表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
妖精自治領編
59/107

1-02『妖精自治領』

「賛成多数で、可決する」


 神紀4999年、夏至後3日。


 靜国、静岡神社にてとある法律が定められた。それが、『妖精に対する取締法』である。


 これは靜国内のみに適用され、連邦加盟国全体を動かすようなものではなかったが、国内に、主に北部の山岳地帯に生息する妖精にとって最悪の法律となった。


 神類は、人類を嫌う。それは生物兵器だから当然のことで、人類を殺すために産まれた存在だから如何様にもし難いものである。対して、同じく生物兵器として産まれた妖精も、神類が敵対視する存在であった。


 妖精は、人類が生み出した最初の生物型の兵器である。小さな体に大きな羽、高速で飛行しながら攻撃を加える、超小型戦闘機みたいなものだ。世に解き放たれて5000年という歴史の中で、それらは食物連鎖の波を生き残るために知恵をつけて、人類や神類と対立した。しかし妖精よりも高度で精密な神類は強く、人類に成り変わり文明の頂点に立ったのだった。


 神類は、妖精を「失敗作」と言い見下している。高度で精密な生物兵器と自負する神類にとって、色々と途上的な妖精は失敗作のように映っているのだ。


 そこで神類は、妖精を山の中に追いやった。住みやすい平野部には神類が国を作り統治し、山間部にひっそりと妖精が暮らす。そんな状況が当たり前となっていた。


 しかし靜は、ここに来て妖精を過剰に取り締まろうと決断した。


 それは、靜が著しく妖精を嫌っているからというのも少なからずあるが、それ以上に都市部の拡張のためというのが強かった。


 靜は、先の大戦争『サハ戦争』で、世界の北端であるサハ列島を手にした。戦争で荒廃した島々であったが、そこには靜よりも進んだ文明の痕跡が眠り、それを手にした靜は人口規模が膨れてきた都市部を拡張しようと山を切り開くことを決断した。


 そのために、妖精に圧力をかけて排斥していこうというわけだ。まぁ半分は妖精を追い出すための口実に過ぎないようだが。


「集落に降りてくる妖精は、見つけ次第処分する。また、妖精が我々神類に危害を加えたり秩序を乱したりする場合は、問答無用で処分する」


 取締法の概要は、簡単に言うとこのようなものであった。




「どういうことよっ! 妖精だって生き物よ、神類よりも先に生まれ、私たちがいなければ神類はいないというのに! なんて恩知らずな輩かしら」


 これに対し、反発の声を上げた集団がいた。


 靜国の北西に接する根々川国にある、妖精自治領である。


「そもそも、神類の国の中で生きるのが間違いなのよ。妖精が国を作り、土地を持ち、その中に生息する神類を排斥してみれば私たちの苦しみが分かるんじゃないかしら。あーー! 考えれば考えるほど腹が立ってくる! 神類になんて頼っていられない! 妖精は、妖精の国を持つべきよ!」


 ぶつぶつと文句を垂れるのは、妖精自治領の長、久野脇くのわきじなである。小さな部屋の中で、くるくると飛びながら誰に言うわけでもなく言葉を並べていた。


「もう、じな。少し静かにしてよ」


 そのじなに対して文句を言うのは自治領の右翼(役職の名称。思想ではない)、笹間渡ささまどぬくりである。彼女は机に突っ伏しながら前髪を弄っていた。


「そう言うけど、私たち妖精の地位は本来こんなところにないわよ! もっと上よ、上! 神類なんかに虐げられて、ぬくりは腹が立たないの?」


「そりゃ立つけどさ、自治権が認められているだけでも充分なんじゃないの? ほら、根々川(この)国にいるだけで極度の反妖精主義者からは護られるわけだし。神類の加護を受けるのも悪いことだらけじゃないと思うけどなー」


 ぬくりはそう言った。


 その直後、部屋のドアが勢いよく開け放たれて、一体の妖精が入ってきた。


「いやぁ、外は暑いよ〜。日向ひなたに出るだけで干からびそう」


 そう言いながら机につくのは、左翼(これまた役職名。以下略)を務める下泉しもいずみかわちだ。


「それよりかわち、聞いた? 靜の新しい法律」


「『妖精に対する取締法』だっけ? 聞いたよ〜。やっぱ靜はダメだね〜、私らに対して全く理解を示してくれないよ」


 かわちはそう言いながら、机の上にあったお茶を手に取って飲んだ。ぬくりが「それ私の!」と怒るが、かわちは構わず飲み干して一息ついた。


「やっぱり頼れるのは濱竹かな〜。あの国は妖精の希望が詰まっている気がするの」


「幹部に極峰きょくみねちゃんを起用してるしね。それに山岳地帯の妖精に対する保証もあるとか言うし。たしかに靜より話が通じそうだね」


 かわちの言葉にじなはそう言うが、ぬくりは良い顔をしない。


「そうかな? 濱竹だって去年、私らが独立を訴えた時にそれを認めなかったじゃない。なんか上手く言いくるめてきてさ。敵ではないけど味方でもないよ。そういうのが一番タチ悪いんだから」


 実は妖精自治領は、この前年に独立をしようと試みていた。


 北の大国である井谷が妖精を大量に虐殺したことに憤慨した妖精自治領は、井谷との全面対決を決行するために根々川国に独立を訴えた。


 しかし根々川の神、千鶴は、靜や濱竹に意見を聞いて周り、最終的に濱竹安久斗と相談を重ねて独立を許可しなかった。


 その際、安久斗は井谷に妖精の過剰排斥は混乱の素になるという旨の抗議文を送り、妖精との間を取り持つ形で全てを収めてしまった。無益な戦争に発展することはなかったが、妖精自治領からしたら独立できなかったというマイナスの面も少なからずあったのだ。


「でもつくづく思うわよね、どうして私たちが何かするのに際していちいち神類の許可を取らないといけないのかって。独立することの許可は百歩譲ってまだ許せるとして、避難民を受け入れるのだって許可が欲しいとかさ。私たちは何も間違ったことをしていないのに、馬鹿みたいじゃない」


 じなはそう言って、ようやく席に座った。


「それな〜! なんも悪いことしていないし、なんならいいことをしようというのに。いちいちあの根々川千鶴の顔色を窺わないといけないのが気に食わないね」


 かわちがそれに反応する。ぬくりも「うん」と頷いた。


「で、靜のくだんの法律だけどさ」


 じなの一言で話が唐突に戻った。だがそもそも今回の会議の内容はこの法律についてなのだから、今までが脱線していただけなのだが。


「靜には抗議したいねぇ。そんなことをしても抵抗が増えるだけだと。あと殺すんじゃなくて、こっちに強制送還くらいの内容に変えてくれって話ね。ここは妖精の味方の地だから」


 かわちがそう言う。


「ただ、靜に恨みを持つ妖精を受け入れるのは危険でもある。認めたくないけど、神類中心の世界であることに違いないし、ここらじゃ靜には逆らえない。靜に目を付けられることはなるべくしない方が安全ではある」


 ぬくりの言葉に、2人もまた「そうだよねぇ」と唸る。


「それでも、形としては抗議しようよ。妖精が理不尽に殺される世界なんて、やっぱり作っちゃいけないよ」


 長のじなの言葉で、靜に対して抗議をすることが決まった。


 そうして妖精自治領は靜に抗議文を送ったのだが、靜を治める三大神(するが、あおい、しみず)は、誰もその文章をまともに相手にしなかった。




ーーーーー

ーーー




「ふぅん、明も大変だね」


 神紀4999年、夏至後16日。渡海自治領の面々が国の神治に正式に加わってほんの数日といったところだが、本日彼らは休みである。


 というのも、北方の大国井谷の軍事パレードに招待されたとか。去年から明様個人と井谷国の神様、俣治またはる様の間で親交が深まり、明様はこのような催し物に度々来賓としてお呼ばれされているらしい。


 今までは渡海自治領として日渡と無縁の独立した統治形態を有していたためあまり気にしなかったが、日渡国一丸となった現状では萌加様も少し気になるらしく、本殿の中を「うーん」と唸り声を上げながらうろうろされている。


「どうかされたのですか?」


 そう尋ねると、


「あぁ、別にこれと言って大きなことではないんだけどね。ただ、井谷ってあんまり好印象のない国だから不安で……」


 と萌加様。


「ですが、渡海難民の際には大いに助けてくださいましたし、井谷国の協力もあり日渡は安定するに至っています。良好な関係を築けているように思えますが……」


 花菜が言うと、


「たしかに国同士では良好だけどさ。井谷は靜と濱竹の両方を目の敵にしているし、連邦の中でもとにかく態度が大きい。他国を見下すような物言いに、靜と濱竹に対して国境付近で軍事演習を行う始末。そういう態度から、連邦の神々にとっては嫌な奴なの。井谷だけに」


 などと仰る。


 僕は井谷について詳しく知っている訳ではないけど、臣の仕事をする中で好評を聞いたことは確かにない。


 それに、この靜連邦の中で絶対的な権力を有する二大統率国を目の敵にしている国など、想像するだけで身震いがする。


 少なくとも、尋常ではない。靜と濱竹と対立すれば、国家の安寧は破られるからだ。それを物ともせずに居られるほどの国力や軍事力があるというのが容易に想像できる。


「とは言いますけど、明様が来賓として呼ばれるほど、この国とは親交があるわけです。あまり悪く言うのもよろしくないかと存じますが……」


 僕が萌加様に申すと、


「でもね、わたしは俣治とあんまり喋ったことないんだよ? まともに国交もないし、街道も整備してないし。強いて言うなら難民の件でお礼を言っただけだけど、それ以降わたしとは関わりないし。結局、親交があるのは明であって、兎山であって、渡海であるわけで、それは日渡国内に存在するけど日渡ではないわけで。……ちょっとややこしいな、自治領」


 序盤はハキハキと言葉を並べられたが、後半は頭を抱えられ混乱されている様子。しかし言いたいことは分かる。自治領というのは、結局は神……というか永神種がいないだけの国のような存在であり、ある国の土地を間借りして別の国家が存在しているようなものなのだから。


 深く交流を持っているのは明様だけであり、かつての兎山自治領、今は渡海自治領が井谷と仲良く付き合っている状態だ。そこに我々日渡は関係していないというわけだ。


「そもそも、わたしは靜で育ったからね。当時は協定大国時代だったけど、その時も協定靜と協定井谷はバッチバチに戦争していたからね。当時はあんまり意識しなかったけど、俣治は祖神国家に戦争吹っかける始神種ってことだよ。今思えばただのヤバい奴だよ」


「聞く限り勝ち目がない戦争ですね……」


「でしょ? なのに何度も戦って、靜から国土を分捕ってるんだよ。恐ろしいったら有りやしないよ」


 花菜の感想にそうお返しになる萌加様。


 萌加様は靜と深い縁があり、さらに濱竹とも良好な関係を築いていらっしゃる。つまり完全に反井谷勢力の一員なのだ。


 対して明様はというと、昇竜川を挟んで濱竹と長年対立し、戦争に戦争を重ねて泥沼化、靜とは勢力圏が異なり影響を受けず距離も遠く、靜連邦発足時には国を治める神から降りていたため忠義もない。つまり井谷と対立する必要がどこにもないのだ。


 明様の性格だと、気が合う方とならとことん語り合いそうだし、関わりを持ちそうだ。話を聞く限り、井谷俣治様は大きな権力を持つ国と対立しても地盤が崩れないような統治力を持ち、着眼点や考え方も少し他の神々とズレている。明様はそういう変わり者は好みそうなので、きっと意気投合してしまったのだろう。


 しかも少し思想似てるようだし。特にアンチ濱竹なところが。


「渡海が靜や濱竹から目を付けられると、釘を刺されるのはわたしなんだから。少しは謹んでもらいたいところなんだけど……」


 萌加様の不安はそこにあるようで、特段俣治様と明様の個人間の交友は気にされていないご様子。


 ただ、たしかに国として少し不安な面である。これで反靜、反濱竹だとして目を付けられると、靜連邦での立ち位置は格段と難しいものになる。


「渡海を神治に組み込む以上、一度釘を刺すべきですかね?」


 僕が問うと、「そうだねぇ」と萌加様。対して花菜は僕から視線を逸らした。


「どうしたの?」


 花菜に訊くと、


「いや。大智、あんたやっぱり厳しくなったね」


 そう言われた。


 そうだろうか? あまり変わっていない気がするけど。




ーーーーー

ーーー




「これが我が国最新鋭の弾撃だんげき装置、井谷九八式弾撃だ!」


 井谷国の臣、井川いかわ閑蔵かんぞうが、長さ約1メートルほどの銃を群衆に見せる。


 神類文明で、銃は珍しい。生まれつき能力を備え持つ彼らからしたら、飛び道具を作るなど必要のないことなのだ。


 しかし確かに、精密な工芸は国の技術を証明するにもってこいの代物である。目に見える恐怖を作ることで、民衆に有無を言わさず従える統治が完成される。軍事大国井谷が得意とする統治方法だ。


 井谷の国土のほとんどは、3000メートル級の山々が連なる急峻な山岳地帯である。秘境とも言えるその山奥で、轟音と共に数々の兵器がお披露目される。


 旧式の戦車や機関銃から、最新鋭のものまで、井谷の持つほぼ全ての兵器が一堂に会する。


 これこそ、まさしく軍事パレードである。


 しかし、だ。


 靜連邦の神々は、この軍事パレードの全貌を知らない。井谷が何やら挑発行為をしていると思っているだけで、その内容に興味など示していないのだ。それは能力第一主義で兵器が軽視された秩序であることと、兵器の恐ろしさを知らない無知故の侮りに由来する。


 そのため、井谷が現状どれだけの力を持っているのか、どれだけの危険が潜んでいるのか、誰も正確に把握していないのだ。


 何度も言うが、それは神類が兵器を侮っているからである。


 井谷の軍事パレードに来賓として招待されることは非常に珍しい。今まででも類を見ないと言っても過言ではなく、過去から現在まで振り返ってみて、来賓として招かれた面々は片手で数えられる程度である。


 明は、そして渡海の上神種は、井谷の全貌を目にした。


「撃てぇぇ!!!」


 閑蔵の合図と同時に鳴り響く轟音。あっという間に向かいの山の禿げた斜面から砂煙が上がる。


「……なんてことだ」


 口を開けて呆然とする竜洋。


「威力だけなら、関東統一連邦の戦艦にも匹敵する……かも」


 湊も目を丸くして立ち尽くす。


 明は何も言わず、ただその様子を眺めていた。


 そうして、今回のパレードの目玉、最新鋭の銃、九八式の試射会が行われた。


 その的はなんと、


「離せっ、離せっ! おい、やめろ!!!」


 無機質な金属製の箱の中から、1体の妖精が取り出される。否、1体だけじゃない。続々と取り出され、立てられた杭に括り付けられていく。


 縛られた妖精は、実に15体。その正面に、九八式を構える井谷軍が並ぶ。


「撃ち方、はじめっ!」


「てーっ!」


 臣の声に合わせ、井谷軍長官が指令を出すと、軍は一斉に発砲した。


 全弾、妖精に命中する。


 妖精は絶命した。


 絶命した妖精を井谷軍は淡々と取り外し、また更に箱から妖精を取り出して縛り付ける。


 妖精は恐怖のあまり錯乱していた。


 それでもまた臣と長官の掛け声で、無慈悲に九八式は火を噴いた。


 妖精は一度に15体、着々と数を減らしていく。


 九八式の精度は素晴らしいもので、50メートルほど離れた地点から手のひらほどの大きさしかない妖精を見事に打ち抜き殺すことができるのだ。


 それも、なんと30回、1体も漏らさずに仕留めることができたのだ。


 これは銃の性能も去ることながら、軍の実力も素晴らしいものだと証明された。


「「…………」」


 この演習に、倫理などなかった。


 竜洋と湊は、妖精を撃ち抜くたびに狂ったように沸き立つ群衆に疑問を抱きながらも、来賓として拍手を送り続けた。


 最後など、もう何も考えていなかった。


 しかし、明は違った。銃の殺傷能力と軍隊の練度に素直に拍手を送り、最後の来賓挨拶で、


「かの忌まわしき小さき物を、あれほど遠くの地から一寸の狂いもなく仕留められるなど、感動の極みに達した」


 と発言。その後に続けて、「今後はより練度を高め、山に住まう野良の連中の駆除に励まれることを望む」と激励の言葉を送った。


 竜洋と湊は唖然とした。明の倫理観は、自分たちの抱いている感覚とズレていることに初めて気が付いたのだ。


 この1日で、井谷国は450体の妖精を処分した。この量は、およそ一国に生息する妖精の数の平均以上である。


 もちろんこれに妖精自治領は非難をし、井谷国の山々に潜む妖精は挙って隣国根々川の妖精自治領へと逃げかえった。


 根々川国の神、千鶴は、妖精が逃げてくることに難色を示しながらも黙認し、しかし井谷への非難は行わなかった。非難もしないが、支持もしていない。ただ千鶴が取った行動は、妖精自治領に対して「井谷の行動にいちいち反応を示すのは、過度に相手を挑発することに繋がりかねない」と警告しただけだった。


 そして、妖精自治領から非難を受けた井谷国だったが、その文言を相手にすることはなく、新型兵器の実験台として目に付かないところで妖精を使いながら、同時に堂々と諸外国に宣言しながら妖精の駆除に乗り出した。


 妖精など、どの国からしても忌まわしい存在なのだ。




ーーーーー

ーーー




 さて、場所は大きく南に下がる。


 靜連邦南東に位置する、猪頭いがしら半島。


 その半島にある6つの国をまとめて猪頭諸国と呼ぶが、協定大国時代から未だにその慣わしを続けている猪頭は、6つの国に分かれながらも法律や規律を共有していた。


 また、国境を越えるのに通行料は発生せず、手形も必要ない。つまり現状、6つの自治領が存在する1つの大国のような形相を保っていた。


 神類はそれを古臭い慣わしと見ているが、国家の結びつきが強く、神同士、また国民同士が仲の良い猪頭半島にとっては都合の良い統治形式なのだった。


 そんな猪頭半島でこの年の夏至後20日、年末を以てとある法律の廃止が決定された。


「『妖精保護法』は延長しないものとする!」


 この妖精保護法は、その名の通り妖精の保護を規定したものである。半島は一帯が険しい山岳地帯となっていて、そこに住む妖精も多くいる。猪頭諸国は妖精と共存することを目指したわけではないが、「触らぬ神に祟りなし」と同じ理論で関わりを持ってこなかった。


 そのため、妖精に手を出せば罰則を与えるという法律を作り、妖精との関係を持たないようにしてきた。


 しかしこの法律は1年単位で効力を終える、いわゆる『臨時法』というものに分類されていた。猪頭諸国はその都度法律の期限を延長してきたが、制定してから八十余年が過ぎて、半島内で妖精に対する認識が改まってきたことから法律を廃止することを決めたのだった。


 つまり猪頭諸国の方針は従来と全く変わらず、今まで通り妖精とは不干渉を貫く路線を歩もうとしていた。


 しかし、ここ数日で靜、井谷と妖精に対して当たりを強めたことが影響し、猪頭諸国のこの決定も、妖精たちの目には悪い方向で止まってしまう。


 猪頭も妖精を排斥しようとしている云々。


 猪頭諸国はこれから妖精を虐殺する云々。


 噂が噂を呼んで、尾鰭背鰭がついて、その報告が妖精自治領に舞い込んだ。


 もちろん、妖精自治領は憤慨した。そして猪頭諸国に対して抗議をした。


 抗議をされた猪頭諸国は弁明をしたが、それなら法律を廃止する必要はないではないかと言われてしまい決裂。しかし臨時法をいつまでも引き延ばしておきたくない猪頭諸国は、遠い西部の妖精自治領からの文句など程々に聞き流し、法律の廃止は覆さなかった。


 神類が妖精を蔑ろにし始めて、妖精自治領を筆頭に各地で妖精の動きが活発化する。


 靜国内での山地開拓の抵抗運動や、濱竹昇竜行政区での大規模ストライキ、猪頭半島の妖精たちは半島の国々の神社に降りてきて抗議運動を始めた。


 連邦中が妖精の対応に追われる事態になる中、靜国の『妖精に対する取締法』が最大限の威力を発揮し、靜は比較的安定した統治に至った。


 また、圧倒的な軍事力で大規模に排斥する井谷も、妖精が有無を言うことを許さず滅するため抵抗運動など程遠い存在となった。


 これらの例から、連邦諸国が挙って妖精に対し厳しく取り締まる法律を制定していく。


 日渡にもその波が迫るが……


「この国にはそもそも妖精なんてそんなにいないじゃん! 今急いで法律を作る必要がないよ。それなら渡海を含めた神治の確立を急いだ方がいい」


 日渡萌加の主張が絶対的であるため法律制定は後回しになった。


 対して渡海自治領は、領令(自治領が独自に発行できる法律)で『妖精除去令』を制定。渡海には妖精はいないが、この令の最大の特徴は「領内への妖精の立ち入りを禁ずる」というものである。つまりこれで、妖精が渡海へ立ち入ることができなくなったのだ。


 次第に激化する、神類と妖精の対立。


 そしてついに、連邦を大きく揺るがす事態に発展する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ