第25話『犯人は誰?』
「それじゃ、始めよっか。犯人探しをね」
萌加様の声で、いよいよ犯人探しが始まった。
「死体の状況から、犯人は圧力系能力を持った者だと考えるべきだけど、その断定は有識者が来てからにするね。まずは犯人の断定はせず、全員に質問していくね。それぞれ別室で聞き取りをするから、名前を呼ばれたら来客室に来てね」
萌加様はそう私たちに告げた。
「あの、その前にひとつ質問なんですが、よろしいでしょうか?」
そう言って手を挙げたのはひくま様だった。
「どうした?」
安久斗様がひくま様に用件を促した。
「有識者とは、どなたなのでしょうか?」
ひくま様の質問に答えたのは恭之助様だった。
「靜の三大神だよ」
その答えに全員が硬直をした。
「し、靜の……」
「三大神……」
喜々音ちゃんに続いてかささぎさんがそう呟く。
そう。靜の三大神は連邦で唯一の祖神種であり、この連邦の二大統率国のひとつ、靜国の神である。下神種は見ることすら禁じられ、上神種でも口を利けないほど高貴な身分である。噂によると冷徹で非情、時には恐怖政治をも行う神たちであると言われている存在。でも、萌加様からたまに聞く話では「根は優しい」らしい。一応、萌加様の育て親のような存在らしいし、日渡とは友好的な関係にあるみたいだから、それほど心配する必要もないんだろうけど、やっぱり心配なのはきっと大智という不安要素がいるからなんだろうなぁ……
私は横目で大智を見る。彼はかなり不安そうな顔をしていて、三大神だのなんだのの話は全く聞いていない模様。
……それもそっか。
神様に呼び出し喰らえばそうなるか。
神様のことだから、きっと殺すことはしないはず。でも不安だろうなぁ。それに、大智が言っていた『もえちゃん』という言葉も少し気になる。
大智は神様と面識があるのかな?
もしそうなら馴れ馴れしすぎる呼び名だし、神様自身、あの呼び名に少し戸惑いを見せていた気がする。そうなると、人違い……?
まぁどうでもいいけど。
今は、靜の三大神の件で釘を刺しておかなくちゃ。
「大智、くれぐれも無礼のないようにするのよ? 靜の三大神に無礼を働いたら、ガチで国が消えるからね?」
「分かってるよ、そのくらい」
私の言葉に、大智は少し強い口調で返してきた。
やっぱり情緒は不安定みたい。
……なんか、なおさら不安になってきた。
「そんな心配しなくて大丈夫だよ。3人の逆鱗に同時に触れなければ国は潰れないよ。あおいちゃんはすぐ怒るけど、大抵するがくんとしみずたんが止めてくれるから」
しかし、私が不安に思ったのとほぼ同時に、恭之助様が笑いながら仰った。
「ま、あおいも萌加の国を潰すことはしないだろ。妹みたいに可愛がってるし」
安久斗様もそう言って笑う。
ここまで神様のお墨付きがあると、少し安心する。それに、恭之助様は靜国とは長い付き合いだろうし、お互いに信頼し合ってよく分かっているはず。そんな彼がそう言うんだから、きっとそうなんだろう。
「にしても、靜が出てくるとは。こりゃ大事になったもんだな。あっはっはっはっは」
「笑い事じゃないでしょ、砂太郎。それに、安久斗様の御前よ?」
将軍の言葉に綴さんが言葉を返す。
出会ってから思っていたけど、将軍って何があっても笑ってるよね。すごい能天気というか、神生が楽しそう。
『どんな時にも、笑っていなくちゃ。巫女なんだから』
ふと、そんな言葉を思い出した。
私が巫女になりたての頃、既に臣だった大貴さんに言われた言葉。
『笑顔は周りも幸せにする。臣や巫女が笑っていれば、この国にも笑いが溢れて幸せになる』
思えば、大貴さんも基本的には笑っていた。大智関連で眉を顰めていることもあったけど、それでも笑顔でいることの方が多かった。
……そんな大貴さんも、もういない。
誰かに殺されてしまった。
それがあまりにも辛くて、苦しくて。
でも私は巫女の仕事をやらなきゃいけなくて。
だから感情を表に出せなくて。
でも悲しくて、殺したやつが憎くて。
私の頬を一滴の涙が流れた。
……あ、ダメだ。このままじゃ泣いちゃう。
そう思って止めようとするが、それも叶わずにどんどん涙が溢れてくる。
「花菜?」
大智の声が横から聞こえるが、私はそれに返事をできなかった。
「大丈夫?」
かささぎさんが心配そうに私に声をかけてくれるが、相変わらず泣きやめそうにはない。
そんな私の手を、萌加様が握った。
「辛いのはみんな同じだよ。大志も、大智も、それにわたしだって。だからさ、ひとりで抱え込まないで吐き出しちゃえ。聞いてあげるから」
その声を聞いて、私は本気で思った。
彼女は幼なげな容姿をしているけど、神様なんだと。そして私が仕えるべき主人であって、私の神様なんだ……
吐き出そうかと思ったが、流石に恥ずかしかった。それに、いつまでも泣いていられないのも事実だ。
「大丈夫です」
だから私は無理にでも笑った。
「巫女が泣いてちゃ、国から幸せが消えちゃいますから」
その言葉を聞いて、萌加様は微笑む。
「そうこなくっちゃ!」
ーーーーー
ーーー
ー
花菜の件がひと段落したところで、取り調べが始まった。まずは恭之助による安久斗と萌加、そして明の調査である。しかし、この永神種集団(厳密には明は元永神種であるのだが)に関しては、今後の調査の公平さを示すために皆の前で行われた。というのも、これから全員の取り調べを行うのは永神種であり、最初に彼らが黒でないことを証明しないと始められないのである。
萌加は、寝ていたら臣との繋がりが切れたことを感じて大貴の部屋を訪れると、大貴が殺されていて、すぐに安久斗を起こしに行ったことを語った。安久斗は萌加に起こされたことを語り、2人の話に齟齬は見当たらなかった。しかし、2人には寝ていたことを証明できるものが存在しなかった。2人で口裏を合わせている可能性もあると恭之助は思ったが、自国の臣を殺して他国を巻き込むメリットがどこにもないため可能性は極めて薄いと判断した。
明に関しては、その頃は御厨堂で寝ていて、萌加が御厨神社の境内に入ったことで目が覚めたと語った。その証人として、自身の能力で御霊を呼び出し裏付けをした。だが、御霊という明の僕とも言える存在の証言を鵜呑みにするのも危険だと判断し、恭之助は、明に明確なアリバイではないと伝えた。明もある程度それは覚悟していたようだが、少し残念そうに「あの子たちがいればね」と呟いた。
「あの子たち?」
恭之助は明に質問すると、明は昨日大貴に兎山伝書を貸したことを語った。それは明の呼び出した御霊で形成されていて、本ではあるが、生き物でもあることを告げた。だが、今日来てみると兎山伝書を形成していた御霊がどこにも存在しない、すなわち消滅していたことが判明した。
「あの子たちが今いたなら、犯人が誰かなんて事情聴取するまでもないんだけどね……」
明の言葉に、恭之助は疑問に思う。
殺したやつは、大貴の持っていた兎山伝書が御霊でできていたことを察せたのかどうかと。
しかし、恭之助はこの場でその疑問を口にしなかった。それは犯人の特定に使えると思ったからだ。すなわち、それが御霊でできた本であると理解できた者も犯人候補のひとりとして挙げられるからだ。
「とにかく、この3人の中でいちばん黒に近いのは明ちゃんだね。ただ、残念ながら全員が白である明確な根拠も今のところは存在していない。てことで、明確な白と断言できるようになるまでは俺が……」
恭之助がそう言うと、中田島砂太郎が口を開いた。
「ですが恭之助様、貴殿も白である証拠がない限り、俺たちとしては完全に信頼できませんな」
「そうですね。その感じでいくと、おそらく誰もアリバイを証明できそうにありません。俺たちも飲み潰れて寝てましたし、喜々音たちも寝ていただろうし。とりあえず、靜様による死因の解析まで待って、それ以降に調査を進めるのが得策かと思いますが……」
砂太郎に続けてひくまが言うと、恭之助は少し考えてから言った。
「確かにそれはいい考えかもしれないね。というか、そうすべきなのかもしれない。でもね、そうなると特定のひとりにとっては苦しい道のりになりかねないと思うんだけど」
そしてかささぎを見ると、
「君たちは、彼を守り切れる自信があるんだね?」
と確認をした。
「かささぎがそんなことやるはずないだろう! 俺が保証するさ」
砂太郎がそう言ってゲラゲラと笑った。
「その意気がずっと保てるなら、俺はなにも言う気はないさ」
恭之助はそう呟き、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「よし、じゃあ濱竹の軍総長さんと臣さんの意見を採用して、犯人を絞り込んでからの事情聴取ってことにしようか」
恭之助がそう言い放つと、明がすぐに全体に指示を出す。
「じゃあ、各自さっきまでいた部屋に戻って。なるべく他人と接触しないようにね。いらない揉め事は起こさないように」
そうして、ひとまずは解散となるのだった。
ーーーーー
ーーー
ー
解散となった直後、僕は日渡の神に、神の仕事部屋に呼ばれた。
初めて入ったその部屋は、驚くほどに狭くて殺風景だった。
おそらく、広さとしては3畳くらい。そこに座布団と小さな座卓がひとつずつあるだけだ。
「なにもないでしょ」
彼女は僕に向かって微笑んだ。
「は、はぁ」
僕はビクビクしながら返事をする。
さっきから心臓の音がすごくうるさい。殺されるかもしれない恐怖で、落ち着いていないことは確かなんだけど、それにしてもほんとに心臓がうるさい。
「まぁ、そんなに警戒しなくてもいいよ。殺すわけじゃないし」
そんな僕とは裏腹、彼女は柔らかい声で僕に言った。
殺すわけじゃない、か。
「じゃあなんで僕を呼んだんですか?」
僕はそう訊いた。
「簡単だよ、君が混乱しないためだよ」
その質問は、あっさりと返された。
「混乱って……」
既にしてるよ、ほんとに。
そう思ったが、そんな僕のことなど気にせずに彼女は僕に告げた。
「君さ、わたしにそっくりな下神種を知っているよね?」
「え、あ、はい」
不意にふっかけられた質問に、即座に反応が出来なかった。
「だろうね。じゃあ質問、君、彼女のことどう思う?」
僕に詰め寄るように彼女は問うた。
「どうって。不思議な子だなぁ、としか……」
「他には?」
食い気味に質問してくる。
なんだこのロリ神。本当にもえちゃんなんじゃないかって思えるくらいに似てるな。
「人をイラつかせるのが上手いなって思ったり、やたら活発的だったり。あと、自分のことなのに他人みたいにわかってないみたいなところがあったり。黙っていれば可愛いのに、ちょっと残念な子に思いますね」
「きゃははははは!」
僕がそう言うと、彼女は思いっきり笑った。
しかし、それを見て僕は引っかかった。
「その笑い方……」
そう言葉にした途端、
「もう気付いたでしょ? 大智」
と言われた。
そして、満面の笑みで僕に告げる。
「『もえ』は『わたし』で、『わたし』は『もえ』。大智がもえちゃんだと思っていた下神種は、実は永神種でしたー! ちゃんちゃんっ!」
なにが「ちゃんちゃんっ!」だよっ!
心臓に悪いわ!
本気で殺されるかと思ったんだからな!
……なんて言ってやりたかったが、国の神に向かってそんな軽口が叩けるほどの度胸は僕にはない。
それと同時に、全身から力が抜けた。
僕はヘナヘナと倒れ込み、深くため息を吐いた。
「大智?」
もえちゃん……いや、萌加様はそう言って、小さい手で僕の頸に置いた。
その手は刀のように冷たくて、細くて、そして不意打ちで、僕は斬られるのではないかと思いビクッとする。
「熱いね。熱があるみたい。大丈夫?」
しかし、かけられた言葉は想像よりも数百倍も柔らかく僕を包み込んだ。
「大丈夫です。殺されないって分かって、安心しただけですから」
僕がそう言うと、萌加様は頸から手をどかした。
「まあ、少し休みなよ。あと、驚かしてごめんね」
「ほんとですよ」
僕はそれだけ返すと、僕は再びため息を吐いた。
2分くらいが経過して、僕は落ち着きを取り戻した。
「もう大丈夫?」
萌加様がそう僕に尋ねた。
「はい」
僕は返事をすると、彼女は微笑んで言う。
「他の人に、今までわたしに会ったことがある、なんて言っちゃいけないからね? 特に花菜。バレたら殺されるかもしれないから。だからみんなには人違いってことにしておいてね」
「分かりました」
僕がそう答えると、萌加様は少し恥ずかしそうに横髪をいじった。そして僕から目を逸らして言った。
「あとさ、その。話し方なんだけど、2人のときは敬語じゃなくていいよ? なんか、大智に敬語使われるとムズムズする」
「え、でも神様ですし……」
「じゃあ、命令。敬語やめて」
そう言われると、抗えない。
「わ、わかった……」
あれ? なんでだろう。今まで敬語を使わずに話していたはずなのに、敬語を取るのにすごく抵抗がある……!
「ごめんね、無理させて。ま、そのうち慣れると思うけど」
そう言った萌加様……なのかな? もえちゃん? 萌加ちゃん? あれ? 呼称が分かんない。
……ええい、神様でいいや。
そう言った神様は、姿勢を正して何やら改まった。
「どうしたの?」
僕が訊くと、
「ん? 次の話題に移るの」
と言われた。
そうですか。本当、不思議な返答だな。普通、そう訊かれたら用件を言うでしょ。
……まぁいいけど。
そう思っていると、神様は「形式上の本題」と言うと、僕に向かって右手で指を差した。そして元気よく言った。
「大智っ! 臣になる気はある?」
「ないです」
即答した。
「なんで?」
「僕なんかが神治できると思う? 素人だよ? できないに決まってるじゃん」
「でも血筋で行くなら次男である大智が臣になるのが普通じゃない?」
「別に飛ばしてもいい気がするけどね。大志の方が優秀だろうし。年上が絶対的に偉いなんて誰が決めたの?」
それに、兄が死んですぐに切り替えなんてできない。確かに、臣が死んだなら後継ぎを考えるのは当たり前だけど、今の僕にはそんな余裕はない。
「臣になれば法律変えれるよ?」
「大志に吹き込めばそれでいいじゃん」
まぁ、僕が神治に参加した理由が崩れるけど、神様の願いは叶うからそれでいいんじゃないかとも思う。
しかし、神様はそう思わないようだった。
僕に対して悲しそうな表情を浮かべて上目遣いで、
「約束なのに?」
と言ってきた。
「わざとやってます? それ」
若干、引いたような口調でそう言うと、
「うぇー、つれないなー」
と言われる。
やっぱりわざとじゃねーかよ。
「でも、大智に法の改正を頼んだからには、わたしとしてはその問題は大智に解決して欲しい。それに、大智だって今の法律は嫌でしょ?」
「そうだけど……」
そうだけど、臣にはなりたくない。
「臣をやりたくないならそれでいいんだよ。強制はできないからさ。でも、臣をやるにしろやらないにしろ、法の改正に勤しんでもらいたいな。臣をやってくれれば道のりは圧倒的に楽だけどね」
神様はそう言って、
「ま、詳しい話は騒動がひと段落ついてからまたしよっか。大志を含めてね」
と付け足した。そして立ち上がり、扉を開けて廊下に出た。
僕もそれに続いて部屋を出る。
「それより今は、犯人を探さなきゃね」
部屋の鍵を閉めながら、神様がそうやって呟いた。
その声は低く、重く、明らかな怒りを感じることができた。
神様の左目から、静かに一滴の涙が流れ落ちた。
「……そうだね」
どうやら神様も、僕と同じ気持ちみたいだ。
そこで、明さんが言っていたことを思い出した。
『私も昔、家族を殺されたの』
それに対して、僕は『どうせ臣や巫女』と思ったけど、そうじゃないのかもしれない。
永神種からしたら、臣と巫女は家族と言えるのかもしれない。
だって、今の神様の目つきは、大志が泣き叫んでいたときの目つきにそっくりなのだから。
神様と一緒に廊下を歩いて、本殿にやってきた。
が、そこで神様が歩みを止めた。そして僕に向かって叫んだ。
「目を瞑って!」
「えっ」
「はやくっ!」
神様はそう言うと同時に僕の頭を掴んで無理矢理しゃがませる。
すると突然、辺りが真っ白に光った。
今は夜が明けてから数分といった頃。それほど明るくない時間のはずなのに、目を瞑っていても分かるほどの明るさだ。
これは、もし目を開けていたままだったら失明していたんじゃない……?
しかし、その光は一瞬だけだった。
直後には、普通の明るさに戻っていた。
まぁでも、そんな一瞬の時間でも、もし直視していたなら確実に失明案件であることに間違いはない。
……でも、そんな閃光が放たれるなんて。一体何が起きたんだろう。
僕が恐る恐る目を開けるのと同時に声がした。
「遅くなったわね」
綺麗な、透き通った女性の声だった。
「ほんとに遅いよ」
神様がその女性の元に歩き出す。
顔を上げた僕だったが、朝日の逆光と神様の後ろ姿に阻まれて、その女性の姿を目にすることはできなかった。
「それで萌加。死体はどこ?」
聞こえたのは、少し幼なさが残る男性の声だった。
「案内するよ」
神様の、少しだけ落ち込んだ声が聞こえる。
そして神様は僕に向き直って告げた。
「部屋に戻ってて。次の指示があるまで、出てきちゃダメだよ?」
神様の顔は逆光で影になり、その表情は読み取れない。でも、決していい表情をしているようには思えなかった。
さらに、神様の後ろには3人の人影が見えるものの、その顔や容姿までは見えない。
「分かりました」
気になる気持ちを抑えて、僕は隔離されている部屋に戻った。
これで、犯人が絞り込める。
そう信じて、僕は歩き出した。
ーーーーー
ーーー
ー
「明ちゃん」
私が部屋に入ろうとしたら、後ろから恭之助に引き止められた。
「ん?」
私が振り返ると、彼は急に私を抱きしめた。
「……え?」
困惑する私に、彼は構うことなく耳打ちをした。
「急にすまないね。誰にも聞かれたくないからゼロ距離で話をさせてよ」
「ほんとに急。嫌われるわよ?」
私がそう言うと、彼は笑う。しかし、直後に真面目な声色で私に告げた。
「犯人は兎山伝書が御霊でできているって分かったようだよ。だから頼みがあるんだ」
「頼み?」
私は目線だけを真横にいる彼に向ける。
彼はそのまま続けた。
「もうじき、連邦全国から圧力系能力者が集まってくる。そしたら、個別で御霊でできた本とそうでない本を区別できるか確認してくれないかな?」
私はそれを聞いて驚く。
「あなた、ほんとにキレ者ね」
「それほどでもないさ」
それは謙遜なのだろうけど、私は無視する。
「いいわ、やってみる」
私がそう答えると、
「期待してるよ」
と言われた。
「バカバカしいわね、端から期待なんてしてないくせに」
そう言い返すと、
「いいや、してるさ。だってそれは、君にしかできないことだからね」
と返された。そして私から離れると、彼は私の顔をじっと見下ろした。
帽子の影になって、彼の目は少し見えにくいが、それでも彼の目に嘘が混じっていないことは分かった。
私はため息を吐いて、
「ま、やるだけやるわよ」
と言って部屋に入った。
ーーーーー
ーーー
ー
「これは……」
「ひどいね」
「綺麗じゃない。下手クソだね」
あおいとするが、そしてしみずは、大貴の死体を見るや否や散々に物を言う。
「しみずの言う通り、もっと上品に始末できなかったのかしら」
あおいがそう言って大貴の肉片に触れた。
「この血の飛び散り方は、『気圧泡内波』で間違いないよ。……ものすごく下手だけど」
するがも部屋を見渡して、床から壁、そして天井までをべっとり濡らした血痕を見て言った。
「にしても、なんでこんな下手クソな殺し方したのかな? ボクにはさっぱり分かんないよ。気圧泡内波は完璧に使えれば跡形も残らず殺せて、さらに隠蔽だって簡単にできる優れものでしょ? こんな下手に使う理由が分かんないよ」
「これが殺った奴の限界なんだろうさ。『気圧泡内波』は風属性でも即死性が最も高い技のひとつ。でも同時に難易度もそこそこ高い。完璧に使える奴は永神種くらいだろうね」
しみずの言葉に、するがが笑うように言った。
「じゃあ、殺したのは永神種ではないけど、能力で人を殺せる種。……つまりは上神種ってこと?」
萌加の質問に、あおいが唸った。
「正直、これだけじゃなんとも言えないわ。上手くやるには腕が欲しいけど、下手にやるなら誰でもできるから。永神種が上神種を模倣して殺したって考えることもできるでしょ?」
「意味ないけどね」
そのあおいの言葉にしみずが瞬時に突っ込んだ。
「ま、動機の有無が最大の決め手になりそうだね」
するががそう言って、廊下を見る。そして笑って言った。
「恭之助、次に何をするべきか、君なら分かっているだろう?」
「もちろん」
いつの間にやら廊下にいた恭之助が口許を緩ませながら返事をする。
その恭之助の言葉を聞いて、するがが躊躇する様子もなく伝えた。
「なら、頼むよ。どんな手段を使っても構わないさ。俺の名において許可するから、徹底的に調べて来てくれよ」
その言葉を聞いて、恭之助は磐田神社を去った。
「恭之助に何を頼んだの?」
萌加のその問いに、するがが笑って答えた。
「情報収集だよ。今回の鍵は、恭之助が持ち帰ってきてくれるはずさ」
その言葉に萌加は微笑んだ。そして俯き、少しだけ頬を赤く染めた。
「ありがとう」
「あら? 泣きたければ泣いていいのよ?」
萌加の頭に手を置いてあおいが笑った。
「泣かないもん。子供じゃないし」
そうやって強がる萌加だが、その目は明らかに潤んでいた。
「ま、あとはアリバイと動機だね。他の圧力能力者の到着を待たないと先に進めないね。萌加、本殿借りるよ」
しみずがそう言って、現場を後にした。
「じゃあ、私たちも行こっか」
涙を拭ってから萌加がそう言って、あおいとするがを連れて現場を後にした。
本殿には安久斗が一人、玉座に座って寛いでいた。
「他国の神社で図々しい神ね」
安久斗に向かってあおいが言った。
「よぉ、遅かったじゃねーか。化粧でもしてたか? にしては大して可愛くなってねーけどな」
安久斗もあおいに言い返す。
「なっ!? ……そう、そうなのね、そんなに死にたいのね」
「いや、まだお陀仏はしたかぁないな。やり残したことだらけだから、もし俺を殺したらお前の枕元に永遠に立ち続けてやるよ」
相変わらずのやりとりを、残された3人が気にすることはなかった。
「……はぁ。今回のところは見逃してあげるわ。感謝しなさい」
「まったく、よく言うぜ」
あおいと安久斗の口喧嘩は、いつもの如く1分程度で落ち着いた。
「相変わらず、仲がいいのか悪いのか」
やれやれと言わんばかりにするがが首を振った。
「喧嘩するほどなんとやら、だね」
しみずが微笑みながらそう言って、ボーッと外を眺めた。
「仲良いわけないじゃない」
あおいがため息混じりにそう言って萌加の横に移動する。
「お? 釣れねーこと言ってくれんじゃん。俺は仲良いって思ってるぜ?」
安久斗があおいに向かって笑った。
それに対するあおいの答えは、「はぁぁ」という深いため息ひとつだけだった。
と、その途端。
全員が気配を感じ取って一斉に本殿から庭を眺めた。
直後、大きな音と砂埃を立てて何かが降り立った。
「来たわね」
あおいの言葉に、全員が頷く。
みるみると消えていく砂埃の中から現れたのは、8人の男女だった。
「古田崎国、神、古田崎悠生」
「同じく臣、御前崎相良」
「靜国、臣、静岡呱々邏」
「伊月場国、巫女、須走あざみ」
「同じく巫女の長女、杉名」
「同じく巫女の次女、茱萸」
「沼国、霊人長、下香貫宮八重」
「同じく霊人長、上香貫宮仰天峰」
そして全員が声を揃えて言う。
「「我ら圧力系能力者、ただいま参上いたしました!」」
「まだ全員じゃねーぞ」
そう言ったのは安久斗だった。
そしていつの間にやら連れてきた小林かささぎを庭に放り投げる。
「あと、こいつの家族がそれに該当するわけだが、そっちの調査は既に濱竹の神務卿が済ませた。全員、白だ。だからここに呼んでいない」
そう言って、安久斗はしみずの横に並んだ。
「さぁ、じゃあ早速訊こうか」
そう言ってするがが微笑みながら言った。
「犯人は誰?」
御前崎相良 身長174cm 年齢36歳
静岡呱々邏 身長170cm 年齢25歳
須走あざみ 身長165cm 年齢34歳
須走杉名 身長147cm 年齢11歳
須走茱萸 身長140cm 年齢9歳
上香貫宮仰天峰 身長177cm 年齢22歳




