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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
32/107

第31話『日渡式分散神治制』


 翌日、僕らは磐田神社の本殿に集められた。


 といっても、御厨家や鎌田家のみなさんはいない。とりあえず僕と大志、花菜に話をしたいようで、神様からの召集がかかった。


 もちろん、用件はなにか分かっている。分散神治制になったときの役職が発表されるのだ。


「えー、こほん。昨日の夜、わたしと明で徹夜して考えました」


「嘘つけ」


 …………。


 神様が言った言葉に、明さんが即つっこむ。


 何をしているんだ、この神々は。


「えー、気を取り直して。昨夜、わたしと明が無い頭を懸命に捻らせて何時間もかけて考えました」


「15分間、萌加の独壇場で終わったけどね」


 どうやら、神様は事を大きく見せたいみたいだが、そうはさせまいと明さんは厳しい現実を突きつけてくる。


「それで、萌加の無い頭で15分で考えた役職を言ってあげなさいな」


 明さんは神様にバカにしたような笑みを向けながら言う。


 神様は「無い頭とはなによ!」と言っているが、明さんは知らん顔。最初にそう言ったのはあなたでしょうと、顔に書いてある。


 そんな明さんを見て、神様は諦めたのかひとつため息を吐いてから言う。




ーーーーーーーーーー




 臣、巫女はもちろん役職として存続させる。で、新たに追加するのは『臣補佐おみのほさ』と『巫女下みこのもと』という役職。立ち位置的に、これは臣と巫女を補佐する役割を持つ。今回みたいに何らかの事件や事故で臣と巫女が機能不全に陥ったとき、この二つの役職が代理を務めることとする。


 役職決めは、家庭内試験を勝ち抜いた家庭内代表が本試験にて競う家庭内代表制を採用。この方法は靜や濱竹、沼、猪頭で導入されている分散神治制となんら変わらないけど、相違点も存在するよ。それは、臣と巫女の座も試験で争う点。他の国は、臣家と巫女家という家が世襲制でその場に居座っているけど、日渡はそうしない。毎回毎回、臣と巫女までも交代する。居座りたいなら試験で勝って奪い取れって感じかな。


 そしてもう一つ。試験の周期を三年に一度とすること。他の国では年に一度行われるけど、それは臣と巫女が入れ替わらないからできること。臣と巫女が入れ替わるってことは、神治における最高権力者が変わるということ。年に一回国の方針が変わっちゃったら、国民も周辺国も混乱しちゃうからね。そこで三年に一度行うことにして、三年間は国の方針が変わることを防ごうって考えだよ。


 この一風変わった、日渡独自の分散神治制のことをね、わたしはこう呼ぼうと思うんだ。


『日渡式分散神治制』


 ってね!




ーーーーーーーーーー




「無い頭にしては上出来よ、萌加」


 明さんはそう言って微笑んだ。


「わたし頭いいんだからね!」


 神様はムスッとしながら言う。


 頭がいいかは置いておいて、たしかにこの制度なら日渡派にも兎山派にも有利、不利がない。つまりは平等だ。


「でも正直、家庭内試験って必要なんですか? 家の数が少ないし、人数もそんなにいないんだったら、全員が本試験をやって役職を取っていけばいいんじゃないですか?」


 そう言ったのは大志だった。


「家庭内試験は必要だよ」


 大志の質問に答えたのは神様だった。神様は家庭内試験の意義についてこう語った。


「家庭内試験を行わないで全員がぶっつけで本試験に臨んだとするよ。その結果、臣と巫女が同じ家の者になったとする。臣と巫女は、神治においての最高権力者に値して、法律や国家方針を握っているよね。それが同じ家から出たとなると、その国はその家のもの、つまりは独裁政権が誕生してしまうってことなの。法律上、別にそれでも構わないんだけど、独裁国家は非常に不安定で脆く、国民からも諸外国からも良く思われない。そんなことで日渡の印象が悪くなるのもバカバカしいし嫌だから、家庭内試験を設けて家庭内代表制にしたってわけだよ」


 その返答に納得したのか、大志は「分かりました」と言う。


 だが、きっと大志はこの方式を快くは思っていないだろうなぁ。自分が家庭内代表に選ばれることは明白であり、なにかしらの役職に就くことは確定しているのだから。


 というか、それを言うなら花菜など何もせずとも家庭内代表だ。豊田家は今、あいつ一人だけなんだから。


「あの、質問です」


 その花菜が手を挙げた。


「どうしたの?」


 神様がそう言って花菜に発言権を与える。


 花菜は神様に対して疑問を投げかける。


「臣補佐と巫女下って、臣と巫女と同じように、臣補佐が男、巫女下が女になるんですか?」


「うーん……」


 投げかけられた神様は唸る。そして一人でブツブツと呟き始める。


「そのつもりでいたけど、別に変えてもいいなぁ。というか、変えた方が面白いかもしれないね。よし、変えよう」


 そうして勝手に結論を出して、僕らに言った。


「臣補佐と巫女下に性別は関係ないものとする!」


「分かりました!」


 即座に花菜が返事をする。


 そんなあっさり決めていいのか?


 いや、気にするだけ野暮だろう。現在、この国では『臣殺しに伴う特別措置』が適用されている。それによって、この国は神による直接神治が行われている。それ即ち、今この国で神に逆らうことは絶対にできないということだ。だから僕らは、納得がいかなくてもこの決定に従わなくてはならないということなのだ。


 ……別にこの決定に不満があるわけではないんだけどね。まぁ、ちょっと思いつきで進んでいる感が否めないけど。


「萌加の思いつきが後々この国を苦しめないことを祈るわ」


 明さんもそう思うみたいで、そのようなことをぼやいていた。


「萌加様、その試験っていつやるんですか?」


 大志がそう神様に訊く。


 神様はこれまた考えてなかったようで唸る。


「うーん、みんな今から勉強を始めるとなると、2週間くらい先がいいかな。夏至後14日ぐらいにしようかな?」


 予備知識含めてゼロの状態から2週間で試験やれと?


 鬼畜か、このロリ神様。


「それは家庭内試験ですか?」


「そうそう」


 花菜の疑問に神様は答える。


「本試験はその翌日、15日でどう?」


 その答えに明さんが質問する。


「出題範囲は?」


「兎山伝書と日渡伝書で、国の歴史に関するものでいいでしょ」


 神様がそう言うと、明さんは矢継ぎ早に質問を展開する。


「出題形式は? 問題数は? 誰が作るの? 誰が採点するの? そもそも日渡伝書も兎山伝書も複製なんて……」


「だー! もう、うるさいなー! そんな一気に質問するなー!」


 神様は大声をあげて自分の頭をわしゃわしゃいじる。

 というか待てよ、範囲エグくないか?


 兎山伝書と日渡伝書って……


 日渡伝書だけで321冊、兎山伝書はよくわかんないけど、日渡伝書と同じ感じで生産されていれば1600冊を超えているかもしれない……


 そんな非現実的なことをやるつもりか?


「出題範囲が広すぎる気がします」


 大志が冷静に神様に告げる。


「私もそう思うわ。もっと難易度を下げてあげなさいな」


 明さんもそう告げる。


「でも、日渡の歴史に絞ったら磐田と豊田に有利だし、兎山の歴史に絞ったら御厨と鎌田に有利だし。だったら混ぜるしかなくない? って思うんだけど」


 神様はそう言って拗ねる。


 うーん、確かに難しい。4家が平等に有利、または不利になるような試験にしなくてはならないのだから。


 日渡国内の歴史系にするのは無理があるということが今ここで分かった。


 じゃあ文化?


 いや、これといって特に日渡の伝統文化など存在しない。


 じゃあ文字とか、言語とか?


 だが見たことないな、言語を取り扱っている資料って。濱竹とかに行けばあるのかもしれないけど、日渡の歴代の臣や巫女はそういった研究はしてこなかったようだ。


 うーん、じゃあどうしようか。


「思うんですけど、」


 僕が考えていると、花菜が口を開いた。みんなの視線が花菜に集まった。


「日渡とか兎山にこだわらずに、靜連邦という括りで見てみたらどうですか? 成立年月日はいつか、初期の加盟国はどこか、どんな経緯で設立に至ったか、これまでにどんな事件があったか。こういった問題を作るのはどうでしょうか?」


 花菜がそう言うと、すかさず明さんが質問する。


「教材になり得る本とかはあるの?」


「あると思います」


 花菜がそう答える。そしてその根拠を述べた。


「以前、最高議会で靜を訪問した際、大貴さんと書店を回ったことがあります。その時に、靜連邦の歴史をまとめた書籍を売っているのを見かけました」


 最高議会とは、連邦の神、臣、巫女が集まって状況や問題などを共有する議会のことだ。連邦の方針を決める意味合いが強く、大抵冬至前のシーズンに行われる。


「厚さはどのくらいだったか覚えてる?」


 明さんが再び尋ねる。


「確か、このくらいだったかと」


 花菜は親指と人差し指で2cmくらいの隙間を作った。


「よし来た! じゃあ靜に頼んで取り寄せてみるよ。出題範囲はその本の中から。問題数は濱竹に揃えて、家庭内試験が30問、本試験が80問でやるよ! よーし、じゃあ靜に行ってきまーす!」


「まーちーなーさーい」


 靜に行こうとした神様を明さんが掴んで止める。


「なんだよぉ? 善は急げというじゃないの。なんで止めるの?」


 神様が明さんにそう尋ねる。


「なんでも何も、今日は逆元旦の前日よ? 靜は忙しくておそらく取り合ってくれないわ。取り合ってくれたとしても、多忙さから忘れられそうだわ」


「あおいが忘れるとは思えないけどなぁ」


「それでもよ。念のためってやつ。だから、その本は濱竹に行って頼んで来なさい。それに濱竹も統率国。街は濱竹の方が発展しているから、その本だってあるはずよ」


 明さんは神様を説得する。


 これにはおそらく、明さんなりの考えがあるんだろう。『靜よりも濱竹を頼れ』ということを遠回しに言っているように思える。でもなんでだろう。どっちでもいい気がするけど。


「でも安久斗だって今日はもう靜へ向けて国をっているはずよ? 誰に話をすれば……」


「誰かしらいるでしょ。祝賀祭のために国をがら空きにするなんてことはまずないと思うわよ?」


 神様の疑問に明さんが答える。


 まぁ、普通に考えて国をがら空きにするなんてことはないだろうから、誰かしらいるんだろうけど……


「とにかく行ってきなさい。なるべく早く調達したいってことを伝えて相手を急かすのよ?」


「はーい」


「あと、こっちのこともあるから早めに帰ってくるのよ?」


「はいはい分かったよ」


 まるで母子のような会話を繰り広げた明さんと神様。神様はそう言って濱竹に向けて飛んでいった。


 神様がいなくなってから、明さんが僕らに言う。


「さて、これで本は早く手に入るわよ。よかったわね」


「どうしてですか?」


 僕がそう訊くと、明さんが答えた。


「普通の上神種が、永神種からの頼みを無下にできると思う?」


「……」


 そういうことか。


 靜に行くと、永神種が永神種に頼む形になる。それも始神種が祖神種に頼む、つまりは格下が格上に頼む形になるのだ。祭典があって忙しい靜に頼むと、後回しにされる可能性がある。しかし濱竹なら、後回しにされる可能性が低くなるということか。


「……明さんって、頭いいですよね?」


「大智がバカなだけでしょーが」


 僕がそう訊くと、花菜が僕の頭を叩いた。


 痛いな、この暴力巫女!


「それに失礼よ? 明様はかつて永神種だったんだからね? 大智基準で天秤にかけちゃ失礼極まりないっての」


 ……そう言われるとその通りなんだよなぁ。


 歳は同じくらいの見かけしてるのに、何千年と生きているんだから。


「私は頭がいいわけじゃなくて、ただずる賢いだけよ。神をやってた時は常に濱竹っていう脅威に晒され続けてたから、どうやったら生き残れるかっていうのをひたすら考えてたわ。それが原因かは分かんないけどね、すごくずる賢い性格になっちゃったのよ」


 明さんはそう言って笑った。


「濱竹、ですか……」


「温厚なイメージしかありませんけど……」


 僕と花菜がそう言うと、明さんは少し思い返すような口調で語った。


「あなたたちは濱竹と友好的な時代に生きているから、その恐怖ってのが分からないはずよ。それに安久斗の性格も大きく変わった。正直、気持ち悪いくらいにね。昔は大国主義、国家主義、侵略主義の化身みたいな感じで、恐怖の対象だったわ。いつ侵略されるか分からない。明日には晒されるかもしれない。毎日、そうやって怯え続けていたわ。今でこそ温厚だけど、かつては冷酷で無慈悲な神だったんだから。だからね、濱竹とだけは、どんなことがあっても対立しちゃいけないわよ。今の軍事力なら、対立した瞬間に間違いなく瞬殺されるわ。今後長くこの国を存続させたいと思うなら、濱竹に媚び売ってでも縋り付いていきなさい。それこそが、この国が生き残る最善の手段ってことを言っておくわ」


 濱竹か。


 どんなことをされても、ね。


 たとえ兄を殺されても、媚びを売って縋っていかなきゃいけないのか。


 まぁ兄を殺したのを濱竹と言うのは無理があるし、僕もそうは思っていない。あれは小林氏の独断であり、安久斗様や他の幹部は一切関与していない。むしろ被害者とまで言えるかもしれない。だから、その意見を受け入れることに抵抗はそれほどない。


 でも、大国に縋ってしか生きていけないことに、少し苛立ちに似た何かを覚えた。


 上手くは言い表せないけど、なんかイライラする。


 この国にもっと力があれば、そんなことしなくていいんだよねぇ……


 じゃあ力をつけていけばいいじゃないかと思うんだけど、それが難しいことも想像に容易い。


 どうすれば、大国に縋ることなく生き延びられるんだろう。


 ……うん、ちょっとこれは今後考えるべき案件だろう。


 兄が殺されて、分散神治制が導入されて、今、日渡は確実に転換期を迎えているはずだ。


 だったらこの際、領土は小さくても、大国と同格になれるような国を目指すのもありではないか。夢物語で非現実的かもしれないけど、それを目指す価値はあると僕は思う。


 ちょっとそれを目指して、大志と花菜と協力して実現を目指していこうかな。


 だったら臣になればいいのかもしれないけど、それは面倒だから絶対にやらない。


 その意思が揺らぐことはまずない。


 実現は大志に……いや、これから臣と巫女になる誰かに任せることにしよう。




ーーーーー

ーーー




 濱竹の浜松神社に着いた。


 誰が残っているか分かんないけど、とりあえず中に入ってみよう。


 中に入ると、豪勢なロビーが広がる。相変わらずすごいやしろだなぁ。


 さて、誰かいるかな?


 キョロキョロしながら歩いていると、正面の階段から、少し丸顔の女が降りてきた。


「どちら様で……って、萌加様!?」


 その人はわたしを見てそう言った。


 しかしながら、非常に残念なことに、わたしはこの人を知らない。


「あの、あなたは……?」


「わわ、私は濱竹神務局長の森田可美と申します!」


 神務局長か、なるほど。


「安久斗様一行が不在の間、濱竹国の管理は神務局に任せられました。そのため、下池川卿をトップとして管理しております」


 そうか、下池川卿が残っているのか。


「じゃあ、下池川卿に会わせて。わたし、少し急ぎの用事があるんだ」


 わたしがそう伝えると、森田局長はピシッとして言う。


「分かりました! 応接室にご案内いたします」


 そうして私は彼女について行く。


 そしてやってきたのは、3階の応接室だった。


「下池川卿を呼んで参ります。少々お待ちください」


 そうして彼女は、下池川卿を呼びに出て行く。


 お茶とお菓子を出してくれたので、わたしはそれを食べる。


 うん、このクッキー美味しい。


 いくつでも食べられるなぁ。


 パクパク。


 そうして時間を忘れて食べ続けていると、扉が開いて下池川卿が入ってくる。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 そう言われて、わたしはクッキーを必死に飲み込んでから言葉を言おうとするが、急いで飲み込んだために喉に支えてしまい咽せ返る。


「大丈夫ですか!?」


 森田局長にそう言われたが、わたしはお茶を必死に流し込んでなんとかなった。


「大丈夫、大丈夫。ごめんね、心配かけて」


 わたしはそう森田局長に伝えて、改めて下池川卿を見る。


「わざわざ時間を取っていただきありがとうございます」


 そう言うと、神務卿は一礼してソファに座る。


「それで、用件はどのようなものでございましょう? 急ぎと聞きましたので」


 下池川卿がわたしに訊く。


「実はね、わたしの国、日渡では、次の臣を決めるために分散神治制を取り入れることにしたの」


 わたしがそう答えると、神務卿は目を丸くする。


「分散神治制、ですか?」


「うん」


 そうしてわたしは、それに至った経緯を話した。


 大智と大志が臣を継ぐことに否定的であること、試験で決めればいいという意見が出たこと、日渡には上神種家が4つ存在すること、どうせなら分散神治制を導入しようと決まったこと。


「……てなったんだけど、試験範囲をどうしようってことになったの」


 わたしが言うと、下池川卿は尋ねる。


「つまりは、その相談と言うことですかな?」


「ううん、違うの。もうちょっと続きがあるんだよ」


 そしてわたしは、日渡伝書と兎山伝書についての説明と、日渡派と兎山派の説明をして、当初のテスト範囲を語る。


 あまりに広すぎる範囲で現実的でないことは下池川卿も理解に容易いようで、ふむ、と言ってかなり真剣な顔をしていた。


「……でね、試験範囲を日渡じゃなくて、靜連邦の歴史にしたらどうだって話になったの。それで、その教材となり得る本を探しているんだけど……」


 わたしがそう言うと、


「それでしたら、おそらくあると思います。一緒に書庫を見てみましょうか?」


 と言われた。


「うん、そうさせてもらうよ」


 わたしがそう答えると、下池川卿は立ち上がった。


「さて、では書庫へ行きましょう。こちらでございます」


 そうして、わたしは下池川卿について歩いた。




 歩くこと5分。やってきたのは、神社1階の大きな部屋だった。


 上から下までずっと本が並ぶ。


 日渡伝書を保管している書庫とは比べ物にならないくらい大きい。


「こちらには、書店で並んでいる本から、幹部がまとめた国勢についての非公開文書まで並んでおります。ただ、国の最重要文書や極秘書本に関してはここにありませんので、濱竹国民なら自由に入って使うことができます」


 へぇぇ……


 そんな設備なんだ……


 国民が、神社の書庫を使う……


 日渡じゃ絶対にできないことだ……


「それで、靜連邦に関する本はこの辺にまとまっております」


 そうして神務卿は案内をしてくれる。


 ずらっと並ぶ本。


「もちろん、手に取って内容を確認しても大丈夫です。それに、これは全部一般の市場に出回っているものであります。この内容の本で試験をしたいと言うのなら、今日中に取り寄せることも可能です」


 神務卿の言葉に、わたしは感嘆の声を漏らした。


 そして本を手に取って、どの本が試験にいいのかを必死に探し続けた。


 20分くらい経った。読み比べて、いい本を見つけた。


「これ! これがいい! これを15冊、頼めるかな?」


 わたしは神務卿にそう言った。


「かしこまりました。では、すぐに取り寄せます。応接室の方で少々お待ちください」


 そうしてわたしは応接室へと戻った。




 応接室に戻る時に、神務卿に頼んでその本を書庫から持ち出させてもらった。


 そのため、応接室にいる間の待ち時間でずっと読んでいた。


 問題として出せそうな場所はどこかを探して、必死になって読んでいた。


 そして、おそらく1時間くらいして下池川卿が応接室にやってきた。


 なにやら荷台を転がしている。


 そして、その荷台の上には、15冊ほどの本が置かれていた。


「大変お待たせいたしました。取り寄せて参りました」


「うわぁ、ありがとう!」


 本当に有能だ、この神務卿。


「代償はどうしよう?」


 そうわたしが言うと、神務卿は首を振る。


「そもそもとして、今回日渡が試験をやるに至ったのは、我が国の小林が萌加様の国の臣を殺してしまったからにございます。きっかけを作っておいて代償まで戴くのは全く筋が通りません。こちらは無償で差し上げます」


 え、ありがとう。


 たしかに言われてみればそうなんだよね。裁判で罪が確定した以上、この試験をやるきっかけを作ったのは濱竹にあると言える。


 だったら無償でくれるのが筋……なのかな?


 でもなんか申し訳ないような、でもこれでいいような。


 ちょっと複雑だけど、もらえるのならもらっておこう。


「ありがとう。クッキーとお茶も美味しかったよ。ごちそうさまでした」


 わたしはそう言うと、その本を……


 ……どうやって運ぼう?


「手伝いましょうか?」


 神務卿にそう言われる。


「え、でも……」


「大丈夫です、局員に任せますから」


 どうしようかな。


 正直、頼みたいところではある。


 ええい、いいや。頼んじゃえ。


「それなら、お願いするね。わたしは2冊持ち帰るから、残りの13冊は明日までに磐田神社に運んでくれると嬉しいな」


「かしこまりました」


 わたしがそう言うと、頼もしい言葉が返ってきた。


「ありがとう」


 わたしはそう言うと、帰路につく。


 下池川卿と森田局長がロビーまで見送ってくれた。


 これで、試験の材料は揃った。


 あとはわたしと明が、この本から問題を作るだけだ。


 わたしは急いで日渡に向かうのだった。


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