1-10『戦況を顧みるに』
神務局とは、神務局長を頂点とし国家を統治する機関である。神務局長は神務卿との会議を経て優先的にやらなければならないことを決め、優先順位に沿って事業を進めていくよう局員に命じる。
神務卿は、国を統治する上で何をするべきかを神と共に決め、国家をより豊かにするために尽力する。神、臣、巫女に次いで偉く、内政における実質的な一位の座に就く役だ。
それに並ぶは軍の頂点、軍総長(通称:将軍)と、全ての行政区を満遍なく見渡し統括する行政総長。格式が高く、神からの信頼がなければ務まらない職である。
その中でも、最も重視されているのが神務卿だ。理由は、神務局という国家事業を進める機関を傘下に置いているからだ。
「状況は?」
安久斗と山樹が訪れたのは、神務局の連邦時事取扱部というところだ。
ここでは、靜連邦の時事ネタがいち早く集まり、連邦各所でどのようなことが起こっているのかを知ることができる。
「井谷軍は思ったように進行できていない様子です。いかんせん相手は妖精ですから、素早い動きや空間の支配に長けております。また、妖精の国の影響力は凄まじく、甲信連邦の妖精が上井谷地区に挟み撃ちをするように襲撃しているとの情報もあります」
「妖精の情報網は連邦に囚われていないということか」
「はい」
状況を聞いた安久斗は、妖精の国が健闘していることを意外に思う。もっと悲惨な状況かと身構えていたが、そうでもなかった。
「しかし、井谷もまだ大型兵器を投入しているわけではなく、今後どのようになるかは未知数です」
「なぜ大型兵器を投入しない? 井谷ならば戦車や大砲など様々あるではないか」
「それが、軍事通行権を出している根々川が大型兵器の入国を拒んでいるようです。山や川、土壌を踏み躙るそれらの兵器が通れば、根々川の産業が衰退しかねないと」
「なるほど、千鶴らしいな」
つまり井谷は全力を出し切れていない。また、妖精の国は妖精の規格で全てが作られているために小さく狭く、大型の兵器の運用が難しい面もあるそうだ。
「総じてどちらが優勢だ?」
「もちろん優勢なのは井谷でございますが、現状は五分五分、このまま参戦国が増えなければ、妖精側にも一縷の望みがあるといったところだと存じます」
「そうか、ありがとう」
安久斗はその情報を手にして神社に戻った。
山樹は神務局でやることがあるらしくしばらく残るそうで、安久斗はひとり神社に戻るのだった。
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「くそっ、妖精の分際で手間取らせやがって……!」
井川閑蔵は、根々川国川根神社で文句を垂れる。それを根々川千鶴は黙って見つめている。
井谷国は作戦本部を川根神社に置いて、そこから指示を出している。それを任されているのは臣の閑蔵である。
しかし、その手腕は今ひとつといったところ。井谷で独裁を敷く男であるが、お世辞にも頭はよろしくない。
神の俣治が指揮をとった方が数倍上手く事は運ぶのだが、俣治は井谷国内の匙を握りたがらず、その手のことは専ら臣と巫女に任せきりである。それが本来の神治制の姿であり、俣治はその在り方に固執しているのだ。
井谷俣治が悪者のように言われる世の中だが、それは臣家の井川家が代々横暴な振る舞いをし、俣治が臣の政策に合わせているだけの話である。濱竹や靜のように本来の神治制の在り方を無視して国内外に神が出しゃばることを、俣治は最も嫌うのである。
よって今回も、俣治が指揮棒を振ることはない。全て井川閑蔵の手に委ねられ、俣治は国で高みの見物をしているわけだ。
「妖精の国は勢力を増すばかり。こっちから攻め込んだ軍隊は減るばかり。もう辞めたら?」
そう指摘するのは、先ほどまで閑蔵を眺めていた根々川千鶴である。
「何を言うかっ! この井谷軍が妖精相手に撤退したとなれば、俣治様の御名に泥が付くだろうが!」
閑蔵は千鶴にそう怒る。それを聞いて千鶴は心底機嫌を損ね、閑蔵に話を振るのではなかったと声をかけたことを後悔した。
井川閑蔵は、見下す国の神には敬う素振りを見せない。まるで神として扱わず、言葉遣い、態度、その他全ての事柄において無礼を働く者である。先ほどの発言も、相手が神であるにも関わらず敬意を示さず、まるで自身の部下と話すような言葉遣いであった。
「兵を犬死にさせ続ける方が名前が汚れそうだけど」
千鶴はそう呟くと部屋を出て行った。
閑蔵はぴくりと体を震わせたが、「黙れっ! 口出しするな!」と大声で千鶴に返した。
もうそこに千鶴はいなかったのだが。
その間も、戦況は変わらない。井谷軍は進めず、かといって妖精たちも反撃の決め手がなく、お互いに命を垂れ流すだけの状況が続く。
「焦ったところですぐには変わらないわよ」
閑蔵に声をかけたのは、兎山明だった。
「兎山様……!」
閑蔵は明を見て頭を下げた。
「状況が変わらないということは、好転することもなければ悪化することもないということよ。しばらくはこのまま膠着状態。こちら側も決め手に欠けているけど、それは向こうも同じこと。濱竹や沼が支援を表明しない限り、妖精に味方は増えないわ」
明は閑蔵にそう言った。
「しかし、濱竹や沼が向こう側につけば……」
閑蔵はそれを聞いて意見を述べようとしたが、
「つかないわよ。特に安久斗は絶対に動かないわ」
明によって封じられた。
「どうしてそう言えるのですか?」
疑問を口にすると、
「安久斗はこの状況で井谷と対峙しようとはしないわ。そうなれば神類国家の戦争になってしまう挙句、妖精の肩を持つ濱竹側につく味方は見込めない。神類国家の戦争となればさすがに靜が黙っていないだろうし、そうなればいくら井谷が嫌いな靜でも妖精の味方をしてまで井谷と敵対しようと思わないでしょう。結局は靜を味方につけた者勝ちの世界なんだから、劣勢となると分かっている限り濱竹は動かないわ。もちろん沼も同じよ」
「なるほど……」
閑蔵は明の言葉に感心した。明はそんな閑蔵を鼓舞するように言葉をかける。
「だから、お互いに決め手がない限りしばらくこのままよ。あなたは神を信じて、戦況が悪化しないように最善を尽くしなさい。究極、この現状を維持できれば上々よ」
「で、ですがこちらにも決め手がございま……」
「だから、神を信じていなさいと言ったのよ」
「と、言いますと?」
物分かりの悪い子だ、と明は心底呆れた。しかし相手の性格が性格であるためそれを表に出すわけにもいかず、努めて笑顔を作ると、
「あなたの神が無策でいるとでも思っているのかしら?」
そう言葉をかけた。
閑蔵の顔に笑みが浮かんだ。
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「お前らんとこからも妖精が集まってきてんだ。おかげでこっちは大損害なんだが?」
井谷国の北方、靜連邦の角の部分のことを上井谷と呼ぶのだが、その拠点は標高にしておよそ3100mを誇る間ノ岳の麓、井谷川の源流付近の間ノ岳東俣神社(通称:上井谷神社)というところだ。
上井谷の拠点とは言うが、井谷国の中でも秘境中の秘境で、俣治もそう頻繁に来る場所ではない。また連邦最北に位置しているとはいえ、北側(甲信連邦側)からの進入は間ノ岳(3189m)と木多岳(3193m)に阻まれ難しく、東西も急峻な山脈が伸びるためそう簡単には入り込めない。防衛に特化した空間であることに間違いない。
俣治がこのような秘境に拠点を置く理由はひとつだけだ。それは、秘密裏に甲信連邦と交流を持つためだ。
上井谷は秘境であるため、靜や濱竹の管理を掻い潜ることができている。即ちここは目につかない場所なのだ。だから隠れて関東統一連邦に属する甲信連邦と交流を持つ拠点としているのだ。
そして、井谷俣治と特段親しい付き合いがあるのは、
「知らない。私、妖精を送った覚えはない」
甲信連邦祖神の一角、山奈志乃だ。
「だが凛音は信州の妖精を一括管理してんだ。となったら、管理が甘い甲州の妖精どもが集まってんじゃねぇのか?」
「バカにしないで。私だってちゃんと管理してる」
「ほんとかぁ? 去年サハ戦争から帰ってきたら、妖精がもぬけの殻になっていて騒いでたじゃねぇかよ。再び収容したとは言ったが、取りこぼしがあったんじゃねぇか?」
「むぅ……」
志乃は痛いところを指摘されて視線を逸らす。それを見て俣治が笑った。
「ともあれ、お前んところから妖精が流れて来てんのは明白だ。お陰様でこちとら事が片付かん。手を貸せ」
「嫌だ。靜連邦と関わるとろくな目に遭わない」
志乃はそう言って顔を背けた。
「だが、お前の管理不行き届きでこっちはそれなりに被害が及んでいる。早期で終わらせられるはずの戦いが長引き、兵士も想定よりも多く死に、兵器だって壊れている」
「それは単にあなたが思っていた以上に妖精が強かっただけで、私は何ら関係ないと思う」
「いいや、お前んとっから流れて来てんのが悪く働いてるぜ。何しろそっちにいるのは、長年関東で虐げられてきた種族だろ? ってことは、生き残るために能力も強く進化してるってもんだ」
「そうとは限らない」
「いいや、そうに限る」
「限らない」
「限るな」
「限らない!」
「限る!」
などと不毛な言い合いが続く。
「まぁそこら辺にしなさい」
そこに割って入ったのは、甲信連邦の信州を治める永井凛音だ。
「ひと通り志乃と私の管理データを漁ってみたけど、逃げ出した様子はなかったわ」
「ほらー!」
凛音の言葉を聞いてドヤ顔をする志乃。
「でもね、」
そんな志乃を他所に、凛音が続けた。
「俣治に頼まれて動かした調査隊によると、済田から甲州に妖精が入って、盆地のへりを舐めるように移動し、富田川沿いに南下した痕跡が発見されたわ」
「ということは、南四から妖精が流れて来たということか」
「えぇ、それもかなりの数が移動した様子だったって」
「具体的な数は?」
「分からないけど、2万は下らないとみていいわ」
「そりゃ殺しても殺しても湧いて出るわけだ」
俣治は凛音から情報を聞き頬を掻く。
「ただ単に妖精の情報網が優れているのか、それとも南四が一枚絡んでいるのか……」
「分からないわね。ただ、南四が絡んでいるとすれば、わざわざ甲州を通らないと思うのだけど。夏半から熱山なり大山なりへ抜けるはずよ」
「となると、妖精の情報網で連邦の枠を越えて応援が来たと見るべきか」
「そうね」
その見解を聞いて、俣治は「ふむ」と考える。そして出した結論は、
「この調査結果と今の戦況を南四連邦に報告し、妖精を鎮静化させるために井谷と協力をしたいと申し出てくれないか?」
「つまり、支援しろということね」
凛音がそう確認すると、
「それもあるが、この件に南四がどう動くのか見たい。もし南四がその申し出を断るようなら、この妖精の移動に南四が絡んでいる可能性があると言えるだろう」
と俣治。
「……南四はそんな単純じゃないと思うけど」
それを聞いて志乃は少し首を傾げるが、
「分かったわ。甲信連邦としても妖精に入られると面倒だから南四に報告するわ。井谷の支援は、靜連邦の内政に干渉してしまう可能性があるからできるか分からないけど、俣治が苦戦していることを伝えておくわね」
凛音は俣治からのお願いを受け入れて返事をした。
「それではまるで妖精もろくに倒せないゴミのような扱いを受けそうだが」
「それでいいじゃん、ゴミめ」
「あ゛?」
懸念を示した俣治に志乃が言う。俣治はそれに怒った。
それを見て、凛音がクスクスと笑った。
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「妖精たちが井谷とまともにやり合えている現在の戦況を顧みるに、支援するに値しないと判断し、我が国は妖精の国からの支援要請を断るものとする」
冬至前76日、濱竹議会で結論が出された。
僕と花菜はその結論を聞いて議事室を去る。
「なんというか、頑張っているからこそ支援されない妖精たちって可哀想よね」
花菜がそう言う。
「たしかに。劣勢じゃないと支援しないって考えだもんね、濱竹は」
僕がそう返すと、
「今この状況で濱竹が支援すれば、確実に妖精の国は勝てるのに」
と花菜は少し勿体無いと言わんばかりの口ぶりで言う。
「でも、濱竹幹部は頑なに支援したくないように見えたね」
「あ、それ私も思った! なんていうか、断る理由を探しているような雰囲気あったよね」
僕と花菜はそんな会話をする。
「そう見えたか?」
すると背後から声を掛けられた。
立たれていたのは安久斗様で、僕と花菜は足を止めて振り返り跪いた。
「いや別に立ち話で構わん」
すると安久斗様に笑われた。僕らはお言葉に甘えて立ち上がる。
「で、まぁ結論を言えばその通りなんだがな」
安久斗様は頬を掻きながらそう言った。
「でしたら、別に議会で話し合う必要などなかったのではありませんか?」
僕が訊くと、
「反応を知りたくてな。幹部とは話し合って方向性を決めていたのだが、他の議員や昇竜の妖精らが支援に対してどういう反応を示すのか見ておきたかった」
と安久斗様。
「今日の様子を見るには妖精含めて支援したくないって雰囲気でしたね」
花菜がそう言うと、
「そうだ。だから結果として議会にかけなくても良かったわけだが、昇竜の妖精が心変わりをしている可能性があったからな」
と安久斗様。
「と言いますと?」
僕が訊くと、
「実は奴ら、妖精の国と不仲なんだとさ。俺も最近知ったことだがな」
と安久斗様が仰る。
「そうなんですか!? 同じ妖精なのに?」
「神類同様、妖精も地域によって仲の良し悪しはあるそうだ」
なるほどなぁ。一括りに妖精とは言えないわけだ。
「だがこの前、昇竜の妖精が井谷を支援したいと言い出してな。その申し出を蹴り飛ばしたところなんだ。妖精の国を支援するならまだしも、井谷側につくなら国から追い出すと言ってやった。返事はないからおそらく動かないということなんだろうが、もしそれで心変わりしていたら面倒だろう?」
「妖精も大概面倒な連中ですね……」
花菜が安久斗様に言うと、「そうだ、奴らは面倒だぞ」と安久斗様。
「で、結局心変わりしていなかったから良しと言うわけですね」
僕が言うと、「まぁな」と返される。
「ですが、なぜ安久斗様は妖精の国を支援されないのですか? 井谷と仲が悪くて妖精を神治に取り込まれているのなら、妖精の国を支援しておいて損はないと思いますが」
僕が尋ねると、安久斗様に大笑いをされた。
「俺の口から言ってやっても構わんが、臣であるなら少しは国家情勢を考えてみろ。分からなければ明にでも聞け、きっと蔑んだ目でお前を見て、呆れながら答えてくれようぞ」
そう言われて僕の頭に大きな手が置かれた。そしてわしゃわしゃと掻き毟られた。
「花菜、お前は分かってても言うなよ? こいつには少し勉強が必要なようだからな」
「安久斗様の仰せのままに!」
花菜は敬礼しながら安久斗様に返す。安久斗様はそれに苦笑を浮かべて去っていった。
「あ、そうだ。私すこし喜々音ちゃんと話してから帰るね! 大智は先行ってていいから」
その後、花菜も駆け足で去っていった。これは僕に答えを言わないように配慮してのことか。
花菜って、ああ見えてもしっかり巫女なんだよな。安久斗様がなぜ断ったのかも分かっているわけだし。
……僕より頭弱そうなのに。
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「よっ。久しぶりだねぇ」
俺が執務室に戻る途中、どうしても神社のエントランスを通らなければならないそのタイミングで、招いてもいない客が入って来た。
「恭之助……」
謹慎が明けやがったか。このまま一生謹慎でも良かったのにな。
「おっと、俺のことはお呼びでないというお顔だねぇ安久斗くん」
「逆にお前を呼びたい奴がいるとでも?」
「おぉおぉ、失礼しちゃうねぇ! 俺だってこう見えても靜からは重宝されてるんだよ?」
「良いように使われてるだけだろ」
「そんなこと言わないでよ」
相変わらずめんどくせぇ奴だ。
「で、何の用だ? 長くなるようなら応接間に案内するが」
「お、優しいねぇ。ツンデレってやつかい?」
「少し違うだろ、ツンとはしたかもしれんがデレた覚えはないが」
「いや突っ込むところそこなの?」
そんな話をしながら歩き出そうとすると、恭之助に「おっと」と声を掛けられる。
「なんだ?」
「立ち話でいいさ、そこまで長くなる話じゃない」
……チッ。ならば最初からそう言え。
「で、用件は?」
俺が訊くと、
「妖精の国の支援、断るのかい?」
そう返された。
「そうだが」
「あらら勿体無いねぇ!」
「口調がキモいな」
「おっと失礼」
口調は置いておいて、なんだ? 勿体無いとはなんだ?
恭之助は咳払いをすると、俺に耳打ちしてきた。
「井谷は絶賛、苦戦している。何せ妖精の国へ援軍へ駆けつけた妖精は、あの南四連邦の妖精たちだ。いくら井谷とはいえ一筋縄では攻略できないさ」
「だからどうしたというのだ?」
「分からないかい? 南四は妖精の国にわざわざ妖精を送り込んだんだ。その数、3万8千」
「はぁ!?」
俺は大声を上げてしまった。恭之助が「しー!」と口に手を当てて言ってくる。
「それだけじゃない。第一陣はそれだけの数だったが、第二陣ももうすぐ到着する。数にして7万と少しだそうだ」
「どこから来るんだ、そんなの……」
「第一陣は富田川沿いに南下して連邦入りし、第二陣は夏半から熱山を越えて来る」
「つまりは、関東統一連邦は妖精の国を支援していると……?」
「そういうこと」
「なぜだ?」
俺が訊くと、恭之助は「んー」と空を仰ぎ、
「おそらくは、靜連邦の兵力を測るためさ。それと、靜を困らせるため」
「ならば支援を断って正解だろ」
「違う、違う! それじゃ関東の思う壺さ」
恭之助は俺にそう言ってくる。
「関東は靜連邦の兵力を測りたい。そのためには、連邦の全神類が妖精と敵対する必要がある。でなきゃ測れない」
「だが、俺が支援すれば現在井谷だけの参戦状況を覆すことになるぞ? おそらく他の加盟国も井谷の味方をし、最悪の場合……」
「連邦が戦火に呑まれる」
「だろ?」
「でも、そうならない方法がひとつだけある」
恭之助はそう言って、「ははは」と小さく笑った。
「靜さ」
「靜……?」
「そうさ、靜だよ」
まさか、靜を味方に付けるというのか?
「靜が濱竹と共に妖精の支援を表明し、井谷と敵対すると言うならば、状況は一気に傾くだろ? 井谷は途端に劣勢になり、関東からしても靜が味方になってしまっては消化試合もいいところ。実力を正確に測ることができなくなる」
「つまり、靜を引き入れてから妖精を支援すれば……」
「好転するさ、確実にね。おまけに関東を出し抜くこともできる」
「ふむ……」
恭之助の言っていることが事実だと仮定して話を整理するならば、関東は靜連邦の実力を測りたいために妖精を送ってきた。ついでにサハ戦争の戦勝国会議で面子を潰された靜に仕返しをしたいといったところか。
よって妖精の反乱を大きなものにし、井谷一国では確実にどうにもならない状況を作り、一刻も早い靜連邦全加盟国の参戦を待っている。
今のまま事が進めば、間違いなく関東の思う壺になる。靜が動くかは二の次だが、伊月場をはじめとした国々は井谷の応援に応えるだろう。
それを防ぐためには、俺と靜が妖精の国を支援するのが良い、というわけか。
しかし。
「不干渉を決め込んだ靜をどう動かせば良いんだ?」
「俺と説得してくれれば簡単な話さ」
胡散臭い。
というか、話自体が胡散臭い。これが事実とも限らないし、今ここで即決するのは難しいか。
「……考える。幾許か時間をくれ」
「いいけど、あまり悠長にはしていられないよ? 妖精の援軍第二陣が到着する前に決めなきゃいけないからね」
「あぁ。明後日までには結論を出す」
俺がそう返すと、恭之助は「じゃ、決まったら藤枝神社に来てくれ」と言って帰っていった。
……さて、裏を取るか。
奴の情報を簡単に信じるわけにはいかないからな。




