はそう言って家を出ようとした。


「おい、歌唱の義務はどうすんだ? 少し待て」


 しかし兄の秀治郎しゅうじろうによって引き留められた。


「でも……!」


 私が言うと、


「心配しすぎだよ、姉ちゃん。歌うのだってあんまり時間かからないんだから、そのあとでいいじゃん」


 弟のひろしがそう言ってきた。


「母さん、そろそろどうだい?」


「どうって聞くなら手伝ってほしいわ」


 その間に父と母がそんなやりとりをしているが、大光ちゃんはどうやら泣き止んだようで母が戻ってきた。


 私たち鎌田家は、ようやく6人そろって歌い出した。


 そして1番を歌い終わった頃、扉が叩かれた。


「いちか姉ちゃんだ!」


 そう弘が言って駆け出した。歌唱の義務がまだ済んでいないというのに。


 まぁ、いちか含めてもう一度歌い直せばいいや、なんてその時は思っていた。


 弘が扉を開けた途端、


「おかえぅぐっ…………!?」


 何が起きたか、理解できなかった。


 弘が顔色の悪い男に貫かれていたのだ。


 血の滴る玄関に、青白くなり生気の感じられない血塗れのいちかが捨てられた。


れ」


 弘を貫いた男は手下にそう指示を出して、いちかを踏みつけながら見慣れない筒を構えて土足で入ってきた。


 それを見て、美有だけが慌てたように「逃げてっ!」と叫び窓を破り外へと飛び出した。


 残された私たちはわけが分からずそこに立ち尽くしたが、その筒から


 ドドドドドドドドドドドド




ーーーーー

ーーー




 どうして…………?


 どうして…………………?


 明様、萌加様、大智くん、花菜ちゃん、竜洋さん、湊ちゃん……!


 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて…………




「いたぞ!」

「構えろっ!」

「撃ち殺せっ!」


「うあっ!?」


 頬が痛い。足が痛い。背中が、腰が。


 でも、あと少しで御厨堂なの。


 血塗れだけど、左手側に広がる森に転がり込んだお陰でなんとか障壁を確保できた。


 あとは這ってでもこの森を抜ければ、明様が……!


 明様が……?


 ……明様は、御厨堂にいる?


 いや、いない。


 今、明様の拠点は渡海の福田神社。


 ここには誰もいない……!


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…………!


 でも、行くしかない!


 行かなきゃ、死ぬしかない。


 家族は無事だろうか、いや、そんなはずはない。


 お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、弘も、大光も、いちかも、みんなみんなもう死んだ。


 ……逃げてきちゃった、私だけ。


 家族を置いて、逃げてきちゃった。


 なんでよ、なんで逃げ出したのよ。


 銃を向けられたら逃げなきゃダメだなんて、そんなの常識。


 なのに、どうしてみんな、動かなかったの?


 …………。


 そうよ、私だけ。


 私だけが、サハ戦争に行ったんだ。


 だから知っていた、銃が危険だって。


 でも行かなければ知っているはずがない。


 みんなこの国から出たことがないんだから。




 日渡には、銃なんてないんだから。




 バカみたい。なんで私、そんなことも分からずに逃げてきたの?


「いたぞ!」


 なんで私、家族を守ろうとしなかったの?


「殺せっ!」


 もう、ダメじゃないかな。逃げられないよ、こんなボロボロの身体じゃ。


 ……そもそも、逃げちゃダメでしょ。


 家族を見殺しにしたも同然じゃないか。


 それじゃ、ここで殺されるくらいが丁度いいのか。


 もう御厨堂、見えているけど。


 誰もいないみたいだ、残念。


 銃声を聴いた。もう、これで終わりなんだって、そう思うとなんだか可笑しくて、笑えてきた。


 表情がないって、よく言われた。


 何考えているか分かんないって、よく言われた。


 でも、変なの。死ぬ時は、自然に笑えるんだ。


 そしてなんで、涙が出るんだろうね。




『そんなの、死にたくないからに決まってるじゃん』




 声がした気がする。


 もう被弾してもいいくらいの時間が経っている気がするけど、弾は一向に当たらない。


 下手くそ。


 そう言ってやろうかと思った。


『言いたければ、言えば?』


 やはり声がした。


 ……そうだね、言うか。


 どうせ被弾するまでには発音できないと思うけど。




ーーーーー

ーーー




 銃声が響き渡ってから数秒し、確かに鎌田美有の身体を弾が貫いた。


 しかし美有は、ムクリと身体を起こして言った。


「……下手くそ」


 被弾はした。背中から胸を貫かれて、確かに血塗れでそこにいた。


 でも美有は動いている。


「撃てっ!」


 銃を構えた連中は彼女へと再び発砲するが、それを美有が防いだ。


 地中から、幾つもの霊魂を召喚して障壁として用いたのだ。


「御霊術……!?」


 隈の濃い男はそう呟いた。


 そして美有の身体へと目を凝らした。


 特徴的なのは、その瞳。青く輝いていたのだ。


「よく知っているね、他国の上神種にしては珍しいじゃない」


 美有だが、美有ならざる者は拍手しながらそう言った。


「誰だ、貴様」


 男が問うと、


「誰だっていいでしょう?」


 そう返してきた。そして青い瞳は続けて言う。


「私はね、子孫を全滅させられると辛いわけよ」


「子孫だ?」


「えぇ、そうよ。子孫よ」


 男はくだらないと思った。


「それじゃお前、自分が霊魂か何かだとでも言うのか?」


 バカにするつもりで男はそう言った。すると青い瞳は「そうよ」と返してきた。


「…………」


 男は言葉に詰まった。それと同時に、興醒めしたように感じて、


「行くぞ」


 手下を率いて御厨堂近くの森を去った。


 美有の身体に乗り移った霊魂は、その血塗れの身体を見渡して、


「私が抜けたら、絶対に保たないね……」


 悲しそうにそう言った。


 そして彼女はその身体に移ったまま、血を滴らせながら夜道を歩くのだった。

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