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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
妖精自治領編
62/107

1-05『靜連邦内妖精のための独立応援委員会』

 妖精自治領独立に向けた会議に沼蛇松が参加した。


 これを受けて、絶望ムードが少しだけ緩和された。


「この件、東部じゃどんなもんだ?」


 安久斗が訊くと、


「みずきが良い反応を示している。奴はかなりの……」


 蛇松はそこまで口にすると周囲を見渡して、じなやぬくり、かわちなどの妖精自治領の代表がいることを知ると、


「独立賛成派だからな」


 と口にした。それを聞き嬉しくなるのは妖精たちだ。神類も捨てたもんじゃないと舞い上がっているようだが、蛇松が言葉を選んだ理由を察している神類たちは数回頷く程度だった。


「じゃ、伊月場は誘えば入ってきそうか?」


 俣治が訊くと、


「お前が言えば乗るかもしれん。だが、安久斗から声をかければほぼ入らないだろう」


 と蛇松。それを聞いて神類は全てを理解した。


「ま、国の数が多ければ多いほど、靜を一泡吹かせられるからな。俺は伊月場の参加を推したいぜ」


「俺は反対だ。ただ多ければいいというものじゃない。その後のことを思えば、これ以上過激派を集うのは得策じゃないだろう」


 俣治の言葉に安久斗は反論する。


「でもそれって、後々安久斗が不利になるからじゃないの? まず靜を含む連邦諸国を説得するという課題を解決するためには、猫の手も借りておくべきだと思う」


 千鶴が意見を言う。安久斗が少し怒って千鶴を睨みつけるが、


「らしくないな、安久斗。井谷に怯えているのか?」


 と蛇松に言われてしまう。


「怯えてねぇよ。だが俺たちの目指すところと方向性が一致しない輩を増やせば、もれなくこの会議の真の意味から脱してしまう。これは妖精のための……!」


「おい安久斗、一旦落ち着け。それ以上言うと最悪の事態に陥るぜ?」


 安久斗に言葉を投げたのは俣治だった。俣治はじなを掴み取ると、見せびらかすように安久斗に向けた。じなが「離せ!」と暴れているが、妖精の抵抗など俣治にとっては無に等しい。


「……たしかにな。今最も優先すべきことを見失っていた。助かるぞ。それと、取り乱してすまなかった」


 安久斗が謝罪を入れる。


「気持ちはよく分かる、俺も同じだ。だが、まずは連邦の説得のために動かねばならない。独立させた後のことは今考えても仕方がない。そもそも独立させなければ、それこそ徒労に終わってしまう」


 蛇松が安久斗にそう言うと、


「東部で関心を示しているのはみずきだけで、他は皆妖精の国に靜と対立するほどの価値を見出していない。それは半島の奴らも同じようだ」


「となると、見込みがあるのは伊月場だけだな。27ヶ国のうちのたった5ヶ国か。説得には十分と言えねぇな」


 俣治はそう言って頭を掻く。


「だが、4ヶ国か5ヶ国かの違いは少なくない。みずきに声をかけてみよう」


 蛇松が言うと、「俺も一緒するぜ」と俣治。蛇松は「助かるな」と一言告げた。それから何かを思い出したように「そういえば」と言うと、


「この会議の名称が仮称なようだが、もう決まったのか?」


 と尋ねる。


「まだです」


 じなが言うと、蛇松が「ならばこれはどうだ?」と意見する。蛇松の言葉に全員の視線が集まる。


「『靜連邦内妖精のための独立応援委員会』」


 その言葉に、特に反対意見は出なかった。


「いいんじゃないか?」


「趣旨もわかるしな」


「当たり障りなくていい」


「いいわね!!」


 安久斗、俣治、千鶴、じなの順で感想を述べる。そうして会議(組織)名は無事に決まった。


 残る大きな課題は、どう説得をするのかというものだ。




ーーーーー

ーーー




 濱竹で5日に一回開かれる独立応援委員会は、56日には伊月場国を迎え入れて本格的に動き出したようで、俣治様とみずき様から日渡このくに(主に明様)への誘いが絶たない。


 そもそも、伊月場の神様は明様の旧友で、かつて同盟まで結んでいたほどに親しい間柄だったのだ。


 明様は友人の誘いに乗りたいようで、萌加様を何度も説得しようと試みていた。しかしその度に、萌加様から猛反発を喰らっていた。


「大智からも口添えしてくれないかしら?」


 終いには明様からそう頼まれてしまった。普段なら何事も卒なくこなして萌加様を上手く言いくるめてしまう明様が僕を頼ってくるなど異例のことで少し動揺してしまう。


「でしたら、明日の濱竹議会へご一緒されますか? 萌加様を説得するのにより効果的なのは、より立場や権威が上の方からの言葉ではないかと存じます」


「あら、私ではダメというのかしら?」


 意地悪く明様が視線を向けてくるが、


「滅相もありません、明様で敵わないのなら僕では尚のことと主張したいのです。明様よりも立場が上の方からの言葉が望ましいということではなく、僕よりも立場が上の方からの言葉が望ましいという意味です」


 誤解のないようにはっきりと告げた。


「それはつまりあなたが私よりも立場が上という意味になるのだけど……まぁいいわ」


 明様はこれ以上突っ込まずに折れてくださるようだった。ありがたい。


「でも、安久斗からの説得はすでにあったのでしょう? もう一度しても意味はないんじゃないかしら?」


「そうでしょうか? 以前とは勢力図が少し変化しているように思えますし、喜々音や下池川卿などから聞く限りでは、安久斗様の立ち位置的にも親濱竹派の国を引き摺り込みたい状況になってきているようです。理由はよく存じませんが」


 明様の疑問に僕が答えると、「理由なら分かるわよ」と言われる。だから教えてもらうべく尋ねると、


「井谷も伊月場も、妖精なんて滅ぼしたいって思考だからよ。妖精を一箇所に集めて国として独立させたら、独立保証がかかる前に滅ぼしてしまおうというのよ。逆に安久斗は妖精を保護したい。それで対立しているんじゃないかしら?」


 とのことだった。


「同じ結果を目指しているのに、考え方が違うんですね」


「その言い方は間違いよ。違う結果を得るために偶然にも同じ過程を踏まざるを得ない状況になってしまったのよ。だから一時的な共闘をしたけれど、目指す場所が違うから過程でも無用な対立をしているのよ」


 ……何が違うんだ?


 僕はよく分からなかったが、明様の中では明確な何かが違ったようだ。


 まぁ少なくとも日渡には関係のない対立なので深く考えないでおこう。


 僕は明様の言葉に「そうなのですね」と脳死で返し、


「それで明日の議会ですが……」


 と話を戻すのだった。




 あくる57日、僕の誘いに応じて明様は濱竹議会に同行した。といっても参画が認められているのは臣と巫女なので、議会の間明様は三階の傍聴席から俯瞰しているだけであったが。


 そうして議会が終わってから、安久斗様との話し合いに臨んだ。


「それで、萌加を説得してくれないかしら」


「ふむ……」


 安久斗様は考え込んだ。


「普段なら喜んで提案に乗るところだが、今回は日渡おまえらのためにも日渡の加盟を許すわけにはいかない。よってその頼みは断ろう」


 安久斗様が出した結論はそんなものだった。


「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 僕が尋ねると、


「ならば逆に訊くが、明。お前は何のために妖精の独立を望む?」


 と安久斗様は明様に真剣な眼差しを向けた。


「俣治と同じと言えば通じるかしら?」


 明様がそう答えると、安久斗様は「だからだ」と言う。


「あら、対立する勢力が増えるのが嫌なのかしら? らしくないわね」


 明様の言葉に安久斗様は「違う」と重い声で言った。そして僕と明様を鋭い視線で見ると、


「お前らは考えんかったのか? この状況で萌加と明がここに加盟すれば、萌加と明の対立が……すなわち日渡と渡海の対立が引き起こされることを」


「「…………」」


 僕と明様はその言葉に黙った。


「俺から萌加を説得してここに呼べば、萌加は靜との対立を恐れて比較的靜と良好な関係を築いている俺や蛇松に与するだろう。それに萌加は妖精を迫害しようとしていないからな。独立をさせた後でどうこうしようなど思わないだろう」


 安久斗様は僕らが黙っている間に続けてそう言っている。そして視線を明様に固定すると、


「対してお前は妖精を滅ぼそうと企んでいる。俣治との仲もさることながら、旧知の友と言えるほどのみずきもいる現状なら、どちらに与するかは明白だろう。そこまで分かっていながら、俺は日渡の加盟は許可できんぞ。厳格な統制が敷かれた今の日渡と渡海じゃ、些細なことでも内戦が起きかねない」


 そう指摘した。


 正直に言おう、盲点だったと。萌加様と明様の関係が良好であることに甘んじて、最悪の事態を考えていなかった。


 そしてそれは明様も同様のようで、気まずそうに安久斗様から視線を逸らした。


「明、お前は萌加をここに加盟させたあと、どう立ち回るつもりでいたんだ?」


 そう安久斗様が問う。しかし明様は答えない。


「言えっ!」


 すると安久斗様が明様に大声で迫る。


「妖精の排斥を進めるつもりだったわよ! 日渡国内の法律の制定から、井谷、伊月場と連携した妖精の国への攻め込みまで、私の考える全ての理想を叶えるべく萌加を傀儡にして動かそうとしていたわ! ……どう、これで満足かしら?」


 明様は安久斗様に声を張り上げて言い返すと、ため息を吐いてから立ち上がり、「帰るわ」とだけ告げて去っていった。


「お、お待ちを……!」


 僕はそう言って明様を追いかけようとしたが、


「ひくま、おな」


「「はっ!」」


 安久斗様に指示されたひくま様とおな様が部屋を出ようとした僕の前に立ち塞がり妨害した。


「大智、お前は残れ。今のを受けて、話がある」


 安久斗様の声が背中に刺さった。


「……承知いたしました」


 僕はそう言って、大人しく安久斗様の正面のソファに戻った。




「まさか明様があのような企みをされているとは存じ上げませんでした……」


 僕はぽつりぽつりと安久斗様に告げた。責められる雰囲気だったので自発的に自分の知っている情報を全て吐いてしまったが、それを見た安久斗様が大笑いして、


「お前、明が言ったこと鵜呑みにしたのかよ! あっははははは、やっぱ面白おもしれえなお前!」


 などと言ってくるので戸惑いを隠せなかった。


「どういうことですか……?」


 僕が言うと、


「明が俺に手の内明かすわけないだろ、明だぞ、あの兎山明だぞ?」


 などと言い、


「萌加を傀儡にするということは実質国の頂点に立とうということだ。あいつに限ってそんなことを考えるはずもなし、奴が言ったことは負け惜しみだ」


「そ、そうなのですか? でも、明様は確かに井谷様と繋がり、共に妖精排斥を謳っていますし、全てが嘘であったとは思えませんが……」


「そりゃ一部分はほんとが混ざっているが、萌加を傀儡にしたり法律を制定したりするところは違和感しかない。あいつのテリトリーは渡海だ。渡海にはすでに妖精を取り締まる法律がある。奴はそれで十分満足しているはずだ」


「は、はぁ……」


 少しばかり納得できない部分もあるが、そう言われるとそのような気がしてきて、何が本当で何が嘘か分からなくなってくる。


「とはいえ、明がここまでこの会議……いや、委員会に興味を示しているとは思わなかった。それで、お前に聞きたいのはこれなんだが、」


 安久斗様はそこまで言うと真剣な表情を僕に向けて、


「あいつがここに混じりたい気持ちは冷やかしでもなく心からの頼みか?」


 そう訊かれ、僕は先ほどまでのモヤモヤした思考を切り捨てて力強く頷いて見せた。


「それは紛れもない事実かと。萌加様にも何度も迫っていましたし、許可を求めておりました。挙句昨日、萌加様の説得に力を貸して欲しいと頼まれまして、それの一環で安久斗様との会談を提言いたしました。……まさかここで決裂するとは思いませんでしたが」


 僕がそう言うと、


「そうか、それは悪いことをしたな。だが俺は一言も()()『加盟するな』とは言っていないと思うが?」


 ニヤリと笑いながら安久斗様が言う。この笑みは見覚えがあった。サハ戦争の際に、何度も見た笑みだ。


 そう、何か企んでいる時の顔だ。


「何か策があるのですか?」


 そう問うと、


「俺たちがやろうとしていることは、言ってしまえば自治領に主権を持たせようとしていると取られてもおかしくない。そこで、渡海自治領を利用する。自治領の解釈に新たな道を与えるんだ」


 安久斗様はそう言ってから笑うと、


「結論を言うと、明の参加を許可しようと思う。そのために萌加の説得もしようじゃないか。だが、日渡国としての参加は萌加が断っている以上認めない。俺が認めるのは、渡海自治領の参加だ」


「ちょっと待ってください! それができないから明様は萌加様を説得していらっしゃったのですよ?」


「あぁ、だがそれは萌加の判断だろ? 今お前らが求めたのは俺の判断なんじゃないか? というかそもそも、萌加が許可してくれないから統率国の俺に認めてほしかったのだろう? だから明は言ったのだ、『国として参加すれば萌加を傀儡にする』、つまり『私が国を持つ』と。それは暗に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と主張したんだ」


 ここでしばらく、僕の思考は停止する。どういう意味なのだろうかと考えて、しばらく経って意味を理解すると、なんだか妙に腑に落ちた。


 明様が絶対になさらないことを口にしたということは、それはしないしやりたくないということ。それを安久斗様はあの言葉で見抜き、この結論に辿り着いているのだと。


 ……あぁ、そうか。僕は何一つ変わっていなかったのか。


 臣になってべらぼうに偉くなった気でいたのかもしれない。でも、かつて仕えたお方の言葉の真意すら分からずに真に受け、誤解を訂正されて、他国の神に真意を告げられてしまった。


 ……臣なんて、偉くない。臣になっても、何も変われない。


「明が俺に直接全てを明かすことなどまずない、知恵比べが大好きだからな。特に今日は、その前に俺があいつの癪に障ることを言ってしまったから、一段と回りくどい言葉を羅列してきやがった。まぁほとんど負け惜しみに等しいが」


 そんな僕の思考など気にせず、安久斗様は相変わらず話し続けていた。耳を右から左に通り過ぎていく言葉たちだったが、そこに特段大事な文言は含まれていないはずだ。……そう信じよう。


「萌加が許可しなくても、統率国が許可してしまえばそちらが優先となる。靜が認めないかもしれんが、この組織には何も口を挟んでこないことを見るに、俺らの悪足掻きを楽しんで見ているだけのようだから何も言ってこないだろ。あとは萌加が靜との対立を好まないという点だが、そこは俺がなんとかする」


 安久斗様は僕に言うと、


「そういうわけだから、大智。日渡へ行くぞ。自治領に主権を与える第一歩のために」


 そう言って立ち上がり、僕の肩に手を置いた。僕はそのまま釣られるように浜松神社を後にするのだった。




ーーーーー

ーーー




「うぇ!?」


 萌加の第一声はいつも通りだった。


「で、でも、自治領が単体で加盟するのは難しいんじゃないの? わたしは認めていないんだし、統率国でも内政不干渉の規約に反するじゃん」


「本来はな。だがこの委員会は有志によるものだ。こちらもやる気のある奴を迎え入れたいし、国の長の反対でそのやる気を押し殺すのも勿体無いと思うんだ」


 安久斗は萌加にそう説いた。


「うーん……」


 萌加は不安そうな顔で唸る。


「確認するけど、その委員会って安久斗と俣治、千鶴が主体なんだよね?」


「そうだな。あとは蛇松とみずきもいるが」


 萌加はその答えを聞いてしばらく考えると、


「……蛇松たちがいるなら、設立当初よりはまだマシなのかな?」


 と呟いて、


「まぁいいよ、渡海を加盟させても。ただ靜との対立を招くようなことはしたくない。万一にそうなりそうになった場合、明を強制的に退会させたいんだけど、約束してくれる?」


 と尋ねた。


「いいだろう、そうしよう。こちらも靜との対立は願っていないからな。そうならないように努めよう」


 安久斗の答えに萌加は「ありがとう」と返す。


 こうして無事に渡海自治領は独立応援委員会に加盟したのだった。


 この事例は、神類文明において自治領が初めて国から離れ、独自の道を進んだ瞬間であった。




ーーーーー

ーーー




「会議を始めます」


 61日。久野脇じながそう宣言し、第3回会議が始まった。


 今回集まったのは、濱竹安久斗、井谷俣治、根々川千鶴、沼蛇松、伊月場みずき、久野脇じな、兎山明の7名。自治領の参画もあり、臣と巫女の出席は今回より取り止めとなった。


「で、今回から連邦諸国をどう説得していくか、具体的な意見をまとめていこう」


 安久斗がそう声をかける。


「その手の意見については安久斗と蛇松が得意とすることだろ。お前らに任せるぜ」


 俣治がそう安久斗に返す。安久斗はそれに表情を顰めたが、特段言い返すことなくため息だけ吐いた。


 最終的に妖精を奇襲したい井谷をはじめとした反妖精主義の面々は、この取りまとめに関しては濱竹と沼の親妖精主義の意見に従う。


 まだ表立って対立する時期ではないという判断であり、戦略的な一手である。


「最も説得に重要となる文句は『各国から妖精を追い出すことができる』ということになるだろうな」


 蛇松がそう言うと、「失礼な言い方ね!」とじなが怒る。しかし蛇松はその言葉を鹿十しかとして続ける。


「神類にとって、人類と妖精に兵力を割くことが最もの無駄であり手間である。兵力を然程持たない国であれば、人類を最優先で警戒し妖精との関係を崩さぬように様子を見ながら動く必要があり、そこもまた労力になっている。井谷や靜のように戦力があれば妖精を積極的に排斥するが、皆が皆そうであるわけではないからな」


 つまりは国の中から妖精を追い出せば、考えることが一つ少なくなると蛇松は主張した。


「他にも、連邦の技術力の発展が見込めるな。妖精の能力は神類のそれとは少し違う。そのため、神類が持っていない力を応用して様々な技術を生み出せるはずだ」


 安久斗がそう言って、


「濱竹で既に実験しているが、転移回廊なんかは移動時間や労力を格段と減らすもんだ。これを妖精の国で改良し、連邦中に売り込むことで、俺たちの暮らしはよりよいものに変化していくことが見込まれよう」


 と付け足した。


「あと、これは靜にとって大きな利点になることだが、妖精の国ができればもちろん妖精にも“国民”という地位が与えられる。そうなれば税が課され、多少なりとも連邦の運営側に還元されるはずだ」


 蛇松がそう言った。安久斗が「靜にはそれが一番効きそうだな」と笑う。


「ならば、これらを独立の説得材料にするか」


 俣治がそう言うと、「他に無いのかよ、まだ少し弱くないか?」と安久斗が首を捻る。


「もうないだろ」


 俣治が鼻で笑いながら言う。


「意見出してねぇやつに言われたくないな」


 安久斗が俣治を睨む。言い合いになりそうな雰囲気が漂うが、そうならないように蛇松が動く。


「たしかにないな。だが、俺も弱い気がしている。しかし俣治、お前はそれでいいと判断したんだろ。なぜそう言える?」


 蛇松の質問に少し得意げな表情を見せた俣治は、


「お前らには絶対ぜってぇできないことをやってるんだ。だがこれが上手くいけば、このクソ雑魚な主張でも説得できると確信している」


 そう堂々と言った。


「何を企んでいるんだ?」


 安久斗がくだらなそうに訊くと、「言えねぇな」と悪っぽい笑みが返ってくる。


 安久斗は憎たらしく思い舌打ち、ため息を吐いた。


「それで、お前の企みはどのくらい時間がかかる? その言い分ではまだできていないんだろ?」


 蛇松の問いに俣治は「あぁ」と返して、


「上手く事が進んでも10日くらいはかかるな。15日あれば概ね準備が整おう」


 と答える。


「ならば会議はそれまで続けよう。事が上手く運ぶまで時間を稼ぎ、万全な状態で最高議会に挑もう」


 蛇松がそう言うと、一同が頷く。


「どんな企みかは知らんが、そこまで言うならそれなりに期待していいんだな?」


 安久斗が俣治に訊くと、


「大いに期待しておけ」


 と笑みが返ってきた。


 安久斗は鼻で笑って、


「せいぜい上手いこと企んどけ」


 と俣治に返した。


 今回の委員会はこれにて閉会した。


 この後の66日、71日、76日の会は、集まりはしたがろくに話し合うわけでもなく確認だけして解散という流れを繰り返した。


 蛇松の提案通り、これ以降は時間稼ぎをしただけであった。

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