1-50(閑話)『遡ること凡1年半』
妖精自治領の件から遡ること凡1年半、神紀4998年夏至前84日。
日渡で当時の臣、磐田大志が殺害された2日後、靜国静岡神社に靜の三大神が戦勝国会議より帰国して事の報告を受けていた。
「面倒なこと言いやがって」
この前日、磐田大志を殺害した犯人である御厨光和が捕まり、磐田神社にて徹底的に取り調べが行われていた。そこで出てきた情報の中に、靜しみずより磐田大志の殺害の指示があったというものがあった。それを聞いたしみずの反応が上記のものである。
「靜の印象を下げかねない言葉ね。許すわけにはいかないわ」
あおいがそう言う。
「それに、今まで良好にしておいた日渡との関係にも亀裂が走りかねない。余計なことを言ってくれたな」
するがが舌打ちしながらそう言った。
「臣殺しじゃ当然死罪なんだから、重要犯罪者として靜に送られてくるよね。地下の独房ってどうなってたっけ?」
しみずがそう言って部屋を出ていく。それを追いかけるあおいとするが。
しばらく歩き、地下牢に着く。
看守はいない。ここには重要犯罪者しか入らないことになっていて、現在それに該当し収容されている者がいないため看守も置いていないのだ。
湿気のひどい空間を進む三大神。
「そういえば、ここの看守ってサハ戦争の時に従軍させるために任を解いたわね」
あおいが思い出したように言う。
「あぁ、そうだったな。それまでは牢内が無人でも配置していたから余計な経費がかかっていたし、そのくせ腕利きの陸軍兵を使っていたからね。宝の持ち腐れだという話になったんだったね」
あおいの言葉でするがも思い出したようでそう返す。
先頭を歩くしみずは呑気に鼻歌を歌いながら歩くが、地下牢の最奥の部屋を見て「あっ」と呟いた。
そうしてしみずはするがとあおいの方へと振り返り、屈託のない笑顔を浮かべた。
しみずの背後にある独房に、小さな天窓から太陽の光が差し込んでいる。
そこに照らされたモノを見て、するがとあおいも苦笑いを浮かべた。
「忘れてた」
しみずは軽い口調でそう言う。その様子には「てへぺろ」という言葉が似合うだろうか。
小さな円形の光に照らされた独房の床には、白骨化した死骸が放置されていた。
サハ戦争前に収容されていた者は居なかったのではない。重要犯罪者だったものの、靜からしたら取るに足らなすぎる小者であったために、いつしか全員から忘れ去られた存在がいたのだ。
覚えていようか、かつて新政渡海國の長として君臨し、西部の渡海国を乗っ取った輩のことを。
覚えていようか、自身の娘が『カミノコ』であることを利用して、下神種だったにも関わらず臣、神を殺して皇神種にまで登り詰めた畜生を。
覚えていようか、その名を。
渡海清庵と言うのだけれども。




