1-06『連邦諸国永神種及び上級上神種による最高位議会(臨時)』
神紀4999年、夏至後81日。
靜国が臨時の『連邦諸国永神種及び上級上神種による最高位議会』(通称:連邦最高議会、または最高議会)を同90日に静岡神社で行うことを宣言した。
連邦最高議会は、全加盟国の最上位、すなわち神、臣、巫女が会して話し合う場である。普段はそこに自治領の参加は許されないものの、今回は連邦内に存在する2つの自治領(根々川国妖精自治領と日渡国渡海自治領)が両方とも独立応援委員会に加盟していることから、その出席も命じられた。
よって、集うのは27の国と2つの自治領計29団、87名となる。
しかしこの会議で発言権を有するのはその中の最上位に君臨する神(もしくは領祖、領主)のみである。臣と巫女はその場で議会の進捗を確認し、必要に応じて自国の神と相談をすることが務めとなる。
迎えた90日、欠席者なしで議会が開かれた。
連邦最高議会にて使われる議事室には、長方形の天板を用いた大きな机が3つある。そのうち一つを靜が使い、加盟国を見渡す位置に着く。
残る二つは短辺を靜側に向けて設置され、靜から見て垂直になるような配置で長辺に6ヶ国ずつ座る。靜から向かって右手側より大雑把に西部諸国、中部諸国、東部諸国、猪頭諸国で並び、2ヶ国は靜と向き合うように誕生日席に座す。
しかし今回は特殊な配置が用いられた。
靜の配置は変わらないものの、普段の長机に座ることが許されたのは委員会に属さない国のみ。よって靜専用の机は右から臣の静岡呱々邏、神の靜あおい、するが、しみず、一番左に巫女の草薙ここもが座り、靜より見て最も右の列に古田崎、堀之内、崖川、周知、袋石、武豊、お誕生日席に日渡の順で座り、次の列には宇治枝、谷津、島谷、銀谷、富田、羽宮が座る。東部諸国は嶋波と大山しかいないためお誕生日席含めて以下5席が空席、最も左の列は変わらず猪頭、猪東、熱山、流水、河頭、降田が並んだ。
そして今回はもう2つ机が追加され、諸国を挟んで靜と向かい合うように前後に配置された。それが独立応援委員会の席である。
手前の机の右側より根々川、妖精自治領、濱竹と並び、後ろの机の右側より沼、伊月場、井谷、渡海自治領と並ぶ。
文字で書いても分かりづらいため、以下に簡略図を置く。
神紀4999年夏至後90日
連邦諸国永神種及び上級上神種による最高位議会(臨時)の席順略図
靜
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古田崎||宇治枝 嶋波||猪頭
堀之内||谷津 大山||猪東
崖川 ||島谷 ||熱山
周知 ||銀谷 ||流水
袋石 ||富田 ||河頭
武豊 ||羽宮 ||降田
日渡
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濱竹 妖精 根々川
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渡海 井谷 伊月場 沼
「さて、早速聞かせてもらおうか。妖精の国を作ってどんな良いことがあるのかを」
靜するがが独立応援委員会の面々を見ながら言った。
その質問に挙手をしたのは代表を務める濱竹安久斗だった。
「妖精を独立させるということは、連邦内にいる妖精を全てその国に収容するということになる。それは連邦諸国にとって妖精に対応する手間が省けるということに繋がり、大きな戦力を持たない中小国家にとっては利益となり得る」
安久斗は最初に中小国家に向けた呼びかけを行う。
各国の反応は「確かに」と頷く程度に留まるが、言われてみれば大きな利益であると認識している国も少なからずあった。主に妖精保護法の廃止を決めてから妖精との間に軋轢が生じた猪頭諸国にとっては良い話である。
「次に、連邦全体の技術力向上に貢献する可能性も有することを述べる。妖精は我々神類とは違い、主に時間や空間、物理的法則に関与する力を多く有する。これによって、空間転移を可能とする転移回廊の普及や、対人類を見据えた武具の開発、また向こう50年ほどは大連邦協商の恩恵を受け、関東統一連邦より技術援助が確定している状況だからこそ、妖精の力と神類文明最先端の技術力を融合した、靜連邦独自の新時代文化器具の発展という可能性も秘める」
それに関して興味を示したのは、宇治枝や崖川のような中規模国家である。今後の発展の可能性を見据えた話であるため、現状ある程度余裕がある国家に向けた説得である。
もちろん靜もこれに関心を寄せるが、表情を変えたのは臣と巫女のみに留まった。
「そして最後にして最大の利益だが、」
安久斗はそう前置きをしてから靜を見て言う。
「妖精が国を持てば、妖精に国民としての地位が与えられる。妖精の国は自ずと靜連邦に加盟する形となるため、連邦の民が大幅に増えることになる。民には税が課され、国には我々統率国に金品を納める義務が生じる。その分配量は靜が8の濱竹が2。靜にとって、加盟国が増えることは悪い話ではないはずだ」
全ては統率国の、もっと言えば靜の判断となるため、靜中心のプレゼンをせねば意味がない。そう判断した委員会は、連邦諸国にもある程度の利益をちらつかせながら、靜に莫大な利益があることを説得の材料とした。
諸国の反応は「汚ねぇな」というような呆れ顔だったが、今更の話であるためあまり気にしていない様子だった。
当の靜は「もう少し棘のない言い方をしてもらいたいものだね」とするがが言って、
「国がひとつ増えたくらいでは、大して収益が増えるわけではないね。それが最大の利益なのだとしたら、妖精を駆除した方が余程大きな利益になる」
と軽くあしらった。その言葉に俣治と明が呆れたような表情を浮かべる。それを横目で認知した蛇松がため息を吐く。
「なぁ靜よ、」
蛇松がそう口を開く。
「正直に言ってしまえば、この委員会は綺麗事ばかりを並べているのだ。気付いているんだろう?」
蛇松の質問にするがが「そりゃもちろん。本音と建前くらいは見抜いているつもりさ」と返してくる。
「ならばその反対理由は弱すぎやしないか? この委員会の中でも様々な思惑が交錯しているわけだが、もしそんな理由で蹴られれば各々黙っているわけにはいかなくなるが」
蛇松が言うと、
「それは暗に俺たちと敵対しようという意思表示かな?」
と和かな笑顔でするがが返してくる。
「そんなくだらないもんじゃない。抗議の意思表示だ。却下するならもっと正当な理由を求む」
笑顔の裏に潜むするがの怒りや圧力を感じながらも、蛇松は冷静にそう言い切る。
「そうだな。妖精を根絶やしにするためにもまずは妖精を一箇所に集めるのが効果的だしな。独立してくれて、どこの国からも独立保障が付く前にやってしまえば、神類同士の無意味な戦争にもならない。お前らがもし妖精を根絶やしにすることが目的だとしたら、そのためにも妖精の国を独立させることが利益となる」
俣治がニヤリと笑いながら言う。
「ちょっと! そんな理由で独立したくないんですけど!」
抗議の声を上げるじな。しかしながら、神類には今の俣治の言葉が最も説得に向いている文言である。
「あー、っと。ひとついいかな?」
靜と委員会の間で険悪な雰囲気が流れつつあるのを見てか、宇治枝国の神、恭之助が挙手をした。
「なによ?」
あおいに指名されて恭之助が発言する。
「いやぁ、実は宇治枝も妖精の対応に手を焼いていてね。妖精を一箇所に収められるならそれに越したことはないと思うんだ。それに、滅ぼす滅ぼさないはひとまず置いておいて、神類同士の戦争になるかならないかは大きい。今のまま妖精自治領を放置しておけば、現状大きくなる妖精の蜂起がさらに肥大化し、怒り心頭に発した国々が根々川国妖精自治領に攻め込めばどうなる? この連邦はおしまいさ。内乱に継ぐ内乱が開幕し、秩序というものが乱れに乱れる。そうなるくらいなら、今は妖精の国を独立させておいて様子見をするのが得策じゃないかな?」
その言葉に深く頷く中部諸国。靜のお膝元ということもあり、普段は靜に従順な国家だが、今回ばかりはそうでなかった。
意外な発言を受け、連邦諸国はざわめき出す。
靜の三大神はひたすらに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、それを見た安久斗と俣治がゲラゲラと笑う。
「それに、今のを聞いてみんな思ったんじゃないかな? 妖精を独立させることで各国の負担は激減し、連邦の発展にも繋がる可能性があるって。逆に考えて、ここまで独立と向き合ったのは初めてで、妖精たちからしたら希望が見えている状態。今ここで蹴れば、妖精の反発は一際大きなものとなって俺たちを襲う。そうなった時、小規模な国家は対応できるかい? 無理だと思ったり不安を抱いたりしたなら、独立させちゃった方が楽だよ」
恭之助が連邦諸国にそう言葉を投げると、机ごとに小さな相談が始まる。
どうする、どうする? 靜の味方につくか、独立派に回るか。
完全にペースを宇治枝に取られた靜は腹立たしくなり、騒がしくなりつつある議事室で怒鳴り声を上げる。
「黙って聞いていれば勝手なことを! 妖精に国を持たせるなど神類としては三流以下だ! それをやれば野蛮もいいところ! 世界からの視線を集めるのは祖神種である俺たちだ! お前らは矢面に立たないから良いと思っているだろうが、俺たち靜からしてみればいい迷惑だと知れっ!」
珍しくするがが声を荒げる。それを聞いてニヤリと笑いながら声を投げるのは濱竹安久斗だった。
「おいおい、それが本音か? 反対理由があまりにも自己中心的すぎて笑えちまうぜ」
挑発じみた声にあおいがガタンと音を立てて立ち上がる。気圧されそうなくらいに溢れ出る怒りのオーラに諸国の神々は恐怖したが、安久斗は表情ひとつ変えずに続ける。
「もとより野蛮な連邦だ。野蛮で結構。好き勝手に言わせておけ。靜は祖神種でそこんところプライドが許さんかもしれんがな、それなら泥は全部俺が被ってやるよ。靜連邦を運営してんのは靜だけじゃねぇ。都合よく皇神種がいるじゃねぇか。靜は精一杯反対した、だが野蛮な西の皇神種が無理やり実行した。そう言ってしまえばお前に矛先は向かないだろ。なんでも抱え込むな、上手く逃げろよ。良いことないぞ?」
安久斗の言葉は優しく見えた。しかしその裏、安久斗は靜の退路を塞いだのだった。
靜はもう、これで反対する術を失った。反対する理由に正当性がなくなった。挙句今の言葉を連邦諸国が聞いた以上、身を挺して泥を被ると宣言した濱竹の株が向上したと同時に、足掻き続ければ靜の株が低下しかねない状況に陥った。
「……チッ」
心底機嫌が悪くなったか、するがは大きな舌打ちをすると流れを悪くした元凶である恭之助を睨み、
「裏切り者め」
そう吐き捨てた。
それを聞いた恭之助は肩を竦めて、
「何を言う。これも全部、靜のためだよ。愛が深いねぇ、俺は」
戯けたようにそう返した。
「よぅし、それなら聞こうじゃないか!」
靜とは対極的に、意気揚々と立ち上がったのは井谷俣治だ。彼は連邦諸国を見渡すと、
「去る42日、根々川国妖精自治領は独立を宣言し、それを保護する根々川千鶴はその独立を許可した。様々な意見が飛び交った50日間であったが、今ここに改めてこの『靜連邦内妖精のための独立応援委員会』が妖精自治領の独立を宣言しよう。それを認可する国々は立ち上がれ!」
その声と同時に、ガタガタと音を立てて神々が立ち上がる。立ち上がった国を○で示そう。
靜
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古田崎||○宇治枝 嶋波||○猪頭
○堀之内|| 谷津 ○大山||○猪東
○崖川 ||○島谷 ||○熱山
○周知 || 銀谷 ||○流水
袋石 ||○富田 ||○河頭
○武豊 ||○羽宮 ||○降田
日渡
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濱竹 妖精 根々川
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渡海 井谷 伊月場 沼
独立委員会は提案者であるため立ち上がらなかったが、それを除いた22ヶ国中15ヶ国が認可した。その殆どが妖精の対処に悩まされていた国々であった。また、反対した国々は靜との結び付きが非常に強かったり、妖精の影響をあまり受けていない国だったり、既に妖精排斥のための法律がしっかり整い妖精が綺麗さっぱり消えた国だったりした。
「……はぁ。賛成多数で可決」
不貞腐れたようにするがが言う。巻き起こる拍手。しかし心なしか控えめ。当然か、靜に刃向かっての可決となったのだから。
こうして妖精自治領の独立は、宣言から50日以上が経過してようやく認められ、世界初となる妖精のみで構成された連邦加盟国が設定された。
もちろん靜がこれを喜ぶはずもなく、あおいとするがはここで退席した。残されたのはしみずだけで、彼もまた祝福ムードの委員会面々に「あのさぁ」と露骨に嫌そうに声を発する。
「靜はもう妖精の国の件には関わらないから。この後どうなっても知らないよ?」
「なんだよ、負け惜しみにしては弱っちい台詞だな」
俣治の言葉をしみずは無視すると、
「そういうことだから、このあとの議会は独立応援委員会に全て任せるよ。萌加はこっちおいで、背中向きになっちゃうでしょ?」
そう連邦諸国に言って、議会の進行役を独立委員会に移した。そして萌加たち日渡陣が移動したのを確認すると、しみずは臣と巫女を率いて退席した。
靜国が最高議会から退席するのは前例がなく一同驚いたが、先ほどもう関わらないと宣言していたため靜の性格上なんら不思議なことではないと納得しざわめきも一瞬で収まった。
↓日渡を移動させ、靜が退席した後の図
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日渡
古田崎||宇治枝 嶋波||猪頭
堀之内||谷津 大山||猪東
崖川 ||島谷 ||熱山
周知 ||銀谷 ||流水
袋石 ||富田 ||河頭
武豊 ||羽宮 ||降田
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濱竹 妖精 根々川
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渡海 井谷 伊月場 沼
「さて、それじゃここからは俺が統率国として議会の進行を務める」
安久斗はそう言って連邦諸国に提示する。
「今後我々の委員会では、各国の妖精に妖精の国ができたことを呼びかける運動を展開する。どこに潜んでいるかも分からない奴らだが、それを一箇所にまとめなくては国として独立させた利点がなくなってしまうため必要なことだ。連邦諸国にはこの運動に協力してほしい」
安久斗の言葉に頷く神々。
「また、連邦の技術力向上を目指して、濱竹と沼を中心として妖精の力を研究しようと考えている。もしこれに参加してみたいと考える国は、是非ともこの委員会に参加してほしい」
「お、いいねぇ。協商を通して技術を得ている俺たちからしたら、技術力の向上は急務だからねぇ。是非とも参加しようかな」
恭之助がそう言うと、「私も」と島谷国の神、嘉和水が乗る。
「猪頭諸国を代表して、俺も加盟しておこう」
猪頭太平もそう言い加盟を宣言。徐々に委員会は勢力を広げていく。
「加盟したくなったらいつでも言ってくれ。来る者は拒まないからな」
安久斗は和かにそう告げて、議題を投げた。
「これで最後の話となるが、今後の連邦内における妖精の取り扱いについて決めておきたい」
「おっと安久斗、それはいけないんじゃないかい? そんな大きなことを靜抜きで決めたら君の身が危ない」
しかしその言葉に宇治枝恭之助が反発をした。
「だが靜は関わらないと言っていたが?」
「そうだけどね、何せ祖神種だ。理不尽だし横暴じゃないか。サハ戦争で関東の祖神を見てきただろ? 靜も根本はあれらと同類さ」
恭之助がそう言うと、安久斗が「となると靜を含めた場で決めなくてはならないな」と呟く。しかし、妖精の件に関して面子を潰された靜が出てくるとも思えず、安久斗は悩んだ。
「すなわち恭之助は、この件に関しては取り決めなくて良いという考えか?」
頭を抱えた安久斗に代わり恭之助に確認を取ったのは沼蛇松だった。
「急ぎではないかなって思うなぁ。少なくとも、妖精がちゃんと独立して連邦に参加して、情勢が落ち着いて靜の怒りが収まってからでも遅くないんじゃないかい?」
「ふむ……」
蛇松もその言葉に考え込んでしまう。
(……靜の次は俺たちか)
(どうやらな)
安久斗と蛇松は視線で会話をする。そう、安久斗と蛇松はこのままでは妖精国家が独立を果たした後に井谷をはじめとした国々に滅ぼされてしまう可能性を懸念して、先手を打っておこうと決めていた。しかしながら、それを全く関係のない宇治枝恭之助に妨害された形となったのだ。
井谷俣治ならまだ分かるが、井谷とも仲の悪い靜派閥の宇治枝に阻止されたとなると、裏がどうなっているのか全く分からない。頭を悩ませているのはそこにあった。
しかし、相手は宇治枝恭之助。靜連邦を裏で牛耳っているとも揶揄されるくらいに靜と結びついていて、それでいて頭が回る切れ者。今日は靜をも言いくるめてしまい退場に追い込んだ相手で、あまり深く踏み込めば靜と同じ轍を踏みかねないと安久斗と蛇松は考える。
「そうか。ならば今は決めないでおこう」
「ふぅ、よかった。これで内戦はひとつ減らせられるねぇ」
恭之助がそう笑う。それに対して井谷俣治がニタリと笑ったのを蛇松は確認する。
これは繋がっていると確信したその途端、
「で、きっと安久斗と蛇松が気にしたであろう案件だけどね、この宇治枝恭之助が、妖精の国に独立保障を掛けようじゃないか。それでどうだい、ひとまず安心だろう?」
「「なっ!?」」
「むっ」
安久斗と俣治、そして蛇松がその言葉に反応を示す。
「待て、それは妖精の国と話し合ってから決めることじゃないか! 正式な手順を踏まなければ国として認めたことにはならんだろ!」
安久斗が恭之助に言うが、
「でも早くしないと戦争になるかもしれない。悠長なことを言っている暇もないと思うけどねぇ」
恭之助はニタリと笑って返す。
「だが国家となる以上、連邦規約に則らなければならんのは確かだ。独立保障をここでかけるのではなく、独立してから会談をして決めねばならないのは事実。事前に掛けられるものならば、俺と安久斗も疾くに独立保障を掛けている」
蛇松が安久斗に代わりそう言うが、「おぉおぉ、危機感がないねぇ」と恭之助は煽る。
「全く恐ろしい限りだよ。国家間の同盟や取り決めが成立するには、少なくとも30日は掛かる。その30日間、何も起こらないなんてことはないでしょ? そこを狙わないのはバカでしかないし、軍事に特化した国なら30日もあれば余裕で蹂躙できる。色々な思惑が交錯しているってことは情報を得ているんだよ。それを防ぐのが、本来の靜のお仕事さ。でも彼らは不干渉を宣言した。なんとも薄情なものでね。だからといって放置するわけにもいかない。どこかの国が動く必要がある。本来、それをやるのは濱竹か沼だと思うけど、君たちは『国家』とか『連邦規約』とかに拘りすぎて後手の後手後手もいいところ。だから俺がやるってわけさ。靜連邦の治安を守るためにね」
長々とそう語る恭之助。
「いいのか? 妖精の国が認可された今となれば、連邦規約に反するぞ?」
安久斗が真剣な表情で尋ねると、
「そうだねぇ、今となればその通りだ。でも、それを言うなら国となる前の段階で君たちが独立保障を掛けておけば良かったんだ。何度も言うけど、妖精の国を本当の国として扱うべく、『国家』とか『連邦規約』とか、そういうのに固執した君たちの落ち度じゃないかなぁ」
と恭之助。安久斗と蛇松は押し黙った。
「だがよぉ、連邦規約を破れば靜だって黙ってねぇだろうよ。いくらお膝元の宇治枝だろうともそう易々と許してくれまい」
俣治の言葉に「そうだね、覚悟の上だよ」と恭之助。
「でも俺は俺の処遇よりも、今は連邦の治安を優先するさ。このまま放置しておけば、無秩序も無秩序、いいところじゃないか。なぁ、俣治くん」
完全に俣治の企みを読んでいる視線の向け方に、俣治も怯まざるを得ない。
「じな。独立保障、受け入れるの?」
千鶴が久野脇じなに問いかける。
「本当は国家間の交渉だから、ちゃんと会談の場を設けたいところではあるんだけど……」
じなはそう言い淀む。後ろに隠れた言葉は「独立させてから滅ぼされる可能性があって怖い」というものだった。
「それなら、もうここで受け入れてしまいなさいな」
そう言葉を投げる兎山明。驚く視線を向けたのは濱竹安久斗と井谷俣治。両者その裏に含まれた意味は正反対であったが、驚きであることは共通だった。
「そうね、結んでしまった方が連邦のためになるさね」
明の言葉に乗っかる伊月場みずき。じなはコクリと頷いて、
「それじゃあ、宇治枝国からの独立保障、受け入れます」
と言った。
「物分かりが良くて助かったよ。これでまたひとつ、戦争の芽を摘むことができた」
恭之助は微笑みを浮かべた。
そうして臨時の最高議会は幕を閉じた。
自治領の“領祖”と“領主”の違い
領祖:その領の開拓者、設置当初の長。
領主:領祖のあとを引き継いで頂点に立っている者。
かつての日渡国兎山自治領において兎山明は領祖であったが、現在の日渡国渡海自治領において領祖は(故)浅瀬太郎助である。明はそのあとを継いだ領主という立場になる。




