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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
40/107

第39話『世界と靜連邦』


 神紀4997年夏至後9日。靜連邦の北、200kmほど離れた地で、戦争が終結した。


 その戦争は、振り返ると本当に一方的なもので、僅か90日ほどで連邦がひとつ世界から消えた。


 戦争で滅びたのは、新干潟連邦という連邦だ。決して小さくない連邦で、世界の中でも統一連邦制を採用していない連邦の中では最大級の国土と防衛軍事力を誇っていた。


 しかしそんな連邦ですら、東の悪魔からは逃れられなかった。新干潟連邦を滅ぼしたのは、現在靜連邦の悩みの種となっている関東統一連邦なのである。


 関東統一連邦は、全てにおいて世界最大規模を誇る。支配領域は世界の8分の3を締め、統一連邦を形成する内連邦の数は5つ。広大な北の大地を統治する『北地ほくち連邦』、北東の要塞『北守ほくしゅ連邦』、統一連邦の軍事的頭脳『北三ほくさん連邦』、西方の要塞『甲信こうしん連邦』、そして統一連邦の頭脳『南四なんし連邦』。関東統一連邦に於いては『祖神種絶対主義』であり、それぞれの連邦を牛耳るのは祖神種である。無能な始神種や皇神種には居場所がなく、国を持つことは不可能に近い。有能な始神種は国を持つことが可能だが、皇神種は迫害と言っても過言ではないほどに、有能であっても国を持てない。


 ただし例外として、祖神種に気に入られた場合は話が変わってくる。例えば、甲信連邦に所属する安陵国は皇神種国家だが、神の安陵栗伊門が祖神種から気に入られているため国として存在している。とは言っても、はやり絶対的な格差があるため、栗伊門も恵まれているとは決して言えない状況ではあるのだが。


 そんな関東統一連邦にいる祖神種は、新干潟連邦の主要都市、新干潟の新潟神社に集まっていた。これより、新干潟連邦をどうするのか話し合うためである。


 現在、新干潟の街は廃墟同然と化している。発展していた街を関東統一連邦軍が蹂躙し占領。その後、人類文明で開発された戦車を用いて街を破壊して回った。それは、関東統一連邦の技術力を見せつけ、恐怖心を根付かせ、占領下にある敗戦国から逆らう気力を削ぐためである。


 また、新干潟は港町である。港から海に出て脱出しようとする残党兵や国民も多数いた。しかし、その港から肉眼で見える位置に、人類が大艦巨砲主義を掲げていた頃に作り上げたような大戦艦(もちろん関東統一連邦が作り上げた最大級の戦艦)を複数、それも十隻を越えるほどの数を配置して、脱出者を牽制した。なお、戦争中には艦砲射撃を頻繁に行い、新干潟連邦の沿岸部の都市を荒廃させた。


 関東統一連邦は、『目に見える恐怖』を生み出すべく、5000年以上前の人類文明で生み出された兵器を作り、それを保持している。


 神類は基本、武器となるのは自分自身の能力だ。そのため、武器という武器は刀以外にほぼ持たない。残念なことに神類は、知能や技術は人類よりも大幅に劣っている。そのため、人類文明で作ることができた銃などの少し複雑な兵器は生み出せないのである。彼ら神類は絶対に認めないが、所詮は幼児の飯事ままごとのように人類の真似事をする、猿と同程度(もしくはそれ以下)の生物兵器に過ぎないのだ。言い換えるなら、力によって邪魔者を排除し続けて5000年も続けている飯事なのである。


 しかし、そんな中で関東統一連邦は人類文明の技術力を真似ることに成功した。とは言っても、文明レベルはまだ第二次世界大戦前くらいまでしか真似られないのだが、それでも周りが銃すら作ることができない中世以下の文明力しかない中で、戦艦や戦車などの超大型自走兵器を開発できるほどの技術を手にしているのだから、神類文明の覇権を握ったも同然なのである。それを戦争中に相手に見せびらかし、実践投入し、しかもそれが著しい破壊能力を保持しているならば、それらの兵器は『目に見える恐怖』となる。そしてそれを作ることができる関東統一連邦は、逆らってはならない連邦という印象が付くのだ。それこそ、関東統一連邦の狙いなのである。


 占領された新潟神社には、関東統一連邦の国旗と、それを構成する5つの連邦の国旗がそれぞれ掲げられている。メインストリートを堂々と走り回る戦車の群れと、それに続く大量の統一連邦軍。海から聞こえて来るのは波の音ではなく、戦艦が空砲を打ち鳴らす重く響く音である。


「さて、どうする? 現在は北三連邦の占領下にあるわけだが、このまま占領し併合するか、内連邦として独立させるか。はたまた分割し、下越地区を北守連邦が、中越地区を北三連邦が、上越地区を甲信連邦が、そして佐渡地区を南四連邦が統治するか。そこを考えなくてはならない」


 神社の本殿にて、集まった祖神種を取り仕切るのは、関東統一連邦の盟主、東輝とうき洋介ようすけだ。


「俺たち北三連邦としては、分割統治が望ましいな」


 発言したのは、北三連邦に所属するぐん国、ぐん牧郎まきろうだった。


 群国は、異常なほどの軍事統率力を持ち、その軍を使ってかつて近隣国家へ何度も侵攻を行った。結果として、群国の面積は北三連邦の西側3分の1ほどを締める超巨大国家となったのだった。その巨大な国を独裁する牧郎は、統一連邦の祖神種から『帝王』と呼ばれている。そして、群国のことを『帝国』と称する時も存在する。特に軍隊に関しては『帝国軍』と呼ぶのが一般的である。『群国軍』と呼ぶのはややこしいため、そう呼んだ方が都合が良いのだ。


「理由は?」


 洋介がそう尋ねると、牧郎は堂々と言った。


「新干潟連邦の国土は広い。それを北三連邦だけで管理するのは難しい。戦後すぐなんて、いくら戦意を削いだって反乱は付き物だろ? その度に各連邦から軍を送っていたんじゃ面倒極まりない。最初から分割統治することで各連邦の軍を駐留させて、有事の際は瞬時に鎮圧できるようにするべきじゃないか? 内連邦として独立させるのはまだ早い気がするしな」


「なるほどな。きぬ暁太郎ぎょうたろうも同じ意見か?」


 洋介はその意見を聞いて、北三連邦の他の2人の祖神種に尋ねた。2人は頷いて、異論がないことを示した。


「じゃ、北三連邦の提案は受け取った。他に意見あるやついるか? いなければ分割統治案を採用するが」


 洋介の言葉に挙手する者はいない。


「うむ、では分割統治案を採用し、新干潟連邦は我ら、関東統一連邦の占領下に置くこととする。内連邦として独立させるか、もしさせるならいつ頃かということに関してはまた話し合おう」


 そうして、新干潟連邦の処遇に対する話し合いは幕を閉じた。


 敗戦国は関東統一連邦の占領下に置かれ、徹底的に破壊され、挙げ句の果てに統一連邦の内連邦によって分割統治されるという、絶望的で悲惨な現状となることが決まったのだった。




「せっかく集まったんだから、近況報告と今後の予定くらいは話し合わない?」


 解散の雰囲気が流れ始めた空間に、大人しめな声色の少女の声が響く。


 その声の主は、夏半かなか若菜わかなのものだった。


「たしかにな。そう滅多やたらと集まれはしないからな」


 牧郎の言葉にみんな頷いた。


「よし、じゃあまずは近況報告から。北地連邦。サハ大陸連邦とサハ列島連邦への進出の進捗具合はどうだ?」


 洋介がそう尋ねると、北地連邦に所属する祖神種のひとり、北嶺ほくれい札穂さつほが答える。


「両連邦と接触し、話し合った結果、彼らは我々との協力に乗り気な考えを示しておりました。ですが、あくまで対等で良好な関係を築きたいと言っておりました」


「ふむ、我々の傘下には入らないと?」


「そうですね。関東統一連邦と名乗らずに、あくまで違う連邦として協力していきたい考えのようです」


 その言葉に、洋介は考え込む。


 関東統一連邦の最終目標は『世界征服』である。すべての連邦が関東統一連邦の傘下に入ることで正真正銘完全な世界征服となることは間違いない。しかし、同盟を結んで対等な関係を築き、協力してそれ以外の連邦を傘下に入れた場合、これでも世界征服になるだろうか。


 彼の出した答えは、否であった。


「対等な関係は認めない。我々と対等な関係になりたいなら、関東統一連邦を名乗ることが条件だ。実際、我々のように関東統一連邦の内連邦同士は対等な関係だろう? すなわちそういうことだ。対等な関係は、関東統一連邦という中でのみ成り立つのだと伝えよ。それで拒否されたなら、武力をもって制圧する」


 洋介の言葉に札穂はいい顔をしない。


 少し言い出しにくそうな顔をしながら口を開いた。


「分かりました。ですが、もしかしたら彼らと戦争をする場合、かなり厳しいものとなるかもしれません」


「どうして?」


 若菜がそう尋ねると、札穂の口からは驚くべき言葉が飛び出した。


「彼らが独自の文化と技術を持っていることは知っているでしょう? その理由が、『異世界』との接触である可能性が出てきたんです」


「異世界!?」

「なんて野蛮な……」

「神類の風上にもおけないな!」


 その言葉に集まっていた祖神種たちは声を上げる。


「ということは、最近の人類文明の技術を習得している可能性がある、つまりは、我々以上の文明力を有している可能性があると?」


 洋介がそう尋ねると、札穂が深く頷いた。


「……たしかに、サハ大陸連邦と『異世界』との距離は最も近いところで7kmほどだったと思うわ。交流があっても全然おかしくない、むしろ自然なくらいだわ」


 若菜が考え込むように呟く。


「だが、異世界と接触なんて。神類が舐められたらどうするんだ。5000年前に『世界』から追い出した『日本』という帝国は、ここが遥か古来よりの本土なんだろう? 文明成立後も、何度も本土奪還を謳って攻めてきているし、今もなお奪還を狙っているのではないか?」


 洋介がそう言うと、横から真面目な声がする。


「異世界では、我々の『世界』のことを『日本列島』と呼んでいるそうです。その範囲は、サハ大陸とサハ列島……異世界の言葉では樺太島と千島列島、別名クリル諸島から西端諸島せいたんしょとう連邦の民島みんとう……異世界の言葉では台湾島までの全ての島のことを指すようです。また、我々南四連邦の支配下にある南諸島も、向こうでは小笠原諸島と呼ばれ、日本列島に含まれるそうです。すなわち、その『日本列島』なるもの全域を神類が支配してしまっている以上、その地名の由来になったと思われる『日本』という異世界の国が領土奪還を諦めることはないと思います」


 そう述べたのは、南四連邦のデータベースとも言える存在、済田さいた政樹まさきである。


「だが、その日本という帝国は今存在しているのか? 追い出してからもう5000年も経つのだろう?」


「それは分かりません。なにせ異世界のことですので」


 洋介の質問に政樹はそう答えた。


「異世界からの侵略はこの5000年で一度も成功していないわけだから今は考えなくてもいいんじゃない? こっちは5000年前からずっと、異世界からの侵入があった瞬間は問答無用で迎撃してるわけだし、流石に学んだみたいで最近じゃ上空を飛ぶ異世界機も無くなったしね」


 若菜がそう言って、札穂を見る。


「話を戻すけど、サハの奴らが異世界と交流があった場合、こっちとしては仲良くできないわ。早計な判断をせずに慎重に事を進めましょう。向こうの詳しい軍事力や異世界との交流について分かったら知らせてちょうだい。戦争をするかどうかはその後で決めるわ。でも、万が一に備えてすぐに戦えるように準備は進めておきましょう」


「分かりました」


 札穂は頷いた。


「んじゃ次、甲信連邦。中京統一連邦及び関西統一連邦の動きはどうだ?」


 洋介が話を変える。


 それに答えるのは甲信連邦の代表、永井ながい凛音りんねである。


「みなさん知っての通り、関西統一連邦は今年の元旦に同盟を結んでいた山陽統一連邦、山陰統一連邦、北陸統一連邦を話し合いにて吸収し、我々に次ぐ巨大統一連邦になりました。ですが、大きく変わった点はなく、特に混乱も起きていません。仮想敵国はもちろん私たちで、今まで同様に軍事演習もさかんにおこなっています」


「戦えば勝てそうか?」


 洋介が尋ねると、凛音が答える。


「勝てると考えますが、そうなった場合はその同盟国である中京統一連邦や第四大陸連邦、九州統一連邦の参戦も想定しなくてはならなくなるでしょう。つまるところ、世界大戦は覚悟すべきかと。そして、人員的総戦力では劣勢、さらには第四大陸連邦や九州統一連邦の戦力は未知数なところがあるので、質で優ることができるとも限りません」


 その言葉を聞いて、洋介が顎をいじりながら尋ねる。


「ふむ。だが、その戦争で勝てばほぼ確実に世界征服ができるわけだろう? するだけの価値があるとは思うが」


「ないわよ。というか、世界征服を達成して倒すべき敵がいなくなったらどうせ私たちの中で対立が起きるわよ? そこに平和はあるかしら? そこまでして世界を手に入れたいかしら? それにほんとに価値はあるのかしら?」


 洋介の言葉に若菜が反応する。


「あぁ? お前だって世界征服に乗り気だったじゃねーかよ。なに今んなってチキってんだよ?」


 少しイラついたように洋介が言うと、若菜が反論する。


「別に世界征服に気が乗らなくなったわけじゃないわ。でも、それは最終目標だってこと。最終目標をもうやり遂げちゃうの? もう夢を終わらせるの? 夢を終わらせて、その先の絶望を知りたいの? というかそもそも、征服した後の世界をあなたは考えたことあるの? って話をしたいのよ」


「だったら異世界に進出すればいいだろう? 世界を征服したんなら、異世界大陸に進出をすれば……」


「人類文明と戦うってこと? バカなんじゃないの? あのね、私たちは人類を見下しているけど、それが通用するのは世界だけだと思うわよ? だって世界じゃ私たちの監視下で人類ってなにもできないようになっているじゃない。つまり、何もできない飼育されたような人類を私たちは見下しているわけよ。でも異世界は人類文明、神類なんていない。しかもいる人類は私たち以上の文明力を持っていて、私たちの言う世界単位の国家が能力なしに殺傷能力の高い武器を用いて戦争し合う世界。異世界に生きる人類は、私たちの知るところの人類とは大きく違うのよ? いわば野良の人類、本場の人類と言うべきかもね。そんな奴らのところに無闇矢鱈むやみやたらと出て行くのは愚策だと思わない?」


「やってみなきゃ分かんねーだろーがよ! そう言うお前だって異世界のこと知った口してるが全然知らねぇんだろ? どうせ各国の情報屋からの噂話で知り得た知識を都合よく解釈して偉そうに言ってるだけだろうが」


 夏半若菜と東輝洋介は親友であり、基本的には仲が良い。気が合うし、企むことも似たようなことだ。だが、実は意見の対立はよく起きている。そしてそれは、今回のように場所を構わずに展開されることがほとんどである。


 祖神種だけでの会議の時も何度も行われており、他の祖神種は既に慣れていた。


 言い合いは放っておけば10分ほどで終わるため、その間は全員好き勝手なことをしている。今回も例外でなく、全員バラバラに言い合いが収束するまで個人のことをやっている。


「はぁ、ま、とにかく異世界への進出は認めないわ。進出したいなら情報をもっと正確に集めてから行くこと!」


「はいはいわかったわかった。俺が悪かったですー」


 そして、毎度同じく洋介が若菜との話し合いに面倒くさくなって収束した。


「待たせたな、終わったぞ」


 そして言い合っていた本人たちも、悪く思って謝ることもせず、何事もなかったかのように堂々とした態度を取っている。


 その声で、全員が顔を上げて会議に意識が戻ってくる。


 これがいつものことだから、もう慣れてしまって誰も気にしていないだけである。


「それで、どうしますか? 関西統一連邦との戦争は……」


「いずれはすることになるだろうが、今はまだその時じゃないだろうな。相手の戦力を十分に把握して、明らかに我々が勝てる確証を持ってから攻めるべきだろう。おそらくそれが、世界征服のための最終決戦となるだろうな」


 凛音の質問に洋介が答えた。その答えを受けて凛音が話す。


「分かりました。では私からはもうひとつ報告をさせていただきます。中京統一連邦の動きなんですが、あそこはまだ靜連邦への接触はしていないみたいです。成り行きを俯瞰しているのか、関東と関西の緩衝材とも言える連邦に関わりたくないのか分からないですが、隣国である濱竹にすら接触を図っていないようです。その代わり、同盟国の関西統一連邦との間では密接な連携が取られています。逆元旦には、連邦軍の飛行部隊を関西統一連邦に派遣して合同軍事演習をおこなったようです。また、一昨年に大海にて目視できる距離まで異世界の大型船が迫ったことがあり、それに危機を覚えたようで、異世界対策として超大型の対海用砲撃機を作成したようです。盟主国である名護なごうみを囲むように3機と、連邦領土の沿岸部から大海に向けて12機、計15機を配備したようです。今後、その技術を応用して文明力や軍事力を上げる可能性があります」


 この報告を受けて、洋介が凛音に尋ねる。


「ふむ。関西統一連邦より危険視するべきではないか?」


「そうかもしれません。幸いなことに、中京と靜連邦との接触はないので、私たちの目の前の計画には支障がありませんが、靜連邦という緩衝材が無くなった時、あの連邦は我々にとって脅威になるでしょう」


 凛音の答えを聞いて洋介は悩む。


 現在、靜連邦の攻略は若菜との遊び感覚で進めている計画である。しかし、靜連邦をおとすということは、関東勢力と関西勢力の緩衝材を無くすということ、それ即ち、世界の緊張度を一気に上げて、世界大戦へのカウントダウンを始めるということを意味しているのだった。


 彼はここで初めて、決してこれは遊びなどという軽いノリでやってはならないことだと気がついた。靜連邦という緩衝材を早期に無くすことが得策なのか、それともしばらくは現在の緊張度を保ったまま放置すべきなのか、はたまた緊張緩和をして完全な安定期を作り出すべきなのか。


(まぁ、俺一人が悩んでいても仕方ないし、とりあえず靜連邦の攻略がどこまで進んだか、若菜からの報告を聞いてから考えるとするか)


 そう思い、彼は若菜に尋ねる。


「最後だが、靜連邦に関して南四連邦からの報告。若菜、頼む」


「ん。えっとね、簡単に言うと、現在絶賛無視されている最中よ。私たちの軍門に下るよう手紙を送りつけて、拒否したら武力侵攻を開始するって伝えたけど、返事は未だ来ない。それどころか、夏至の直前に靜の祖神種から入ってきた通達はひとつだけ。『国境に無断で軍を配備するな。緊張度を上げるつもりか?』ってさ。手紙が届いていないってことはないだろうけど、ここまで知らん振りをされるとなんか心配になってくる。情報屋によると、軍を展開されて向こうの国境付近はかなり混乱しているみたい。それも、本当に何も知らないみたいに。演技っぽくもないから、本当に手紙を出したのかって疑われたわ。だから先日、再度通告をしておいたわ。今はその返事待ちよ」


 若菜の言葉に牧郎が口を開く。


「じゃ、冬くらいには戦争に突入する可能性があるってことか。靜連邦は濱竹と井谷、靜、沼の4カ国が軍事面に関しては要注意だな。特に平野部の戦いでは靜と沼、山間部は井谷、川や海では濱竹に注意が必要になるな。我々北三連邦を中心に軍をすぐ展開できるように用意しておこう」


「そうだな。戦争になるかもしれない以上、軍を速やかに展開できるようにしておくべきだろう」


 牧郎に対して洋介がそう言ったが、続けて自分が悩んでいることを打ち明ける。


「だが、さっきの凛音の話を聞いて、靜連邦を早期に倒すのはもしかしたら得策でないかもしれんと思い始めた。正直、この攻略は俺と若菜の暇つぶしみたいなところが強い。確かに世界征服を目指す上では欠かせない侵攻ではあるものの、靜連邦を陥すリスクというものをほとんど考えずに計画を立ててしまっていた。我々と関西勢力との緩衝材となっている靜連邦を陥したのなら、世界の緊張度は一気に高まるだろう。中京が靜連邦に手を出していないのは、その可能性に気付いているからではないか? 世界が終わりかねないその可能性に気付いて、我々の動向を慎重に窺っているのだろうよ。そこで俺は、この場を借りて皆に問いたい。やろうと思えば、靜連邦への攻勢はいつでも可能だ。それを近いうちにやって一気に世界征服へと走るか、それとも今の緊張を維持するか。そしてもうひとつ、靜連邦と緊張緩和を行い、これからゆっくりと親密度を上げ、どれだけ後になるかは分からないが、いずれ行う世界征服の際にこちらと協力して作戦を実行できるような関係になるか」


 その問いかけに、全員が真剣な顔つきとなった。正直、新干潟との戦いは瞬殺ではあったものの、被害がゼロだったわけではない。ある程度は疲弊しているし、編成を組み直す必要がある部隊もある。それに、靜連邦との戦いは新干潟に比べて実は遥かに難易度が高い。関東統一連邦から攻める場合は、どの戦線に於いても全て2000m級の山を越える必要があるのだ。そして、越えた先にある平野部はかなり狭く、新干潟連邦の時のように大規模攻勢を仕掛けることも難しい。更に、甲信連邦から攻める場合は、標高3000mを越える山岳地帯への侵攻を強いられる。そしてそこで交戦する相手は、靜連邦第2位の軍事力を誇る井谷。おそらく、山岳戦に於いては世界屈指の実力を誇ると考えられている。また、靜連邦第1位の軍事力を誇る濱竹も、国土の多くが山岳地帯であるために山岳戦への備えは万全な状態だと考えられる。つまり、靜連邦と戦う場合は、山岳地帯の突破ができない限りは早期決着が付かず、突破した先の平野部でも数に訴えた大規模な攻勢を仕掛けることもできず、そのまま泥沼戦になる可能性があるということなのだ。


「適度に緊張緩和を行いつつ、裏では着々と準備を進めてはどうでしょう? いずれ戦うことになるわけですし。私個人の考えになりますが、下劣な皇神種が統率権の一端を握っている連邦とは仲良くしたくありません」


 そう言うのは、北三連邦に所属する井原いばら国の神、井原いばらきぬだ。


「たしかにな。靜と同格という立ち位置にいるのが皇神種国家である濱竹なのは気に食わない。そんな連邦と仲良し小好し状態になるのは、我らが統一連邦の沽券こけんに関わるな。俺も絹の意見に賛成だ」


 続くのは、同じく北三連邦のとち国の神、とち暁太郎ぎょうたろうだ。


「ふむ。ま、色々意見はあるだろうが、最後は多数決で決めるとするか。選択肢に挙手で答えてくれ」


 そうして、洋介は全体に尋ねる。


「靜連邦への攻勢を早期にしたいやつ? ……靜連邦との緊張を適度に維持し、時期を見極めてから攻勢をしたいやつ? ……完全に緊張緩和をしたいやつ?」


 多数決の結果は……


「ま、なんだかんだ言って結局はそんなもんだろうと思ったよ。お前らも分かってんじゃねーか」


 そしてニッと笑って言う。


「靜には悪いが、少し俺らに振り回されてもらおう」




ーーーーー

ーーー




「……てわけで、かささぎくんの名誉回復はできたよー!」


「はぁ!?」


 超ルンルンなテンションで神様が、居間にいた僕と大志に言う。


 あれからまだ2日。そもそも3日で名誉回復なんてできやしないって思っていた。というか今も思っている。だって兄を殺した奴だよ? 国の臣を殺した奴だよ? 3日で国民を納得させられるか?


「濱竹の話題を出したんだよ。それに便乗して言ってるのかもしれないけど、濱竹のそれはかささぎへの批判ではなく安久斗への批判の意味が含まれているからねって。死にたくなかったら無闇矢鱈と批判をするなって怒ってきた。それと、はいこれ」


 そう言って渡される、大量の紙の束。


「なんですか?」


 僕が訊くと、


「小林かささぎの功績。上級学校時代の研究内容とか、北濱行政区長としての功績とか。ま、なかなか凄いから読んでごらん」


 と言われる。


 大志が手に取って、パラパラ捲りながら目を丸くしている。


「なんて書いてある?」


 訊くと、


「『安久斗様の宥和政策の重要性と推進理由における賛否と考察』……?」


 と返ってくる。


「うん、それは上級学校での論文だね。内容は、安久斗のやった西部諸国との宥和政策の成功点と失敗点、政策の意義や利益、濱竹に与えた影響力、靜連邦全体への影響、さらに西部諸国の在り方や濱竹依存社会の可能性と危険性、その政策の改善点とかが事細かに書いてある」


 神様がそう言って、一枚の賞状と盾を見せた。


「昨日、かつての小林家から借りてきたやつ。この論文は『皇國祖賞』を受賞しているの。つまり、安久斗が認めた論文ってことになる。しかもこの2年後、安久斗は宥和政策を大きく修正したの。西部諸国の神々にこの論文の内容を力説して、私たちに修正内容を認めさせて。あの時は全然名前とか気にしてなかったけど、処刑の時にふと思い出してさ。もしかしてって思って濱竹の書庫で調べたら出てきたの」


 小林氏って、すごい人だったんだなぁ……


 全然知らなかった。


「ま、つまり安久斗はすごくかささぎくんを認めているんだよ。自分が認めている人を批判されるのは誰だって気に食わない。昨日安久斗に会ったらそう言ってた。近々、批判している者に罰を与え、批判的に報じた濱竹日報の幹部を処分する予定らしい。だからね、名誉回復は楽だったよ。小林かささぎという人物がどういう人だったかを、安久斗に認められている存在ってところまで語ってしまえばそれで終わりだからね」


 ……それで、国民は納得するだろうか?


 正直、恐怖で押し付けただけのようにしか思えないんだけど……


「心配ないよ! わたし、やるときはやるんだから。ちゃんと抜かりはないよ」


 満面の笑みで神様は言う。


 うん、不安だ。


 すっごく不安だ。


 ほんとにもう、不安すぎてしょうがない。


「あ、そうそう。兎山自治領はあと18日後の夏至後60日から運用始めることになったから。さっき濱竹に行ったら珍しくするががいたから、安久斗も交えて話してきちゃった。んで、明にも了承得たからよろしくね」


「は、はい」


 ……いや、案外有能なのかも?


 だが僕らに少しは相談があってもいいのではないだろうか。


「あとね、自治領の設立宣言は小臣のお仕事だからね。大智は明後日までに原稿書いて、わたしに見せてね。よろしく」


「えぇ!?」


 そんな無茶な!


 僕、公的文書の書き方なんて分かんないよ!?


「ってことで、わたしは少し外に出るから。引越しの準備よろしくねぇ」


 神様はそう言って、タタタと駆けて外に行ってしまう。


 困ったものだ、どうしたものか。


 僕は大志を見つめた。しかし彼は、さっきからずっと論文に夢中になっている。


「……はぁ」


 やるしかないか。


 僕は重い腰を上げて、自分の部屋へと向かうのだった。


郡牧郎 身長176cm 年齢■■■■歳

北嶺札穂 身長158cm 年齢■■■■歳

済田政樹 身長169cm 年齢■■■■歳

栃暁太郎 身長172cm 年齢■■■■歳

井原絹 身長162cm 年齢■■■■歳

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― 新着の感想 ―
地理的な規模感から恐らく日本列島の話だろうとは思っていましたが、他の大陸ではまだ人類文明は健在なんですね(てっきり5000年前の戦争で世界は荒廃したかと想像していましたが笑)今日本に取り残されてる人類…
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