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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
蛇足
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問答

「日渡臣殺しの件について、裁判を始める」


 この裁判で判事を務めるは、猪頭太平、井谷俣治、靜するがの3名だ。長い机に横一列で並び、一段高い位置から裁判の様子を眺める。


「被告人、御厨光和。日渡国臣磐田大志を拉致監禁し暴行を加え殺害した容疑に問う」


 検察、宇治枝恭之助。


「まずこの事実に間違いはないかい?」


 するがの言葉に、被告である光和は頷いた。しかし直後に、「でもっ!」と大きな声を上げて言う。


「あれは靜しみず様が殺せと仰いました! 俺の妹を度々強姦し妊娠させた、下衆な輩だと聞き……」


「お前、今なんつった?」


 その言葉に、静かに、しかし確実に怒気の籠った声が返ってくる。その声の主、するがは、光和を睨みつけて眉を顰めていた。


「まぁまぁ、するが。落ち着いて。この子はずっとそう主張しているんだ。君も知っているだろう?」


 恭之助がそう言ってするがを嗜めるが、未だするがは顰め面、挙句あおいとしみずまで不機嫌極まりないオーラを出している。


「なぁ、それよりもよ。お前、殺したんだな? 日渡の臣を」


 質問をしたのは俣治だった。


「はい、殺しました」


 光和ははっきりそう答えた。


「拉致監禁して暴行を加えたことも認めるか?」


 太平がそう尋ねる。


「はい、間違いありません」


 光和はそう言うと、やはり次には「ですが!」と続く。


「それ以上は訊いてねぇよ。理解力ねぇだろ、お前」


 それを鼻で笑いながら遮ったのは俣治だ。


「どうせしみずに言われたって言うんだろ? 夢と現実がごっちゃになってるガキじゃあ、理解力があるなしの土俵にも立てんか」


 ニタリと笑いながら俣治は光和を見る。


「夢なんかじゃありません! あれは現実です! たしかにしみず様は俺に……」


「悪いけど、しみずたんの行動は徹底的に調べさせてもらったんだ。犯行当時、彼は占守島で行われたサハ戦争の戦勝国会議に参加していた。その証言は、会議に参加した協商の全祖神から取れているよ。ほら、ここにその証明書がある。関東、中京の祖神にこれだけ手間をかけた上神種は君くらいだろうよ」


 それに対して、恭之助は不気味なくらいに笑いながら紙の束を見せつけてきた。


「でも……!」


「ねぇねぇ、ずっと我慢してたんだけどさぁ。君、さすがに不敬じゃないかな? ボク、謂れのない罪を着せられ続けているんだけど。臣を殺して良いわけないじゃん。ボクが指示した? 許可した? 情報を渡した? ははっ、笑わせないでよね」


 ついに傍聴席で聞いていたしみずが怒った。


「しみず……様…………」


 それを見て、光和の目から涙が溢れた。


「あなた様が……! あなた様が殺して良いと言ったじゃないですかっ! あなた様が焚き付けたじゃないですかっ! それなのに、どうして! どうして……」


 光和は泣き叫んだ。法廷は、ただただ白けた。


「おい、しみず。本当にお前、光和に何も言っていないんだな?」


「当たり前じゃん。ボク、占守島にいたんだよ?」


 俣治の質者にしみずはそう答える。それに関して頷くするがとあおい。


 判事の手元には、恭之助が提示した戦勝国会議に参加していた祖神種直筆の記名がされた証明書が回ってきた。


「黒だな」


「黒だ」


「確定で黒」


 裁判官の意見が瞬時に一致する。


 ちなみにだが、この裁判に弁護はない。光和が罪を認めていて、更に臣殺しとなれば処刑は確定しているからだ。


 しかし、今回の焦点は処すか処さないかではない。靜への態度を確かめる意味が強かった。


 その結果が、全会一致の『黒』なのだ。


「御厨光和。日渡臣殺害の容疑と、祖神靜への冒涜を追加して、即日処刑とする!」


 するががそう宣言する。


「お、お待ちを……! 確かにやりましたが、確かにしみず様が……!」


「黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れっ!!!!」


 光和の足掻きにしみずが怒鳴った。


「ボクが何をしたって? ボクが何をした!? 言ってみろ、言ってみろっ!!!」


 その目は血走り、怒気に塗れ、殺意が溢れ出していた。


 光和はその気迫に気圧けおされて倒れ込んだ。


「なんだ、なんだ? ボクを悪者にしておいて、このくらいで怖気付くくらいの覚悟しかなかったのか? 馬鹿だなぁ、間抜けだなぁ。靜を敵に回そうなんて阿呆でもしないさ! 君はそれ以下のゴミクズだ! 誰も君の行いで幸せにはなっていないよ? 日渡だってこれで靜と確執ができたかもしれないし、君の家族は臣殺しの犯人の一族として萌加が何らかの判断を下すだろうし、君の大好きな妹ちゃんだって、その最愛の彼を失って失意の中にあるし、君が尊敬する兎山明だって、君の行動には心底呆れているだろうね。あぁあ、悲しいねぇ。なんて阿呆の子なのかなぁ、君は。罪を被せるなら、もっと手の届く範囲で被せなきゃダメだよ?」


 しみずはそう言って光和を見下ろすと、怒りの感情を殺すことなくドスドスと歩いて法廷を去った。


「処刑は安倍川あたりでどうかな? 殺し方は打ち首。誰か斬りたい奴いないかい?」


 するががそう問うと、ひとつ綺麗に手が上がった。


「はははっ、そりゃ君しかいないか」


 その者の名は。


「磐田大智くん」




ーーーーー

ーーー




 本当に、これでいいのだろうか。


 兄に続き、大志まで殺された。


 どうしてだろう、なんでこんなことになったんだろう。


 僕ら磐田家のせいなのか? それとも、この国のどこかがおかしいのか? はたまた、靜連邦全体が狂っているのか? 或いは世界そのものが……?


 ……そのいずれでもなく、兄や弟がおかしかったのか?


 どこに欠陥があったのだろうか。どこかに欠陥があるのだろうか。


 何も分からない。


 分からないけど、手の届く範囲で、潰せる芽は潰すに限る。はっきりしたんだ、今回で。


 欠陥がある可能性があるなら、それを修復する。何かが起きてからでは遅いから。家のことだろうが、国のことだろうが、連邦のことだって同じことだ。後手に回っていては、その先には後悔だけが待っている。


 淡々と進む裁判。兄の時と同じように、何を裁いているとも分からないような、意味があるのかないのかさっぱり分からない裁判だ。


 結論は既に出ているはずなのに、事実の確認とやらを永遠にやっている。


 御厨光和。いちかさんの兄。兎山再興志向が強く、奏上権でよく明様に意見してきたという。それが僕らの耳に届いていないということは、明様が相手にしていなかったということであり、どうせ日渡を滅ぼして国を乗っ取ろうというような意見だったのだろう。


 しかし、荒技に出るなんて。


 弟を、あんなに残酷に殺しやがって。


 許すわけにはいかない。さっさと死んで欲しい。なんだ、この。


 しかし見苦しいことに、奴はずっとしみず様のせいにし続けている。やめろよ、靜と日渡の対立の火種をばら撒くな。


 途中からずっと、さっさと死んでくれと思っていた。それどころか、殺したいとすら思えていた。


 今ここで、能力を使って襲い掛かろうか。抜刀して斬りかかってやろうか。そんなことをぐるぐると考えては、忘れていった。


 何を思っていたのか自分でもよく分からないが、長い時間をかけてようやく最初から出ていた結論に辿り着いた。


 即日処刑。妥当すぎる判断だ。


 あぁぁ、殺したい。弟の仇を、この手で取りたい。殺したい、殺したい、殺したい、殺したい。


 処刑が決まってからも、ぐるぐると僕の中を渦巻く禍々しい感情。


 目の前で繰り広げられるしみず様と光和の諍いには興味がなかった。ずっとずっと、その光和を自分の手で仕留めたいと思っていた。


 しかし、機会はないものとばかり思っていた。処刑なんて神がやるものだろう。今回も萌加様がなさるか、酷く冒涜を受けた靜様がなさるか、2択だろうと考えていた。


 だからこそ、どうしようもない殺意が強く込み上げてくるのだが、次の瞬間、僕の耳がとある言葉を拾った。


「誰か斬りたい奴いないかい?」


 その言葉に、僕は迷わず手を挙げた。誰よりも早く、誰にも取られないように。


 僕が奴を斬られるように。


 そして僕は、その願いを叶えた。




ーーーーー

ーーー




 安倍川の河川敷で、日没と同時に処刑が実行された。


 刀を持って現れた大智は、周囲に誰がいようが構わず、縄に縛られた御厨光和を滅多刺しにした。


 その顔は、狂気的に笑っていた。


 いつか、彼が私に言っていた言葉を思い出した。


「誰かを殺すことって、容易いことなんだね」


 ……そうか、容易いことなのか。


 でも、私はそれに、たしかこう答えたはずだ。


「何も考えないならね」


 と。あいつは考えすぎなんだ。ずっとずっと考えて、殺すことを躊躇っていた。そして傷ついて、殺めることを嫌っていた。


 でも、大智。ねぇ、今、あなたは本当に「容易い」と思っているの?


 光和は血塗れで呻きながら倒れていた。大智は返り血を浴びてもなお笑いながら、そんな光和を斬りつけていた。


「大智……」


 声が漏れた。悲しみに似た鋭い痛みが胸を刺してきた。


 今まで見てきたどんな笑顔よりも、その顔は嫌いだった。


 嫌いだ、嫌い。あれが幼馴染とか、笑えない。


 私の頬を涙が流れ落ちていく。


 大智の頬には光和の血が流れていく。


「死ねぇぇっ! お前が大志へ与えた同じ苦痛を味わいやがれっ!」


 その言葉と同時に、光和の首がざくりと斬られた。


 血を吹きながら、首が石の上にごろんと転がる。


 大智の顔は、まだ笑っていた。


 ……笑っていた。


「……大智。人を殺すのは、本当に容易いかな?」


 私はひとつ、そんな言葉を溢した。


 隣から萌加様の視線を感じた。神様が何を考えているのかは分からない。それに私には今、他者の気持ちを推し量るほどの余裕がなかった。


 豹変した幼馴染を見つめる。返り血に塗れ、肩で息をしながら、地に転がる首を踏みつけながらまるで悪役のように笑っている。


「……ねぇ、本当は容易くなんてないでしょう?」


 なんで、とか、えぇ、とか、そういう当たり前に聞こえた言葉が、今は何も聞こえない。届かない。


 それでも私は、変わり果てた彼を見ながら嘲笑うように言ってやった。


「だって今、あなたはずっと、考えているじゃないの」


 何をだよ、なんて言わせないから。


 どうして自分が笑っているのか、あなたは分かっていないの?


 なんで笑っていられるのか、それを疑問に思うことすらないの?


 悲しいわね、本当に悲しいやつね。


 だったら、いいよ。


 私が教えてあげるよ。


「考えているでしょ?」


 鼻の裏を勝手にくすぐる鼻水を私は啜る。


 目から溢れる涙は、もう今更どうしようもない。


 それでも、震え切った声で教えてあげるわよ。感謝しなさいよ、まったく。


 ねぇ、大智?


 そうでしょう?




「大志のこと」





次編予告

 物語は、1年後へ。


「賛成多数で、可決する」

「妖精は皆等しく処分だ」

「『妖精保護法』は延長しないものとする!」

 連邦内で進む、妖精の排斥。


「神類になんて頼っていられない! 妖精は、妖精の国を持つべきよ!」

「立ち上がろう、みんな! 妖精自治領に集いなさいっ!」

 反発するのは、根々川国妖精自治領。


「ここに妖精自治領は独立を宣言する!」

「妖精の国など認めないっ!」

「妖精は全て処分せよ!」

「国家は守られなくてはならない」

 割れる意見、辿り着く先は……


「どうなっても知らないよ?」


神継者〜カミヲツグモノ〜

 妖精自治領編、乞うご期待!

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