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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
妖精自治領編
65/107

1-08『国家は守られるべし』

「交渉は?」


「上々だ。これで流れはこっちのもんだ」


「そう。それならよかったわ」


 冬至前86日、午前。兎山明と井谷俣治は話し合いをする。


「靜はなんて言っていたのかしら?」


「妖精など要らぬから好きにしろという様子だったな。宇治枝の行動に相当腹が立っているらしく、そろそろ制裁を下すそうだ。それに伴って、俺の予想通り妖精の国の独立保障が外れることとなるようだ」


「それなら計画通りに進められそうね」


 明はそう言うと、


「兵力は井谷だけで足りるのかしら?」


 と問う。


「当たり前だ、前々から準備をしてきたのだからな。それに我が軍は妖精を滅することに特化しているからな」


 俣治はそう返す。


「妖精の国に攻め込むルートの確保はどうかしら?」


 明の質問に、


「国境を接するところは言わずもがな完璧に押さえてある。あと、根々川には時が来たら軍事通行権を受け入れるよう話を通してある。従って全面的な攻勢が可能だ」


 俣治はそう返した。それに対して明はさらに質問する。


「途中から濱竹や沼の参戦も予想されるけど、巨大勢力と一緒に戦ってくれる仲間は見つけてあるの?」


「お前と伊月場はもちろんだが、今回は靜が黙りだからな。妖精を嫌う中東部猪頭あたりは好反応だ。特に富田と羽宮あたりが期待できる」


「そう。ま、長引かせないように気をつけなさいな。長期戦になればなるほど濱竹や沼の参戦する可能性が上がるわ」


「そうだな、目指せ10日といったところか」


 そんな会話が繰り広げられる。


 そして、吉報は正午にもたらされた。


「靜が宇治枝に10日間の謹慎処分だとよ。同時に恭之助から軍の指揮権を剥奪し、指揮官のいなくなった宇治枝軍は靜に没収された。妖精の国の独立保障も消滅し、これでいつでも動ける状態になったぜ」


「よかったじゃない。で、どうするの?」


「軍を動かす。根々川にも許可を得て妖精の国にべったりと沿わせる位置までな。その直後に宣戦布告し、一気に流れ込む!」


 明はそれに頷いて、「頑張りなさいな」と微笑んだ。


「お前はどうすんだよ?」


 訊かれた明は、


「日渡を巻き込むわけにはいかないから、様子見ね。あんまり深く関わらない方がいいでしょうし」


 と答える。


「そうかよ。残念だが仕方ないな。俺も神類国家の戦争は望んでねぇし」


 俣治はそう言うと、


「そしたらちょっと遣われてくれねぇか?」


 と明に言う。「なによ?」と明が返すと、


「みずきを呼んできてくれ」


「遠いわね、東部まで行かせる気?」


 明は呆れ返りため息混じりに文句を垂れたが、結局了承してそのまま東部の伊月場まで飛び立った。


「閑蔵」


「はっ」


 明がいなくなってから、俣治は臣の井川閑蔵に命じた。


「第一師団から第八師団及び妖精殲滅隊を根々川国境まで移動させろ」


「はっ」


 閑蔵は指示を聞くと神社を去って行った。


「よし、いよいよだ」


 俣治は高揚した。


「いよいよあの忌まわしき者どもを一掃できる!」


 自ずと笑みが溢れ出た。


 俣治の笑い声は、しばらく井川神社の本殿に響き渡っていた。




ーーーーー

ーーー




 冬至前86日、夕方。


 井谷軍は根々川に軍事通行権を得て越境し、妖精の国の国境に並んだ。


 その数分後、根々川国の放送器具を用いて井谷俣治が妖精の国に宣戦布告した。


 妖精の国では。


「どういうことよっ! なんで井谷が攻めてくるのよっ!」


「知らないよ。どうせ妖精を守る気なんて更々なかったってことじゃないの?」


「でもそれならわざわざ独立させる必要なんて……」


 久野脇じな、笹間渡ぬくり、下泉かわちが緊急で会議を開いていた。


 出来上がったばかりの国内は夢と希望ではなく、絶望と恐怖に脅かされる。緊急事態が告げられ避難指示。拠点とする久野脇堂という小さな社に次々と妖精が集まってくる。


 その様子を少し眺めたじなが、


「……結局あれは本心だったのね」


 と悲しそうに呟く。


「あれって、俣治が最高議会で言ってたこと?」


 ぬくりがその呟きに反応すると、じなはコクリと頷いた。


「独立を支援したのは神類同士が戦争にならずに妖精を滅ぼすため、かぁ。なんだか嫌なやつだねぇ」


 かわちが言う。


「あー! もう、バカバカ! なんで私ったら信用したのよ! 最初から懸念されていたことじゃないの!」


 じなが自分の頭を叩きながらそう言う。


「でもじな、そもそも私たちは神類からの迫害に対抗するために独立を訴えたじゃん。途中から目的を見失っていたのはこっちの方なんじゃないの?」


 ぬくりがそう指摘する。


「あー、たしかにね。うちらいつ対立してもいいようにめっちゃ準備してきたもんねぇ」


 かわちが言うと、じながハッとして「そうだよ!」と大声をあげる。


「あの頃の熱量をもう一度取り戻さないと! なんで避難指示とか呼びかけているのよ、甘んじて侵攻を受け入れるんじゃなくて、こっちから攻めなきゃいけないじゃないの!」


 ひとりでそうふんじると、


「ぬくり、今すぐに民に伝えなさい! 神類と戦うために立ち上がりなさいって。私は濱竹や沼に掛け合って支援してくれるように頼み込むわ!」


 迅速に指示を出してその場から去っていった。


「あっ、ちょっと!」


 ぬくりがそう止めるが、じなには届かない。


「神類同士の戦争になることを嫌って独立を応援してくれたというのに。支援なんて絶望的よ」


 ぬくりはそう言うが、かわちは違った。


「どうだろう。少なくとも抑止力にはなるんじゃないかな? 井谷も神類同士の戦争は望んでいない。もし濱竹や沼が支援を表明して、これ以上侵攻すれば参戦するって言ってくれれば、状況は変わるかもしれないよ?」


 その意見に「一理あるな」とぬくりは呟く。


「でも、それより前に潰れちゃったら元も子もない。私たちが最優先でやるべきことは、妖精たちに防衛のために立ち上がることを促すことよ」


 ぬくりはそう言って、かわちと頷き合う。


 その日の夜、妖精の国は井谷への徹底抗戦を表明し、その意思を確固たるものであると示すために井谷に向けて交戦を受け入れる旨を発表した。




ーーーーー

ーーー




 翌85日の昼過ぎに、濱竹安久斗は独立応援委員会を臨時招集した。


 しかし安久斗の号令で集まったのは、久野脇じなと沼蛇松のみであった。


 これが意味したことは、本気で妖精を守る気があるのは濱竹と沼だけだということ。


 井谷、根々川、伊月場、渡海は無断欠席。


 猪頭からは安久斗に欠席連絡があり、猪頭半島で発生した妖精の抗議運動に誠実に向き合うため休むとのことだった。


 妖精を守る気があるかも分からないが、妖精や濱竹、沼と対立する意思も感じないという、猪頭諸国が曖昧な立ち位置にいることを委員会は認識した。そして彼らの立ち位置は今後の妖精への対応で確かめると結論づけた。


 靜から制裁を喰らった宇治枝はもちろんこの招集に応じることができず、その隣国で靜の勢力圏にいる島谷もまた、靜の顔色を伺い今回は欠席することを安久斗に伝えた。


「妖精の国に対する軍事侵攻は辞めさせねばならない」


 安久斗が言うと、蛇松が頷いて同意。


「その通りだ。妖精の国も今や歴とした連邦加盟国家。連邦内で国家同士の戦争が起きてしまったのは重大な問題だ」


 もちろんそれに安久斗も同意。じなの表情が明るくなる。


「そ、それじゃあさ、支援してくれる?」


 じなはそう安久斗と蛇松に尋ねた。しかし、返ってきた反応はじなが想像したものと大きく異なるものだった。


「支援をしたら、それこそ内戦の始まりだろ。話し合いで解決するべきだ」


「連邦各国から井谷やそれに協力する国どもに圧力をかけ、戦争を辞めさせることが理想的だ。参戦などしてはならない。戦火をこれ以上広げてはならん」


 安久斗と蛇松はそう発言する。じなの口から「えっ……?」という戸惑いの声が漏れる。


「安久斗、連邦神議会の案件だと思うがどうだ?」


 蛇松からの提案に安久斗は「ふむ」と悩む。


「何を悩むことがある。連邦内での国家戦争だぞ? 統率国としてはなんとしても止めねばならん案件だろ」


 蛇松がその様子を訝しんで訊くが、


「普段井谷が事を起こすたびに文句を言い、連邦神議会を開きたがる靜が黙り込んでいることが不可解でならない。神議会など開いても靜が侵攻を容認していれば意味を成さないのではないかと思ってな。それが最善の選択肢とは思えないのだ」


 安久斗は蛇松にそう返した。


「だが問いかけることに意味がある。靜がどうだとかそんなことは関係ない。連邦各国に妖精の国への侵攻が正しい選択肢かどうか考えさせることが大事だろ」


 蛇松が安久斗に言うと、


「そこまで言うならば開こう」


 安久斗は折れて、連邦神議会を招集した。




 ……のだが。


 出席状況は悲惨なものだった。


 靜連邦永神種議会(通称:連邦神議会)には格が存在する。靜と濱竹の連名で招集をかけた場合が最上位で、特別な事情がない限り欠席は許されない。日渡の臣殺しの件で発令されたのがこれに相当する。


 次に、靜が単体で招集をかけた場合だ。祖神国家の独断ということでそれなりに格が高いが、欠席する場合は連絡を入れれば文句を言われることはない。祖神国家に恨まれる可能性はあるが。


 そして最下位に濱竹が単体で招集をかけた場合だ。統率国ではあるものの皇神種国家であるために格は低く、始神種以上は無断欠席をしても怒られることはない。安久斗からの印象が悪くなるかもしれないが、西の野蛮国家からの印象など気にしないというのが休む者の正直な気持ちだろう。


 そんな理由もあり、安久斗が招集をかけた今回は無断欠席が横行。


 出席した国は皇神種国家である袋石、周知、銀谷、谷津、嶋波、大山、熱山、流水、猪東、河頭、降田の11ヶ国に加え、西部の日渡、武豊、崖川、堀之内、古田崎と、中部の靜(代表でしみずのみ)、東部から沼、猪頭半島からは猪頭が出席。以上19ヶ国。


 その他8ヶ国は(謹慎を喰らって動けない宇治枝は仕方ないとして)無断欠席となった。


 そして議会が始まれば始まったで、皇神種国家だからという理由で参加を余儀なくされた11ヶ国も、本来なら欠席したかったところであるわけで、安久斗の声に耳を傾ける者はごく少数。しっかり聞いているのは西部諸国と沼蛇松、猪頭太平くらいか。


「妖精の国は今や歴とした国家だ。連邦に加盟した国同士の戦争は容認してはならないし、井谷とそれに与する根々川他諸国ないし領による不当な侵略行為は厳しく非難されるべきであり、なにしろ国家は守られるべきだ。独立したばかりで基盤もまともに整っていない妖精の国を守り、一刻も早く井谷らの侵攻を連邦諸国一丸となって止める必要がある!」


 安久斗が言う。それに「うむ」と頷くのは沼蛇松。しかし、それだけだ。


 まともに耳を傾けていた西部諸国は懐疑的な表情で安久斗を見て、猪頭太平は頬を掻く。


 その他その場にいるだけの神々は、もはや自分の世界。周りと雑談する者たちや眠る者、自分の爪を手入れする者までいる。


「たしかに、国家は守られるべきかもしれないけどさ。相手は妖精だよ? 今まで散々僕らの国の中で暴れ回って神類を苦しめた相手を、みんな守る気にはなれないよ」


 周知小國がそう安久斗に意見する。


「同意見だな。俺は妖精に苦しめられたことは少ないが、印象は決して良くない。むしろせっかく一箇所に集めたのだから滅ぼすのが得策なまであると思うが」


 古田崎悠生がそう発言する。それに頷く堀之内弥凪と崖川あさひ。


「だが妖精の国もこの連邦で認められた国家だ。国家なのだから守られるべきじゃないか」


 蛇松が反対勢力に対し意見する。


「あのねぇ蛇松。独立させた意味はそこにないんだよ」


 しかしその蛇松に大山おおやま域洞いきどが反発する。大山は東部諸国で沼の勢力下にある国で、沼に反対することは珍しく神々の注目を集めた。


「先日の最高議会で俺たちが妖精の国を認めた理由は、国内から妖精を追い出すのにちょうど良い機会だったからだ。正直、俺たち小国では妖精の反乱を喰らえば手に負えず困りあぐねる事態になりかねない。そうならないために、妖精の国へ妖精を移し、反乱の未然防止に努めようというわけだ。だからその後で妖精の国がどうなろうが、俺たちには知ったことじゃない。濱竹や蛇松のように妖精を守るべく独立に賛成したのではなく、妖精を国から追い出すために、もっと言えば自国を安定させるために独立させたんだ」


 神々はその言葉を聞き、「そうだそうだ」と野次を飛ばした。


 蛇松は頭を抱えたくなったが、安久斗は違った。その言葉を鼻で笑ってからニヤリと笑みを浮かべ、


「それなら聞くが、この戦争をきっかけにしてこの連邦が戦火に包まれることになったらどうするんだ? 国を守るために独立させたのに世話がないな」


 と問うた。


「ん、どういうこと?」


 それに反応を示したのは、先ほどまで何も関心を示さずに爪を弄っていた靜しみずだった。


「今、北の山の中では連邦内における国家間の戦争が起きているんだ。今ここで容認してしまったら、今後連邦諸国にどんな形で飛び火するか分からんぞと言っているのだ。現状は戦争を辞めさせることが大事なんだ」


 安久斗がそう言うと、しみずが大声で笑った。


「待って安久斗、それ面白すぎ」


 しみずは失礼なくらい笑い、目尻に溜まった涙を拭うと、


「そんなことさせるわけないでしょ。戦争を辞めさせなくても飛び火なんかしないよ。俣治の狙いは妖精を滅ぼすことに限られているし、みんな妖精を滅ぼしたいって思っているわけだし。もし飛び火したとしたら、最も危ないのは濱竹と沼なんじゃないかな? 妖精を守りたい物好きなんて、君たちくらいなもんだしね」


 そう言ってのけた。すると真っ先に「しみずたんの仰る通りにございますっ!」と流水掬。いつもの如く呆れたように一同が見るかと思いきや、今回ばかりは頷きが目立つ。


 安久斗と蛇松は顔を見合わせて首を振った。


「ならば靜は井谷の肩を持つのか?」


 そう蛇松が訊くと、「バカを言うなよ」としみずがケッと笑う。


「靜はあくまで不干渉。妖精の件は君たちの産物だろう? 靜は認めていないし、勝手にすればいい。ただこの前も言った通り、どうなっても知らないよ。靜はこの件に一切の責任を負わないもん。関係ないし」


 しみずはそう言って深く椅子に腰掛けると再び爪を弄り出した。


「なぁ、もう帰りたいんだが。どうせ妖精の国を守れとしか言わないんだったら、もう答えは出てるだろ。それ訊いて終わりにしてくれよ。今日中にやりたいこともあるしよぉ」


 銀谷兼望が安久斗に意見する。その声に一同の頷きが乗る。


 安久斗は「じゃあそうしよう」と言い、


「濱竹は妖精の国は守られるべきだと考えている。よってここで連邦諸国の名で井谷とそれに加担する勢力を非難し軍事侵攻をやめるように叱る声明を出したいと思う。賛成する者は挙手せよ」


 そう問いかけた。挙手をしたのは沼蛇松と武豊耐久、猪頭太平、河頭咲良の4名。


「……賛成少数にて、否決」


 安久斗はそう言って解散を命じた。


 安久斗と蛇松にとってこの連邦神議会は、外部から圧力をかけて軍事侵攻を止めることは現実的でないと思い知らされたものとなった。




ーーーーー

ーーー




 猪頭諸国の神々が連邦神議会から戻ると、神社には猪頭の臣と巫女が地図を広げて深刻そうな表情を浮かべていた。


「何かあったか?」


 太平が尋ねると、


「半島各地で妖精が蜂起しました。井谷の軍事侵攻に妖精の国が反発した影響で立ち上がったそうです。現在半島の防衛隊で対処に当たっていますが、規模が大きく収まる見通しが立ちません……」


 とのこと。


 神々は顔を見合わせて黙った。


「臣様! 天城の妖精から書状です!」


 そんな中、神社に慌ただしく入ってきたひとりの下人が猪頭の臣に手紙を渡した。


 それを受け取った臣は手紙に目を通すと、


「太平様、もう妖精との共生は難しく存じます。妖精は、連邦内での妖精の扱いを巡る一連の騒動に腹を立て、かつてないほどに神類を目の敵にしております」


 そう言って手紙を太平に渡した。


 太平がそれを受け取ると、諸国の神々も覗き込むようにして読む。


 一通り目を通すと、


「……仕方ないな」


 太平はそう呟いた。


「どうするんだ?」


 猪東綾人が尋ねると、


「妖精の活動を取り締まる法律をすぐさま制定する。これを以て猪頭諸国は、妖精との共生を諦めるものとする!」


 太平はそう結論を下した。


 猪頭諸国の神々がそれに異を唱えることはなかった。


 こうして、ひとつ大きな勢力が反妖精主義に転じた。




 猪頭諸国による妖精排斥はつつが無く進んだ。法律:『対妖精活動取締法』はその日のうちに6名の神の連名で公布され、施行は3日後からと宣言された。


 このまま妖精が蜂起し続ければ、もれなく猪頭諸国の神の名において軍勢が差し向けられ、妖精は皆処分されてしまうことになる。


 妖精からしたらそれは望ましくなく、そうならないためには蜂起を即座にやめて大人しくするか、猪頭半島を去り他国で神類に対する怒りを発散するかの2択である。


 妖精が下した結論は、半島を去ることだった。


 公布の翌日、妖精は蜂起をやめて大人しくなり、半島の山から去る準備を進める。猪頭半島妖精の代表格の集団である天城の妖精は、猪頭諸国の神々に恨みつらみと長年住んだ地を去らねばならない無念を書き殴った手紙を送り遺憾を示したが、法律が施行されて取り締まられる前に半島から出て行った。


 半島を追われた妖精が向かった先は、主に2箇所である。


 まずは妖精の国。妖精にとって理想郷であると同時に、神類に対する不満を思いっきり発散できる場所であるからだ。


 この時期まで半島に残っていた妖精というのは、当初あまり妖精の国に魅力を示していなかった面々である。妖精の国に魅力を抱いた面々は妖精の国の設立に合わせて既に移住しているからだ。よってこの度、猪頭半島を追われるようにして去った面々は妖精の国に大した関心を抱いているわけではないため、全員が全員その地へ向かうわけではなかった。


 残った面々が移動した場所というのは、東部諸国である。


 半島をそのまま北上すると、沼、嶋波、伊月場、大山に至る。その中でも特に移動先として多く選ばれたのは伊月場だった。


 伊月場は、井谷の軍事侵攻に加担していた。宣戦布告こそしていないものの、井谷を支持する国の筆頭格であり、妖精排斥を掲げている国でもある。


 そんな国に妖精が立ち入ることは難しいわけだが、神類の知らない妖精同士のネットワークというものも存在し、国に密かに入り込むことは可能であった。


 そして現地で迫害され続けている妖精と合流し、こっそりと巨大な勢力を作り上げていくのだった。

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