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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
41/107

第40話『其れはまるで、光り輝く星空のやうに。』



ーーーーーーーーーー



 其れはまるで、光り輝く星空のやうに、無数の小さな存在によつて成り立つてゐるのかも知れない。


 其々の個性がひしめき合い、光を放ち、協力し、しか反撥はんぱつして、美しい色彩を奏でてゐる。


 うして、此れから生まれる新たなる古き衛星も、今の平穏を掻き乱し、世間を騒がせ、然し周りの星々と協調して、歴史を堂々と闊歩しようと決意したり。


 無数の非難を浴びようが、如何なる不穏があろうが、其れをふっし、其れをしょくし、善良たる関係を築かんと誓ふ。


 大始國だいしこく日渡より離れることはせず、まで自治領である事を連邦諸国に周知、宣言し、靜連邦規約に則り、小臣と小巫女の役職を置く物とす。


 尚、其の役に就く者は必ず日渡上神種家の者とし、常に大始國の管理下に有る事を誓ふ。


 ただ大始國日渡といふ星の周りを廻る衛星となり、付き従ひ、大始國の進む軌道から逸れること無く歩を進め、志を共にし、靜連邦の更なる発展を目指して行かん事を、そして如何なる時にも絶えずして、大始國祖日渡萌加神を讃えて行かん事を誓ふ。


 不敗霊神ふはいれいしんこと旧國神きゅうこくしん、此れより領祖りょうそ、兎山明の名の下で、此処に『兎山自治領』の設立を宣言す。




ーーーーーーーーーー




 神紀4997年、夏至後60日。


 日渡の東の外れにある御厨神社で、僕は兎山自治領の設立を宣言した。


 これより僕は小臣と名乗り、小巫女には花菜が就く。ただしそれは特例的な措置であり、日渡国に定められた小臣は美有さんである。つまりは、自治領という体裁を整えるためだけに僕がいるわけだ。


 まぁとにかく、兎山自治領という自治権を有する国家の端くれみたいなものができて、これから僕が大きく関わっていく……というか、身を置く場所ができたことに変わりはない。


 神様……いや、萌加様の下から明さん……いや、明様の下に移り、そこでいろいろなことを学び、実践していくことになる。


 ところで、この兎山自治領設立宣言式典には各国の記者だけが集まっている。各国の神様は、明日以降に国ごとに面会をする予定になっている。


 そのため、一通りこちらからの通告が終わったら質問に移るわけなのだが。


「兎山自治領は、主にどういうことをなさるのでしょうか?」

「あくまで日渡の一部ということでしたが、今後独立する予定などはあるのですか?」

「かつての兎山国は濱竹と終戦条約を結んでおりません。今後濱竹とはどのように関わっていくのですか?」

「今後、兎山派が小臣と小巫女の座を得た時、領土的野心に走ることがないと証明できるものを提示していただけませんか?」

「旧領奪還のために渡海や日渡への侵攻計画はあるんですか?」


 ……馬鹿馬鹿しい質問ばっかりで、呆れてきてしまった。


 一応全てに答えたけど、兎山自治領の立場は一貫して変わることはない。


『日渡の許可なく戦争(旧領奪還を含む)をしないこと』


『濱竹勢力圏に入り、西部諸国の仲間入りを果たすこと』


 この2つの条件に基づいて自治をしていく旨を伝え、僕の返答もこれから逸脱することは断じて無かった。


 まぁ、その条件は大始國祖こと萌加様が定めた条件だから、もしもその条件から逸脱してしまったなら、この自治領は存在できないわけなのだが。




 そして翌日、朝から高貴なお客様が大量に来るため、僕と花菜と美有さんは支度に追われた。


 ニャノさんも炊事や洗濯などを手伝ってくれて、とても助かった。喜々音さんも、小林氏の日渡での名誉回復が上手くいってから少しずつ心を開いてくれるようになり、ニャノさんと一緒に手伝いをしてくれた。


 そして最初の来客は、もちろんこの方。


「よぉ、来たぜ。久々だな」


「えぇ、そうね。御厨堂にあなたを招く日が来るなんて、この神社を建てた時には思ってもなかったわよ」


 やってきたのは濱竹安久斗様とひくま様とおな様だ。


 最初に濱竹との終戦条約を結び、我々が傘下に入るという宣言をして、ようやく他の西部諸国と外交ができるというわけである。


「さて、手短に話を済ませよう。なにしろ2000年以上前の話だ。被害者は生きていないし、状況を知っているのも永神種だけ。だからまぁ、勝ち負けだって決めなくてもいいんじゃないかと思うんだが、どうだ?」


 安久斗様の提案に、明様は頷く。


「私もそれで構わないわ。でも、ひとついいかしら?」


「なんだ?」


 そして明様は告げた。


「兎山の負けってことにして、濱竹からの要求で傘下に入るって形が最も落ち着くやり方だと思うのよ。引き分けです、要求も特にないです、でも兎山は傘下に入ります、って少し不自然じゃないかしら? 特に私と安久斗の戦いを知っている永神種からしたら、「いや、そうはならんでしょ」ってなるんじゃないかしら?」


「ふむ、確かにな。今回は濱竹の傘下に入ることを連邦諸国に知らしめる意味合いが強いしな。そうした方が都合が良い、というか綺麗にまとまるよな。だが、お前はそれでいいのか?」


 安久斗様は明様にそう質問をすると、明様は笑った。


「昔だったら勝ってあなたに請求したいことがあったかもだけどね、今勝っても危険視されるだけだもの。面倒ごとは勘弁ね。それに、私は結果にはこだわらないもの。全然構わないわよ」


「そうか」


 安久斗様はそう言って、


「では、神紀2883年冬至後7日より始まった濱竹兎山戦争は、本日、神紀4997年夏至後61日に濱竹の勝利で終結することを宣言する。兎山国の後継自治領である兎山自治領に、濱竹の傘下に入ることを要求する」


 と言った。


「兎山自治領は、敗戦を認めて濱竹国からの要求を呑むことを宣言します」


 明様はそれだけ言うと、安久斗様に向けて手を差し出した。そしてその真っ白く小さな手を安久斗様が取って握手を交わす。


 僕らはそれを見て拍手を送った。


「およ? もう終戦宣言終わっちゃった?」


 ガラリと戸が開いて入ってきたのは萌加様だった。


「たった今終わったぞ? なんだ、同席したかったのか?」


 安久斗様がそう言うと、萌加様はきゃははと笑う。


「まぁ歴史的瞬間だし、見たかったってのが本音だね。だけどまぁ、来た理由はそれじゃなくてね、一応日渡の領内だし、やっぱり来てくれる神々には挨拶しなきゃ礼儀を疑われちゃうでしょ?」


「ま、それはそうだな」


 安久斗様がそう言って微笑む。


「さてと。んじゃ俺らは帰るぞ。そんで声明を発表する。『濱竹は兎山自治領が傘下に入ったことを認めた』とな。ま、そしたら各国から自治領設立を祝いに神々が来るだろうよ。ひくま、おな、行くぞ」


「「はっ」」


 そうして安久斗様たちは濱竹へ帰っていった。


「よし、じゃあ頑張るか! 今からが本番だよ!」


 萌加様が僕らにそう言う。


「そう、ですね」


 僕は少し緊張しつつ答えた。


 今から来るのは、各国の神だ。もちろん話したことはおろか、見たことすらないようなお偉いさんたちがやってくる。


「濱竹と日渡を除くから、多分26ヵ国かな? うん。結構多いから疲れると思うけど、軽い挨拶程度で大丈夫だよ。もし会談を頼まれたら明とわたしで対応するから、大智と花菜は気楽に構えててね」


 萌加様はそう言うが、気楽にって……


 不可能だろ、そんなの。


 ……まぁ無駄に気を張ってても疲れるだけだしな、適度に気楽にやるかぁ。


 そう思った瞬間だった。


「ばーんっ!」


「わぁ!?」


 いきなり戸を乱暴に開けて、しかも効果音を自分で発して入ってきた少女がいた。


 背は明様と同じくらい。ハイポニーにした茶髪がゆさぁと揺れている。水色と白がグラデーションを成したワンピースを着ていて、とてもさわやかで活動的な印象を受ける。


「伊月場国の神、伊月場みずき! 兎山自治領の成立を祝って国交を結びにきたよぉ!」


 伊月場ってどこ!?


「また懐かしい人が来たわね。2000年ぶりくらいかしら? どう、元気だった?」


 明様がその少女を見て声をかける。


「見ての通り、元気だったよ! 明は? 相変わらず引きこもってたの?」


「ひどい言い方ね。ま、否定できないけど」


 見た目対照的な二人だけど、すごく仲良さそうに話している。


「伊月場国は東部地区にある国でね、かつての兎山国の同盟国なんだよ」


 ただ二人の様子を眺めていた僕に、萌加様が耳打った。


「え、東部地区ってすごい遠いじゃないですか!?」


「うん。富田山の麓の国でね、すっごく綺麗に富田山が見えるの」


 神様がそう教えてくれる。


「でも、なんでそこが同盟国だったんですか? すごく離れてるじゃないですか」


「んー、簡単に言えば、濱竹大っ嫌いーって同盟だね」


 うわぁ、まじかー。


「ちなみにみずきは今も安久斗と仲が悪いよ。ま、東部諸国はみんなそんな感じだけどね」


 萌加様がそう言ってやれやれと言った感じに両手をあげる。


「それで、なんで濱竹なんかの傘下に入っちゃったのさ?」


「いや、入らなきゃ今の西部諸国じゃやっていけないわよ」


「あんな野蛮な男に縋ってる国なんてぶっ潰しちゃえばいいのよ! ほら、こう、ぱーん! ってさ!」


 ……それをよく、僕らの前で言えるものだ。


 あ、どうも。濱竹に縋っていなきゃ生きていけない国家代表、日渡です。


 って感じに挨拶した方がいいかな?


「あのね、兎山は独立したわけじゃないの。あくまでここは日渡の一部よ? そんなことできるわけないじゃない。それに今の安久斗は昔と違うわ。濱竹は野蛮な国家でも無くなった。今じゃすっかり一流国家じゃない」


「まぁねぇ、靜と同格だもんねぇ……」


 明様がそう言って、みずき様を説得している。みずき様は、認めたくないけど認めざるを得ない感じなのか、とても苦い表情を浮かべている。


 そんなことをしていると、神社の境内に新しい人影が。


「お? みずっちだ」


 そう言って入ってくる、見た目僕より少し年上の男性。そのフランクな様子から見るに、もちろん神である。


「やっほ、小國おぐに。元気そうでなにより」


 みずき様がそう言って彼に挨拶する。


「周知小國。周知国の神だよ」


 さっきと同様、萌加様が僕に教えてくれる。


 へぇ、こんなひとなんだ。


 周知は日渡の隣国だけど、未だかつて行ったことはない。


「それで、明姉さん」


 め、明姉さん……?


 小國様の言葉に耳を疑う。が、永神種の皆様はなにも思っていない模様。いったいどういうことだ?


「明姉さんって……?」


「あー、小國は昔っからそうやって呼んでるね。全然気にしてなかったや」


 萌加様に聞いてみたが、特に理由はないようだ。


 明様と小國様、そしてみずき様は、3人で話している。


 なにを話しているかはよく分からないけど、なにやらとても楽しそう。絶対に混ざれなさそうだけど。


「珍しい、御厨堂がこんなに騒がしいなんて」


「ほんとだ」


「いつもなら閑散としてるはずなのにな」


「んね」


「そもそも御厨神社に来るの初めてなんだけど」


「私も」


 と思っていたら、今度は団体様のご到着の様子。振り返ると、6人の神様の姿があった。


「左側から、渡海勇、袋石夜鳥、崖川あさひ、堀之内弥凪、根々川千鶴、古田崎悠生。全員、西部諸国の神々だよ」


 西部諸国の神々……ってことは、臣殺しの時に少しお世話になったんだろうけど……


 関わりがなかったために全然わからない!


「それで、そろそろ雑談は終わって本題に移らない?」


 いきなり明様が真面目になって小國様とみずき様に言う。


「そうだね。なかなかに見ない組み合わせだけどね」


 小國様がそう言って笑い、


「私、圧倒的アウェイさね」


 とみずき様も苦笑いを浮かべる。


「ま、でもみんな目的は同じなんでしょう? だったらささっと済ませちゃいましょう。


 そして明様は、全員に向けて告げる。


「これより、兎山自治領との国交樹立の請願を受け付けます」


 そうしていよいよ、僕たち兎山自治領にとって最も忙しい瞬間がやって来たのだった。


 そしてこの時、僕はまだなにも知らなかった。


 兎山自治領という存在が混乱の根源であったことを。


 そして、僕の生涯を変えるきっかけとなることを。




ーーーーー

ーーー




『……てなわけだから、若菜ちゃん。頼めるかな?』


「えぇ、嫌よ。なんでわざわざあなたの頼みで洋介の不評を買わなきゃいけないのよ?」


『そこをなんとか。このままだと、俺はいつまで経ってもこのままだし、君たちはいつまで経っても靜連邦を手中に収められないままになっちゃうかもしれないよ? だから、ね? お願い。もう一回説得してくれるかな?』


「……はぁ、分かったわよ。洋介に許可を取って、裏で色々動けるようにしてあげるから、あとはあなたの好きにしなさい。ただ、それであなたがどうなっても、私はなにも助けてあげないからね? いい? 自己責任よ?」


『あぁ、もちろんそうさ。ありがとう。さすがは俺の愛する……』


「キモいから切るわね」


『あちょっと待っ……』


 ガチャン。


「はぁ」


 受話器を置いて、夏半若菜はため息を吐く。


「本当にめんどくさい男ね。そのくらい自分でコンタクトを取って動けばいいじゃない。わざわざ私に頼むことじゃないだろうに。それに、洋介はあいつの計画を知れば、普通にあいつのこと気に入ってくれると思うんだけど」


 そして椅子に寄りかかって腕を組む。


「まさか『関東統一連邦で発言権を持ちたいから祖神種になりたい』なんて。ほんとに無謀、というかアホね」


 若菜がそう呟いた直後に、彼女の真後ろにあった窓ガラスが突然割れた。


「きゃっ!? な、なに!?」


 意外と乙女な反応をする夏半若菜。まぁ容姿年齢は17、18歳ほどであり、体型がやや小柄ということもあり、見た目の限りでは相応の反応といったところだが。


 しかし、さすがは祖神種。瞬時に窓から距離を取り、腰から拳銃を掴んで応戦体制を取る。


 ……が、そこにいたのは。


「わんっ!」


「……いぬ?」


 そう、そこにいたのはただの真っ黒い犬だった。


 若菜は警戒体制を解いて近寄る。そしてその犬に触った瞬間だった。


 ガブリッ!


「……え?」


 そして若菜は、自分の右手の人差し指が噛まれて無くなっていることに気がついた。


「うわぁぁぁぁぁああ!?」


 途端に激痛が走り、若菜は尻餅をつきながら犬から離れる。涙が出るほどひどく痛む右手を覆い、歯を食いしばって、必死に痛みに耐える。


 それと同時に、彼女は能力を発動する。


「『水刃ウォーターカッター』『凍結フローズン』『氷弾アイスショット』『吹雪スノーストーム』!!!」


 それはほぼ叫びである。無意識的、本能的に技を繰り出して相手を仕留めようとするも、痛みと焦り、不安から上手く攻撃が当たらない。


「治癒しなきゃ! 指なくなっちゃうよぉ!」


 既に指は無くなっているのだが、若菜は完全に焦って思考は麻痺している。


 床を這い、少し離れたところにあるガラス棚まで移動する。そして乱暴に棚を開いて、救急箱を探す。しかし、そんなものは久しく使っていないため奥深くに埋もれてなかなか取り出せない。


「あーもう、邪魔ぁ!」


 邪魔な物を落としながら、泣き喚きながら、そして血を撒き散らしながら、若菜はひたすらに救急箱を取ろうとする。


「あーもうなんでよぉ! なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよぉ!」


 そう叫びながら物を振り落とすうちに、遂に救急箱を手にすることができた。


 そしてそこから超速再生薬を取り出して飲む。


「うぐっ!?」


 それが、非常に苦い。


 若菜は苦い物が大の苦手である。関東統一連邦の祖神種の中でも有名な甘党で、よく祖神種たちからはお子様呼ばわりされている。


「けほっ、けほっ。うぁぁにっがぃ!」


 だがしかし、飲み干してから気がつく。痛みが引いていることに。そして指は復活していた。


「……すごいわね、これ。どうなってるのかしら」


 若菜は初めてこの薬の実力を知り、勝手に感動していた。


「わんっ! わんっ!」


 だがしかし、即座に現実に押し戻された。


「ったく、なんて犬なの……!」


 若菜は未だ目に溜まっていた涙をゴシゴシと拭い取り、鼻を啜る。


「次で仕留める……!」


 そして若菜は両手を前に出して犬に向け、能力を発動……


「あー! ほら、ダメじゃないのぉ、迷惑かけちゃあ! ごめんなさいねぇ、うちの『くーちゃん』が迷惑かけましたぁ」


 できなかった。


 割れた窓ガラスから入って来たのは、全く知らない道化のような男だった。


 若菜は混乱する。


(え、この犬を飼ってるやつがいるの? しかもくーちゃんって。名前の癖にバイオレンスすぎじゃないの!?)


 しかし男は戯けたようにその犬を抱えると、


「いやぁほんと、遊んでくれてありがとうございましたぁ」


 と言って窓に手をかける。


「お嬢ちゃん、くーちゃんが『美味しかった』って言ってるんだけどね、ご馳走になっちゃったみたいで。ありがとうございますぅ。『またちょうだい』って言ってるから、今度またくれると嬉しいわねぇ」


 そして窓に足を乗っけて、


「そんじゃあ、さよならぁ」


 と言って飛び立つ。


「あいたぁ!?」


 ……抱えた犬に腕を噛まれながら。


「……」


 若菜、唖然。今のはなんだったんだと考え込んで、


「じゃないでしょうがぁぁぁああ!」


 怒る。


 そして彼女もまた、その道化を追っかけて窓より飛び出して行くのだった。




ーーーーー

ーーー




「兎山自治領を承認するなど、言語道断! 侵略はしないなどと言っているが、あれは嘘に違いない! 結局は、ここ渡海を含めた旧領の奪還が狙いであるに違いない! 我々渡海の民は、兎山自治領なる存在を認めてはならないのだ!」


 一方その頃、すぐ南の渡海国では、兎山自治領設立に反対する大規模なデモが開かれていた。


 国中に響き渡る、「兎山自治領、反対!」という言葉。群衆はぞろぞろとプレートを手に歩き回る。


 そして驚くべきことに、渡海国民の半数近くの人数がそのデモに参加したのだった。


「困ったな……」


 渡海国の臣、福田ふくだこうは頭を抱えていた。


「反対意見が出ることは予想していたが、まさかこれほどにまで多いとは……」


「でも、勇様は兎山自治領に国交を結びに行ってしまっているわ。国民の意見を聞かずに私たちが国交樹立を強行した結果が露呈したわね……」


 巫女の東河口ひがしかわぐち沙苗さなえも、臣と同じように悩む。


「これはまずい状況になったな。ちょっと……いや、かなり想定外だ」


 兎山自治領を承認するかどうかは、渡海国の有識者会議によって決まった。現在の日渡の状態と、兎山派による暴走が本当に起きないのかを調査して、その結果から「渡海に不利益はない」という結論が出ていた。あとは神と臣と巫女に最終決定権が与えられて、承認する旨となった。


 しかし、そこに国民の意見は反映されていない。別に民主主義国家ではないため、意見を取り入れなくても何ら問題はない。ただ、国民からの支持が著しく下がれば、渡海のような国家基盤の脆い小国は神治に支障が出る可能性がある。


「これはしばらく、神治に響きそうだな」


「えぇ、間違いなく。もしかしたら、私たちはこの座を降りなくてはならなくなるかもしれないわね」


 臣と巫女はため息を吐く。


「俺たちが責任を取れば、臣をひかるが、巫女を紗耶香さやかが継ぐことになるんだよな?」


「そうね。正直、あの子たちには一番大変な役割を押し付けることになってしまうわね……」


 渡海の臣と巫女には、それぞれもう後継が存在している。臣家である福田家も、巫女家である東河口家も、息子と娘が一人ずついる。福田家は上の子が女で下の子が男、東河口家は上の子が男で下の子が女。年代は似たようなもので、この4人は友達のような兄弟のような感じで育っている。日渡の大智たちと花菜と同じような感じというのが例えとしては丁度良いだろう。


「どうしたものか……」


 臣は悩む。


「群衆の矛先が、勇様に向かないようにしなくちゃいけないわ。勇様に矛先が向いてしまえば、国家としてやっていけなくなる可能性がある。それだけはなんとかして避けないといけないわ」


 巫女はそのように語ったが、


「具体的に、どうすればいいだろうな?」


 と問われて答えられなかった。


「……今すぐ勇様のところへ行き、認めるのを取りやめるか? だが、各国が認める中で我々だけが認めないわけにもいかないからな……」


 臣はそう言って唸る。


「兎山自治領が反乱を起こさないという根拠を今一度しっかり語るのは? 何度か国民には伝えたけど、それを聞いていない人がこうして騒いでるんじゃないかしら?」


 巫女はそう言う。


「それはどうだかな。だが、たしかにその説明は必要不可欠だろう。しかし問題は、我々がそれを言ったところで彼らが聞く耳を持ってくれるかどうか」


「……無理でしょうね」


「だよなぁ……」


 そして二人はまた、ため息を吐いた。


「どうしたらいいのだろうな」


 その臣の質問に、巫女は静かに首を振った。


「今、私たちに出せる答えはないわ。勇様が帰って来てから考えましょう」


 そうして兎山自治領は、彼らの知らない場所でひとつの大きな芽を発芽させてしまったのだ。




ーーーーー

ーーー




「こらぁ! その危ない犬を渡しなさーい!」


「ダメよぉ。この子は私の大切なペットなのよぉ? 渡せないわよぉ」


「私その犬に指食べられたんだけど!?」


「私だって、もう指8本も食べられちゃってるわよぉ?」


「十分危ないじゃねーか!」


「でも指を美味しそうに食べるのもまた可愛いわよぉ? だから私は全然苦じゃないのよ。この子の愛らしい姿が見れるなら、そんな痛みくらい耐えられるわよぉ」


「それはあなたの主観でしょう!? 私とあなたは違うのよ!」


「そんなことはないわぁ。この子に自分の部位をあげる人は君以外みーんな喜んでいたわよ? 『あぁ、これでやっと死ねる』って」


「それはただの自殺志願者だー!!!」


 空を飛びながら、道化と若菜はやりとりをする。


 しかし、その道化がどこの誰なのかすら分からないまま追いかけ続け、若菜は今、自分がどこへ向かって、どこを飛んでいるかが分からないのだった。


「そういえば、私たちはどこへ飛んでいるの?」


 若菜がふと疑問を口にすると、道化は笑って答えた。

「いやぁ、もうすぐ着くわよぉ。ほらぁ、陸地が見えて来たわよぉ」


 そこにあったのは、細長い島の数々。


「!?」


 若菜は急遽飛行をやめ、切り返そうとする。


 しかし。


「だめよぉ、今更逃がすとでも思ってるのぉ?」


 そう言って、道化は若菜の手を引っ張った。そしてそのまま急降下して地上に降り立った。


「やだ、離してっ! ねぇ!」


 若菜は抵抗するが、瞬時に周りを武装した神類に囲まれる。


 その様子はどこか違う。民族的というか、野生的と言うか。動物の毛皮を被り、手には武器となる槍や弓を持っている。


「あなた、これはどういうことかしら?」


 若菜が怒ったように尋ねると、道化は笑って答えた。


「人質さ、関東統一連邦のね」


「あなたは誰なの?」


 若菜が道化に問うと、道化は大笑いして答えた。


「私は占守せんしゅシュム。サハ列島連邦の祖神種、渾名こんめいは『シュムシュ』よ」


「サハ列島連邦……!」


「そうよ。私たちは関東統一連邦と仲良くしたいって提案したのに、君たちが戦争準備を始めたって知ってね、少し怒れちゃったのよぉ。そこで君を使って黙ってもらおうかと思っているわけ」


 そして怪しげに笑う。


「今から君は、人質なんだよ」


伊月場みずき 身長156cm 年齢■■■■歳

福田鋼 身長173cm 年齢44歳

東河口早苗 身長161cm 年齢48歳

占守シュム 身長177cm 年齢■■■■歳




ーーーーーーーーーー

お読みくださりありがとうございます。

作者のひらたまひろです。

これにて『後継騒動編』はおしまいです。

次回から『渡海併合編』に入っていきます。

え、タイトルの時点でネタバレしている?

それは気にしちゃダメですよ。

でもまぁ、渡海を併合するくらい大したネタバレじゃないですし、全然いいのではないでしょうか?(よくない)


さて、既に複雑怪奇すぎて訳わからないこの物語ですが、次回以降さらに複雑さを極めていきます。(たぶん)

だんだん世界の秘密も分かってきましたし、徐々に終わりへと近づいていると思ったそこのあなた!

残念、まだまだ世界は終わらな〜い!

物語は始まったばかりです。

登場人物も神種も、国名も連邦も、色々多くてごちゃごちゃしてしまうと思いますが(本当に申し訳ない限りです)、このはちゃめちゃな物語にもうしばらくお付き合いくださると幸いです。


長くなりましたが、今回はここら辺でお暇させていただきます。

2021.09.04 4:54 ひらたまひろ



追記2022.11.14 0:25

 次を『渡海併合編』としていましたが、書いた結果複雑怪奇かつ難解すぎましたので、内容を簡略化して『渡海事変』に改めました。そのため、次編予告を差し替えさせていただきます。



次編予告(旧Ver.)


 時代は変化する。

 今もまた、歴史の一部。


「侵略国家の誕生を認めるな!」

 ある者は、禁忌を犯す。


「突入せよ! そして解放せよ!」

「戦時体制に移行する!」

 新たな争いが生まれる。


「技術を奪え!」

「させるか!」

 世界の安定の行方とは……


「目標、北方7キロメートル!」

「どこだよ!?」


神継者〜カミヲツグモノ〜

 渡海併合編、乞うご期待!




次編予告(新Ver.)


 兎山自治領の成立を巡って、南の渡海は大混乱。


「お前が統治する時代はもう終わりだ!」

「俺が神になってやる」


 非常事態、国家転覆。


「そんなの認めない!」

「なんでも力でねじ伏せればいいってわけじゃないでしょう!?」


 ぶつかり合う主張、歪み合いは連鎖する。


「明様!」

「許さない……!」

「侵略国家が……!」


「俺は渡海を……滅ぼした」


神継者〜カミヲツグモノ〜

 渡海事変、乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
ここまで読んで良かったです。一話一話がとても濃密で素晴らしい作品に出会えたと思っております(濃密すぎてたまに情報を処理しきれないのもご愛嬌笑)。渡海事変も楽しみです^^。しかし面倒事を全部日渡ではなく…
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