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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
30/107

第29話『連邦裁判』


「うーん」


 日渡からの帰り道、空を飛びながらしみずは悩んでいた。


「ボクはかささぎが犯人とは思えないんだよなぁ」


 その声を聞いて、横にいたあおいが言う。


「兎山明が怪しいって思うの?」


「そう。初めて御霊術を目にしたけど、あれは危ない術だよ。ほんとに危険極まりないね」


 しみずはクルクルと回転しながら答える。


「たしかに危ない術だけど、かささぎ以上の動機があるかなぁ?」


 するがが疑問を口にすると、割り込んで来たお調子者が言う。


「調べてみよっか?」


「ぜひともっ!」


 それに食いついたのはしみずだった。


「いやぁ、さすが恭之助! ほんとに気が利くよね、君は」


 しみずが上機嫌で言うが、するがとあおいは乗り気ではない。


「だが、これで動機が出てきたらどうするんだ? 俺たちはあいつが犯人だって言っちゃったんだよ?」


「そうよ。冤罪が露呈して、靜の名を汚されちゃ困るわよ?」


 するがとあおいの言葉に恭之助は笑う。


「なにを今更。既にかささぎくんを犯人だと断定してしまった以上、後戻りはできないのにさ。それに、ここからかささぎくんを擁護するのは濱竹の仕事だよ。濱竹が我々の思う事実に気付けば冤罪はなくなるし、事実に気付けなければ冤罪と露呈することもない。事件が解決してしまえば、その後でもし冤罪だと主張されても突っぱねることもできるしね」


 恭之助の言葉に、するがとあおいは少し考える。


「ま、それもそうか」


 するががそう言って、


「兎山明が怪しいと思うのは俺も同じだ。恭之助、頼んでいいかい?」


 と尋ねる。


「任せてくれよ。調べるだけ調べておくよ」


 恭之助はそう言って笑った。


「そう、じゃあ頼むわね。それで、もし彼女が真犯人だと確定したら……」


 あおいがそう恭之助に言うと、彼は頷いてあおいに答える。


「あぁ。いつも通り、進めていいかい?」


「うん、お願いするよ」


 するががそう答えて微笑む。恭之助もそれに応えるように笑うと、パチンと手を一回叩いてから言った。


「よし、じゃあお別れだ。明ちゃんに関しては任せておいてよ。じゃ、お疲れさま」


 そうして恭之助は眼下に広がる自国へ向けて降下していく。


「おう、おつかれ」


「任せたわよ」


「バイバーイ」


 靜の三大神は降下していく恭之助に向けてそれぞれバラバラの声を掛けた。恭之助はヒラヒラと手を振ってその声に反応を示すのだった。


 恭之助と別れた靜の三大神は、速度を上げて東隣にある自国を目指した。




ーーーーー

ーーー




 濱竹安久斗は、浜松神社に戻ると急遽臣と巫女、神務卿と軍総長を集めて少人数会議を行った。


「……というわけで、俺は靜が怪しいと踏んでいる」


 そして、萌加に話した通りの内容を話すと、おなが勢いよく発言をする。


「では靜の証拠を集めましょう!」


 しかし、その言葉にひくまが突っ込む。


「待て、おな。靜を犯人と言うのはリスクが大きすぎる。もっと慎重に……」


「黙りなさい! 安久斗様は靜が犯人だとお思いになられています! それを裏付けるのが私たちの仕事なのですよ?」


 しかし、おなはそれを跳ね飛ばす。


「いや、でもな……」


 ひくまが口を開こうとすると、おなはソファに立てかけてあった刀に手をかける。


「ひくま、あなた安久斗様の意思に逆らう……」


「刀はダメだ。あと、ひくまの言う通り靜を犯人とするのはリスクが多すぎる」


 そして抜刀しようとして、安久斗に止められる。おなは刀を再び立てかけて何事もなかったかのように落ち着いた。


「ふむ、靜を敵に回すということは、最悪連邦全国を敵に回す可能性すらありますね」


 ひくまの正面に座っている山樹が口を開く。


「ですが下池川卿。濱竹こっちだって統率国、靜とは同格ですぞ?」


 その横に座った砂太郎が山樹に質問する。


 しかし、それに答えたのは安久斗だった。


「砂太郎、俺は皇神種だ。靜は祖神種、同じ統率国という役職かもしれないが、神種の違いで靜の方が位が高い。同格ではないんだ」


「ですが……」


 砂太郎は安久斗にそう言いかけるが、ひくまが砂太郎に向けて首を振ったためやめた。


 これ以上言うと、おそらくおなが黙っていない。ひくまはそれを思って砂太郎を止めたのだった。


「だが、靜以外にも怪しいやつがいる」


 唐突にそう言ったのは安久斗だった。


「と、いいますと?」


 山樹がそう訊くと、安久斗がその名を口にする。


「兎山明だ」


 その言葉に対して、全員が唖然とした。


「うさぎやま……」


「めい……」


 ひくまと砂太郎が呟く中、山樹が安久斗に質問する。


「ですが安久斗様、兎山明は『地属性』であります。今回の事件は『気圧泡内波プレッシャーバブル』を用いた殺害です。彼女が犯人である可能性は極めて……」


「黙りなさい、安久斗様が疑わしいと言うのならそいつが疑わしいのです! そのような質問は野暮だと知りなさい!」


 山樹の質問に対しておなが大声で言う。


「そうは言いますがね、おな様。今回の件におきましては風属性が犯人だという前提が存在します。その前提を覆せるほどの根拠がなければならないのですよ」


「じゃあ訊くが、お前は安久斗様がその根拠を持っていないと思うのか?」


 おなの言葉に反論をした山樹を、おなは鋭い目つきで睨みつけた。睨みつけられた山樹だったが、なにも物怖じすることなく淡々とおなへと言葉を告げる。


「そうは思っていないのですよ。安久斗様が根拠もなしにそんな話をなさるなどとは思っておりません。ですが、その根拠で連邦全国を納得できるかが問題なのです」


「山樹の言う通りだ」


 そう言ったのは安久斗だった。


「兎山明が犯人だと思ったのはほぼ直感だ。十分な証拠はないし、彼女を犯人に仕立てれば東岸諸国との関係悪化は避けられないだろうな。なにしろ、旧兎山国は協定周知国の構成国家。そこを敵に回せば、周知や崖川、さらには兎山と関係の深い渡海と日渡は激昂するだろう。そうなると、面倒なのは日渡萌加だな。あいつは靜に拾われて育てられた経歴がある。日渡と敵対するということは、結果的に靜を敵に回すということになりかねない。靜が敵に回ると、連邦全国を納得させることはほぼ不可能だ。だからそれには、兎山明が殺したという確実な証拠が欲しいな」


 東岸諸国というのは、連邦西部諸国の中でも濱竹を除いた国家の総称だ。昇竜川の東岸に広がることからそう呼ばれている。具体的な国名は、渡海、日渡、武豊、袋石、周知、根々川、崖川、堀之内、古田崎の9ヵ国である。


 2500年ほど前、濱竹が領土的野心に燃えて大暴れをしていた頃。その脅威から逃れようと結ばれた『昇竜川東岸諸国同盟』というものがあり、そこから名前を取ってそう呼ばれている。しかし、その同盟の仮想敵国は濱竹であり、濱竹側がその名称でその国々を呼ぶ時はあまり良い意味では使われない。今回も例外でなく、かささぎを擁護するための切り札が東岸諸国によって封じられてしまっている状態なのである。


「失礼ながら安久斗様、なぜ兎山明が怪しいと……?」


 ひくまがそう尋ねると、安久斗はため息を吐いてから答える。


「ひょんなことで、数千年ぶりに御霊術を見たんだ。それで思った。いや、改めて思ったと言った方がいいか。あれは危険だ。あの術は、属性をも超えたカモフラージュができる可能性がある。明が使っているのは初めて見たが、以前戦ったことがある御霊術の開祖、『御厨みくりやあかり』の実力と遜色ないもの……いや、あれはもう、師を超えた弟子と見てもいいはずだ」


 その言葉に、山樹が驚いたように安久斗に問う。


「安久斗様、かの『御厨あかり』と戦ったことがあったのですか!?」


「あぁ、完敗したさ。おかげさまで、当時の俺は協定周知が滅びるまで東岸諸国の制圧を諦めた」


 山樹の問いに安久斗がそう答える。しかし、山樹以外は全く『御厨あかり』という者の名すら知らない。


「あの、失礼ながら、その『御厨あかり』とは何者なのでしょうか……?」


 ひくまがそう尋ねると、安久斗は苦々しい表情を浮かべながら答えた。


「昔、協定周知国にいた一人の少女だ。御霊術を生み出した奴で、兎山明の師匠に当たる。だが、正直なところ正体不明で、詳しい情報は協定周知によって隠蔽されていた。奴が上神種なのか永神種なのかも分からず、その生涯も謎だらけだ。それ故に、協定周知の最凶兵器、秘密兵器などと言われていたよ。顔も隠していたし、どんな容姿をしていたかも不明だ。それに不思議なことに、かつて協定周知国を運営していた神々に聞いても、その存在のはっきりとしたところを知らないと言うんだ。つまりはまぁ、周知正敏しゅうちまさとし……当時の協定周知国の盟主しかはっきりしたところを知らなかった、そんな奴なんだよ。もちろん明も知っているのだろうが、あいつは『私みたいな人だったわ』しか言わない。ま、御霊術の根本に関わるから話せないってことじゃないかと思うがな」


 その言葉に全員はようやく理解する。安久斗を圧倒した御霊術の開祖、御厨あかり。それを超えた、弟子の兎山明。


「……危険すぎます。駆除に動きましょうか?」


 おなが安久斗に言う。もちろん、その対象は兎山明である。


「いや、ダメだ。明も元は協定周知に所属していた。それによって、東岸諸国の神々との繋がりは深い。あいつを敵に回すということは、東岸諸国との全面戦争になりかねない。兎山と縁が深い萌加の背後には靜。靜は連邦全国を牛耳っている。つまり、兎山明を一人倒すだけで連邦全国とやり合わねばならない。それは割りに合わん」


 安久斗がそう言って頭を抱える。


「兎山明の決定的な証拠を探せばいいのだろうが、そもそもとしてあいつは謎が多すぎる。それに、自身の情報をすぐに隠すことに関しては一流だ。1週間じゃとても見つけられやしないだろうな……」


「証拠を見つけられたとしても、犯人に仕立て上げることができるかどうか。日渡が兎山明を庇うのは目に見えますし、靜がその肩を持つ可能性もあります。靜からしたら、自身が暴き出した犯人が冤罪であったことになりますし、少なからず気に食わないと思うでしょうね」


 安久斗の呟きに山樹が付け足す。そしておなが、決定打を放つのだった。


「そういえば、お前たちはかささぎは冤罪をかけられたと思っているようだが、その証拠はあるのか? 私はかささぎが犯人でもなんら不思議はないと思うのだけど」


「なにをおっしゃる! かささぎがそんなことをするはずがないだろう!」


 おなの言葉に砂太郎が言うが、ひくまは目を逸らした。そして、こう言った。


「それなんだがな、俺たちはかささぎと一緒に行動していたんだが、犯行時刻には寝落ちしてしまっていたんだ。だから、かささぎが犯人でないと言い張れる根拠はどこにも存在しないんだ」


 そう、かささぎを十分に庇えない理由はそこにあるのだった。犯行時刻と思われる時間、ひくまたちは酔い潰れて寝落ちしている。食事処の店主は厨房にいて彼らの様子を何も見ていなかったようで、かささぎがそこで一緒に寝ていたかは誰も知り得ないのだった。


「でも、かささぎはやっていないさ。あいつに臣を殺せる度胸なんてないからな!」


 それでも砂太郎はそう言うが、おなはそんな彼を憐れむような目で見る。


「主観だけで話していたら、信用は得られないわよ? それに、もう彼に挽回の余地は無いように感じるんだけど。というか、ここまで来たら冤罪と思う方が難しいんじゃないかしら? 動機もある、殺し方も一致している、アリバイもない、おまけに他に疑わしき者への工作は限りなく不可能。もうこの時点で詰みじゃない」


 ため息を吐きながらおなはそう言う。それに対し、誰も何も言えないのだった。


「私もおな様と同じ考えにございます。情報を客観的に聞く限り、かささぎが犯人でないと言い切ることはできません。むしろ、これだけの条件が揃っていて、彼以外の犯人を探すことの方が困難に思えます。ここに私の主観を交えてしまうと、冤罪であってほしいと思ってしまうのですが、このような場で主観を取り入れることは決してしてはならないことです。ひくま様、将軍様、一度、客観的にこの事件を見られてはどうでしょうか?」


 山樹がそうひくまと砂太郎に告げる。二人はかなり複雑な表情を浮かべたが、最終的に頷いてその意見を受け入れた。


 が、しかし。ここで安久斗が顔を上げてはっきり告げた。


「よし、俺は決めた」


「何をですか?」


 おながそう言うと、安久斗は真顔で4人に言い放った。


「濱竹は、小林かささぎが犯人であることを認める。あいつが犯人であることを裏付ける証拠を明後日までに徹底的に探せ。明後日の午後、濱竹議会を開く。内容は、小林家に関する今後の処遇に関してだ。連邦裁判で、奴の弁護は一切行わない。奴には連邦の安定と諸外国との関係悪化を防ぐために犠牲となってもらう。濱竹存続のための、そして、靜連邦存続のための致し方のない犠牲である!」


 その言葉に、全員が硬直した。


「安久斗様……」


「そんなこと……」


 ひくまと砂太郎は言いたいことがあるようだが、絶対的な永神種に対しては何も言えない。


「いいのですか? 優秀な部下を一人失うことになりますが……」


 山樹がそう問いかけるが、安久斗は真顔を崩さずに頷く。それに対して、山樹も悲しそうな表情を浮かべながらも頷いた。


「安久斗様の仰せのままに」


 おながそう言って、安久斗にひざまずく。


「安久斗様の仰せのままに」


 続いて山樹も跪いた。


「安久斗様の、仰せのままにっ!」


 ひくまは目に涙を溜めながら勢いよく山樹に続く。


 そして砂太郎は、鼻を啜りながら涙が落ちないように天を仰ぐと、右手で目をゴシゴシ擦り、ゆっくりと跪いた。


 そして、震えた声で静かに言う。


「安久斗様の、仰せのままに」




ーーーーー

ーーー




 兄が死んで、1週間が経った。


 今日は連邦裁判である。


 この1週間、僕らは兄の葬儀を行い、喪に服した。


 臣の葬儀だったため、国を挙げて取り行った。


 突然の出来事で国民もすごく混乱していた。昨日も一昨日も神社には訪問者が絶えず訪れて、みんな兄へ感謝を伝えていた。


 そして、僕らは今、靜国の静岡神社にある裁判室の傍聴席に座っている。初めて靜に来たけど、街は大きいが濱竹よりは発展していないように思えた。いつもなら知らない国に来たら観光したいと思えるのだけど、今回は何も思えない。


 右隣に花菜、左隣に大志が座り、目の前で立たされている小林氏をじっと眺めている。


 神様は最前列の永神種の座で、西部諸国の神様たちと並んで座っている。


 被告、検察、弁護、裁判官も揃っていて、既に裁判は始まっている。


 まだほぼ何も進んでいないが。


 検察として立つのは宇治枝の神、恭之助様と、その臣と巫女。名前は知らない。


 一方、弁護として立つのは濱竹の神、安久斗様と、臣のひくま様と巫女のおな様。


 裁判官は3人で、左から沼国の神様、猪頭国の神様、そして、羽宮国の神様だ。


 いずれも名前は知らないし、初見である。


 全員永神種ということだけあって、漂うオーラが全く違うように思える。……気のせいかもしれないけど。


「最初に、被告人の紹介。小林かささぎ、上神種、24歳。現職、濱竹国北濱行政区長。日渡国の臣、磐田大貴さんを殺害した罪に問われている。では、それを裏付ける証拠を宇治枝殿より提示していただきたい」


 猪頭の神様より、そんな言葉が述べられる。


 そうして、恭之助様が小林氏が犯人であるとされる証拠を提示し始める。


 それは、前回とほぼ同じ話だった。


 あまりに幼稚な理由だし、今から10年ほど前の資料であり、あまり参考にはできないと思われる。まさしくあらだらけというべきだろう。


 でも、現状その理由が最も有力であるのもまた事実だ。そのくらい、兄には殺される動機がないからだ。


 あいつが、兄を……


 いや、やめておこう。神様が言っていたが、この裁判が終わらないと、犯人が誰か確定しないようである。だから、まだ彼が犯人と決まったわけではない。


 たった1日だけだったが、彼とは行動を共にした。とても親しく話したし、とても好意的な印象を持った。


 そんな彼が兄を殺したなどとは思いたくないが、今の段階では思わざるを得ない状況だ。


 安久斗様が彼を擁護するためにどういう情報を提示してくるのか。


 そう思っているうちに、恭之助様による動機説明は終わった。


「では、弁護側。濱竹殿、被告人弁護をお願いします」


 猪頭様の声で安久斗様が立ち上がる。


 そして放たれた言葉に、僕は耳を疑った。


「我々濱竹は、弁護を放棄する」


 走るどよめき。


 会場は一気に騒然とした。


「安久斗! あんたそれ、神としてどうなのよ!」


 靜のあおい様が立ち上がってそう大声をあげる。


 それに続いて、連邦諸国の神々が騒ぎ立てる。


「静粛に、静粛に!」


 沼様が必死にそう声を荒げるが、会場は落ち着く気配がない。


 と、その時。


「うるさーい! うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるっさーーーーい!!!」


 その甲高い声に、全員が黙る。


 その声の主は、日渡萌加様だった。


「安久斗の決定に誰も文句なんて言えないでしょう!? それともなに? かささぎを庇わなかったらみんな困るの? わたしはぜんっぜん困んないよ? それに、きっと濱竹側にも理由があるんでしょう? まさかみんな、そんなことも分かんなかったなんて言わないよね? 安久斗の理由も聞かずに騒ぐだけ騒ぐとか、どうかしてるよ」


 そして静まり返った裁判室。そこに猪頭様の声が響き渡る。


「濱竹殿、弁護しない理由を述べてください」


「あぁ。弁護しない理由は、弁護のしようがないほど、こいつが犯人だという証拠が出てきたからだ」


 そうして安久斗様は、小林氏の前までスタスタと歩く。


 そして彼の前にある台の上に、厚い冊子を置いた。


「これ、何か分かるな?」


「……」


 小林氏は困惑していた。


 どうやら彼は、安久斗様が庇ってくれるものだと思っていたようだ。つまり、これは完全に安久斗様の独断……いや、ひくま様とおな様も動揺していないことから考えるに、濱竹国上層部の判断だったということか……


 味方に裏切られた気分なんだろうな……


 憎むべき兄の仇なのだろうけど、少しばかり可哀想に思えてくる。


「鋭い目つきだな。俺が憎いか?」


 何も答えずにだんまりを決め込む小林氏に安久斗様はそう言った。


「えぇ、とっても。庇ってくれると思ってましたからね。何も疑わずに信じていましたよ。あなた様なら、きっと僕の無実を証明してくれると」


 小さな、そして震えた声で、小林氏はそう言った。


「俺もな、庇いたいんだよ。……庇いたかったんだよ。信じていたかったんだよ。お前みたいな優秀な部下を失いたくはないんだよ。だがな、これだけ証拠が揃っちゃ庇いきれねぇよ。それでもなお庇い続けるのは、事実を受け入れきれないゆえの悪足掻きだろ。それは本当に見苦しい」


 安久斗様はそう言った。


「ですが僕は……!」


 その言葉に、小林氏は言い返そうとした。


 しかし、それに被せるように安久斗様が怒鳴った。


「いい加減にしろよ! こんなにたくさんの証拠が出てきたというのに、まだやっていないと主張するのか! 俺は庇うことが見苦しいとさっき言ったよな? それはお前も同じだぞ? この期に及んでなお「やっていない」と言い続けるのは見苦しすぎる! お前は濱竹の恥だ! 俺の顔に泥を塗る不届き者だ! 濱竹国の法を用いても大逆罪に値して処される者だ! いいか、かささぎ! 犯人はお前なんだ。こうなった以上、それが覆ることはない。これが事実だ、これが現実だ! 悪足掻きはやめて、さっさと罪を認めやがれ!」


 台を叩きながら、安久斗様は声を荒げた。


 濱竹の恥、不届き者。


 安久斗様からしたら、現在の小林氏は大罪を犯した罪人なんだと知った。


「濱竹殿、落ち着いてください。これ以上続けられるようでしたら、被告人に対しての脅迫行為と見做しますよ?」


 沼様の声に、安久斗様は黙った。


「……あの、出てきた証拠って、なに?」


 そう控えめに発言したのは、羽宮の神様だった。


 ……にしても、綺麗な神様だなぁ、羽宮様って。色白で儚くて、弱々しい外見をしてるけど、顔はとても整ってて美しい。


 どっかの、なにかにつけて大逆罪だと騒ぎ立てて殺そうとしてくるバイオレンス巫女とは雲泥の差だ。


 そう思って、横目でチラリと花菜を見やる。


 彼女はじっと安久斗様と小林氏を見つめていた。


 その安久斗様は、羽宮様の質問を受けて台の上から紙を回収した。そして一つ一つ紹介していく。


「今回見つかったのは、北濱行政区役所にあった彼が作った公文書だ。これには、彼が独自に調べた北濱行政区、および近隣地域の情報がまとめられている。その中で、動機とみて良いところは『昇竜行政区』と『日渡国』の部分だ」


 そうして、一枚の紙を掲げた。


 そして、裁判官を務める3人の神様に向けて話し始めるのだった。




ーーーーーーーーーー




 これは、昇竜行政区について書かれた部分の、『昇竜行政区長に関する資料と見解』という部分だ。昇竜行政区長は極峰くれはという妖精であり、今回の犯行動機に密接に関わっている奴だ。彼女に関して、


『妖精という不成者ならずものの分際で、上神種と同じ地位にまで上り詰めた女。彼女が直接統治をしているというよりかは、象徴たる存在と化しその座に居座り続けている感が否めない。妖精の地位と名誉の挽回に尽くす姿勢は賞賛に値するが、引き際を考えるべきだろう。無能認定される前に去らねば苦労が水の泡となるだろう』


 と彼は述べている。


 そして、こんなことも書いてある。


『昇竜行政区の特産である杉の木は、日渡国への輸出が最も多くなっている。なお、極峰氏と磐田氏による直接的会談を通してその出荷量などの詳しいことはやり取りされているようで、両者の間柄はとても親密であると見て良いだろう』


 このような公文書において、個人間の間柄を記述する必要は一切ない。しかし、そこで敢えて触れていることを考えると、彼的に何か思うところがあったようにしか思えない。


 次に、『日渡国に関する資料と見解』という部分を見てみる。


『日渡国は、新たな臣になってからの数年間で急激に濱竹との距離を縮めている。特に昇竜行政区との取引量の増加具合は著しいものであり、先代の臣の時代から、およそ3倍にまで増えている。日渡は連邦加盟国の中では最も新しい国家であり、発言力や軍事力も最下位に近いほどである。また、何事に於いても自給率は低く、濱竹や靜に依存しきっているという実態を抱えている。規模だけで見れば、我が北濱行政区の方が大きく、自給率も高い。すなわち、一つの行政区よりも余裕もゆとりもない国家なのだ。それなのになぜ、昇竜行政区との取引量が急増したのか理解に苦しむ』


 このような記述がされている。日渡に対する侮辱とも取れる内容だが、彼が非難しているのは日渡国全体ではないのは分かるだろう?


 彼が非難しているのは『新たな臣』、すなわち、被害者である磐田大貴のことだ。それを考えると、かささぎは少なからず彼を気に入っていなかったことが分かる。


 先日、この資料が見つかってすぐに濱竹議会を開催したが、他の幹部からは日渡に対するイメージや事実として、このように辛辣な意見は出なかった。つまり、そう認識しているのは彼だけであり、そう認識してしまう材料となっているのが『極峰くれは』という存在なんだろう。


 濱竹議会を開催したところ、『かささぎが犯人であるのは明白であるから庇うべきでない』という意見が多数挙がった。そして、採決を取って弁護しないことが決まった。ちなみに全203票中、弁護反対が199票、賛成は僅か4票だけだった。


 これにより、小林家は無条件に下神種化、つまりは取り潰しが決定した。


 ……それに異を唱えて裏でなんだかコソコソ動いていた奴もいたが、それはまぁこの話には関係ないな。


 さて、本題に戻ると、この資料は『見解』と付くだけあって、かささぎの独断と偏見の集まりであり、思考を垣間見ることができるものだ。


 紹介したのは、かささぎが犯人だという証拠に最もなり得る部分のみだ。他にも色々なことが書かれている。


 裁判官の御三方に渡しておきますから、目を通しておいてください。




ーーーーーーーーーー




 そうして、安久斗様は羽宮様に書類を渡した。


 そして自席に腰を下ろそうとした時に、思い出したように裁判官にこう告げた。


「我々濱竹は、彼が犯人だと断定している。然るべき処罰の検討を頼みたい」


「分かりました」


 それに答えたのは沼様だった。


 その言葉を聞いて、安久斗様は一礼すると腰を下ろした。


「これにて、ひとまず区切りとさせていただきます。午後に判決を言い渡しますので、招集がかかり次第皆さんここに集まってください」


 安久斗様が席に着くと、猪頭様がそう言った。


 こうして、午前の部は終わったのだ。




 それから2時間ほどして、僕らに招集がかかった。


「宇治枝殿と濱竹殿からの証拠は信用に値するものであると判断し、提示された殺害方法や動機、証拠から、日渡国の臣を殺害したのは、小林かささぎであると確定する。それにより、靜連邦犯罪規定、大罪項第6条『臣殺しに対する処罰』に則り、被告人に公開処刑を申し渡す。処刑の日時と場所は追って通達をする。それまで罪人は、下神種化の措置をおこなった上で靜国の静岡神社地下牢にて監禁する」


 そう猪頭の神様が言葉を告げた。


 小林氏は小刻みに震えて、俯きながら首を振った。


「かささぎ、なにか言いたいことはあるか?」


 安久斗様がそう尋ねる。小林氏は安久斗様を睨みつけるが、少ししてため息を吐き、小さな声で語った。


「世の中、みんなみんな薄情ですよね。信じていた人に裏切られて、こうして死ねと告げられて。やっていないことで殺されるなんて、納得できませんよ。でも、ここまで来るとなんか清々しいです。安久斗様……いや、濱竹安久斗の言葉を借りるなら『これが事実』なんですから。なんとも歪んだ事実なことで。楽しかったですか? 僕に冤罪を着せるのは。楽しかったですか? 僕が苦しむ様を見るのは。そして、楽しみですか? 僕が泣く泣く死んでいく姿を見るのが。皆さんにいい娯楽が提供できたならよかったです。きっと僕は、そのために生まれてきたんでしょうね」


 小林氏はそう言って、大声を上げて笑った。


 笑いながら、涙を流して泣いていた。


 途中からは、完全に泣いていた。


 それに釣られて、将軍やひくま様も泣いていた。


 そして、安久斗様は真顔のまま泣きじゃくる小林氏を見つめていた。


 しばらくして、みんなが落ち着いた頃に、猪頭様が告げる。


「これにて、連邦裁判を閉廷します」


 そうして僕らは、静岡神社を後にした。


 小林かささぎ。


 最後まで罪を認めなかったが、証拠を聞く限りは犯人だろう。


 僕は彼を憎む。


 兄を殺した、あの男を。


裁判とは名ばかりだな。

さすが神類……

(ただ私がうまく書けなかっただけです、ごめんなさい)

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― 新着の感想 ―
流石生物兵器…とでも言えばいいのでしょうか。流石に冤罪は胸糞ですね、小林氏の犠牲に合掌。
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