甲
はじめの補足
神類文明に於ける世界とは、日本列島のみを指す。列島以外に神類は存在せず、今なお人類が文明を築き上げている。ここで言う日本列島とは、地理用語の広義的な日本列島であり、海溝に沿って続く弧状列島の全てを含んでいる。範囲はロシア連邦のサハリン州(実効支配されている帰属未定領域も含むものとする)、日本国全土、台湾である。(ここでは、政治問題を危惧して『台湾』が中華民国なのか中華人民共和国なのかを議論しないものとする。)なお、この世界の歩んできた歴史は現実世界とは大きく異なるため、実際の国際関係や歴史とは切り離されたファンタジー世界であると考えるものとする。
神類は、日本列島のみを『世界』とし、人類文明が広がる大陸を『異世界』と呼んでいる。
神類は基本、外に広がる人類文明との交流をすることなく、人類文明の物体が上空を飛べば問答無用で撃墜する。彼らは腐っても生物兵器に変わりはない。
人類文明の地図から日本列島は消え去り、航行危険区域、立入厳禁区域に設定されている。そのため、東アジアは常に海洋閉鎖されているも同然であるから、極東より太平洋に出る術がなくなっている。
あらすじ
最終的に世界征服を目論む関東統一連邦は、神紀4997年の夏至後9日に新干潟連邦を滅ぼし占領、内連邦による分割統治を開始した。世界の8分の3ほどを有するこの連邦は、靜連邦の併合も狙っており、靜のもとに脅迫とも取れる手紙を突き付けていた。しかしながら、靜するがはそれを無視、更には軍隊を靜連邦国境に展開する関東統一連邦に向けて『国境に無断で軍を配備するな。緊張度を上げるつもりか?』と問う通達を入れた。
新干潟連邦と靜連邦、この両連邦は、俗に『世界の緩衝材』と呼ばれている。それは、世界征服を目論む連邦が関東統一連邦の他にもうひとつ存在することに所以する。
その連邦は、関西統一連邦だ。関西と関東の緩衝地帯として新干潟連邦と靜連邦を影響下に取り込まずに敢えて放置していたのだが、関東が新干潟を滅ぼしたことで事態が急変する。関西統一連邦は、同盟を結んでいた北陸統一連邦と山陽統一連邦、山陰統一連邦を話し合いにより吸収、一気に国土を肥大化させた。また、同じく同盟を結ぶ中京統一連邦とも連携を強化し、軍事演習を行なっている。
関東と関西の対立が激化する中、関東統一連邦でひとつの大きな事件が起きた。それは、夏半若菜が占守シュムによって誘拐されたことである。
占守シュムは、世界の北端に位置するサハ列島連邦の祖神種である。
シュムが統治するサハ列島連邦は、同じく世界の北端に位置するサハ大陸連邦と共に関東統一連邦に協力する姿勢を見せていたものの、あくまで対等な存在でありたいという考えから、統一連邦に加わろうとはしなかった。
しかし、なんとしても傘下に加えたい東輝洋介は、「対等な関係は統一連邦に入ってようやく成り立つものだ」という伝達を送る。だが、サハ大陸・列島両連邦が異世界と交流をしている可能性があるという噂があり、もしそれが事実である場合は関東統一連邦としては仲良くできないという結論に至る。慎重に事を進めながら、戦闘になることも想定していつでも軍を展開できるように動いていた。
その動きがサハ列島連邦にとっては戦争準備のように思えたため、関東と交渉するために、過激であるが夏半若菜を誘拐したのであった。
一方、そんな関東統一連邦の動きなど知る由もない靜連邦の小国日渡は、靜と濱竹に命令されて南隣の渡海のクーデターを鎮圧し占領、併合するも、統治に失敗して渡海国民をほぼ皆殺しにしてしまう。虐殺じみたその行動で、靜連邦内から非難の声を浴び、国家の信用を少しばかり失っていた。
しかしそれはあまりに不可解で、理不尽であり、日渡萌加は憤慨していた。なぜ二大統率国は手伝うことをせず、日渡一国に任せたのか。統治をするに当たってどうしたら正解だったのか。靜と濱竹も同じことをしているのに、なぜ日渡だけが叩かれなければならないのか。萌加は未だなにもかも答えを出せずに、ただただ憤りを覚えている。
兎山明に命じられて、大智と喜々音は兎山自治領を離れて福田神社を拠点に渡海の復興を進めることとなった。荒れ果てた惨状を目に焼き付けながら現状を把握していた矢先、大海原を航行する大艦隊を目撃する。
さぁ、この先の世界をご覧あれ。
「にしてもほんと珍しい光景だな。いつまで経っても慣れやしない」
濱竹国、浜松神社。その応接室にて、濱竹安久斗が紅茶を啜りながらそう言った。
「慣れるも何も、まだ来てから1分も経ってないわよ?」
その声に呆れながら答えるのは兎山明である。そんな明に対して、安久斗は目の前の机の上に置かれた大量のクッキーが入った漆塗りの器を、彼女に向けてそっと手で押して、
「ま、細けぇことは気にすんな。とりあえず食え、美味いぞ? ……たぶん」
「そこは確証を持ちなさいな。自信なさげに『たぶん』なんて言わないでちょうだい」
またも明は呆れて告げるが、明は言われた通り食べないと失礼に当たると思い、クッキーを一枚摘み上げる。しかし、そのクッキーはどこかフニフニと柔らかい。しっとりしているのではなく、指に明らかな違和感を覚えるようなねっとりしたものだ。力を入れずに揉むだけで、クッキーは凹んだり凸ったりを繰り返す。なんらかの影響で弾力を持っている様子だった。
明が訝しんだ目でクッキーを見ていると、安久斗の声が聞こえる。
「なに、毒なんて入ってねぇよ」
「それは心配してないわよ。だけど……」
「そう警戒すんな、死にやせん。三日三晩に渡って、しつこい腹痛と下痢に魘されるかもしれんがな」
「生焼けじゃない! 毒よりタチ悪いわよ!?」
珍しく明が声を荒げる。安久斗はそれを見てニッと笑うと、
「ま、冗談だ。中にジャムが入ってんだ」
と言ってから器からひとつクッキーを摘み上げると、パキリと半分に割る。中から赤いジャムがとろりと垂れ出て、細く糸を引いた。
ほらな、と言いながら明にそれを見せたあと、彼は自分の口にクッキーを放り込んで噛み砕いた。
それを見て明も口にクッキーを運ぶ。中に入っていたのはいちごジャムで、しっとりと香るバターの味と、いちごの甘さが口の中に広がった。
「美味しい……」
明は少しだけ口角を上げて、甘味を食べるとき特有の蕩けた表情になった。
そんな彼女を横目で見ながら、安久斗は臣の浜松ひくまに退室を求めた。
これで応接室は、明と安久斗の二人だけとなる。
「どうだ、少しは元気出たか?」
ひくまが立ち去り、ドアを閉めた直後、安久斗は不意に、クッキーを遠慮がちながらもクッキーを食している明に尋ねた。
「っ!? えっ……と、なんのこと……?」
その声に、明は一瞬驚いたようなような表情をするも、すぐに平静を装って白を切る。しかし安久斗は明を射抜くような目で見ながら感情の籠らない声で告げる。
「誤魔化そうったって無駄だぜ? さっきここに来たとき、明らかに落ち込んだ表情をしてたじゃねぇかよ。それに、お前がここに来ること自体あまりに奇異な状況だからな。まさか襲撃ってわけじゃねぇだろ?」
「…………」
その言葉に、明はゴクリと噛み砕いたクッキーを飲み込んで、ばつが悪そうに目を逸らす。突如として訪れた沈黙。響くのは、臣が廊下を歩いていくコツコツという音だけだが、それも徐々に遠のいていき、ついには完全な無音と化した。
安久斗はただ、兎山明を見つめる。いつ見ても白くしっとりとした艶やかな肌だが、赤い眼と人形のようなさらさらの銀髪に、同じ神類であるかいささか疑わしいものであり、自ずと不気味さを覚えて止まないのであった。
しかし、安久斗にとって彼女の顔は美しくあって、今、何かを思考するその表情は、大きな問題を抱えて苛つく安久斗の心を落ち着かせるような効果を有していた。
「……そうね、認めるわ。誤魔化そうとしてごめんなさい」
沈黙を破るように、明は安久斗にそう告げ頭を下げた。その謝罪を言葉にして受け取ることはせず、ただひとつ頷くだけに留めた安久斗は、
「んで、どうしたんだ?」
と優しい声で尋ねた。かつての宿敵であって、今なお確執がないとは言い切れない関係ではあるものの、同じ連邦に属して濱竹勢力の一端にある者の話を聞かないわけにはいかない。況して明は、わざわざ相談するために足を運んできたのだから、それを無下にするわけにはいかないのだ。
「実は……」
明の口から語られた事態は、既に安久斗の知るところではあったのだが、その話を聞いて思っているよりも深刻な事態ではないかと安久斗は考えを改めるに至った。
その話は、後に『死空苦難の日渡虐殺』と呼ばれることになる、件の萌加による渡海国民大量焼却事件のことであった。
なお、この名称は神紀4997年に起きたことと、神類文明の故事、『苦難して死しても空し(「苦難して死んでも何一つ残らない=意味のないこと・もの」という意味)』に由来する。
明が安久斗に相談したことは、萌加の精神状態のことであった。
萌加はあの事件以降、精神が不安定になってしまっていた。臣と巫女に強く当たったり、自暴自棄になったりと、萌加らしからぬ行動が非常に増えたと明は訴えた。
「親友を失ったことによる精神的異常、なんて言葉で片付けたくはないな」
安久斗はそう言って、紅茶を啜る。
しかし、それだけだった。安久斗は明に、解決法を提示したり、どうしようかとも話し合わずに、助言もなにもしようとしない。そのため、応接室に再び沈黙が襲った。
相談しに来た明であったが、言ってから気がつく。これを安久斗に言ったところでどうにかなるはずがないと。なぜなら、安久斗がなんとかしようとすれば、それは下手をすると、濱竹による日渡への内政干渉になってしまうからである。
「ところでお前、萌加の過去って知ってるか?」
唐突に、安久斗がそう切り出した。
「過去って……兎山に来る前の?」
「あぁ」
確認した明は、安久斗の質問に首を振る。
「知らないわ。そもそもあの子、記憶喪失なんでしょう?」
「そうだな、記憶喪失だ」
安久斗が含みを持たせたようにそう言ったため、明は安久斗が萌加の過去について何かを知っているものだと思って期待する。
「だから尋ねたが、お前も知らないんじゃ進展はなさそうだな」
しかし、安久斗は何も知らない。明は期待を砕かれた形になったが、そんなうまい話があるわけもないと落ち着いて、
「で、なんでそんなこと訊いたのよ?」
と尋ねてみる。
「前々からの疑問があったんだ。靜はなぜ、永神種を拾ったのかっていうな。『面識がない永神種が倒れていた』なんて、不可解すぎる話だろ? だとしたら、あいつは靜が産み出した生物兵器、もしくは靜が洗脳した近隣諸国の始神種なんじゃないか。俺はそう思っているんだが、真実は闇の中だ」
安久斗はそう言って、クッキーを貪った。
「確かに、国を持つ立場にある永神種が道端で倒れているなんておかしな状況だものね。でも、遠い場所で攻め滅ぼされて、逃げに逃げ回って靜で力尽きた可能性もあるわよ?」
「ま、その説が一番濃厚とされているしな。夏半あたりに滅ぼされたと思うのが妥当だろう」
しかし、と、安久斗は続ける。
「あの萌加が、自国が滅びる場面で自分だけ逃げると思うか?」
「……そこよね、ほんとに」
明はため息を吐く。
「真実は闇の中ね」
「あぁ。ま、あまり詮索するもんでもないがな」
明の言葉に安久斗は頷いて、
「お前とじっくり話をできる機会なんてあまりないだろうから、もしかしたらと思って訊いてみただけだ」
そう続けてからまた紅茶を口に含んだ。しかし明は、安久斗の口から出てきた知らない国名について尋ねる。
「夏半って国は、そんなに強いの? 萌加はかなり強いけど、倒されてもおかしくないくらいの実力を有しているのかしら?」
その言葉を聞いた安久斗は、明の世間知らずさに驚いて紅茶を気管に入れてしまう。
安久斗が酷く咽返ったため、明は「大丈夫?」と尋ねる。安久斗は咽返りながらも二、三回頷いて、落ち着いてから、
「流石、引きこもりだな」
と苦笑いを浮かべた。明はそれにムッとしたが、安久斗が夏半について説明を始めたために何も言わなかった。
「夏半は、南四連邦にある4つの祖神種国家のうちのひとつだ。といいつつも、南四連邦にはそもそも国が東輝、済田、千羽、夏半の4つしかない。この4つ全てが祖神種国家で、これらの国は連邦制ができる前から今の形になっていた。つまり……」
「連邦制が確立された頃には既に、あの辺りには祖神種国家しかなかったってことね」
「そういうことだ。あまりに恐ろしい話だが、あの祖神種どもの実力は、他の下種どもを一掃できるくらい人並外れたものだってことだな」
なるほどね、と明は呟く。その呟きに安久斗は肩を竦める。
「だからまぁ、夏半あたりに滅ぼされたっていう説明は筋が通るわけだが」
そしてひとつ大きな伸びをして、
「萌加の性格を考慮すると、あいつが今生きていることはあまりに考え難い状況だと言えるだろ」
「理解したわ。どうもありがとう」
明はそう言うと、そろそろ帰ると告げて立ち上がった。それを聞いて、安久斗はクッキーを10枚程度袋に詰めてから立ち上がる。
「萌加に渡してくれ」
明は手渡された袋を受け取ると、安久斗に微笑みながら、
「お気遣いありがとう。こちらこそ、クッキーを作ってくれた者に美味しかったと伝えておいてくれないかしら?」
それを聞いた安久斗は、
「伝えておこう。いや、もう既に伝わっているがな」
と言って、ニッと笑った。
明はその言葉に目を丸くし、「えっ」とだけ言葉を漏らしたが、
「そうだったのね」
と伝えるだけに留め、ドアに向けて歩き出した。安久斗もまた、明を見送るわけでもなく、机の上に置いてある紅茶の入ったティーカップと、僅かにクッキーが残る容器を片付けるために、重厚感のある木製の天板に手をついた。
明がドアを開けようとして手を掛けたとき、
「最後にひとついいか?」
と、安久斗が言い出しづらそうに口を開いた。
明が振り返ると、安久斗は机に手をついたまま、彼女を見ることなく前置きをする。
「たとえどんな答えであっても、今更どうしようとも思わない」
明は何も言うことなく、安久斗の言葉を待った。明の目に映る彼の背中は、低い机に手をついているからか分からないが、非常に猫背であり、どこか気まずそうに見えた。
恐る恐る、という言葉がよく似合うだろう。安久斗は明に、姿勢を変えないまま覇気のない声で尋ねる。
「磐田大貴を殺したの、お前か?」
数秒の沈黙の後、明はひとつ呆れたようにため息をついて、
「そう、あなたもなのね」
と呟いて、ドアを押した。
明はそれ以上何も言わず、浜松神社を後にした。
誰の支えも失ったドアが、ガタンという乱暴な音を立てて閉まる。その衝撃で、机の上のカップに入る紅茶が波打ったのを、安久斗はただマジマジと見つめていた。
ーーーーー
ーーー
ー
「洋介様っ!」
神紀4997年夏至後18日未明、関東統一連邦の中枢、南四連邦東輝国の東京神社に駆け込んできたのは、同連邦の夏半国の臣、横浜伯羅だった。
「どうした?」
あまりに焦った形相に、東輝国の神、東輝洋介は不審がった。それもそのはずで、伯羅は常に沈着冷静な臣であり、これほど焦ることは滅多にない……いや、洋介ですら焦っている彼を初めて見たからだ。
そんな彼から告げられた言葉は、洋介を激怒させるのに十分な言葉だった。
「若菜様が…………誘拐されましたっ!」
洋介は、飲んでいた紅茶のカップを机に叩きつける。派手な音を立てて破片が周囲に飛び散る。
「誘拐だと!? どこにだ?」
洋介は伯羅を怒鳴りつけたが、伯羅は俯きながら小さく言う。
「申し訳ありません、分かりません」
それを聞いた洋介は顔を顰めて伯羅を睨む。
「なぜ分からんのだ? 臣たる者、常に神の盾となり守り抜く使命があることを忘れたか? お前は若菜が誘拐される現場に居合わせたのか?」
「申し訳ありません……」
洋介に問われた伯羅はただただ俯きそう言うだけだった。
「神の盾と成れなかったのなら、お前は臣として失格と言わざるを得ない。……だが、そうは言うものの片時も神の側から離れずにいることなどできない。伯羅、お前は若菜が連れ去られたことにいつ気がついた?」
洋介の質問は、伯羅の対応を問うものだった。
「は。若菜様の部屋から激しい物音がしたので迅速に駆けつけたところ、室内が激しく荒れていて、その時にはもう若菜様の姿はありませんでした。窓ガラスが大きく割れていたため、おそらくそこから外へ出たものと思い駆け寄ってみましたが、どこにも若菜様の姿はありませんでした」
「ふむ、そうか。つまりお前は、異変に気付いてから最速で若菜のもとに駆けつけたということだな?」
洋介の言葉に伯羅はもちろんですと頷いた。
洋介は立ち上がり伯羅の目の前まで来ると、
「惨状が見たい。若菜の部屋へ案内しろ」
と告げた。
伯羅は顔を引き締めて一言、
「承知いたしました」
と告げた。
洋介は伯羅に連れられて、夏半国の横浜神社にやって来た。
横浜神社は、神類文明に於いて超高層級の建築物である。全てがレンガで造られた8階建ての塔を中心に、放射状に立ち並ぶ6つの長屋が存在する。その長屋も全てが2階建てとなっていて、世界屈指の超大規模な神社となっている。もちろん、東輝国の神社である東京神社もそれと同等、いや、それ以上の巨大さ、超高層の塔を誇っているわけだが、長屋の規模で見ると横浜神社の方が大きいのである。
その中央の塔の最上階に、夏半若菜の部屋がある。若菜の部屋は木目調でシックな装いで統一をされているが、少女らしい華やかさや可愛さ、お洒落さも机上の花瓶や筆入れ、ガラス戸の棚の中に飾られた装飾皿などから見て分かる。しかしその部屋の現状は、そんな落ち着きからかけ離れた場所に位置しているのだ。
窓ガラスが割れて、木目の壁には傷が付き、棚の近くの壁や床には無数の血痕があり、その周辺には荒く落とされた無数の雑貨が転がっていた。
まるで、何かと激しく戦ったような、何かを必死に探したような跡である。
机の上に救急箱が置かれていることから、若菜が探していたものが救急箱であったことを洋介は察した。そして飛び散る無数の血の跡から、怪我をした若菜が治療薬を探して荒らしたものと推測した。
「誰かが窓ガラスを破って入ってきたのは間違いなさそうだな。そして、若菜はそいつと争って怪我を負った。それも、これだけ出血する大怪我だ」
洋介は部屋一帯に疎に飛び散る血を見て言った。
「ですが、あの警戒心の強い若菜様にここまでの大怪我を負わせることのできる者などいるのでしょうか?」
伯羅の言葉に洋介は唸る。
「思い当たる限りではいないな。強いて言うなら身近な存在……」
そこまで言った洋介は何かが引っかかったように眉間に皺を寄せた。
「……もしや、裏切りか?」
そしてそう呟き、若菜の仕事机の上にある深緑色の電話に手をかける。
受話器を取り上げてダイアルを回すと、金属でできたマイクに向かって低い声で告げる。
「統一連邦の全祖神種に告ぐ。夏半若菜が何者かに誘拐された。明日の午前10時より横浜神社にて緊急会議を行う。遅れぬように」
そう言って受話器を置くと、洋介はひとつため息を吐いた。
「…………」
そんな洋介の横で、伯羅は自身の失態を悔い、そして主人である若菜の安否を心から心配していた。それを洋介に打ち明けようとして、でも彼に声をかけられなくて黙っていた。洋介があまりにも深刻な顔をしていたからだ。
しかし、洋介も伯羅のことをなにも気にしていないわけではない。慕っていた、尊敬する主人を連れ去られた者の心中を察し、それをケアするのもまた仲間としての務めなのだろう。
「若菜は無事だろうよ。あいつがそう簡単にくたばるとは思えん。何より臣たるお前が生きているではないか」
だから安心しろ、と洋介は言う。
伯羅はその言葉にありがとうございますとだけ返し、割れた窓ガラスをジッと眺めていた。……その時。
「あっ!?」
伯羅が声を上げた。
「どうした?」
洋介がそう尋ねると、伯羅は割れた窓ガラスのすぐ下にある床を指差して言う。
「これっ! これです! この血痕!」
そこには赤黒くなった一粒の血痕があった。洋介がそれをジッと見つめて目を見開く。
「……犬の足跡か!」
その声に伯羅は大きく頷く。それを見た洋介は真面目な顔で言う。
「つまり、ここには犬がいたということか」
「そのようですね。でも……」
「この神社には犬はいない。ということは、誰かに持ち込まれた」
「では、犯人は犬を連れているということでしょうか?」
「……断定したいが、早計かもしれんな」
洋介は手がかりを得て喜ばしい反面、これが罠である可能性や断定して捜査の行方が閉鎖的になることを心配して断定をしなかった。
しかし、それが手がかりであることに変わりはなく、裏切りでも他連邦による拉致でも、ひとつ「犬」というのが鍵となることは確定した。
「伯羅、」
「はっ」
「この瞬間から夏半国に『緊急特別統治』を発動する。若菜が戻るまでの間、統治権を俺によこせ」
「承知致しました」
洋介は伯羅に向けてそう告げた。神治制に於いて、神がいない国は国として存続してはならないというルールがある。現在、神である若菜がいなくなった夏半国は、このまま放置しておけば国として認めることができずに滅亡してしまう。そこで、関東統一連邦の条約内で定められた『緊急特別統治』という制度を用いて、神がいない間でも統治権を違う国の神に移すことで国を維持することができるのだ。
「犬などがこの8階にいるのは明らかにおかしい。犯人が連れて来たか、自ずと入ってきたか……」
洋介はブツブツと呟きながら整理する。だが、犬が8階の窓ガラスを自ずと割って入ってくることなど考えられない。であるならば、犯人が連れて来たのが有力説となるが、足手まといにしかならなそうな犬をわざわざ連れて来る意味が分からない。
「辞めだ。一人で考えても埒が明かない。明日他の祖神種どもと考えて決めるのが賢明だろうな」
洋介は焦ってはダメだと思い、一旦考えるのを辞める。
「この国の統治権は俺にあるが、神治はお前中心に平常通り続けろ。何かあったらすぐに呼べ」
「はっ、かしこまりました」
洋介が伯羅にそう告げると、伯羅は頭を下げてそう返した。
「では」
洋介はそう言って立ち去ろうとするが、言っておくことを思い出して付け足した。
「あー、そうだ。明日の会議、お前も出席せよ。他の奴らにも状況の説明を頼みたいし、若菜の代理役も欲しいしな」
「えっ、そんな、祖神種様の会議に私のような下賎な上神種が入るなど。それに若菜様の代理など恐れ多くて……」
伯羅は驚いた顔をしてそう断る。洋介はその様子を見て面白がるような笑みを浮かべて、
「俺の指名でもか?」
と言った。
「しゅ、出席させていただきます……!」
伯羅は冷や汗をかきながらそう言う。それを見て洋介は大笑いしながら言う。
「いやぁ、断ってくれても構いはしないさ。そんな焦らずとも殺しはしないし、命令違反でもなんでもなかろう。出席してくれるならありがたい話というだけだしな。だが、そうか。来てくれるなら助かるぜ」
そして手をひらひらと振りながら、
「そんじゃ明日な。頼んだぞ」
と言って横浜神社を出ていった。
そうして翌日、横浜神社にて緊急会議が行われた。
「犬と言うと、思い当たるのは一人しかいませんね」
会議にて、状況を聞いて口を開いた女がいた。その名は、北嶺札穂。北地連邦の盟主であり、広大な北の大地を牛耳る祖神種である。
「どこのどいつだ?」
洋介が尋ねると、札穂は顔を引き締めて言う。
「サハ列島連邦の祖神、占守シュム。あいつは生粋の変人で、人喰い犬を飼育しているのです。犬と言っても化け物同然で、その跳躍力は神類をも上回るほどですので、8階に飛び込んできても不思議ではありません」
札穂の言葉に、洋介は「ふむ」と考える。
「若菜を人質にして、自分達の要求を通そうという魂胆か。だが、奴らはバカなのか? 逆効果になると考えぬのか?」
そう洋介が呟いた直後だった。洋介の持つ小型の通信機からザーザーという音が鳴る。
それは、関東統一連邦の祖神種だけが持つ通信機だ。特殊な波動を送ることで、通信機から特定の通信機に声を届けるというものである。波動の周波数を変えることで、誰の元に声を届けるのかを設定することが可能である。
「誰だ?」
洋介は、この場にいる全祖神種が通信機を使っていないことを理解している。そのため、この電波を送っているのは夏半若菜の持つ通信機しかあり得ないのである。しかし、それを今使っているのは若菜ではない。洋介はそう思い、通信機にそう尋ねた。すると、通信機からはザーザーという音に混じって微かに戯けたような声が聞こえた。
「おぉ、ほんとに繋がったぁ。はじめましてぇ、東輝洋介。世界の北端から失礼するわぁ」
その言葉に、洋介が何か言い返す前に札穂が立ち上がって洋介の横まで走ると、通信機を掻っ攫って怒鳴る。
「若菜ちゃんを攫ったのは貴様かっ、占守シュムッ!」
「おやおやぁ、その声は札穂ちゃんかなぁ? 久しぶりねぇ、元気だったぁ?」
「えぇ、当分貴様の顔を見てないから元気が有り余ってるわよ!」
「それは残念。今度会ったら、しっかり気分を害していってちょうだいね」
「あぁ、貴様のな!」
関東統一連邦の祖神種に対しては敬語しか使わない札穂が汚い言葉で怒鳴っているのを見て、洋介はニッと笑った。
「で、若菜の通信機を持っているということは、お前が若菜を攫ったってことでいいんだよな?」
洋介が札穂から通信機を取り上げてそう言うと、占守シュムは戯けた声で言う。
「そうよぉ。理由は、分かるわよねぇ?」
その言葉に洋介は面白そうに言う。
「あぁ、分かるさ。お前らの連邦を潰してほしいからだろ?」
「あははは、おバカさんねぇ」
通信機からは本気の笑いが返ってきた。しかし直後に低い声で聞こえる。
「んなわけねーだろーが、ボケナスめ」
洋介はその言葉に反応しなかった。彼の中では、煽られた怒り以上にさっきまでのオネエ口調とのギャップに対する面白さの方が優っていた。
通信機から次に発せられた言葉が、再びオネエ口調に戻る。
「あのねぇ、ここ数日、そちらの連邦の動きがすっごく怪しいのよぉ。北地連邦に大きな軍隊が派遣されているようだし、挑発するように大きな艦隊が私たちの列島の近くをうろついているし。仲間になりたいって言っただけなのに、どうしてそんなに敵視してくるのかしらって不思議に思っちゃって。そしたらふざけた文が送られて来て、私も珍しく頭にきちゃってねぇ。誘拐して優位に立とうって思ったのよぉ」
「ふざけた文? あぁ、『対等な関係は、関東統一連邦という中でのみ成り立つ』ってやつか?」
洋介がそう言うと、シュムは「そうそう」と返す。
「事実を言っているだけだが? 実際、北地連邦も北守連邦も、その文言を受け入れて平和的に我が統一連邦に下っている。そして今は、こうして元気に対等に連邦を運営している。そうだろう?」
洋介がそう北地、北守の祖神種に尋ねると、皆うんうんと頷いた。
「そういうわけで、対等な関係を結びたいなら関東統一連邦に下れ。抵抗しなければ、高待遇は保証するぞ?」
洋介がそう言うと、通信機の向こうからシュムの笑い声がする。そして直後に放たれた声は狂人のようなものだった。
「バカめ、バカめ! お前らが置かれている状況を正確に理解しているか?」
そして直後、通信機から聞こえたのは何かを殴るような鈍い音だった。
「あぁ、様子が見せられなくて非常に悲しいんだがね、……聞こえるかな、声。……ここに今、夏半若菜がいまーす! 血だらけでね。もう瀕死だよ?」
そして再び、殴るような音。そして、犬の鳴き声。
「あ、ヨッちゃん、いいところに。ちょっとそいつの指を噛ん……あいたぁ!? わ、私じゃないの、その女よぉ」
その声の後のことだった。
「うあぁぁぁぁああ!」
若菜の叫び声が通信機から確かに聞こえた。
「ようやく叫んだわぁ。……な、聞こえただろ? 夏半若菜は確かにここにいる。そして、いつでも殺せる。我々の要求は、貴様らに下らず対等な同盟関係を結ぶことと、北地に集めた軍隊の撤退。それさえ叶えば、こいつを返却しよう。だが、それを断れば、夏半若菜を殺す」
「ふっ、くだらん」
洋介はそう小さく言ってから通信機に向けて話した。
「良いだろう、考えてやる。だからしばらく時間をくれ。俺たちも全面戦争は望んでいないんだ。それに若菜を殺されると困るってのも事実だしな。返事はしばらくしたら返す。そうだな、夏至後の終わりくらいには返すさ。それまでは、文通でも楽しもうじゃないか。若菜を頼んだぞ?」
「ほう、なるほど。ではそうしましょう。良い返事をお待ちしておりますよ?」
そして通信が終わる直前に、洋介が「あぁ、」と付け足した。
「それと若菜、聞こえていたらで良いが『イチノサンニヨロシク』な。まぁ、もう済ませたかもしれないが。切るぞ」
そして洋介は、返事を待つことなく通信を切った。
「なんだ、最後の『イチノサンニヨロシク』って?」
北三連邦の祖神種、栃暁太郎が洋介にそう尋ねた。
「作戦ネーム『1-324649』だ。内容は秘密だが、それを実行すれば若菜は確実に死なない」
洋介はそう答えると、祖神種全体に向けて告げる。
「さて、此度の騒動の犯人が分かったところで、これより、対サハ列島連邦及びサハ大陸連邦の攻略立案会議を始める。若菜を攫った時点で、既に平和的解決の道は閉ざされた。秘密裏に、全面戦争への準備を始めよ! そして早急に、夏半若菜を奪還する!」
「「「はっ!」」」
そうして、関東統一連邦は世界の北端、サハ列島連邦とサハ大陸連邦と戦うことを決定した。しかし、その決断がサハに届くのはまだまだ後のお話。隠密的行動で、関東統一連邦の右に出る連邦は世界のどこにもないのだから。
そして関東統一連邦は、その翌日に『対サハ委員会』を立ち上げる。委員は、関東統一連邦の祖神種全員。名前が変わっただけで、緊急会議と顔ぶれに一切の変化は無い。
これを立ち上げたことはサハ列島連邦にもサハ大陸連邦にも通達をして、その名目は「同盟の設立を検討するための委員会」とした。その報告を受けたサハ列島及び大陸では、関東統一連邦との緊張緩和への兆しが見えて、ピリピリした空気が少しだけ和らいでいた。
しかし、この委員会はそんなものではない。どのように攻略するか、戦力はどう割くか、サハと戦っている間の関西への牽制はどうするか。このような話し合いをするための委員会なのだ。
その委員会を進めていた、神紀4997年夏至後23日、東輝洋介の元にひとつの手紙が届く。送り主は靜するがだった。その手紙には以下のように書いてあった。
『手紙を上手く受け取れていなかつたやうで、双方の間で誤解があつたやうだ。申し訳ない。其方の軍門に下る気は無いが、対立する気も無い。面と向かつて話し合い、価値観を共有出来れば、何か進展すると思ふのだが如何だらう?』
サハとの戦争を決意した関東にとって、靜連邦もまた悩みの種であった。ここで緊張度を高め今まで以上に対立を深めてしまうと、サハと戦争している間に背後から攻撃を受ける可能性も出てくる。洋介は委員会で靜連邦の扱いについても話し合うことにした。
「以前と状況が変わり、ザコ同然の靜連邦も厄介な相手に成り上がった。そこで、靜の扱いをどうするか、話し合うべきだと考えた」
それに対する会議はテンポ良く進む。
「まぁ、背後の防衛に一切の軍を置かずに、全部サハの方に回せれば楽だしな。静から攻撃を受けると南四連邦に被害が出るわけだし、ある意味一番厄介な相手だな」
「戦争の前に滅ぼす手もありますよ?」
「それは感心しない。疲弊した状態でサハに行くのか?」
「靜と戦えば、関西との緩衝材が消えてサハより先に世界大戦かもしれんぞ?」
「それは面倒だな」
「結局、あの小さな連邦が意外と重要な楔なんだな」
そして方向性もテンポ良く早く決まった。
「もっと長引くことを想定していたが、思ったよりあっさりと結論に辿り着いたな」
洋介が会議の様子を見て笑う。
「では、我々は靜連邦との緊張緩和をしよう。そして、あわよくばサハ戦争の戦力の足しにする。使えるかは置いておいて……だがな」
しかし、その洋介の言葉に待ったを掛けた人物がいた。
「ですが、靜連邦だけでは緩衝材が消えたのと同じです」
「どういうことだ、凛音?」
発言者は、甲信連邦の永井凛音であった。
「靜連邦は、現在西にも東にも属さない立ち位置にいる連邦と言えます。だからこそ緩衝材であるわけなのですが、そこと我々が協力関係になり共闘すれば、関西に緩衝材が消えたと思われてもおかしくありません。つまり、サハ戦争中に中京統一連邦から攻め込まれてもおかしくない状況になります。これでは靜連邦と共闘する意味が何もないと思うのですが……」
「なるほど。では、代替案はあるか?」
洋介が凛音に尋ねると、凛音ははっきりと答える。
「この際、東西の緊張緩和を掲げてみては如何でしょう? 具体的に言うと、靜連邦の他に中京統一連邦とも協力関係を築くのです。もちろん、中京には関西との縁を切ることを要求してはなりません。関西との結びつきが強い中京統一連邦と共闘することで、東西の緊張緩和を実現するのです。そしてサハに攻め込む。そうですね、大義名分は『人類文明に汚染された世界北部を浄化するため』とかですかね。そうすれば、東西が手を組んでサハに攻め込む明確な理由になると考えます」
その構想は、関東統一連邦の祖神種に激震を走らせた。不満そうな顔を抱く者もちらほらいる中で、誰よりも先に大声を発したのは洋介だった。
「面白いっ! 実に面白いぞ、その意見! 採用しようじゃないか!」
「いいんですか!? 成功するかも分からない、一歩間違えれば世界大戦に成り兼ねない危険な橋ですよ!?」
そう突っ込むのは済田政樹だ。しかし、洋介は「良い!」と笑顔で跳ね除ける。
「統一連邦下に入れずに同盟を締結するとサハが怒るだろうから、同盟は結ばない。そして、靜も中京も見返りのない協力などしたくないと思うので、奴らには『技術支援』を行おうではないか」
「敵に塩を送ることに……」
「なってもいい! むしろその方が良いのだよ! 本気で緊張緩和をしようとしている姿勢を見せることで、こちらの本気さを伝えようじゃないか」
洋介は非常に楽しそうに語った。彼は今、とても興奮しているのだ。神類文明の転換期。今まさに、そこにいるのだと実感しているからだ。
「それでは、『同盟』ではなく『協商』としましょう。そして一応、靜と中京と結ぶ前にサハにも『協商関係にならないか?』と提案しましょう。それがこちらからの最後の提案です。それを向こうが拒絶し、断固として同盟を主張するようであるならば、全面戦争の用意をしましょう」
洋介の態度を見て、もう止めることは叶わないと察した政樹は、そう提案した。
「なるほどな。しかし、サハがこれに乗って来たらどうする?」
「乗らないようにするのです。向こうの得になることを少なくして、結ぶメリットを無くすのです」
意地悪な顔をして政樹がそう告げた。それを見た洋介も悪い笑顔を浮かべる。
「よし、ではやろうじゃないか」
神紀4997年、夏至後37日。サハ列島連邦から返信が来た。内容は『同盟関係でない限り認めない』であった。
「思惑通りだな。では、第二段階に移ろう。まずは中京統一連邦と協商関係を結ぶための下準備だ。中京と協商関係を結ぶためには、西側の十分な理解が必要になるから、関西統一連邦を交えての会談を行う。これを見てサハが警戒する可能性も大いにあるから、その防止として公には対サハのための協商でないことを明言しておこう。公の理由は『神類文明の発展と保護』である。これなら、最大の技術力を誇る我々が提唱する理由も頷けるものだろう」
洋介が靜連邦を後回しにしたのには理由があった。中京統一連邦との締結を先に行わないと、不要な東西の対立を招きかねないからだ。また、中京統一連邦と協商関係を結ぶことができれば、靜連邦は全方位を協商国に囲まれ、靜連邦が無条件に協商国に加わりやすくなるだろうと考えたからだ。
そして、東輝洋介は意気揚々と告げた。
「中京統一連邦に『警戒体制崩壊及び協商関係設立のための提案書』を送る。そして、中京統一連邦盟主、名護密と、関西統一連邦の盟主、桜咲メグとの会談を申し込む」
この出来事が、世界に激震を走らせた。
サハ列島連邦とサハ大陸連邦はその提案を脅威と思うと同時に、協商関係の提案を断ったことを後悔し、中京統一連邦と関西統一連邦及びそれ以外の関西寄りの連邦はその提案を訝しんだ。そして、何も知らない靜連邦。というより、情報を手にした靜が混乱を起こさぬように連邦諸国にばら撒いていないだけなのだが。
「せやなぁ、緊張緩和は大事やからなぁ。向こうの主張、聞いたろか」
関西統一連邦の盟主、桜咲メグは、関東統一連邦との会談を受け入れた。
「協商関係、か。東輝洋介め、何を考えている? 腹の内を探る必要があるな」
中京統一連邦の盟主、名護密もまた、その会談を受け入れたのだった。
そうして、関東統一連邦の東輝洋介と、中京統一連邦の名護密、関西統一連邦の桜咲メグが、中京統一連邦の名護国にて会談をすることとなった。
会談が開催されたのは、神紀4997年夏至後52日のことであった。兎山自治領設立の、8日前の出来事だ。
「……以上のことから、我々関東統一連邦は西側諸国との緊張緩和を行いたい。ついては、中京統一連邦と協商を結び、神類文明の技術の発展に寄与したい考えである」
「緊張緩和には賛成やな。けど、なんで中京とだけ協商を結ぼうとするん? 本気で緊張緩和したいなら、ウチら関西統一連邦と協商を締結する方が手っ取り早いやろ?」
「そうだな、俺もそこは疑問に思った。なぜ我々のような中途半端な立ち位置の連邦と締結する? 本当は緊張緩和などするつもりはないのではないか?」
メグと密からそう問われた洋介は、声を上げて笑った。一頻り笑い終わると、悪い笑みを浮かべて問いかける。
「では訊くが、お前ら心の底から本気で俺たちと仲良し小好ししたいか?」
「「…………」」
その言葉に、メグと密は苦笑いを浮かべた。
「ほな分かったわ。うちら、考えることはお互い様やな」
メグは洋介に朗らかな口調で話しかける。
「結局、見せかけの緊張緩和には俺たちのような立ち位置がもってこいってことだな?」
密は自分が都合よく使われた感が拭えず、少しばかりうんざりという感じに洋介に尋ねた。
それに対して、洋介が答える。
「ま、そういうことだ。だがよ、見せかけって言うのも違うぜ? 俺たちは本気で、まだ対立しようなどと思っていない。だから今は緊張緩和をしたんだ」
そして、こう続けた。
「関西に出し抜かれない程度にな」
それを聞いたメグがふふっと上品に笑う。
「はて、なんのことやろなぁ。別に騙し討ちするつもりなんて更々あらへんで? 油断しているところを襲撃するなんてあまりに卑怯やしなぁ。況して、あんたさんと違って世界征服なんて狙ったこともないわぁ」
その声はかなり戯けたものであった。洋介はそれを鼻で笑う。
「広い領土を持つ同士、考え方はお互い様だな」
そう告げると、メグが言葉を投げた。
「ふふふっ、せやなぁ。仲良くしようや」
「あぁ、ある程度な」
「当たり前や」
そうして二人で顔を見合わせて、お互いに高々と笑った。
こうして、関東陣営と関西陣営は、ある程度歩調を合わせて緊張緩和を行うことを決定した。その証として、中京統一連邦と関東統一連邦の間に協商関係が設立された。
緊張緩和を行うに当たっての名目は、関東が掲げた『神類文明の発展と保護』で決定された。というのも、洋介がメグと密にサハ列島・大陸両連邦が人類文明と交流をしている可能性を報告したところ、二人とも「東西が歩み寄る良い名目」と笑いながら答えたからだ。しかし笑ってはいたものの、会議の終わり際にメグが洋介に、
「もしサハが人類文明と交流しとったら、容赦なく浄化してきてな。必要であれば、うちらも力貸すで?」
と真面目な声で言ったことから、人類文明との交流を持つ連邦を許さないという価値観の共有によって、しっかり歩み寄れた部分もあったことが分かる。
洋介はそれに「ありがとよ」とだけ返した。その内心は、彼としても考え難いほどに嬉しがっていた。
その嬉しさが何によるものかなど、誰に言われずとも洋介は分かっていた。しかし認める気になれず頭を掻いた。
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神紀4997年、夏至後54日。靜連邦、靜国、静岡神社。
関東統一連邦と関西統一連邦が突如として緊張緩和の道に走ったという一報を受け、靜するがは濱竹安久斗、沼蛇松、猪頭大平に緊急の招集を掛けた。
今後の靜連邦の立ち回りを考えるためである。
「関東統一連邦と中京統一連邦が、友好国以上同盟未満の協商関係を構築したそうだよ」
するがの言葉に、安久斗は頭を掻き、大平は深いため息を吐いた。蛇松は何もせずただ正面に座るするがを見ていた。
「中京統一連邦と組まれたのは痛い。完全に包囲されたな」
安久斗はそう言って腕を組む。
「緊張緩和と言いつつ攻められたらたまったもんじゃないな」
大平も頬を掻きながら言った。
「僕もこれは非常に由々しき問題だと思って、東輝洋介に確認を取っているところなんだ」
するがの表情は硬い。両手で頬杖をつきながら、かったるそうに彼は続けた。
「この前の手紙伝達不備偽装の件は覚えているかい?」
一同、それに頷いた。忘れるわけがない。連邦中の神々が混乱した事件だからだ。
「あれが思いの外うまくいってね、関東から『軍の無断配備になってすまない。諸々含めて一度しっかり話し合いたい』という連絡が来たんだ」
「諸々含めて、か。今度こそ逃げ場なく植民地になることを強要されそうだな」
するがの言葉に、ようやっと口を開いた蛇松の冷たい声が重なる。
「四方八方から攻められるよりはマシだな。どうする? いっそ関東統一連邦か中京統一連邦に編入を願い出るか?」
冗談じみたような口調で安久斗が言うが、すぐに乾いた笑みを浮かべて、
「すまんな、もう少し真面目な意見を練るさ」
と発言を撤回した。するがはそれに首を振って、
「別に構わないよ。いずれ考えなくちゃいけない事案だろうし、連邦存続のためのひとつの手であることも事実だよ」
と告げる。しかしながら、彼は「でも」と続けて、
「関東か中京、どちらに入っても東西戦争となったら真っ先に潰されることになるからね。今のまま独立が保てれば、戦火に巻き込まれずに意味のある孤立をすることも見込める。今を生き残るか、未来のために苦しい今を乗り切るか。僕らは必死で考えなきゃならない」
「世界の緩衝材に課せられた使命だな」
するがの声に蛇松が呟くが、その蛇松の呟きにここまで珍しく黙っていたあおいが口を開く。
「だけど、同じ緩衝材だった新干潟が滅ぼされたのも事実だわ。立ち回りに失敗すれば、すぐに滅びることも頭に留めておくことね」
「とは言うものの、東西の対立が激しくなりそうな出来事だったのに、すぐに緊張緩和に走るなんて。あまりに不可解な現象だよね」
そう言ったのはしみずだった。彼は左手の親指の爪で、すぐ隣にある人差し指の爪を意味もなくカリカリと弄っている。
「関西も、新干潟を再び独立させろという要求をしなかったようだし、関東も軍事演習を控えろと言うこともなかったって報告があったね。西も東も本当に緊張緩和を願っているのか分からないよ。お互いがお互いを刺激しないように、気を遣い合って決裂しないようにしていたのかな?」
しみずは爪をカリカリしながらも、自分の抱いた疑問をそのまま口にした。それに対して安久斗が反応する。
「それ以上に厄介な問題があったんじゃねぇのか?」
「西と東が結託してまでも片付けたい問題なんてあるかしら?」
しかしあおいが安久斗にそう返すと、安久斗は「知らん」とだけ言って頬杖をついた。彼は思いついたことを言っただけで、何か予想があったわけではないのだ。そしてまた、考えるつもりも毛頭ない。
しばらく沈黙が訪れるが、それを打ち破るように蛇松がひとつ呟く。
「……人類か」
その言葉に、一同がハッとしたように蛇松を見る。
「その説はありそうだね。ちょっと前にも濱竹で人類反乱があったばかりだし、もしかしたら世界的に人類が活発化しているのかもしれない」
するががそう言う。
実は、靜連邦にはサハ列島連邦と関東統一連邦のいざこざの情報は入っていない。
関東統一連邦が厳格な情報統制をして、サハ列島連邦に情報が出回らないようにするためである。
「でも、断定はできないね。……とりあえず、靜連邦はどう立ち回ろうか?」
するががそう全員を見渡して尋ねると、安久斗がため息混じりに言う。
「実際、どんな協商かが分からない限り、立ち回りようがない。関東か中京、どちらかから詳しい事情を聞いて、靜連邦を滅ぼすためだったら徹底抗戦、もし関係ないならその協商に入れないか交渉する、というのが良いと主張する」
「いや、どちらかではダメだ。両方から詳しい事情を訊かねば騙される可能性もある。なんなら関西統一連邦や第四大陸連邦、九州統一連邦にも詳細を聞くべきやもしれん」
そう言うのは蛇松だった。これを聞いたするがは「念には念を、だね」と呟いて、
「じゃ、世界中の全連邦に訊いてみよう。協商とはなにか、何を目的にしているのか、そして我々に危害を加えるのかどうか」
と告げる。それに対して全員が頷き、この話は終わりを迎える。
早速するがは手紙を認めたが、彼がこの手紙を世界中に出すことはなかった。それは連邦各国に対する嫌がらせや、自ら窮地に陥ることを望んでいるからではなく、単純に出す必要がなくなったからである。
するがが手紙を出そうとしたのは、夏至後58日のことであった。しかしその前日、夏至後57日に、関西統一連邦の勢力圏で『西会議』と呼ばれる西側諸国による会議が開かれ、それに関する報告が飛び込んできたために手紙を出さなかった。そこでなんとも奇妙なものが可決されたのである。
靜の元に届いた報告には、
『文明保護協定、可決。人類の汚染から世界を浄化するべく、神類は皆、手を取り合って立ち上がるべきだ。この際、西も東も関係ない。忌々しき人類文明を排除することこそが、今我々に求められているものなのだ。そこで、西側諸国はこの協定を提案し批准する。そして東側諸国にも、この協定への批准を要求する。新たなる世界の形を築き上げるために、秩序と安定を手に入れるために、手を取り合って行こうじゃないか。』
とあった。関東と中京が協商を結び、西側諸国は世界的な協定を提案し、さらに批准を求めてきた。
「……なんだこりゃ、どうなるんだ世界は……」
するがは忌々しそうに頭を抱えて俯く。机の上にあるその手紙は、意図せずとも目に入り、
「あぁぁぁ! ったくなんだってんだよ! どうしたらいいんだっ!」
無性に腹が立つのであった。
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するがが取った選択は、賢明なものだと俺は思う。関東と関西の行動原理が分からない今、それにただ巻き込まれているだけであろう中京統一連邦に近づき事情を聞くのが最も理に適ったものだろう。
しかし、だ。
納得できないことがひとつだけある。
「……なぜ俺たちなんだよ」
「……名誉なことだと思うけど? それと、するがたちは今日、兎山自治領に顔出すって言ってた」
俺はひとつ深いため息を吐く。思いっきり不快感を滲ませるような深いため息だ。
……洒落を言えるくらいには余裕があるようだ。
「なに、そのため息。……私だって、安久斗と一緒は嫌なのに」
そのため息に、相手もそう答えた。
「ま、しょうがない。靜が動けないなら俺がやるしかないし、靜のお膝元のお前が代理になるのもよく分かるさ」
そして俺は、隣にいる白と水色のコントラストになった涼しげなコーデの、派手っ気のない少女を向く。
「よろしく頼むぜ、羽宮」
「……ん」
彼女は言葉なのか言葉じゃないのか分からないような声を発して、コクリと頷いた。
羽宮志穂。靜の周辺を取り巻く中部諸国の神で、世界で最も高い富田山を領内に有する格式高い国家……だった。
幾多の戦争の結果、祖神国家が真横に迫ったことや、連邦制が成立したこと、それに羽宮の控えめな性格も相まって、今や靜の操り人形も同然だ。この状況で、今なお格式が高いとはとても言えないだろう。
濱竹との仲は、あまりよろしくない。というよりも、関わりがないというのが正確なのかもしれない。しかし靜の息がかかっているということもあり、好印象は全くないだろう。西部諸国は野蛮国家、という印象でしかないだろう。
個人的な話だが、羽宮志穂との間に確執がないわけではない。かつて一度、俺が戦争を吹っかけたことがあるからだ。しかし志穂は、それを忘れている。不思議なことに覚えていないようだ。綺麗さっぱり水に流し忘れているように装っているか、それともこいつも萌加と同じで記憶喪失か何かなのかもしれない。
……なんで戦争を吹っかけたのか。決まっている、名誉のためだ。
富田山を手に入れたくて、協定井谷と共同戦線を張って戦争を吹っかけた。しかし結果は大敗だった。離れていた濱竹は被害が出なかったが、国境を接していた協定井谷は壊滅的被害を被り、俺は協定盟主の井谷俣治と喧嘩別れに至った。その直後に、俺は弱りきった協定井谷に攻め込んで、西側3ヶ国を滅ぼして占領し、強制併合した。これにより井谷との対立が深まり、今なお解消していない。
……解消する必要を感じないが。
「……ね、これが浜名の湖?」
少し昔に耽っていると、羽宮が南側に広がる大きな湖を指差して訊いてくる。
「あぁ、そうだ。濱竹の誇りだ。お前んとこの富田山のようなもんだ」
「……綺麗だね。今日は穏やかだし、いい天気。心地いい」
そう言って、グッと伸びをする。俺は太陽の位置を確認して思う。
「少し時間が早いな」
待ち合わせは連邦境界の関所だ。そこで中京統一連邦の盟主、名護密と、場所を提供してくれる豊下潞州と待ち合わせている。
潞州とは旧知の仲である。そのため、今回の会談の場所提供を快く引き受けてくれた。なんなら仲介までしてくれたのだ。
しかし、その待ち合わせ時間までまだ少し余裕があるのである。
「少し休むか?」
俺がそう尋ねると、羽宮はコクリと頷いた。
休む、と提案したのには理由があった。この浜名の湖は絶景スポットである。そして、羽宮が落ち着くにはちょうど良い絶景が広がるからだ。
これだけ天気が良ければ、おそらくは見えるだろう。
俺は羽宮を連れて、湖の辺りの高い丘の上に登った。
「…………」
俺が何も言わずとも、羽宮は意図を察したのか東の山々を眺めた。
しかし。
「……今日はダメだな」
「…………ざんねん」
そう、俺が見せたかったのは富田山である。世界一の標高を誇るかの山は、100kmほど離れた濱竹からも望むことができる。特に空気が澄んだ冬場はよく見えるが、今はまだ夏至後。冬とは言えない。
「でも、ここからでも見えるんだ、富田山」
羽宮は少し頬を緩ませて、そう言った。
「あぁ、天気が良ければな」
「富田山は夏場、お日様が出てからは雲に隠れちゃうの。暑いのが苦手なの」
羽宮は微笑みながらそう言った。それはどこか、楽しそうと言うよりも我が子を見守る親のような表情だった。
「でも、そうだね。冬なら機会があるかも」
そう言った羽宮は俺を見て、
「今度、遊びに来ていい?」
と微笑んだ。
「もちろんだ、客人として持て成してやるよ」
俺はそう言うと、羽宮はクスクスと笑う。
「あくまでも、友人になろうとはしないんだね」
その言葉に少し驚く。西部を……というより濱竹を毛嫌いする中東部諸国の神の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。
「お? 友人になってやってもいいぞ?」
だからそう訊くと、羽宮はふるふると首を振った。その理由は、思っていたよりも、
「村八分になっちゃう」
酷いものだった。
ーーーーー
ーーー
ー
「これより、靜連邦・中京統一連邦の極秘会談を実施します」
豊下の声で始まったこの会談。靜連邦からやって来た面子に俺は少し腹が立った。
来たのは、二大統率国と言いながらも皇神種の濱竹安久斗、そして、靜の代理の羽宮志穂なる者だった。
誰だ、そいつ。
こちらを舐めているのだろうか、あの緩衝材は。そう思ったがグッと堪えた。
「ご無沙汰しているな、濱竹殿。それと、羽宮殿は初めましてだな。俺は名護密、この名護連邦と中京統一連邦の盟主だ」
そう名乗るが、内心とても落ち着いていない。いかんな、落ち着かねばなるまい。
「ご無沙汰ですな、名護殿。いつ以来だろうな、豊上侵攻以来か?」
「あぁ、そのくらいだろうな。いい思い出だよ、あんなに憎たらしく思ったのは貴殿が初めてだ」
「それはそれは、お褒めに預かり光栄にございます。俺も祖神種と対峙したのは初めてだったが、威圧感を感じることなく緊張せずに気安く話せたことを思い出すぜ。おかげで靜にあった時、少し萎縮しちまった」
威厳がない、と言いたいのか?
相変わらず喰えん皇神種だ。
「あ、あのー……」
豊下が困ったように声を発したので、俺と濱竹は言い合うのをやめた。相変わらず不快ではあるが、靜連邦からの使者であることに変わりはない。会談をするしかないのだ。
「今回の議題ですが、『協商と協定について』より変更はありませんか?」
「あぁ、ない」
豊下の言葉に濱竹がそう返す。申し出は向こうからであるから、向こうに変更がないならそれで進行するだけである。
「基本的に質問だ、できる限りの回答を求める」
濱竹がそう言う。俺と豊下もそれに了承するが、答えられないことも多少はあるかもしれない旨を伝えた。濱竹はそれに、「できる限りで良い」と言った。
それなら全部「言えない」とでも言ってやろうか。もちろん冗談だが。
「では、靜の三大神がひとり、するがからの質問を読み上げます」
そう言ったのは羽宮だった。彼女はパタパタと紙を広げて、そこに書かれている文字を読む。
「関東統一連邦と中京統一連邦の協商は、場合によっては我が連邦の脅威となり得る存在であると考えているが、実際、敵対するつもりはあるのか?」
「ねぇな」
俺は即答した。その答えに、濱竹も羽宮も目を見開いて驚いた表情をした。どうやら敵対するための協商と考えていたようだ。
「じゃ、なんのための協商だ?」
「皇神種の質問に答えるつもりはねぇな」
濱竹にそう訊かれて、俺はそう答えた。
「いえ、これは我が連邦祖神種の靜あおいも同じ質問を記しています。その理由で答えられないなら、祖神種からの質問ということでお答え願います」
「ちっ」
紙に目を落としていた羽宮が俺の答えに対してキッと睨みつけた。
「協商は、文明力強化とサハ侵攻……あー、北端の浄化のためだ。関東統一連邦は、近いうちに人類文明と交流のあるサハ列島・大陸両連邦に侵攻する予定でいる。それに俺たちも参加するんだ。軍を貸す代償として、向こうからは技術力を得る。それがこの協商だ」
俺のその答えに、濱竹が納得したように頷いた。
「背後を固めるためだな。サハに戦力を割いている間に、中京に背後を攻め込まれないようにするために」
「でも、それじゃ私たちに話が回ってこないのがおかしい」
「相手にされてねぇんだよ、関東から。俺たちの技術力じゃ関東に打撃を入れられない。そう思われてんだろ」
濱竹は納得できない羽宮にそう説いた。どうやら靜連邦は、自分達の戦力が相当低いと思っているようだ。
実際にそうであると思うけれども。
「関東が実際、靜連邦をどう思ったかは分かりませんがね、私たちはあなた方の連邦が『緩衝材』であることを考慮して協商に誘わなかったと思っているよ」
しかし、関東はどうであれ我々は靜連邦のことを緩衝材だと位置付けて、接触をして来なかった。
下手に接触して、東西の全面戦争に発展するのを恐れていたからだ。
「なるほどな、緩衝材であるからこそ接触して来ないという説もあるわけだな」
濱竹はそう言って、「ま、多分違うだろうが」と笑った。
「協商の趣旨は理解しました。靜するがより一言お伝えさせていただきますが、『もし協商が靜連邦と対峙するなら、全力で抵抗する』とのことです。私個人としても、するがに同意です」
「俺もだ。我が国濱竹は、少なくとも中京統一連邦の東部なら単体で滅ぼせるだけの軍事力を有しているから、肝に銘じておいてくれ」
「あと、靜国も井谷国も、単体で山支連邦を相手取ることができるほどの実力がありますので、英断を願います」
靜連邦の二人はハッタリなのか事実なのか、分からないようなことを言ってきた。濱竹が強いことは重々知っているが、さすがに東部全域が滅ぼされることはないと思っているが、甘いか。
敵対する気はないのだが。
「対峙する気はないさ。そちらが人類と交流を持っていない限りな」
俺がそう言うと、濱竹が察したように口を開いた。
「なるほど、協定というのは人類文明と交流がある連邦を洗い出すためのやつか。それで東西関係なく全世界に加盟を求めた。……サハへの侵攻を正当化するために」
それを聞いて、俺は寒気がした。
なるほど、たしかにこいつは統率国と名乗るに値する。勘が良いというのか、情報整理がずば抜けて早い。
「……どういうこと?」
対する羽宮は分からないようで、濱竹に尋ねた。濱竹はそんな羽宮に仮説を語る。
「これは俺の仮説だが、関東はサハに戦争を仕掛けたいが、下手したら人類文明と対峙することになるから戦力を増強したいのだろう。そこで背後を固めるがてら西から軍を借りたいが、直接東と西が協力する構図を作りたくなかった。だから中京統一連邦という若干西寄りの連邦との協商を締結した。これでも東西緊張緩和は謳えるからな。でもそれではサハから思いっきり警戒されるし、きっとまだ人類文明と絡んでいる確証を得られていないがために正統的な戦争を仕掛けられないのだろうな。そこで関西と協力して人類文明と連んでいる証拠を探し出そうとしてるんじゃねぇのか?」
「……デタラメな仮説に聞こえるけど」
羽宮は訝しんだ目で濱竹を見た。
「ま、仮説だしな」
濱竹はそう言って笑うが、その仮説でほとんど合っているのだ。恐ろしいやつだよ、まったく。
「ま、正解は言わないけど、協定は人類文明との交流の有無を確かめるためのものだ。ぜひ靜連邦にも参加していただきたい」
「もしこれを断ったら?」
俺の言葉に濱竹が訊いてくる。俺ははっきりと告げた。
「人類文明との交流があると判断し、世界より消す」
それに対して濱竹はゲラゲラと笑った。が、怖いくらいにいきなり真顔になって、
「冗談にならないのが怖い話だな。いいだろう、靜に伝えておく。一度連邦で話し合ってから、改めて返事をするさ」
と告げた。しかし最後に「だがきっとそこに加わる決断をするさ。滅ぼされたくはない」と付け足した。
「良き判断に期待するよ」
俺はそう言って、二人を見た。濱竹は相変わらずの真顔だが、羽宮には不安の表情が見受けられた。
「あぁ、そうだ。ひとつ付け加えておこう」
俺は濱竹と羽宮の表情を見て、協定と協商は靜連邦を追い詰める有効打であると判断した。だから、こう告げる。
「去る夏至後60日、関東統一連邦所属の全連邦が『文明保護協定』に参加した。現状この協定に参加していないのは、靜連邦、サハ列島連邦、サハ大陸連邦の3連邦だけとなった。きっとこの報告はまだ上がっていないだろうから、ぜひ靜殿に伝えてくれ」
その言葉に、濱竹は大きなため息を吐いた。
「統率国なのにここで判断できず二度手間になってしまうこと、申し訳なく思う。必ず靜に伝えておこう」
濱竹は動揺する様子を見せなかったが、羽宮は顔を真っ青にして微動だにしなかった。
効果は相当あったようだ。
人事に不満はあったものの、かえって良い成果が得られた会談だったかもしれない。
靜連邦という緩衝材を我々が徐々に手中に収めることができれば、いずれ来る東西戦争の最初で名護連邦が攻撃を受ける確率が、うんと下がるのだからね。
なんとしても、西側陣営に引き込まねばならない。
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靜連邦と中京統一連邦の会談が行われる2日前、夏至後61日の出来事である。
夏至後61日というと、日渡にて兎山自治領が設立された翌日に当たるのだが、この日、遠く離れた北地連邦にて行われた関東統一連邦の対サハ委員会にて、ひとつの大きな決断が下された。
それは、
『サハ譲歩』
と呼ばれるものであった。
この北地連邦における対サハ委員会には、サハ列島連邦の占守シュムと、サハ大陸連邦の衣堆ジョンキヤも招かれた。この二人はいずれも両連邦の盟主であり祖神種である。東輝洋介が会談を持ちかけると、彼らは二つ返事で許可を出したのだった。
会議の内容は、再度の協商関係の提案と、協定参加の要請であった。
同盟関係以外を認めないとしていたサハ両連邦であったが、関東と中京が同盟を締結したことと、関東と関西の緊張緩和の流れを受け、協商の提案に乗っておくべきであったという後悔があった。
しかし当時の協商の内容は、サハからしたら到底受け入れられないほどの儲けのない内容であり、断って当たり前の物であるのだが、今回の会談に当たって事前に説明のあった協商の内容は、実質的に強固な軍事同盟と化している『関東-中京協商』に、サハ両連邦を加えるというものであったのだ。
その条件としては、たったひとつ。
夏半若菜の返還。
それだけである。夏半若菜の誘拐は、サハの思惑通りの成功を収めたと言えるものとなったのだった。
協商や協定が成立し、東西が結託してサハに攻め込んでくる可能性まで出てきて、軍事緊張は一気に高まっていたものの、サハ両連邦は東だけならまだしも、西を含む全世界を敵に回してまでの戦争に勝てるなどとは思っていない。だからこそ困っていたのだが、今回の会談にて関東はまだサハを見捨てていなかったのだという証明が為され、世界の緊張度は一旦、緩和の道を辿るのであった。
「協商と協定の両方へ参加することに、何か異論はないのか? ここまで深い対立をしてしまったわけだ、溝を残している可能性だって大いにあるからな。俺だってそれは望んでいない。せっかく仲間になるんだから、これよりずっと仲良くしていきたいと思っているし、期待だってしている」
東輝洋介は、シュムとジョンキヤにそう声をかけた。
「異論はないわよ! 同盟ではないけど、それでも文句なしの関係だと思うわよ」
そう言うシュムに対して、ジョンキヤは少し暗い。
「協定の方だが、世界の浄化という趣旨がざっくりしていてよく分からない。人類文明との交流の有無を調べるだけなのか、調べて関係あった場合はどうするとか、そういうのは特にないのか?」
「今のところは決まっていないな。実のところ、俺も昨日加盟したところでよく分かっていない。桜咲の奴が勝手に言い出したことだしな。ま、緊張緩和の一環ってだけで、特に深い意図はないんじゃないかと思うがな」
洋介はそう返すが、そんなはずはない。まだ戦争は始まっていないが、もう既に始まっているのだから。
しかし、ジョンキヤもシュムも、洋介のその言葉を信じてしまう。それもそうである。桜咲メグが協定を提案したのは、関東との会談から少し間が空いてからであるし、関東が加盟したのがこの会談の前日であるのも事実であるからだ。
つまり、『関西統一連邦のみがその趣旨を知る』という理由ではぐらかしても、なんら違和感のないことなのだ。
「では、関西に直接聞いてから協定への加盟を検討したい」
ジョンキヤがそう言うと、洋介が頷いた。
「それが良かろう。こちらも、協商への参加の話を中京へせねばならん。間を取り持ってやるから、中京の連中を交えた会談を近々行おう。……そうだな、夏至後が終わるくらいまでには、話を付けたいところだな」
洋介の言葉に、シュムもジョンキヤも反対しなかった。協商関係になるためには、中京統一連邦を交えた話し合いが必要不可欠である。関東の独断でするわけにはいかない事柄であることを、二人は重々理解していた。
「でもぉ、まだあなたたちを全面的に信用することはできないわよ?」
シュムが洋介にそう言った。洋介もそれには笑いながら「だろうな」と言う。その続きは、大体想像ができる。だからこそ、シュムに告げるのだ。
「言いたいことは分かる。だからそれまで、若菜を預かっていてはくれないか? 人質に変わりはないが、これまでと違って丁重な扱いを求めるけどよ」
「あらぁ、話が早くて助かるわぁ。任せてちょうだい、治療もちゃんとするし、三食昼寝付きの高待遇プランで接していくわよ」
シュムはそう言って、体をくねくねとよじる。正直その動きは洋介の気分を害するほどの気色悪いものであったが、
「助かるぜ」
と一言だけ言って、彼は机の上の紅茶に手を伸ばした。
ここで相手の気を害することをしたならば、緻密に練った計画が一瞬で頓挫するのだから、落ち着かねばならないのである。
「じゃ、そんなこんなで色々進めていこう。頼むぜ、新たなるパートナーよ」
洋介はそう言って、この会談を切り上げる。
時間にして2時間ほどであったのだが、その2時間でサハ両連邦の心労は、相当軽減されたのだった。
これが関東統一連邦の罠であったことは、この時は知る由もないのであった。
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夏至後70日、靜連邦は、中京統一連邦との2度目の会談に臨む。
会談が行われたのは、濱竹国の浜松神社であった。
出席者は、名護連邦代表の名護密、山支連邦代表、山支卓、三津連邦代表、三津傘子の3人の祖神種に加えて、靜の三大神、するが、あおい、しみず。そして場所を提供している濱竹安久斗である。
この話し合いで、靜連邦は正式に協定に参加する意思を表明した。
靜は夏至後65日から68日にかけて、中部諸国の神々にこの協定について尋ねた。結果、中部諸国は反対ゼロで参加に賛成した。
中部諸国が賛成したことで、靜は参加を決断したため、その他各国に聞くことはしなかった。靜連邦ではしばしば、そのような中部第一主義的な事態が発生するのである。
それでも文句が出ないのは、靜が祖神種であるからと、たいてい濱竹が納得していることに限ってそうなるからである。
濱竹が納得すれば、西部諸国はみな一様に黙るのである。
「参加するために踏む手続きはあるの?」
会談の最後で、あおいが密にそう尋ねた。
「手続きか。とりあえず、こちらから桜咲に連絡を取って、靜連邦の参加を承認してもらうよ。そしたらおそらく、桜咲メグ名義で書簡が送られてきて、そこで参加が認められていたなら、参加できたことになるはずだ」
「どのくらいの期間で参加できるのか、参考程度に教えてほしいね」
するががそう訊くと、
「おそらく2、3日のうちには参加できると思うよ。遅くとも5日以内にはなんとかなるはず」
密はそう返した。するがは「ありがとう」と言って、話を終わらせた。
これにて会談が終わったわけだが、
「世界規模の協定には、どこか裏があると思わないか?」
名護たちが帰った後で、予定になかったが靜連邦の統率国会議が行われることになった。
「裏というか、関東と関西で利害が一致して陥れたい連邦、もしくは排除したい何かがあるとしか思えないな」
安久斗がそう口を開くと、するがが頷いて、
「この前、蛇松が言っていた『人類』の可能性も拭えないしね」
「でも、『神類文明の保護と発展』ってことは、人類文明を排除すべきだって考えの協定なんでしょ? 人類が絡んでいるのは当たり前として、なんで今になってそんなの作ったんだろうね」
するがの言葉にしみずが疑問を口にする。それに対して安久斗が共感する。
「たしかにな。人類文明に汚染されたところを見つけて晒す、みたいな協定だしな。そんなのそもそも神類がそういう輩であるわけだし、今更作る必要を感じないな」
「……沼の香貫宮は、人類文明の保護に値するのかしら?」
あおいがそう言うと、するがが首を傾げる。
「あれは微妙だよね。人類文明と言えないわけでもないかもしれないけど、山に潜む人類が力を持つきっかけになっているわけでもないし、神類文明ができる前の人類文明とは大きく異なっていて、異世界とも繋がっているわけではないはずだから、そんなに問題にならないと思っているけど」
「どうだろうね、甘いんじゃない?」
しかししみずがそう言う。曰く、「人類である時点で既にダメ」だと。
「だが、沼が認められなければ靜連邦は窮地に陥るぞ? どうするんだ?」
「そんなの、香貫宮を倒しちゃえばいいでしょ」
安久斗の質問にあっさりと答えたしみずであったが、それに待ったをかけたのはあおいだった。
「香貫宮を倒すのは、神類には不可能よ。あいつらに能力は通用しないもの」
あおいは、日渡での一件で香貫宮にトラウマを抱いていた。
「まぁたしかに、姉さんが勝てなかった相手だからね。神類には……とは言わないけど、僕たちでは手に負えない輩であることに違いないね」
するががそう頷いた。
「であるなら、全力で護るしかない。蛇松に香貫宮が人類文明の産物でないことを証明できる何かがないかを速やかに尋ねて、世界的に証明するしかないな」
安久斗がそう言うと、あおいが「今日の夜にでも通達するわ」と述べる。
「この協定の裏にある意図が読み取れれば良いんだけどね……」
するがが不安そうな顔をした。
「もし靜連邦を潰すために作られた協定であるなら、香貫宮の存在はあまりに都合が悪すぎる。そんな中で神類にとって必要なんて言った暁には、この連邦は世界中から蹂躙されるだろうね」
「それもそうだな」
安久斗はそう頷いて、腕を組んだ。
「関東は、サハへ攻め込むための準備をしているんでしょう?」
あおいが安久斗に尋ねた。らしいな、と安久斗は答える。
「じゃあこの協定は、サハとの戦争を正当化するためのものじゃないかしら。サハが人類と連んでいるって噂はたくさん耳にするし、そう考えるのが正当な理由だと思うけど」
「でも姉さん、サハもこの協定に入る意志を見せているし、取り次いだのは関東統一連邦だよ。さらに関東と中京との協商にも参加しようとしているし、協商に参加するように提案したのは関東だし。正直この状況において、世界のどこの言葉も信じちゃいけないと思うよ」
するがは困ったように笑うが、明らかな苛立ちがこもっていた。
その苛立ちは、世界に対する不信感から来ているのだ。誰も本当のことを話していないように思えてならないのである。
「ま、もし靜連邦が目標だったなら、俺たちには本当のことを語らないだろうしな。だが、俺は信じてみても良いと思っているぜ?」
安久斗はそう言った。その根拠はどこから来るの、としみずが尋ねると、安久斗はニッと笑って答えた。
「だってあいつら、世界をまだ終わらせたくはないみたいじゃねぇか」
「……緩衝材を無くすのはまだ早い、という見方か」
するがはそう言って、ひとつため息を吐いた。その直後に吐き捨てるように言った。
「そうだといいな」
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夏至後73日、靜連邦は文明保護協定に批准した。
その10日後の夏至後83日、サハ列島・大陸両連邦も、関西統一連邦との会談を経て批准した。
またサハ列島・大陸両連邦は、既に関東統一連邦、中京統一連邦との会談を済ませ、同日に協商の仲間入りを果たした。それに伴い夏半若菜も関東統一連邦に返還されたのであった。
これにて、世界の全連邦が協定に批准したことになったのだが、協定に批准した直後に必ず、とある調査を受け入れなければならないのであった。
その調査は、『人類文明との交流があるか否か』というものだ。協定はこれを『汚染調査』と名付けた。
関西統一連邦は、汚染調査をするための特別隊『洗浄衆』を立ち上げ、協定に批准した連邦に即日派遣をしていた。
これは、批准してから初めて伝えられることであった。
靜連邦に派遣された『洗浄衆』は、やはり香貫宮を気に留めたが、香貫宮は『神類文明における人類の統括的立場』であるために、人類文明(異世界)とは別物であり、交流も確認できないとして許された。
さらに、桜咲メグは香貫宮の存在を知った時、「人類反乱の抑制のために人類を利用してるなんて、素晴らしいやないか!」と大絶賛。いつか香貫宮と話がしたいということを、靜、そして沼に向けて書簡で伝えた。
こうして、協定は靜連邦を陥れるためにあったわけではないことが証明されたのだが、協定の対象となった連邦は、ここから先、悲惨な道を歩むことになる。
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夏至後85日、洗浄衆は汚染調査の結果を発表した。
『下記連邦ハ、異世界ノ下賤ナル人類ヨリ汚染サレツ。
・さは列島連邦
・さは大陸連邦
・長狭連邦(九州統一連邦所属)
此内、さは列島連邦及さは大陸連邦ハ特ニ甚シキ汚染状況ニ在テ、早急ナル浄化ヲ行フ必要著シ。上記三連邦ハ可及的速カニ国体ヲ見直シ、異世界文明ヲ排斥セムコトヲ求ム。』
「意外な連邦が加わっているな。計算の内か?」
向かい側から差し出された文面を見て、洋介はニッと笑う。
「せやなぁ、報告は受けとったで? まぁうちらも実際、長狭から人類文明の詳細をちょくちょく聞いとったさかい、この協定はメリットばっかってわけやないんや」
手紙を差し出したメグは、その色白な手で洋介から手紙をパシリと回収すると、ペラペラと振りながら答える。
「じゃあなんで作ったんだよ? 関西から提案したじゃないか」
それを見て洋介は疑問を口にした。メグは洋介の目を見つめて真顔で言う。
「そりゃ決まってるわ、北賊討伐のためや」
まるで、感謝しろとでも言わんばかりの口調であった。
「自分たちが不利益を被ってもか?」
「せやで。それに、大した不利益やないしなぁ。今回長狭が反人類の措置を取ったところで、人類文明からは願わずとも流れ着くさかい、その都度情報吐かせりゃええんよ」
メグは再び報告書をペラペラと扇ぐ。しかし洋介はその言葉に眉を顰めた。
「流れ着くだと? どういうことだ」
その質問に、メグは「んー?」と呑気な声を上げて、相変わらず報告書で扇ぎながら答える。
「流民言うらしいで? 異世界で罪犯すと、こっちの世界に流されるんやと。天然の処刑場や言われとるみたいやで」
「なるほどな。西は大変だな」
洋介はそう言って紅茶を啜る。メグはそんな彼を横目に、
「別にそうでもないで? 文明の進捗度は分かるし、技術やって関東に負けへんくらいのモンが手に入る時があるし。悪いことだらけやない。せやけど……」
しかしそこで言葉を切った。
「ま、言いたいことは分かるさ。人類文明のおこぼれをもらって成長したくないんだろ?」
「ご明察や。せやけど、そうでもせんとあんたらと張り合うこともできんのも事実なんよなぁ。ほんま腹立つわ」
メグはここでようやく報告書を扇ぐのをやめて、後ろに控える臣に手渡した。
「なんだ、じゃあ協商入るか?」
それとほぼ同時に、洋介が茶化すように言った。
「最悪や」
即座にメグがそう返す。
「じゃ自力で発展しろ」
洋介は予想通りという声でそう告げると、
「言われずとも」
メグは憎たらしそうにそう告げた。だが洋介がそんなのを気にするはずもなく、彼は淡々と本題に移る。
「しかし、まずはサハだ。これで正統的に戦争ができるようになった、感謝するぜ」
「感謝されるほどのことやないで。うちもサハに好印象はないんや。うちらの手をあんま汚さずに討てるちょうどいい機会やから、その計画に乗っかっただけや」
「それでも助かった。俺らから洗浄衆のような調査団を派遣すれば警戒されたに違いないからな」
「逆になんでうちらが警戒されとらんのかが分からへんわ。あいつらアホちゃうんか?」
メグは感謝されるなどと思ってもなかったため、少し驚きながら、それを隠すために話題の矛先をサハの連中に向けた。
「異世界と交流のある時点でまともではないからな。アホで間違ってないだろ」
洋介とメグはそう言って笑い合った。
「東輝はん、」
笑い合ったあと、メグは洋介を呼んで真っ直ぐ見つめた。
「うちら関西統一連邦は、関東統一連邦の北賊サハ討伐を認める。そんで神類文明の保護と発展を見据えて浄化を果たすことを期待する。うちらもうちらで長狭を浄化するさかい、この汚れた世界を洗い流そうやないか」
「おう」
洋介はそれにそう返してから続ける。
「俺たちも、関西統一連邦の長狭浄化を認めて、文明の発展と保護を目的として協力することを約束するぜ。北賊を討伐し、サハを必ず浄化する。少しの間、中京統一連邦を借りるぜ」
そうして会談は、大詰めへと進んでいく。
「しようや、浄化。東西共に手を取り合って」
「あぁ、やってやろう。神類文明の保護と発展のために」
これが、神類文明5000年の中で最大規模の、
「サハ戦争や」
「サハ戦争だ」
世界大戦の幕開けである。
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夏至後86日。洗浄衆による報告が上がった翌日、関東統一連邦と関西統一連邦は、両連邦に所属する全祖神種が集まって会議を実施した。
祖神種30名という史上類を見ないこの大会議の後に発表されたのは、ひとつの命令であった。
それは、『文明浄化令』である。
文明浄化令は、関東と関西の両方より出されたものであるが、共同声明ではなく、両連邦が独自で出した声明に記述されていた。
しかしどちらの令も同じものを指しており、別々の令が出されたというわけではない。
『我々、関東統一連邦は、全祖神が関西統一連邦との協議において異世界文明を排斥し、速やかなる浄化を為すべきであるという結論で納得した。関西統一連邦が派遣した『洗浄衆』の報告書より、サハ列島連邦、サハ大陸連邦、長狭連邦の三連邦に文明浄化令を発令する。可及的速やかに汚れた異世界文明を洗浄せよ。』
『洗浄衆の調査を受けて、我々関西統一連邦は関東統一連邦と大規模な会談を行った。神類文明の発展と保護のためには、異世界文明を早急に排斥し浄化する必要がある。このことは両統一連邦の全祖神が知るところであり、浄化を果たすのは神類文明で存在をするためには義務であると認識する。サハ列島連邦、サハ大陸連邦、長狭連邦の面々がもし我々と同じ神類であったならば、異世界文明の浄化は果たさなければならない義務であると声高らかに断言する。義務を怠ること勿れ。我らはここに、文明浄化令の発令を宣言する。』
この宣言は、翌日の夏至後87日より文明保護協定の公的な宣言として扱われることになるが、最初から協定の名で宣言を出すには至らなかった。
理由はただひとつである。
関東と関西が、心より相手を信頼しているわけではないからだ。
言ってしまえば、サハ討伐のために関東が作った見せかけの緊張緩和であるがために、協定ができようが協商ができようが、西と東で本気で足並みを揃える気などないのだ。
必要最低限の体裁を繕うことさえできてしまえば、あとはどうだって良いのである。
つまり、東西は未だに軋轢だらけであるのである。
しかしながら、サハ列島・大陸両連邦には、それを見抜く余裕すらなかった。東西が結託してサハへ侵攻しようとしている、そうとしか見えないこの状況に、サハの神々は甚だ憤りを覚え、さらに協商・協定共に最初からこれが狙いであったことを知り、東輝洋介にまんまと乗せられたことに対する怒りが振り切れていた。
それも無理はない話だ。最初から手のひらの上で踊らされていたと解れば、誰だって怒り狂うであろう。
両連邦は、緊急合同会議を行った。
補足だが、サハ列島連邦とサハ大陸連邦は同じサハを冠する連邦であるが、普段あまり関わりがない。文化も似ているものもあるが基本的に異なり、神々の交流もほとんどないのである。
しかし、あまり交流がなく互いのことをよく知らない状況であっても、共通の敵ができたこの状況に於いては最初から強い結束力を発揮していた。
誰一人会議の開催に不満を言うことも、お互いの内情を探ろうともせず、この危機的状況の打開策を打ち出そうとしていた。
しかし、関東関西への批判は意見が合っても、それぞれの文化に対する価値観は異なっていた。
「我々は生活の中に異世界文明が溶け込んでいる。それは確かに紛れもない事実であるわけだが、今に始まったことでもなく、我々が生活しやすいように改変されているために神類文明とも言えるのではないか?」
衣堆ジョンキヤをはじめ、サハ大陸連邦の神々はそう主張するが、サハ列島連邦の神々はそれに首を傾げた。
「そうなのかしらねぇ、私たちのところはそんなに色濃く異世界文明の影響を受けていないから、その理屈は分からないのよぉ」
占守シュムはそう言う。その発言にジョンキヤはいい気分ではない。
「だが、列島も汚染が甚だしいと言われているが?」
「それは私たちが勘察加と交流を持っているからよ」
「…………」
異世界の文化が神類文明に溶け込んでいる以上に、意図的に交流している列島の方が許されざるものではないかと、大陸側の神々は思う。
「なぜ、勘察加と?」
少し不快感を露わにしながらジョンキヤが尋ねると、シュムは笑いながら答える。
「人類文明って、素敵じゃない。強くて優美で、おまけに鮮やかで。世界に閉じこもっていては見られないような神秘がそこにあるように思うのよ」
汚染されてやがる、なんて野郎だ、と、ジョンキヤは心から思った。それを察したのか、シュムは一つため息を吐いて付け足した。
「勘違いしないでちょうだい。私たちはそう思っているものの異世界にかぶれようなどとは思っていないのよ。神類は神類、人類は人類。ただ参考にできるものがあるなら取り入れるって話なだけよ。全ては国力増強のために、この世界を生き残るために、必要なことなのよ」
「ま、いずれにせよ異世界の影響を受けているから、俺たちは汚染されてるってことだろう?」
シュムの言い訳を切り上げさせるかのようにジョンキヤは口を開き、彼もひとつため息を吐く。
「まぁそうね。関東関西からすればたったそれだけのことだものね。それが意図的か恣意的かなんて、きっと関係ないのよね」
シュムはそう言うと、神々を見渡してニヒリと笑った。
「それで、この命令を受け入れる気がある奴はいるかしら?」
一同、その言葉に答えることなく黙り込んだ。しかしその目は「受け入れてたまるか」と主張するものだった。
「そうよね、そうよね。それでこそ我ら北端の民よね」
シュムはうんうんと頷きながら満足そうにそう言った。
「異世界の文明混同の経緯はどうであれ、我らは同じ、関東関西に嵌められた被害者だ。これからは共闘して、協定・協商に徹底抗戦をしていこうぞ!」
シュムの言葉を受けて、ジョンキヤがそう声高らかに告げる。神々は賛成の意を口にして、サハ列島・大陸両連邦は共闘路線を歩むこととなった。
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『技術力は欲しいが人類文明はいらない』
神紀4997年夏至後88日、文明浄化令が出されて2日後のことである。
関東統一連邦南四連邦東輝国東京神社に、中京統一連邦の名護密より伝達が届いた。
「はぁぁ、一時はほんとどうなるかと思った」
「大変だったな」
「誰かさんが安易に戦争しようとしたからじゃない。まったく、すっごく痛かったんだからね?」
伝達が届こうが、東京神社の本殿はその手紙のことなど話題に上がらなかった。
ただただ男女が会話する日常だけがそこにあり、しかしその日常が久しぶりに戻ってきたものであることも忘れてはならない。
「にしても若菜、お前が捕まってくれたお陰で向こうの情報がかなり手に入った。感謝するぜ」
「何言ってるのかしらね。『イチノサンニヨロシク』って命令したのは洋介じゃない。私はそれをただ遂行しただけよ」
若菜はそう言って、少し申し訳なさそうに言葉を付け足す。
「でも正直言うとね、時間が足りなくて集められなかった情報もあるのに、感謝されるのは複雑な感じ」
「気にすんな。それは桜咲の奴がフォローしてくれただろ?」
「そうだけど……。まさか関西と共闘路線を歩むとは思わなかったわよ……」
「お前を取り戻すためにはなんだってする。それに中京、靜もこちら側に引き入れたんだから、背後を突かれる不安もなくなった。結果オーライってもんだろ」
「その後先考えずに作った感が拭えない『協商』だの『協定』だのが、後々厄介になってきそうだけどね……」
「うるせぇ! 助けてやったんだから感謝しろ!」
「はいはい、どうもありがとうございます〜」
そんな会話を繰り広げる二人であったが、その気持ちの籠らない謝辞の後に洋介が吐いたため息を境に会話の雰囲気がガラリと変わる。
「そういえば、協商・協定からサハを追放しようと思う」
「急ね。まぁ妥当だと思うけど」
「名護の奴も『技術力は欲しいが人類文明は要らない』と主張してきたからな。協商に入れておく必要はゼロだ」
「敵だものね。協定も文明保護を謳っているわけだし、浄化する気がない連邦を残すのはおかしいってことでしょ?」
「そうだ。奴らは昨日、自分達は汚染されていないと主張してきたからな。文明に溶け込んでしまっているのだから、それは神類文明だという主張だが、それは認められない」
「でも洋介の独断で追放できるの?」
若菜は疑問を口にした。洋介はそれに対して首を振った。
「できない。だが、ついさっき桜咲から追放の許可が出たんだ。最高権限は俺と桜咲にあるから、これでサハを追放することは可能になった」
洋介はそう言いながら、机の上に置かれた地図に赤いペンで2本の線を書き込んだ。
一本は、根室海峡に。
もう一本は、宗谷海峡に。
「さて、次の問題は『協商』の本格的な軍事同盟化だな」
洋介は視線を本州中部地方に移し、名護、山支、三津で構成された中京統一連邦を見た。
「中京と共同で攻め込む場合、陸路での物資の移動は甲信か靜を通る必要があるね。でも……」
「甲信は山岳地帯で時間がかかり、靜は協商に加盟していないから許可が降りない可能性がある」
若菜の懸念を見破った洋介は、若菜からセリフを奪ってそう言う。その通りだと言わんばかりに若菜は頷く。
「安心しろ、策はある」
洋介はそう言うと、地図上の靜連邦を赤ペンでコツコツと叩いた。
「加盟させる」
「そうでしょうね」
若菜は予想通りだと思った。だからこそ尋ねる。
「できるの?」
「やる」
洋介は短くそう言うと、
「ま、急ぎじゃないけどな。まずはサハを追放する。それが最初だ」
と言って、椅子に腰を下ろして優雅に紅茶を啜った。
この日の夕刻、サハ列島・大陸両連邦は、関東統一連邦と中京統一連邦が加盟する『協商』と、全世界が加盟する『文明保護協定』から追放を言い渡され、世界の大陣営から去り孤立することとなる。
この出来事は後に『サハ追放』と呼ばれることとなる。
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そしてついに、あの日を迎える。
神紀4997年、夏至後90日。靜連邦東部、熱山国熱海神社。
靜連邦と関東統一連邦の会談が催された。
参加者は、靜連邦より靜の三大神と、濱竹安久斗、場所提供者として熱山美有。関東統一連邦より、代表で南四連邦各国、東輝洋介、済田政樹、千羽舞、夏半若菜。しかし若菜は、攫われていたことで停滞していた公務があるために前半のみの参加である。
会議の誘いは関東統一連邦からで、内容は「『警戒体制崩壊及び協商関係設立のための提案書』の受け渡しと今後の関係」というものだった。
関東は以前、この『警戒体制崩壊及び協商関係設立のための提案書』を中京統一連邦にも送りつけているのだが、この提案書の内容がどんなものかというと、文字通りであると言っても良いわけだが、簡単に言うと「歪み合うのはやめて仲良くしようぜ」というものである。
要するに、敵から味方に関係性を変えたいと言っているだけである。
「訊くけど、これは既存の関東、中京の協商に私たち靜連邦が加わるということでいいのかしら? それとも関東と靜だけの別物かしら?」
提案書に目を通した靜あおいがそう尋ねると、東輝洋介は「既存のものに加盟してもらいたいと思っている」と返した。
「はいはーい、質問しつもーん! これって今までの関東統一連邦の傘下に入れって誘いとは違うよね? ボクたちのことは諦めてくれたの? それとも一時的なものなのかな?」
次に、靜しみずがそう質問をした。
「そうですね、現段階では傘下に入れとは言いません。あくまで同格な連邦同士ということで、協商関係を結べたらと思っていますよ」
済田政樹がそう答えると、靜するがが小さく「現段階では、ね」と呟いた。それを聞いた洋介は鼻で笑いながら、
「そりゃ諦めてはないぜ? 世界征服が俺たちの目標だからな。ただ、サハに攻め込むのに背後を突かれては困るからな。特にお前らは、俺たち南四に直接被害を出せる唯一の連邦だ。戦争前になんとかしておかねば取り返しのつかないことになりかねない」
「じゃ訊くけど、この協商はいつまで続けるの? サハを滅ぼしたら用無しになって解体、また歪み合いを始めるという考えで良いの?」
するががそう洋介に尋ねる。
「そうだな。言ってしまえばこの協商は、サハに攻め込むのに背後を固めるって意味と、軍事面や物資面での協力を求めるって意味の二つがある。その見返りにこちらから技術力を提供するという協商関係なのだが、たしかに戦争が終われば用無しだ」
洋介がそう言ったために、靜連邦側は警戒する。
「言わせてもらうが、それで得するのは関東だけだと思うが?」
靜の三大神が関東の面々を鋭い目つきで睨んでいる中、濱竹安久斗がそう発言した。
「なにかしら? 皇神種が偉そうに物言いなんて。自分の立場を分かっているの?」
千羽舞が安久斗を嗤ったが、安久斗はそれに対してニヤリと笑って言った。
「立場は理解しているさ、靜連邦の二大統率国の濱竹の神だとな。それが祖神種だろうが始神種だろうが皇神種だろうが、お前らには関係ないことだろ? そちらこそ、俺が立場上はそこにいる靜と同格であることをお忘れなきよう」
その安久斗の表情に関東の面々は薄気味悪く思うと同時に、その言葉に不快感を覚えていた。
「一介の皇神種風情で生意気な。……安陵が目の敵にする理由も頷けるよ」
若菜がそう呟いたが、安久斗はそれを無視して、
「そんで俺が言いたいのは、戦争が終わったら用無しになる協商は関東にしか得がないってことだ」
「だからその理由はなんですか?」
苛立ちを隠せなくなった舞が強い口調で安久斗に迫った。
「戦争という短い時間の中で、技術力の支援というなかなかに大きなことを成し遂げるのは、現実的でないのではないか?」
「…………」
「しかもお前ら、その間に大規模な戦争してんだろ? 技術支援なんていつする暇があるんだ?」
「……………………」
「そんで戦争が終わって『軍隊ありがとう、もう用無しだから協商解散ねー』となったら、こちらはまともな技術支援を一切受けないままに軍隊だけを貸して、兵を疲弊させ、下手したら神が戦地で殺されて滅びる国まで出たのに見返りがゼロのまま終わる可能性だってある。蓋を開けてみれば得をしているのは関東だけで、靜と中京は疲弊し廃れ、関東の敵でなくなって、瞬殺される可能性も大いに有り得る。それはただただ関東が世界征服をする手助けをしているわけであって、手のひらの上で踊らされているだけであって、まるで今回のサハと同じ状況になりかねないってわけだが、その辺はどうお考えで?」
「ねぇ洋介! こいつ皇神種のくせに生意気よ! 殺そうよ!!!」
舞はとうとう本音を口にした。
「落ち着け、舞。祖神種の威厳がなくなっているぞ?」
「そうかもだけど……!」
「言いたいことは分かるが、我慢だ。ここで靜連邦と仲違いに終われば、サハ戦争で不利に働くのは必須だぞ?」
「むぅぅ……」
洋介は舞を必死に宥める。そしてその後に安久斗に対して頭を下げた。
「すまんな、俺たちは祖神種絶対主義なもんで。皇神種というだけで当たりがキツくなっちまうんだ」
「気にしていないさ。靜連邦でも、似たような思想はあるしな。靜の言うことは聞くが俺の言うことは聞かないなんてしょっちゅうだ」
「苦労しているんだな」
洋介は安久斗の言葉にそう返す。その内心で思ったことは、濱竹安久斗が祖神種でなくて本当によかったというものだった。
なお、それは若菜も政樹も今のやりとりを見て感じたことである。
濱竹安久斗は頭が切れる。そして強者に屈せず果敢に立ち向かう力がある。そして物おじせずに堂々としている。
靜連邦内でもっと発言力があって従う者がいたのなら、その洞察力と行動力、思考力、判断力を駆使されて、南四連邦は統一連邦を形成する前に陥ちていた可能性があったのではないかと思ったのだ。
尤もその場合、南四よりも立場が危ういのは靜と名護であるわけだが。
「それで、利益の話だったな。たしかに関東だけに利益があると思われても無理はないだろうが、安心してくれ。技術支援は神紀5000年末まで行う予定でいる。それは中京との話し合いで決着が付いている。しかし軍事支援はサハ戦争の一回限りにしたいがな」
「こちらとしては、ぜひとも軍事支援はこれからも続けていきたいところだけどね」
洋介の言葉にするががそう返す。それに関東側は少し驚いた表情を見せた。
「どうして?」
若菜がそう尋ねると、するがが目を細めて言った。
「だって軍事支援を続けている限り、関東と靜は味方の関係。関東に攻められることはないでしょう?」
「それは困りましたね。そうなるためには統一連邦下に入っていただかないといけません。今回の戦争が例外なだけなのですから」
政樹が眼鏡を正しながらそう言うと、
「それじゃいずれ私たちは敵対するって確定しているわけね」
とあおいが言う。それに続けて、
「じゃあ尋ねるけど、あなたたち丸腰でいいの? 言っとくけど私たち、野蛮国家の集まりよ?」
と質問する。
「別に問題ねぇよ。新干潟の二の舞になりたいなら今ここで襲えばいい」
しかしそれに洋介は鼻で笑いながら答えた。靜の三大神、特にあおいは、その言葉に大いに顔を顰めた。本当に気に食わない奴らだと、その顔が語っている。
「ところで、どうして新干潟を滅ぼしたんだ? あそこは俺たちと同じで、世界の緩衝材としての役目を全うしていたはずだが」
険悪な雰囲気になりかけたとき、安久斗が関東にそう質問をした。
「それですか。簡単な話ですよ」
それに返事をしたのは政樹だった。彼は眼鏡のフレームを人差し指で上げると、
「新干潟が、我々に内緒で西に接近しようとしたんですよ。その証拠を永井が掴みまして新干潟を問いただしたところ、奴らが我々を強く非難したため、攻め滅ぼしただけです」
と告げる。
「なるほどな、気に食わなければぶっ潰すってスタンスなわけか」
安久斗が「そんな考えもあるものなんだな」と納得げに頷くと、若菜が肯定する。
「そうよ。でないと取り返しのつかないことに成りかねないもの」
「とのことだぜ、靜。無益な戦争に成りかねない行為は辞めとこうぜ?」
安久斗が若菜の言葉を受けて靜の三大神にそう告げた。
「ま、滅ぼされるわけにはいかないからね。申し訳ないことをした。現状、敵対するつもりはないんだ。協商関係は条件によっては受け入れたいし、できるなら今後もずっと緩衝材としてそれなりに仲良くしたいと思っているよ。とにかく話し合いをしようか」
するがは洋介たちに軽く頭を下げて謝ると、そう提案をした。
「そうだな。サハの前にお前らと戦ってしまうと、無駄に兵が疲弊して本命を倒せず終いになりそうだしな。話し合いをするに越したことはないな」
洋介は少し冗談めいてそう言うと、するがに向けて右手を差し出した。
するががその手を取り、関東-靜会談が幕を開けたのだった。
会談は実に6時間に及んだ。
最初に、靜連邦は協商への加盟に積極的意欲を示すことを宣言し、関東統一連邦より提示された『警戒体制崩壊及び協商関係設立のための提案書』を受け入れる用意があることを伝えた。
そうして協商への参加の詳しい流れや手続きを踏み、正午過ぎに靜するが、靜あおい、靜しみず、濱竹安久斗が関東統一連邦と中京統一連邦が形成する協商に加わる同意書に署名し、協商の仲間入りを果たしたのだった。
しかしその後、これまで順調に進んでいた会議が停滞し始める。
協商に参加した靜連邦は関東統一連邦に対し、神紀5000年末までの技術支援に留まらず、神紀5050年末までの支援と、その技術力を関東統一連邦と同率水準に持っていくことを合わせて要求した。
しかし、関東統一連邦はそれを受け入れない姿勢を頑なに崩さず、もし同率水準にまで技術力を上げたいならば統一連邦下に入ることを強く迫った。
だが、靜は引き下がらなかった。靜連邦は世界東西の緩衝材であることを一貫して主張し、だからこそ如何なる軍事的脅威にも脅かされることがなく、正常に緩衝材としての役目を果たせるように技術力の向上が必要であり、そして尚且つ独立を保たなければならないと述べた。
関東は、靜連邦が緩衝材であることは認めているものの、技術力の向上には東西以外の第三勢力に成りかねないとして強く反対を示した。
お互いの主張は妥協点を見出すには至らず平行線を辿り、靜連邦と関東統一連邦の考えの違いがはっきりと浮かび上がる会談となった。
そして会談がひと通り終わり、残すは宣言を取りまとめるだけとなって休憩に入ったとき、渡海国でクーデターが発生したという情報が飛び込んできた。
関東統一連邦との会談中の出来事であり、関東に侮られないために靜は見栄を張り、統率国が出るまでの案件ではないと示すために日渡一国で解決するように指令を出した。そうして開幕した『日渡・渡海「兎山戦争」』、通称『渡海事変』は、濱竹からの秘密裏な援軍もあったが日渡一国には荷が重すぎて、日渡萌加による渡海国民虐殺を生み出し、悲惨な結果で幕を閉じることになるのだった。
しかし、当時はそんなことなど知る由もなく、休憩が明けて靜連邦と関東統一連邦は神紀4997年夏至後90日の17時45分頃、共同宣言を発表した。
『靜連邦は、関東統一連邦と中京統一連邦が形成する協商に参加し、関東統一連邦及び中京統一連邦に如何なる分野に於いても東西の緩衝材としての役目が全うできる範囲内に限り全面的に協力することを宣言する。又、関東統一連邦は、靜連邦に協商規約に準じた技術支援を行うことを確約する。』
そうして、靜連邦は協商の仲間入りを果たし、神類文明における未曾有な大戦争、サハ戦争に巻き込まれていくことになるのである。
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ーーー
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神紀4997年夏至後91日。
文明保護協定で大きな動きがあった。
協定に参加する各連邦の代表が桜咲国大阪神社に集合し、1時間の話し合いの末、サハ列島・大陸両連邦に向けて声明を発表した。
その声明の名は、
『対サハ東西共同警告』
という。
文字通り、東西共同でサハに対して警告を出したわけだが、その内容は以下の通りである。
『サハ列島・大陸両連邦に、文明保護を強く命令す。汚染甚しき両連邦を此の儘野放しにする事は当協定の存在意義に反する処で有り、如何なる理由が在れども許されざる状況で有ると断言す。仮に此の儘汚染を放置せむと云ふならば、武力を以て強制浄化を行ふ事も辞さない構へで有る。此れは警告で在る。早急に異世界文明を排斥せよ。』
これに対して、翌日冬至前91日にサハ列島連邦とサハ大陸連邦は共同で声明を発表。
『協定の通告は甚だ受け入れ難し。世界に入り込んだ異世界文明は我々の生活し易き様に改変されており、其れは最早神類文明と言っても過言ではない。依て我々は汚染などとは無縁で有り、其の主張は看過出来ぬ言い掛かりで在る。』
この『対サハ東西共同警告』を受け入れないサハ両連邦の声明により、サハとの戦争は避けられない状態にまで進んだ。そのため協定は、冬至前81日に東輝国にて『協定神議会』を開催することを決定。協定に加盟する祖神種全員が集まり話し合いを行った。
なお、招集されたのは祖神種のみであり、始神種、皇神種の出席は如何なる理由に於いても例外なく一切として認められなかった。
そうして、東輝国の東京神社に、占守シュムと衣堆ジョンキヤを除いた世界の全祖神が顔を合わせることとなった。
祖神種はだいたい各連邦に一人ずついるわけであり、統一連邦を組まない限り祖神種同士での交流はない。
そして全員が同格と扱われているため、普段連邦内で格下ばかりを相手に強気で出ている各々であるが、この場に限っては全員が様子を見ながら粗相のないように、自国、自連邦の名を汚さないように慎みのある言動、行動を心掛けていた。
しかし、そんな中でも靜の三大神は特に気を使う様子を見せなかった。そのためにこの話し合いの場においては、非常に目立った存在となっていた。
世界の緩衝材であると同時に、どの勢力にも基本的には加担しないという強い意志を示すのに、その堂々とした態度は非常に有効打である。世界の祖神種は靜を見て、よくもそんなに堂々としていられるものだと感心をしたのである。
それともうひとつ、靜が祖神種集団の中で目立つ理由がある。靜は祖神種唯一の三つ子であり、また祖神種に双子も兄弟も存在しないため、靜国というのは一国を複数の神で統治する唯一の祖神種国家であるのだ。そのため、靜は祖神種の集まりになると非常に目立つのである。
また、靜は今回、かなりの発言権を有していた。それは協商国の一員であることと、東西の緩衝材であることが大きかった。しかしそれは、「靜連邦が東西世界の鍵を握っている」「協定・協商は、靜連邦の動き次第で綻びが生じる可能性がある」と、暗に言ってしまったのと同然のことであり、緩衝材が無ければ例え仮初であっても世界平和は実現しないと明言してしまったのである。
そんな会談を経て決まったことは、
・第二回対サハ東西共同警告を行い、ひとまず平和的解決を試みる。
・平和的解決が不可能である場合、武力を以て北賊サハ列島・大陸両連邦の浄化を行う。
・なお浄化は協定加盟の各連邦軍ではなく、全て協商国が行うものとする。
・協商は文明保護協定の傘下に在るものとし、文明保護のための軍事的組織であることを明確にする。
の4項目であった。
そしてその翌日、冬至前80日に『第二回対サハ東西共同警告』を発表。
『協定より命令す。サハ列島・大陸両連邦は、神類文明より異世界文明を直ちに排斥し、速やかなる浄化を果たせ。此れを断れば、関東統一連邦と協商を結びし協商国が武力に依て強制的に浄化を果たす事を宣言す。両連邦の国土は焦土と成りて、一切の文化、文明さえも残らぬ地獄を体現する地と化す事を断言す。くれぐれも選択を間違う事の無い様に。賢き判断を願つてゐる。』
完全な脅しとも取れるこの警告であるが、それが嘘ではなく本当にそう成りかねないところにサハ列島・大陸両連邦は恐怖を覚えていた。
衣堆ジョンキヤは自分が統括する大陸の神々を招集し、緊急で会合。8時間半に及ぶ夜通しの会合の末に、サハ大陸連邦の文化の中から人類文明と結びつきの強いものを悉く捨て去ることを決意して協定に提出しようと試みた。
しかし、サハ大陸連邦の動きを察したサハ列島連邦側が、手紙を輸送する船を能力によって暴風雨に遭わせて沈没させ、これを阻止した。
その翌日に、サハ列島連邦が会合を実施。関東統一連邦をはじめとする協商国を迎え撃ち、徹底抗戦をする方針を打ち出した。
冬至前75日に、サハ列島・大陸両連邦による会談が行われて、衣堆ジョンキヤと占守シュムが意見争いをすることになった。
協定・協商に対する徹底抗戦か、異世界文明を捨てて文明保護を受け入れるか。お互いの意見は衝突を続けたが、サハ列島連邦側からの「今更折れて受け入れたのなら、我々サハは笑い物であり、見下され、未来永劫世界に、特に関東統一連邦に対して強くは出られないぞ」という意見に大陸側の神々は思い留まり、協定・協商に対して列島と共に徹底抗戦をすることを決めた。
そうして冬至前74日にサハ列島・大陸両連邦は共同で協定に対して声明を発表。
『異世界文明に汚染などされていない。我々の生活に溶け込んでしまってゐる異世界文化は、神類文明の一部と云へる。浄化などせぬ。警告は一切として受け入れぬ事を宣言す。』
こうして、サハ列島・大陸両連邦は、小さな対立を起こしながらも協商国との戦争を選んだのである。
ーーーーー
ーーー
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「あぁあ、これでサハも終わったね」
靜しみずは会議室の椅子に凭れながら資料に目を落とし呟いた。
「列島・大陸の沿岸部は我が連邦の戦艦にて徹底的に破壊し、各地で揚陸艇を使って強襲上陸を仕掛ける。そっから協商軍で制圧し、最終的に衣堆、占守を陥落させて降伏へと導く。どうだ? 完璧だろ」
しみずの呟きに東輝洋介が笑みを浮かべながら言うと、
「無慈悲なもんだな」
と濱竹安久斗が頷いた。
「あぁ、そうだ。揚陸艇なんだが、我々中京も小型であるが有しているぞ。戦力の足しになるかは置いておいて、戦地に持っていくことも可能だがどうする?」
洋介の言葉を受けて、名護密が思い出したように質問した。
「揚陸艇ですか。あればもちろん便利なんですがね、あまり同時に戦線を抱えると今度は補給が間に合いません。それを考えると、中京の軍艦は補給や援護に回ってくれると嬉しいですね」
済田政樹がそう言うと、今度は北嶺札穂が挙手して発言する。
「補給物資は基本的に北地連邦より各戦線に運び出します。ですが、万が一敵が迫る可能性もあるので、一部物資は北守連邦から運び出すことにします」
「北守連邦は、伊山を中心として支援する予定です。中京さんが補給のために軍艦を出していただけるのであれば、数隻は伊山を拠点としてくださるとよりスムーズな物資支援ができると考えます」
札穂に続いて北守連邦の伊山歌仙が告げる。密がそれに頷いて、中京統一連邦の艦隊は物資の補給を中心に行う運びとなった。
神紀4997年、冬至前69日。
靜連邦羽宮国、富士宮神社にて、ひっそりと行われたこの会談。
名を『[関東-靜-中京]協商三者極秘会談』という。
これはその名の通り極秘で行われた、サハ戦争の侵攻ルートや戦略の概要を決める極めて重要な会談であった。
集まったのは、協商に加盟する全連邦の代表で、北地連邦より北嶺札穂、北守連邦より伊山歌仙、北三連邦より群牧郎、南四連邦より東輝洋介と済田政樹、甲信連邦より山奈志乃、靜連邦より靜しみずと濱竹安久斗、名護連邦より名護密、山支連邦より山支卓、三津連邦より三津傘子の合計11名。南四連邦と靜連邦は2人参加しているが、南四は協商提案連邦であり協商の盟主であるから、靜連邦は統一連邦を形成していないからという理由でそうなっている。
しかしなぜ羽宮国でやっているのかというと、靜連邦が緩衝材であることと、富田山を有していて土地勘のない神々が集合する際に目印にしやすかったからというだけの理由である。それ以外に他意はないが、そこを統治する羽宮志穂の性格上、非常に国が綺麗で落ち着いていることと、内陸部で且つ主要街道から逸れたところにあるために情報が漏れにくいという利点があるのもまた事実である。
しかし靜はそれを狙ったわけではなく、偶然の産物であるわけだが。
戦略を立てる会議であるものの、各連邦の軍職の者は誰一人として呼ばれていない。というのも、これだけ大規模な戦争は神類文明において初めてのことであり、各連邦の軍職までもを集めたら収拾がつかなくなることは目に見えていたからである。
また、情報漏洩が許されない会議であり、神々だけの集まりの方が信頼がおけるという面もあった。
「我々関東統一連邦は、戦艦を用いて艦砲射撃による沿岸都市の破壊を中心に行いたいと思う。ついては中京統一連邦と靜連邦には、主に陸戦を担当していただきたい」
東輝洋介がそう言葉を発する。
「分かったが、上陸のための兵の輸送と輸送時の護衛艦の同伴、それと十分な物資提供が条件だ。それができないと言うなら、中京統一連邦は関東と行動を共にせずに独自にサハの浄化をする」
それに対して名護密が発言した。
「ああ、約束しよう。食糧も防寒具も、寝具もテントも、誰も飢えたり凍えたりしないように十分な補給をするさ。何せ我々は同じ協商に入り、同じ協商軍として戦う『仲間』だからな」
洋介はニッと笑いながら、中京統一連邦の神々に対してそう告げた。
胡散臭いことこの上ない、と中京の神々は思うものの、同じ協商軍であることは紛れもない事実であり、今くらいは少しばかり信用しても良いのかもしれないとも考えていた。
しかし、猛者はどこにでも現れるものだ。
「あ、洋介。陸戦の件、悪いけどボクらはお断りするよ。こっちの陸軍そんな強くないし、何せ貴重な兵隊を関東のエゴのために失たくはないからね。水軍なら貸すよ、全ての部隊を戦艦に乗せてくれるならだけど」
靜しみずは、左手の人差し指の爪を右手の人差し指の爪でカリカリと弄り、椅子の背もたれに寄りかかって、ああそれはもう本当に行儀が悪いくらいに寄りかかり、視線を洋介に向けることなくそう言ったのだった。
「…………」
あまりの大きな態度に洋介は若干の怒りを覚えた。否、怒りなのか驚きなのか呆れなのか分からないような、そんな曖昧な感情が込み上げてきた。
彼はその状態のまま話すことはせず、しみずと同じ靜連邦の神である濱竹安久斗の方に視線を向けた。
彼とはすぐに目が合った。というのも、濱竹安久斗がジッと洋介を見つめていたからである。
目が合った安久斗は、そっと洋介から目を背けようとしたが、なぜしみずからそう告げられた彼がわざわざ自分の方を見たのかを瞬時に考えて答えを出し、
「ま、靜がそう言っているわけだし、それが靜連邦の総意だ」
と洋介に伝えた。
「いいや、お前だって統率国の一人であろう? 何か意見はないのか?」
洋介は、先ほどのしみずの発言を安久斗に撤回してほしいのである。
「いや、異論はないな。恥ずかしい話だが、靜連邦には連邦軍が存在しなくて、国家単位の寄せ集め軍隊の統率を取ることは非常に難しいんだ。さらに温暖な気候で雪と無縁の海側の国々がサハの寒さと豪雪に耐えてまともに戦えるとは思えない。だから足手まといなだけだろうし、そもそもとして軍を編成することも相当大変なんだ。しみずと理由は異なるが、俺も靜連邦軍は船での肉体労働の起用でなければ軍を貸すのが厳しいように考えている」
しかし、安久斗の口から出たのはしみずよりも詳しい靜連邦の実態と、陸戦を断らざるを得ない現状の説明であった。
洋介は頭を抱えたい思いでいっぱいだった。
「……そうか。想像以上に貧弱なんだな、靜連邦は。それならサハに侵攻する前に滅ぼしておけばよかったかもな」
洋介は安久斗にそう笑いかけた。しかしその笑みは引き攣っている。冗談で言っていると見せかけているつもりなのだろうか、と安久斗は思う。
「そいつはおすすめしないぜ? たしかに連邦としての統率は取れねぇが、国単位の軍の強さはそこそこなもんだと認識しているし、何しろ連邦自体が防衛しやすい地形でな。関東の軍隊をもってしても、新干潟みてぇには簡単にはいかないと思うぜ?」
「安久斗の言う通りだね。ボクたちと戦ったなら、君たちの兵が犬死するだけだよ」
しみずが安久斗に続いてそう言った。
「お、挑発か? そんなに戦いたいなら受けて立つぜ?」
強気口調のしみずに対して、洋介はニヤリと笑う。
「あ、じゃあサハは諦めるって意思表示ってことだね。それじゃ協商は解散しなきゃね。ボクたちと戦っている間にサハからも攻められて、二正面作戦に立たされると思うけど、せいぜい滅ぼされないように頑張ってね」
しみずは洋介に可愛らしく微笑み返し、そんな言葉を吐いた。
「はいはいはいはい、お二人ともその辺でやめぃや。協商内で対立してたらサハには勝てやんやん? 東輝も緩衝材に手ェ出せば桜咲が黙っとらんよ? 靜も関東挑発したら碌なことないで、頼むからこれ以上火種を運ばんでおくれや」
しかしその歪み合う二人の間に、三津傘子が割り込んだ。
東にとっては聞き馴染みのないキツい方言で、洋介としみずは少し聞き取れない箇所があり困惑した表情を浮かべたが、
「靜連邦にとっても現時点で関東と事を構える気はないさ。だが冗談でも『滅ぼしておけばよかった』などとは言わないでもらいたい。それだけだ」
と傘子の発言を察した安久斗が口添えしたことで、
「そうだね、ボクも同じ考えだよ。色々挑発したのは悪かったけど、発言には気をつけてほしいものだね。こっちも弱小国家なりに、精一杯足掻いて生きているんだ。結果として野蛮国家の集まりみたいになっているけどさ」
としみずも安久斗に肯定し洋介に謝罪と真意を伝えた。
「そうだな、何もなかったことにしよう。今の我々は仲間であるのだから。まずは北賊サハの浄化が最優先事項であるな」
洋介もそう言い、話題はサハ攻めの詳細へと戻ったのであった。
「それで、陸戦においては軍を貸してくれないという話だったな」
洋介がしみずと安久斗に確認を取った。
「うん。理由はさっきの通りだよ」
しみずがそう返すと、
「では戦艦の乗船員として人をくれ」
と洋介は言う。
「いいよ」
しみずは二つ返事で許可を下した。その直後に洋介は、
「あと陸戦力も一千ほどくれ」
と要求した。
「だから陸戦力は……!」
しみずが呆れたように洋介に言おうとしたが、
「いいだろう、貸す。だが統率が取れるかは保証しない」
と横から安久斗がニヤリと笑いながら発言したためにしみずは黙らざるを得なくなった。
安久斗のその顔は、完全に何かを閃いたときの顔であるからだ。
「統率が取れなくても良い。人員をくれればそれでいい」
洋介はそう言って、話がまとまるかのように思えたが、
「だがそれではこちらが良くないんだな」
と安久斗が発言して、議場は少しだけ湧く。皇神種が祖神種に強く出たからである。
「なんだ?」
洋介は不快さを前面に出して安久斗に問う。安久斗は答えた。
「貸すのに際して条件がある。俺たち靜連邦が東西の緩衝材であることは認めていると思うが、それって東西緊張緩和を謳う協定・協商においては重要なことじゃねぇのか?」
「何が言いたい?」
洋介は目を細めて訊く。
「つまりだな、東西で中立を保つ靜連邦を介して東西は緊張緩和をし、東も西も靜連邦に手を出してはならないと協定で定めてくれないか? それがないと、近いうちにどちらかのエゴで東西対立が再開することになり、協定の意味がないと思うのだが」
「あぁなるほど、安久斗が言いたいことを理解したよ」
安久斗の言葉を聞いてしみずがそう頷いて、
「安久斗は皇神種だからこれ以上強くは言えないんだろうからこの先はボクから言うけど、」
と前置きをして、
「協定の全権を靜連邦に渡して? それを認めてくれさえすれば、靜連邦から陸軍を貸すよ」
「あっはははははは!」
洋介は大笑いをした。しかし他の神々は口を揃えて反発する。
「緩衝材だからと言って調子に乗るな!」
「新干潟と同じ目に遭いたいの?」
「西にとっては一切の利益がないぞ!」
「協商と協定は別物だろうが!」
そんな声が飛び交う中、済田政樹が意外な発言をした。
「たしかに協定の権力問題はありますね。この協定を世界に提唱し形にした関西なのか、しかしその前に関西に働きかけて事実上作った関東なのか。それともどちらにも属さない靜連邦か。我々としては黙っておけば儲かるかもしれない話だったのでわざと黙っていたのですが、痛いところを突かれましたね」
「だが、これは協商では決められないことだろう? 協定のことを協定全国が揃っていないこの場で決めるのは問題が発生しかねないぞ」
名護密がそのように発言する。すると今まで笑っていた洋介が落ち着きを取り戻したようで、
「名護の言う通りだ。だからこの場では決めかねる」
と発言した。
「そっか、じゃあこの条件は協定の会議で改めて持ち出すとするよ。で、それに変わる条件だけど、」
しみずは引き下がる様子を見せずに洋介に食い下がった。
「協商の技術支援、関東統一連邦は靜連邦に神紀5050年までの援助をしてくれないかな? それをしてくれたら陸軍を動かすよ」
「ちっ、最初からそれが狙いだったろ」
洋介はしみずに舌打ちしてそう言った。対するしみずは戯けたように両手を上に向け、そんなことはありませんとアピールした。
「政樹、どう思う?」
洋介は政樹に問いかけ、意見を求めた。政樹は唸りながら答える。
「悩ましいですね。50年以上も技術援助を行えば、文明力は著しく向上します。正直それは我々にとってかなりの痛手になるでしょう」
そうは言ったものの、政樹は「ですが、」と続けて、
「技術支援を行いながら我々も成長を続け、常に靜連邦の先を行く状態を作り出せるのであれば、全く問題ないでしょう。今回の戦争の陸戦力も確保できますし、利益は一定数あると言えるのかもしれません」
「なるほどな、助かった」
洋介は政樹にそう礼を言うと、しみずに向けて右手を差し出した。
「お前の条件を飲もう。関東統一連邦は、靜連邦に対して神紀5050年末までの技術支援を約束する。その代わりに、サハ戦争において靜連邦は陸水両戦力を提供しろ」
「ん、交渉成立!」
しみずはそう言うと、洋介の右手を力強く取った。強い握手が交わされて、関東統一連邦と靜連邦の間で先延ばしにされていた技術援助の問題が解決した。
「さて、会議を再開する前に、この『関東-靜-中京協商』という無機質な名前を変更したいと思うのですが、何か案がありますか?」
握手の後、政樹がそう質問した。それに手を挙げたのは、名護密だった。政樹が密を指名すると、密は堂々と告げた。
「『協商連邦共同体』がいいと思う」
「うーん、いまいちピンとこないなぁ。共同体ではないし、ただの協商関係なだけだし、意味合いもだいぶ違くない? そんな共同体なんて名乗れるほど綺麗なものじゃないっていうか……」
しかしそれをしみずが跳ね除けた。
「たしかに共同体と違うなぁ。密、悪いけど賛成できやんよ」
しみずに便乗するように傘子が言うと、山支卓が、
「共同体を取って『協商連邦』のほうがいいんやないか?」
と発言する。
「だったら『連邦協商』の方がしっくり来る気がします」
今度はそれに山奈志乃が発言する。
「『連邦協商』……。悪くないですね」
志乃の発言に北嶺札穂が呟くが、
「でも協商の名前にしては安直すぎる気がしなくもないよ? 代替案で『東西中央協商』とかどうかな?」
と伊山歌仙が発言する。
「いや、その名前にするならば関西統一連邦が欲しいだろう。桜咲が怒るのが目に見えるぞ」
歌仙の発言に洋介が反論すると、群牧郎が立ち上がって、
「ではこれでどうだ、」
と前置きする。
「お、自信作か?」
洋介が牧郎を見上げながら笑いかけると、牧郎は大きく息を吸い、声を張り上げて言った。
「その名は、『大連邦協商』だ!」
牧郎のその声は、会議室に響き渡った。
恐ろしいくらいに誰も何も言わず、牧郎の言葉が反響するその様子をただただ受け入れていた。
「……ふっ、自信作の割には安直じゃねぇか」
最初に口を開いたのは洋介だった。その声は笑うのを堪えて揺れている。それを皮切りに少しずつ笑いが伝播していく。
しかし、そうは言ったものの洋介は、
「だが、悪くねぇな」
とニヤリと笑う。
「うん、悪くないね」
「あぁ、言いやすいし覚えやすい。いい名前だと思うぞ」
続いてしみずと密も、その名前に賛成する。そして神々は皆、その名前に賛成をした。
「では、我々の協商は『大連邦協商』と名を改めましょう!」
そして済田政樹がそう宣言したことにより、この協商の名前が改名された。
「だが、この会議は極秘だ。だから正式に発表する日を別に設ける必要があるわけだが」
洋介がそう付け足すと、安久斗が手を挙げて発言した。
「キリがいいから冬至前65日とかどうだ?」
「というと4日後か。……うん、忘れるには早すぎるし、たしかにちょうど良いな」
洋介はそう納得すると、
「では4日後、冬至前65日に大連邦協商の設立を宣言しよう。これが実質的な、サハと戦う陣営ということになる。では、頼んだぞ」
と告げて立ち上がり、
「大連邦協商、万歳!」
と両手を上に上げた。
それに合わせて一同立ち上がり、「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい!」と三唱するのだった。
この他、会議でサハ戦争の侵攻ルートが確定したのであるが、もちろん大連邦協商の名前同様に、この情報も外に出回ることはないのである。
そうして会議が終了したのは、日付を跨いで冬至前68日の未明であった。
神々は夜明け前に自国へ飛び立ち、この会議で決定したことに沿って戦争への準備を着々と進めていくのである。
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僕は喜々音さんを背中に乗せながら、日の暮れた渡海の廃墟を歩いていた。
前を歩くのは湊さんと竜洋さんで、僕の後ろにはニャノさんがいる。
「すみません、大智さん……」
「気にしないで。僕だって、あの時あの船が何か知っていたなら、きっと喜々音さんと同じ状況になっていたと思うもん」
背中から温かい温度を感じるが、声は寒そうに震えていて、伝わってくる動悸もとても速い。呼吸も荒く、彼女は今、落ち着いているとは到底言えない状況だろう。
僕らはさっき、浜辺で夕食の話をしていたら大きな船が複数、大洋を航行するのを目撃した。
喜々音さんは、それを『戦艦』だと言っていた。しかしその大きさは計り知れず、喜々音さんは知識があった分なまじ倍増された恐怖を浴びて、腰を抜かしてしまったのだ。
にしても、渡海の現状は本当に悲惨なものだろう。きっと遺体が残っているのだろう、もぬけの殻になった家屋から腐敗臭が漂い、鼻に猛烈な刺激が走る。
……萌加様は狂ってしまったのだろうか、あんな惨いことをする神様だったなんて、正直思っていなかった。
明様はそれに頭を悩ませていて、萌加様を酷く叱責していたけれど、萌加様はそれに逆上してしまっていて、今なお機嫌が良くない。
お陰様で日渡の神治は現在停滞している状況であり、大志といちかさんも戸惑いと焦燥を隠せないようで、二人で愚痴を言っているのをよく見かけるようになった。
これは良くない傾向だろう。みんなの心がこの国から離れていっている。このまま僕ら神治幹部の心が離れてしまえば、国民の不信感を買い、渡海の二の舞になる可能性すらある。
ちょうど渡海の反乱が起きたばかりだから、連鎖してもおかしくない状況だ。あまりに恐ろしすぎる。
しかし、そんな状況下で目撃した戦艦。
いったい、日渡を取り巻く環境は今、どんな風に変容しているのだろうか……
僕らには世界の様子は何も伝わっていないのに。
「遅かったじゃない」
福田神社に着くと、明様がそう僕らに話しかけた。
しかし、僕らは明様の前に置かれた大きな机を見て呆然と立ち尽くした。
そこには美味しそうな料理が人数分並んでいたのだ。
「め、明様……?」
「もしかして、お台所に立たれたのですか!?」
僕と湊さんが驚いたような声を上げると、明様は「そうだけど?」と少し強い口調で言った。
「申し訳ありません! 帰るのが遅くなってしまって、明様のお手を煩わせてしまい……!」
僕は喜々音さんを背負っているのも忘れて土下座をする。
「うあぁ!?」
だから、背中に乗っていた喜々音さんは僕の背中から転がり落ちてしまう。
「あぁあ!? ご、ごめん喜々音さん!」
僕は即座に謝った。喜々音さんは頭を摩りながら、「ちょっと痛かった」と微笑んだ。しかしその目には薄らと涙が浮かんでいたことを僕は見逃さなかった。
……かなり痛い思いをさせてしまったのかもしれない。
「料理くらいできるから、全然気にしなくていいのに……」
僕らを見ていた明様だったが、ため息混じりに僕らにそう言った。
「さ、遅くなっちゃうから食べなさいな。食べ終わったら本堂に集合して。話したいことがあるの」
明様は僕らにそう言うと、自分の部屋の扉に手を掛ける。
「明様はご一緒されないのですか?」
竜洋さんがそう尋ねると、
「私はいいわ、食べるよりも先に、少し考えなきゃいけないことがあるの」
と告げて部屋に入っていってしまった。
「もう終わろうとしているけど、今日は冬至前65日よ」
夕食後、集まった僕らに明様はそう告げた。
「はい、存じています」
僕らがそう頷くと、明様もひとつ頷き、重々しく口を開いた。
「さっき、安久斗がここに来たの。彼はこれを置いていった」
これ、というのは明様が手に持つ一枚の書状だった。それをパラパラと開いて、明様は読み上げる。
「『連邦各国、各国神及び上神種に告ぐ。此処数日で、靜連邦を取り巻く環境が大いに変化した。故に我々の立ち位置も変わった為に此の書簡を送る。
『神紀4997年冬至前65日付連邦現状報告書』
我々統率国は、関西統一連邦からの誘いを受け入れて、夏至後73日、文明保護協定に参加した。その後、夏至後90日に関東統一連邦と中京統一連邦が立ち上げた協商に加盟し、異世界文明に汚染された北賊サハ列島・大陸両連邦に対して靜連邦より軍隊を派遣することを決めた。我々は今日付で加盟している協商の名前を『大連邦協商』と改め、以後我々は大連邦協商の一員として北賊サハへと軍を進める。西の中京統一連邦と、一時期は関係が悪化した東の関東統一連邦とも和解をし、協商関係を結び、味方として共闘する運びとなった故、各国に理解と協力を要請する。』」
その内容に、僕らは何も反応ができなかった。
「……はぁ、ほんとに統率国は黙って重大なことを決断してしまったものよね。これは連邦としてはあるまじき姿だって思うのよ」
対する明様は、何度目なのか分からないけどおそらく複数回目であろうその書簡から視線を外すと、本当に呆れたようにそう吐き捨てた。
「えっ……と、つまりは今から、僕たちは戦争に巻き込まれるってことですかね?」
僕がそう訊くと、隣にいた喜々音さんが頷いた。
「たぶん。サハ列島・大陸連邦は世界の北端に位置している連邦で、隣接する連邦は関東統一連邦だけです。なのでおそらく、関東が中心になって協商軍を指揮して攻め込むつもりでしょう。ですが……」
喜々音さんはそう言い淀むと、小さく、
「関東統一連邦と私たち靜連邦は、本当に仲が悪いですからね……」
それだけが不安だと言わんばかりの声だった。
「でも、いずれにせよ『近く起こる大きな戦争』の正体はこれだったってことだね」
僕は綴さんが言っていたことが理解できて少しモヤモヤが解消された。
だけど、本当に突然な話だ。綴さんが情報を持っていたということは、濱竹上層部には少なくとも渡海との戦争前に少しだけ情報が渡っていたということなのだろうけど、それから15日以上経ってようやく日渡に情報が開示されたというのは明らかなことだ。
統率国が情報を隠していたのは明白で、それもまた意図的なものであることは綴さんの口調からほぼ確実だろう。
「さっきこれを届けに来た安久斗に少し話を聞いたんだけど、靜連邦は靜連邦軍として人員を貸すみたいなのよ。だからもしかしたら、あなたたちにも連邦軍に参加しろっていう命令が来るかもしれない。まぁきっとその時は靜か濱竹がやって来て言うだろうから、何かあったらなるべく協力してあげなさいな」
明様は僕らにそう言うと、
「じゃ、夜も遅いから解散。おやすみなさい」
と告げて去っていった。
「……また、戦争が起きるのですね」
明様が去った後で湊さんがそう呟いた。
「ええ、そのようですね。流石に距離が離れすぎているため、我々に直接的な影響はないとは思いますが……」
竜洋さんがそう言うが、湊さんの表情は暗い。
湊さんはポツリとひとつ、
「……いくつもの国が、渡海のようになってしまうのかも」
その目は、月明かりの差し込む戸の隙間を見据えていて、その向こう側に広がる荒廃した都市へと向いていた。
蝋がそろそろ無くなるのだろうか、部屋を照らす蝋燭の火が微かに揺らめき、僕らの背後に、いや、四方に広がる闇を、徐々に徐々に膨張させていくのであった。
僕らの一寸先はもう、闇の中だ。
どうもこんばんは、作者のひらたまひろです。
前回の投稿から2ヶ月半ほどの月日が流れましたが、『サハ戦争・甲』を無事に書き終わることができました!
これは当初、『渡海併合編』として書いていた部分ですが、『渡海事変』と『サハ戦争』が同時進行する物語があまりにも複雑怪奇でしたので分離し、構成を組み直して書き上げたものとなっています。
最初の安久斗と明の会話のシーンは、個人的に大好きなシーンです。傑作、お気に入り。
関西弁には強くないので色々おかしいかもしれませんが、頑張って関西出身の方とお友達になろうと思うのでこれからに期待してください。まぁ割とコミュ症なんですが。
さて、書くのが辛くなるくらいに長すぎる物語なのですが、サハ戦争は割と山場……ですかね? どうだろう、違うかもしれない。
峠道に差し掛かって最初の難所、とでも言うべきところかもしれませんが、小説世界に生きる者も、読者も、作者も、全員が何かしらでツラい場面かもしれません。
なぜ短くしなかったんだ、もっと短く分割して投稿しろ、と怒られる未来が見えますが、サハ戦争はこういう書き方をすると私の中で決めてしまったのでこの書き方を変えるつもりはありません。次の『〇〇〇〇〇編』から再び短く区切って投稿する予定ですので、どうか『サハ戦争』は特大ロングバージョンでお楽しみください!
それではまた次回、『サハ戦争・乙』でお会いしましょう!
2022.11.27 2:12 ひらたまひろ




