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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
妖精自治領編
70/107

1-13『誰かの掌の上で』

 冬至前60日。


 密約を交わしてから10日ほどが経過して、戦況が動き出した。


 沼をはじめとする東部・猪頭諸国の奮闘により、関東妖精7万と少しを殲滅するに至った。これにより妖精の国には援軍が届かず、妖精は数を減らすだけだった。


 妖精の国は濱竹と沼、宇治枝に支援要請を送ろうとしたが、靜により使者が殺され、新たな支援要請がそれらの国に届くことはなかった。


 靜は国内の『妖精に対する取締法』を強化し、国を挙げて北部の山地にて妖精狩りを行なった。妖精の国はそれに抗議文を送りつけたが、靜が相手にすることはなかった。


 宇治枝と濱竹は、靜に対して妖精の国を支援しろと訴え続けたが、靜がそれに折れることはなく、次第に妖精の国は劣勢となっていった。


 宇治枝が単独で妖精の国の支援を検討したが、靜に目を付けられて警告を喰らい、さらには関東からの情報をどう仕入れたのか問いただされて、送り込んだ間者からの情報だと主張。靜は宇治枝が他にも情報を握っているのではないかと考え、現在恭之助を尋問にかけている。


 宇治枝が動けなくなったことで濱竹安久斗は靜を説得できないと判断し、妖精の国と井谷の間を取り持って和平をさせると靜に進言。靜がそれを了承し、根々川国の川根神社にて和平交渉が行われた。


 和平交渉は、井谷より提示された重い賠償と活動の制限、井谷川以東の領土割譲の要求に妖精が反発し、決裂に終わった。


 それでも濱竹安久斗は妖精の国に対して「どれだけ重くとも受け入れるべきだ」と主張を繰り返したが、久野脇じなをはじめとした妖精たちは怒り心頭に発するあまり勢いで戦争継続を選択した。


 最終的に安久斗はその選択を尊重したが、負け戦が確定した時点で濱竹へ逃げて来いと亡命ルートを提示した。


 そうして、たった2日の停戦期間を終えて、これからまさに再び火蓋が切られようとしていた。


「どうだ、武器は揃ったか?」


「おかげさまでな。よく10日足らずで運べたな」


「そりゃ元から井谷国境付近にはたくさん用意してあるからな」


「あ゛? おいコラどういうことだ!?」


「国境近くで軍事演習しまくるお前が撒き散らした種だ」


 安久斗と俣治はそんな会話をする。しかし再戦が始まるまでに武器が揃ったことは紛れもない事実で、井谷軍の装備は満たされていた。


 さらに、サハ戦争を経験した濱竹の最新鋭の武器というだけあって、その威力は井谷九八式弾撃に勝るとも劣らない代物だった。それでいて九八式よりも軽量で小型。総じて優れた武器だった。


「あーあ、俺もサハ戦争に参加しとけばよかったぜ」


 俣治はそう言う。


「だが井谷がいなければ連邦の警備ができないのは事実だ。靜は祖神国家で協商に入ったからには参加しなければならなかったし、濱竹では東部まであまねく見渡すことは不可能だ」


「まぁ頼られて悪い気はしなかったがな」


 俣治はそう言って笑った。


「ま、参加したからといって良いことばかりがあったわけじゃない。理不尽なこともたくさんあったし、何しろ寒かった」


 安久斗はそう言って、


「さっさと片付けるぞ」


 と俣治に告げて彼の方を叩いた。


「任せろ」


 俣治はそう返し、九八式を背負った。




ーーーーー

ーーー




 根々川国川根神社に、井谷俣治が顔を出した。


 出撃せんとする井谷軍を鼓舞するためである。


「ここまでよく耐え抜いた。もう容赦はしなくて構わない。奴らは俺の慈悲ある声掛けに反応せず、滅びを選択した。ならば我が軍が成すべきことはひとつだけだ! 願い通り、奴らを葬り去ってやることのみ! 甲信と名護より武器を買い、我らは再度出立する。完全復活した我が軍を前に、為す術なく滅びゆく哀れな小さき者どもを見て笑え! それが我ら井谷国民の務めである!」


 俣治の言葉に「おー!」と盛り上がる兵士たち。


 その隣の部屋で、迷惑そうにため息を吐く根々川千鶴。千鶴の横には無表情のまま庭を眺める兎山明がいる。


「……うるさい」


 千鶴がそう呟いた。


「仕方ないわ。軍隊に場所を提供するということはそういうことよ」


 明は千鶴に返す。


「妖精たちはなんで和平を結ばないのよ。俣治も少しばかり優勢だったからといって、要求が重すぎる」


 千鶴が文句を垂れる。


「井谷からしたら損害が大きすぎたんじゃないかしら。妖精にこてんぱんにされたのが余程気に食わなかったのよ、きっと」


 明がそう言う。


「……ねぇ」


 千鶴が明を見て言う。


「なによ」


 明は庭を見たまま返す。


「何か裏があるように見える」


 千鶴は明にそう言った。


「そりゃそうでしょ。でなきゃそもそも俣治が安久斗の提案する和平交渉に乗らないわ」


 明はそう返した。


「内容、知らない?」


 千鶴は明に訊く。


「知らないわ」


 明はそれだけ返すと伸びをした。


「〽︎が糸を引きし舞台を眺め見て……」


 千鶴がそう上の句を詠んだ。そして明に視線を送る。明はそこで初めて千鶴を見ると、少し考えて、


「〽︎演者はたれぞ今に分からむ」


 と下の句をくっつけた。すると千鶴は肩を竦めて微笑んで、


「楽しみだね」


 明にそう言ってきた。


「そうねぇ」


 明は再び千鶴から視線を外し、正座をしたままパタリと後ろに倒れると、天井に向かってそう呟いた。


 そしてハッと気がついて首を千鶴の方に向けると、


「季語がなかったわね」


 と言った。


「……たしかに」


 千鶴も思い返して頷く。


 そうしてしばらく沈黙が訪れたが、それがどこか面白くて二人で小さく笑い合うのだった。




ーーーーー

ーーー




「じな! 大変よっ!」


 普段冷静なぬくりが焦った表情で部屋に飛び込んで来たのを見て、久野脇じなは只事ではないことを悟った。


「沼が、私らの支援要請を蹴り飛ばしたわ」


 やはりか、とじなは思う。予想通り、良い知らせではなかった。


「それと、」


 続けてぬくりはそう切り出すと、じなの元に歩み寄って1通の手紙を手渡した。


 それは未開封で、封のところに靜の紋章が記されていた。


 靜から手紙が来たことなど返事を含めて今までなく、それが朗報であるのか悲報であるのか、直感的に後者であると察するに至る。


 じなはぬくりから紙を受け取り、その文書を机に広げて目を通す。隣でぬくりは小さく縮こまって震えている。


「『妖精諸君、ご機嫌よう。靜連邦祖神の靜である。この度は我が連邦内にて神類との交流に勤しんでいるようでご苦労と思うが、貴殿ら一団を我が国は承認せず、尚これ以上の身勝手は許せじ、濱竹からの和平の提案があったにも関わらず井谷との交渉を早々に諦め戦に走った連々(つれづれ)をこの連邦を束ねる祖神国家としてみす/\見逃すわけにも行かず、遂には此処に井谷と協調し貴殿ら一団図々しくも名乗りて曰く妖精の国に対して宣戦布告を伝えるに至る。神紀四九九九年冬至前五十八日、靜あおい、靜するが、靜しみず連名』…………」


 じなはこの手紙を読むうちに血の気がなくなり、読み終わると同時に震え上がり、手紙の上に立ち尽くした。


「靜が……?」


 絶望がじなを支配した。


「どうしてよっ! 不干渉じゃなかったの!?」


 手紙を足でぐしゃぐしゃに踏み躙りながら叫ぶ。冷静ではいられない。当たり前だ、井谷だけでも手いっぱいなのに、そこに若干劣る程度の軍事力を保有する大国が加わると言うのだから。


 また靜が敵に回れば連邦の神類は祖神国家である靜に付き従わざるを得ない。


「…………」


 重い空気が襲う。


「じな」


 彼女を呼びかけたのはぬくりだった。じなは腫れた目でぬくりを見た。


「もう、やめよう。勝てないよ、私らじゃ」


「…………」


 しかしじなは首を縦に振らない。その理由が、


「いいや、戦い抜くしかないわ!」


 扉を開け放って入ってきた、妖精にしてはがたいの良いボーイッシュな女。


 彼女は刀(神類や人類の言うところの針)を腰に刺し、頬や首に傷跡があり、まるで戦地帰りの軍人のような出立ちでいる。


「秩父さん……」


 そう、その妖精は関東統一連邦の済田国に拠点を持っていた秩父妖精族の長、秩父あら。関東から来た援軍を管理していた者で、妖精の国に入ってからは川根妖精を見下して強気の姿勢を取り続けている。


 関東統一連邦で虐げられながらも生き残ってきた妖精族の長というからには、その実力はやはり確かなもので、川根妖精は太刀打ちできず、実情としては国の長であるじなは傀儡となりつつある。また、元からいた靜連邦の妖精も国にやって来たのは良いものの未だ細かな派閥の垣根は越えられずまとまりきれておらず、そこに降って湧いた組織的協調の取れた強い関東妖精が権力を握ってしまったのだ。


 そういうわけで、秩父あらの顔色を見てしか動けない状態となってしまったわけだ。


「甘いことを抜かしているんじゃないわよ! あんたら川根の連中はそもそも神類と対立するべくして立ち上がったんでしょう? ならこれでようやく本番が始まったんじゃない。そこで日和ってしまっては国となった意味がないじゃない」


 あらはそうじなたちに言った。


「でも、私たち妖精に靜とやり合う力はないわ。井谷だけで手いっぱいなのに……」


「弱々しいこと言ってんじゃない! 私ら関東妖精がいるんだから戦えるに決まっているじゃないの! なんて言っても私らは南四連邦の祖神どもから生き延びて来たエリートよ!」


 あらは意気揚々と語る。それでも、じなとぬくりの不安げな顔は変わらない。


「……チッ。辛気臭い。あんたらは黙って私らの戦い様を見てりゃいいのよ!」


 あらはそう言うと部屋から出ていった。


「辛気臭いのはこっちの方だっつーの」


 閉じられた扉に向かってぬくりが呟く。


「……ぬくり」


 じなが呼んだ。ぬくりが振り向くと、目が合った。


 真っ直ぐな視線でじなはぬくりに言う。


「かわちと一緒に、関東妖精にバレないように靜連邦の妖精を濱竹へ避難させて。関東妖精が戦線を維持できなくなったら、私たちは濱竹に逃げよう」


「それって……」


「秩父さんにこの国の主権をあげるの。国は滅びるはずよ。でもそれでいい。私たちはこの国を捨てて、濱竹で生きるのよ」


 じなはそう決断を下した。


「……わかった」


 ぬくりはじなの覚悟を感じ、そう返事をした。




ーーーーー

ーーー





 冬至前56日。ぬくりは濱竹の昇竜区春野神社に入り、濱竹安久斗と会談する。


「そうか。妖精の国もそんな実態になっているとはな」


 安久斗はぬくりから妖精の国の現状を聞き、笑った。


「なによ、私らの不幸がそんなに面白いの?」


 安久斗の笑みに対してぬくりが言うと、「違うさ」という言葉が返ってきた。そして安久斗はぬくりに向けて笑みそのままに、


「これは都合が良いと思ってな」


 と言う。ぬくりは言葉の意味がよく分からず「どういうことよ?」と返す。


 すると安久斗がニヤリと笑いながら「知りたいか?」と訊いてくる。


 ぬくりは何も答えなかったが、安久斗は気にせず語り出す。


「妖精の国に、南四連邦から援軍が送られているという情報は届いていてな。それは靜連邦に取ってみりゃ気持ちの良い話ではなくてな。それに対処するべく、濱竹、井谷、沼、靜が協力する形を取り、お前らの国を取り囲んだ」


「…………」


 ぬくりは衝撃的な事実を目の当たりにした。


 濱竹が支援要請を蹴り飛ばし、井谷の攻勢が強まり、沼が蹴り飛ばし、靜が不干渉を破った。この一連の絶望的な流れが全て仕組まれた出来事だったと知ったのだ。


「だが、それは今のお前らにとっても都合の悪い話じゃないだろう? 少なくとも、妖精の国を頼った靜連邦の妖精にとって、新たに入り込んで我が物顔で国を操る関東妖精は気に食わないんじゃないか?」


「それはそうだけど……」


 ぬくりが言い淀むと、安久斗がぬくりの頭に人差し指を置き、軽く撫でながら告げる。


「言っておくが、俺がお前にこのことを話すのはそう簡単な心構えではできないぜ? お前がこの情報を妖精らにばら撒けば、俺たちの計画は頓挫する。俺はお前が抱いている感情と、心の中に渦巻いているどうしたいのかという想いを推察し、この情報を話した。まぁ大きな賭けではあるがな」


「むぅ……」


 ぬくりは照れくさそうに視線を逸らすが、


「私らは、関東の妖精を追い出したい。このまま見下されて乗っ取られるくらいなら、国の形が維持できなくなった方がいい。じなもかわちもその想いが強くなってきたから、覚悟を決めて私がここに送られたの」


 そう言った。


 それを聞いて、安久斗はまたニヤリと笑うと、ぬくりを自分の右手に乗せると顔に対して真正面の位置まで持ち上げて、目を見て言う。


「ならばその願い、俺が……いや、俺たちが叶えてやる。靜連邦から異物を取り除くべく、そしてなによりも靜連邦の妖精を守るべく、俺たちが妖精の国を滅ぼしてやる」


「…………」


 ぬくりはその言葉に頷くことも首を振ることもしなかった。ただ静かに、潤んだ瞳を安久斗に向けていた。


 妖精の国を巡る作戦は、これを以て最終盤に差し掛かった。




ーーーーー

ーーー




「もうダメよ、秩父さん! これじゃ国が潰れちゃう!」


「弱音を上げるな、まだまだやれるはずよっ! じきに大軍が到着するわ! それが集まれば、一気に反撃に出るわよ!」


 冬至前55日、妖精の国の拠点の久野脇堂にて、じなとあらがそんな会話をする。しかし大軍など到着するはずがない。それらは沼をはじめとする東部・猪頭諸国によって一匹残らず排除済みである。


「それでも無理だよ! 井谷と靜相手に私たちがまともに戦えるはずがないわよ」


「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない。やる前からヘタれたこと言ってんじゃないよ!」


 じなの言葉はいつまで経ってもあらに届くことはない。


 そうしているうちに、井谷・靜連合軍が久野脇堂の目と鼻の先まで迫ってきた。


「あー、もう無理よ、無理! 停戦しよう、もしくは逃げよう!」


 じなはそう言って部屋を飛び出した。


「何を言うのよっ! ここからが正念場でしょう!?」


 あらの言葉はじなに届かなかった。そのまま部屋を飛び出したじなは、敵軍の本拠地に向けて一直線に飛んだ。


 九八式やら濱竹製小砲の弾幕を浴びるが、じなも伊達に妖精の長ではない。持ち前の俊敏さでそれら全てを躱し、本陣の前で降り立った。


 そこに居たのは井谷俣治と靜しみず、根々川千鶴、そして濱竹安久斗の4者だった。


「んで、どんな感じだ?」


 俣治の問いかけに、じなは「予定通りよ」と返す。


「んじゃ、俺の出番だな」


 安久斗がそう言って立ち上がる。


「全軍。攻撃、やめ」


 同時にしみずがそう指示を出し、神類からの攻撃が止まる。


「俺が戦意のない妖精を昇竜まで逃す」


「なるべく早くしてね。でないと、短気な俣治が濱竹諸共吹っ飛ばしちゃうかもしれないから」


 しみずの言葉に安久斗は苦笑い。「しねぇよ」と俣治が呆れたように突っ込む。


「ま、そうならんように急ぐさ」


「だからしねぇって」


 そんな会話を経て、安久斗はじなに連れられて久野脇堂に向かった。


 安久斗が久野脇堂に入城する。といっても、御堂自体は小さいので中には入れず、門外の広場に座るだけだが。


 この戦争に参戦しておらず、妖精からしたら未だ味方となり得る存在であるため、もちろん安久斗に攻撃をすることはない。


「井谷と靜に無理言って、少しばかり攻撃停止に漕ぎつけた。この間に、濱竹へ避難したい者は直ちに逃げろ」


 御堂に向けて安久斗が言う。


 すると多数の妖精が外に出てきて、わらわらと忙しなく飛び去っていった。


「誰よ、あんた」


 しかしそんな中、安久斗の前に数体の妖精が並んだ。


 関東妖精である。


 代表で声を発したのはもちろん秩父あらだ。


「靜連邦二大統率国がひとつ、濱竹の神、安久斗だ。見ねぇ顔だがどこのどいつだ?」


「…………」


 その問いかけに、あらは黙った。神類に対して関東妖精だとは言えないからだ。


「ま、いいが」


 安久斗はそう前置きし、


「お前らは逃げなくていいのか? 今逃げれば、この俺が衣食住を保証してやるが」


 敢えて上から目線でそう告げた。


 その言葉に関東妖精は腹を立てる。


「馬鹿にしないで。私らは最後まで戦う。戦い抜いて、この国を妖精の理想郷とするのよ!」


 あらがそう言う。


「そうかよ」


 安久斗はそれにそう返すと、


「ま、気が変わったら濱竹に来い。守ってやるから」


 そう付け足した。


 関東妖精はそれを聞いて舌打ちすると御堂の中へと帰っていった。




 安久斗が待つこと3時間。


 避難準備の整った妖精が安久斗の前に整列を始める。その中には、妖精の国を管理していたじなとぬくり、かわちの姿もあった。


 彼女らは国の主権を秩父あらたち関東妖精に託し、この国を捨てることを決断したのだ。と言っても、もちろん作戦のうちであるが。


「他はいないか?」


 整列が終わると、安久斗がそう声を掛けた。反応がないためいないと見做し、安久斗は妖精およそ1万を従えて濱竹へと去った。


 その僅か7分後、井谷と靜は攻撃を再開し、今まで以上に大規模な攻勢に乗り出したのだった。


 靜連邦の妖精が国を去り、残された関東妖精は、井谷と靜の戦力を測るため捨て身で戦闘を継続するが、戦争再開から30分余りで久野脇堂は濱竹製大砲と靜九九式大弾撃(靜が協商の支援を受けて作った最新鋭の大砲)の集中砲火に遭い木端微塵に粉砕、炎上し、陥落した。


 生き延びた妖精は靜によって捕獲、収容され、どのような経緯でここに来たのかなど洗いざらい吐かされることとなるに至るが、最後まで国を指揮した秩父あらとその他首脳陣は逃亡しており捕獲できなかった。


 関東妖精首脳陣が逃げた先は濱竹だった。


 昇竜妖精会と川根妖精が不仲であることを知らない関東妖精は、昇竜妖精会に匿ってくれるよう頼み込んだ。


 しかし昇竜妖精会は、川根妖精と関東妖精を区別せず妖精の国としていっしょくたに括って考えているため、匿うフリをして翌54日安久斗に差し出した。


 妖精の国の戦後処理は靜国にて行われ、国土の分割は井谷川を境に東を井谷が支配し、西の地区は根々川に返還された。これにより、井谷の国境が宇治枝、島谷沿いに大きく広がり、靜勢力圏と深く接することとなった。


 これは連邦諸国にとって軍事衝突を招きかねないと懸念材料になったが、靜にとっては井谷を監視する目が増えたことを意味し、特段反対意見を気にすることはなかった。


 関東より送られてきた妖精は戦争犯罪として靜国にて裁かれ、情報を吐かせ次第処分に移った。


 妖精会から安久斗に差し出された秩父あらをはじめとする関東妖精首脳陣も、靜へと引き渡され裁判に掛けられることとなったが、濱竹の外へ出すと逃げる可能性があると判断されて昇竜行政区二俣神社にて裁かれることとなった。


 結果は言わずもがな、処分であった。


 一方で濱竹へと避難した川根妖精には約束通り衣食住が与えられたが、同時に濱竹国民としての名義や義務、戸籍を得て、濱竹及び昇竜行政区からの出入りが厳密に管理されることとなった。


 国家を指導した久野脇じな及び右左翼の3名は、靜に戦犯として裁くよう自ら申し出たが、どういうわけか靜がそれを却下しお咎め無く生き延びることとなった。


 その後、川根妖精は井谷の国境に程近い犬間いぬま(旧井谷領で安久斗が協定井谷から奪い取った地域のひとつ)という山奥に移され、自治を認められた代わりに山地の開拓という使命を負わされた。


 もちろん自治を認められたということは自治領となるわけであり、そこは『濱竹国妖精自治領』と名を冠するに至った。


 神治への介入権が長、右翼、左翼に与えられ、自治領といえども濱竹安久斗の厳格な管理下に置かれることとなった。


 同時に濱竹は、実質的に妖精自治領と対立している昇竜妖精会にも、昇竜行政区北部の春野、水窪、佐久間一帯に簡易自治権を与え、神治への参画を求めた。濱竹による妖精管理の厳格化がより一層進むこととなった。


 また、靜連邦内の妖精にとっては昇竜行政区が妖精の国に代わる理想郷として扱われることになり、連邦諸国に散らばっていた妖精は最終的に昇竜妖精会か妖精自治領に収まるに至った。


 結果として、安久斗は連邦全域に生息していた妖精を独り占めすることとなったのだった。




ーーーーー

ーーー




「連絡が途絶えたか」


 関東統一連邦盟主、南四連邦東輝国祖神、東輝洋介は笑いながら言う。


「ということは、妖精は壊滅させられたってことね」


 同じく南四連邦夏半国祖神、夏半若菜が椅子の背もたれに寄りかかりながら返す。


「駆除してくださりありがとうございますと言わねばなりませんね」


 同連邦済田国祖神、済田政樹が眼鏡を拭きながらそう言った。


「でも10万もの妖精を駆除しちゃったってこと? この短期間で」


 同連邦千羽国祖神、千羽舞が疑問を投げた。


「そういうことだな。若菜、詳しい情報握ってんだろ、教えろ」


 洋介の指示に若菜が頷く。


「報告によると、計画は濱竹安久斗によって立てられ、不仲である井谷と即座に和解、共闘の意を示し連携を取ったそうよ。その後で沼と猪頭、靜に濱竹の作戦が伝えられ、関東から流れ込んだ妖精の大規模な駆除と、関東妖精が入り込んで乗っ取られつつあった妖精の国の解体に動き出したとのことだったわ」


「つまり靜連邦の頭脳は、やはりあの濱竹安久斗であるということですね」


「そう見て良さそうだね」


 若菜の報告を受けて、眼鏡を掛け直した政樹が言うと、舞が頷いた。


「妖精を派遣してから完全排除までに掛かった日数はおよそ20日。結論として、靜連邦の結束力は侮れないな」


 洋介がそう言う。


「あんまり下に見れないかもしれないわね」


 それに対して若菜が言う。


「濱竹と井谷、井谷と靜、靜と濱竹。それぞれがあまり良好な関係でないと聞いていましたが、いざとなれば垣根を越えて纏まることができるというのは脅威ですね」


「ここまで迅速に片付けられると、不仲ってのも演技の可能性が出てくるね」


 政樹と舞がそう発言すると、洋介が「まるでお前らじゃねぇか」と笑う。若菜もクスクスと笑っている。


「ちょっとどういうことよっ!」


 そう怒る舞に、


「あなたのそうやってすぐになんでも怒るところが気に食わないのですよ」


 と政樹。


「ぐぬぬぅ……!」


 舞が政樹を睨みつけるが、政樹は知らん顔でコーヒーを飲んだ。


「ま、それはいいけどよ。どうする?」


 洋介が問いかけた。


「どうって、何を?」


 舞が訊くと、


「靜連邦の解体方法よ。今のまま纏まっていられたら、私たちにとっても不利益でしょう?」


 そう若菜が説明する。


「そうですねぇ」


 政樹はそう言って考える。


「では、こういうのは如何でしょうか?」


 数秒の後、政樹は考えを語るのだった。


 靜連邦は、裏でうごめいていた南四の本当の思惑など、何も知らないのであった。

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