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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
25/107

第24話『連邦諸国永神種議会』


 はぁ。


 なんていうか、連邦の神々ってやっぱりよく分かんないなぁ。


 みんな同業者だけど、みんなそれぞれどこかわたしと違って、お互いに信用できない感じがすごいあるんだよなぁ。


 それに、あおいと俣治みたいに顔を合わせると喧嘩する神同士もいるわけだし、神議会ってなるべく開きたくないんだよね……


 でも、今回の大貴の死に方は間違いなく他殺。それを解決するためにも連邦の国々の力を借りれたら助かるのも事実なんだよね。わたしたちだけじゃ限界があるし、大智や大志たちの感情の抑制を考えるといっぱいいっぱいな気がする。


「それで、今回招集した要件だが」


 するががそう言ってわたしに目線を送った。


 え、わたしから言えってこと?


 この神々の前で?


 えぇ〜〜……………


 わたしが少し目を細めて首を傾げると、するがは目を大きく開けてわたしを凝視した。


 あんまり乗り気じゃないけど、その視線は絶対に言えってことだよね。


 もうするがの視線を辿って、神々のほぼ全員がわたしを見ていた。


 はぁぁ。しょうがない、これは言うしかなさそうだね……


 わたしはその場に立ち上がって言う。


「あの、日渡萌加です。えっと、実は今日の夜中、わたしの国の臣が殺されてしまいました。犯人を探したいのですが、わたしたち日渡の者だけでは限界があって、みんなに協力して欲しいんです。お願いします」


 わたしはそう頭を下げる。でも、誰も何も言ってくれなかった。沈黙がわたしに降りかかってきて、わたしはすごく不安になった。


「……なぁ、日渡」


 そう声が聞こえて、わたしは顔を上げる。発言をしたのは沼蛇松。靜連邦の東部諸国をまとめる経済大国の神。


「俺の聞き間違いか? 今、臣が殺されたって……」


「うん。大貴は殺されたよ」


 わたしがそう返すと、


「間違いなく殺されたのか?」


「事故や自殺じゃなくて?」


「どうして殺されたって分かるんだ?」


 などの声が上がる。


「うっせぇ、黙れ」


 そう言って場を黙らせたのは安久斗だった。


「まず、俺が死体を確認したところ、間違いなく圧力系能力による破裂死。具体的に言うなら、下手に『気圧泡内波プレッシャーバブル』を使ったみたいに飛び散っていた」


 その安久斗の言葉で想像がついたのか、数人がうげぇという嫌そうな顔をした。


「ちなみに日渡の臣家は『炎属性』の『火』だ。『風属性』の権能など使えるはずがないから、自殺や事故じゃない。これでもまだ他殺でないと言うやつはいるか?」


 安久斗の声に異議を申し立てる者はいなかった。でも、それによって神々は混乱してしまった。


「臣殺し……だと!?」


「えぇぇ……」


「なんでだよ!? あんな大罪、やるやついるんだな」


「ったく、面倒事を増やしやがって」


「臣を殺されて、萌加ちゃん可哀想」


「圧力系となると、犯人はだいぶ絞れるんじゃないか?」


 改めて、臣殺しが神々にとってどれだけ恐ろしいことなのかを思い知った。わたしは当事者で、大貴が殺された混乱もあってあんまり『臣殺し』に対しては気にしていなかった……いや、気にできなかったけど、なんの予兆もなく聞かされたら同じ反応をしたかもしれない。


「で、本題よ」


 あおいが騒がしい会議室に響き渡るような拍手を5回ほどして、注目を集めてから言う。


「今回の日渡臣殺害事件の犯人探しに全面的に協力してくれる者はいるかしら? もちろん靜は全面協力するわよ」


「濱竹もだ」


 安久斗がそう言って手を挙げると、それに倣って挙手をする者がちらほら現れる。


 見た感じでは、親交のある神々が多い。……というか、親交のある神々しかいない。


「あ、今手挙げてる人さ、名乗ってくれる? 控えるもんで」


 するががそう言うと、順番に一人一人名乗っていく。


「渡海勇」


「袋石夜鳥よ」


「武豊耐久」


「周知小國だ」


「崖川あさひ」


「根々川千鶴」


「堀之内弥凪さ」


「古田崎悠生」


 しかし、ここで止まった。


「ん? 他、いない? 西部諸国だけ?」


 するががそう聞くと、他の国の神々は話し出す。


「日渡のためにって言われてもなぁ……」


「交流ないし、西に行くのも嫌だよね」


「濱竹のお膝元かぁ……」


「そもそもさ、こっちは関東との睨み合いが……」


「西部だけでなんとかしろよ」


「靜が動くから大丈夫じゃないの?」


 ……あぁ、そうか。分かっていたけど、やっぱりこの連邦って足並み揃ってないなぁ。


 わたしがそう思って俯いた時、1人の男が席を立ち上がった。


「おい、靜。時間の無駄だぜ? そもそもよぉ、日渡なんかの小国のためになんで俺らが動かにゃならねーんだよ? そんなもん、勝手に解決しとけ」


 そして最後にわたしを見て、吐き捨てるように言う。


「周りを巻き込むなよ、チビ」


 彼の名は、井谷俣治。連邦の中の問題児。だからこういう発言はしょっちゅうだし、最初から期待していなかったけど……


「…………」


 実際言われると、すごく悲しい。


 するとあおいが俣治にキツく言う。


「ねぇ、ふざけないでくれる? あなただって臣殺しがどれほど大罪か分かっているでしょう? よく萌加にそんなこと言えるわね。それに、萌加が1人じゃ解決できないからこうやって協力を求めているのよ? にも関わらず、その発言。許せないわね」


「あぁ? どう考えても1人で解決できないこのチビが悪いじゃねーかよ。んじゃあれか? 靜はここ連邦の神が1人で解決できない問題を仲良く手を取り合って解決していきましょうって言うわけか? はっ、バカバカしいな。日渡以外にも問題を抱えた国は大量にある。だが、そいつらはみんな連邦を巻き込まずに解決できてんだよ。結局日渡が非力なだけじゃねぇか。靜は非力な奴を利用して、あたかも連邦を牛耳っているように見せてるだけじゃねーの? もしかしたら、臣殺しだって靜の自作自演かもな。『風属性』の祖神種なんだから『圧力』だって使えるんだろ? もしそうなら、とんだ茶番だな」


「なんですって? 祖神に対してその口の利き方、上下関係を体に刻みつけてやらないと理解できない……」


「姉ちゃん、落ち着こうよ。俣治があーゆー性格してるのは昔からでしょ? なに挑発して戦争始めようとしてんの。今は神議会中なんだからね?」


「でも……!」


 俣治とあおいとしみずの会話はまるで頭に入ってこなかった。それよりも悲しさで胸が張り裂けそうで、気を抜いたら涙が溢れそう。


「よし、じゃあこうしたらどうだ?」


 そこで口を開いたのは安久斗だった。全員の視線が安久斗に集まる。


「仲のいい集団の中から必ず一国は協力するようにする。つまりは代表国を決めてくれ」


 誰もが不満の顔をするが、濱竹も統率国なので逆らえない。


 だが、統率国とはいえ、濱竹は皇神種であり、始神種たちからすると自分より格下の存在に命令されるのは気に食わない。しかも皇神種が統率国になっている時点で濱竹に対する好感度は失墜しているのも事実である。だからこそ、濱竹勢力圏である西部諸国に対する印象も決して良くはない。


「おー、いいねいいね。そうしようよ!」


 しかしそれに、靜の三大神の1人であるしみずが賛成したことにより、遂に誰も逆らえなくなってしまった。


 でもそれって、結局嫌々協力してくれるわけじゃん。なんかそれも嫌だなぁ。


「よし、じゃあこの宇治枝恭之助うじえだきょうのすけ島谷しまや銀谷ぎんや谷津やづ、宇治枝の中部4国代表として、率先して名乗り出よう! よろしくね、萌加ちゃん」


 いや、そうでもないのかも。恭之助は誰にでも明るく接して、色々と協力しているイメージがある。靜とは昔から仲が良くて、常に一緒にいる。だからこそ、靜が本気でわたしを助けたいと思っているから協力してくれるのかもしれない。


 ……それって結局、他人に突き動かされて協力しているだけじゃん。自分の意思って……


 ……それでもいいや。実際にこうやって協力してくれるのは嬉しいし。


「ありがとう」


 わたしは恭之助に笑って言うと、恭之助はわたしに微笑み返した。


 その間にも、周囲では各国による代表者決めが行われていた。


「ねえ、あおい」


 そこで静かにあおいに告げる、色白の女がいた。


「なにかしら、志穂しほ


 彼女の名は羽宮うみや志穂しほ。羽宮国の神である。不健康そうな白い肌に、高くも低くもない身長。そして、わたしと似たり寄ったりのまないた。仲良くなれそう、とか思っていたけど、いざ話してみたら掴み所がなくて少し接し方が難しいひとだった。


「あのさ、羽宮と富田とみたの代表も兼ねてくれるといいなって……」


「うーん……」


 その羽宮は、どうやら靜に代表を頼みたいらしい。中部地方とは言っても、靜より東に行ってしまうとわたしとはほとんど交流がない国々ばかりだ。そうなると、西部諸国に対する印象も低い国ばかりになるので、そりゃそうなって当然だよね。


 西は野蛮、なるべく行きたくないし関わりたくない。


 東部ではそんな考えが充満しているみたいなのだ。


「いいわよ、引き受けるわ」


 そしてあおいもそれを考慮してか、その申し出を引き受けた。


 と、その時。1人の豊乳な女の子が手を挙げる。


 くっ、容姿年齢は同じくらいなのに、なんだあの胸は。いつ見ても、錯覚だと思いたいくらいに大きい……


「どうした、熱山」


 安久斗がそれを指名すると、その子、熱山美佑は立ち上がって話し出した。


「ねーねー、今ねー、東部と猪頭は関東統一連邦とのいざこざを抱えてるのー。同じ『炎属性』の神として協力したいのは山々なんだけどー、協力してる間に国がなくなるのは嫌だからー、ちょっと無理そうなのー。ごめんねー、萌加ー」


 にこにこ笑顔でそう言われる。


 あ、うん。それはいいんだけど、多分言いたいこと途中からずれてるよね?


「それで、何が言いたいんだ? まさか公でそれを言いたかったわけじゃないだろ?」


 安久斗も同じように感じたようで、美佑にそう質問をした。


「あははー、そうそうー。えっとねー、本題はこっからでー、関東に対する対応ってー、靜はちゃんと考えてるのー? それだけー」


 いや待てぃ! 日渡は本題じゃないのかーい!


 ……まぁ、うん。いいんだよ?


 今の東部諸国と猪頭諸国は自国が存亡危機にあるんだから、そうだよね……


「今はその話よりも日渡でしょうに……」


 そう言ったのはあおいだった。しかし次にするがが口を開く。


「質問に対する返答をする。東部諸国、並びに猪頭諸国はよく聞け。実は、俺たちのところには関東統一連邦からこんな手紙が届いている」


 そしてするがはその手紙を読み上げる。


「『靜連邦盟主、靜。我ら関東統一連邦の軍門に下り、連邦を明け渡せ。これに呼応し軍門に下るなら『関東統一連邦所属の靜連邦』とし、多少の政治介入は行うが領土は保証する。もし断るのなら、その時は武力を以って侵攻する。』」


 内容はそんなものだった。


 というか、日渡より普通にそっちの方が大事おおごとな気がするのは気のせい……?


 だって、放っておいたら連邦が滅亡するよ?


 と、思っていた矢先、次のするがの行動に目が飛び出そうになる。


「ま、こんな手紙なんだが、返事は書かない」


 彼はそう言い切って、手紙を破いたのだ。


「はぁ!?」


「おいおいおいおい!」


「え、ちょ、ま、おいっ!」


「ぬあー!!」


 東部諸国や猪頭諸国を中心に混乱と叫び声が上がる。流石に西部諸国からも焦りの声が上がっていて、会議室は紛糾した。


「おい、するが。いいのか? 戦争に……」


「ならねぇよ。返事をしなければいいんだ」


 安久斗の質問にするがは手から粉々の手紙を落としながら答える。


「まぁ落ち着け」


 取り乱す原因を作った本人が、混乱している神々に対して言った。


 ほんと、靜の三大神って何をやらかすか分かったものじゃない……


「いいか? この手紙には、返事をしなかった場合のことは書いていない。あくまで返事がマルかバツかだけだ。そして返事をしたならば服従か戦争。どちらも最悪な未来しかない。だから返事は書かない」


 わぉ……


 ほんとに訳わかんないな、この祖神種。


 ってか屁理屈を理屈に変えてしまうあたりおかしいよ。


「でも、軍を国境沿いに配備しちゃったら敵対意思があるってことで怪しまれるんじゃ……」


 そう質問したのは河頭の神、咲良だった。


「確かにそうだ。だが、それを逆手に取る」


 するがはニヤリと笑ってこう言い切った。


「『なんの前触れもなく、いきなり国境に軍を配備するとは何事だ』って、怒鳴り込みに行く」


「……」


 もはや、誰もが声を発しなかった。


 靜の三大神の発想が如何に突拍子がなくて、屁理屈ばかりで、それでも違うと言い切れない、そんな曖昧な言葉と抜け穴を巧みに利用した国防方法に呆れ……いや、感心しているのだった。


 それと同時に、手紙はどうするのだろうという疑問がふつふつと湧き始めていた。


 そんな時に1人だけ笑った頷いた男がいた。


「なるほどなるほど。つまりは『手紙なんて最初から届いていなかった。いきなり戦争準備とは度胸あるな、あぁん?』ってことにするんだね」


「ふっ、さすが恭之助。理解が早い」


 ……あっ、なるほど。そもそも手紙が無事に靜のところまで届かなかったと仮定して動くのか。そうなると、確かに関東は靜連邦に対して軍事的行動を前触れなく起こしたことになり、こちらに正当性が取れるということか。


「でも、それで現地に行ったら判断を迫られる。それはどうするつもりだ?」


 安久斗がそう質問すると、


「『軍事行動を無許可で起こして、民に執拗に恐怖を与えたんだ。こっちの言うことも少しは聞いてもらおうか』みたいなことを適当に言っといて、なるべく長く猶予をもらうことにするよ。できるなら、永久的に放っておいてくれって交渉してくるつもりさ」


 と答える。しかし、それに恭之助が口を挟む。


「でも事実、向こうは手紙を送っているし、こちらの元にちゃんと届いている。嘘だとバレれば即終わりだ。10年くらいの不干渉が取り付けられれば万々歳だろうね」


「うん、大丈夫だよ。バレないから」


 するがは笑顔でそう言った。


 あれ? これ、盛大なフラ……


「じゃあさー、私たちは今のまま怯えきっていればいいんだねー?」


 美佑の確認に、するがは大きく頷く。


「その演技が必要だったから、手紙の存在を隠していたのさ。すまなかったよ」


 するががそう言って頭を下げた。


「全然構わないさ。ちゃんと考えがあっての行動だって分かったから俺たちは安心だぜ」


 そう言ったのは、猪頭の神である大平だった。


「さて、それはいいけど」


 あおいがそう口を開いて、


「東部諸国と猪頭諸国、代表はどこ?」


 と訊く。


「東部諸国、沼」


「はいよ」


「猪頭諸国、猪頭」


「はーい」


 ただの単語の羅列でも、ちゃんと伝わってしまうのが恐ろしい。


「んじゃ、決定ね。あーあと、代表にならなかった国たちにも多少の協力はしてもらうわよ」


「はぁ!?」


「おい、話が違うだろっ!」


「なんで日渡のために……」


 あおいの言葉に、代表にならなかった国々は声を上げたが、


「黙りなさいな、下種どもが」


 それをあおいが睨みつけて静止させる。


 う、うわぁ、怖い。


「連邦全加盟国に告ぐ。圧力系能力を操れて、『気圧泡内波プレッシャーバブル』が使えて神類を殺せそうな者を国から全員集め、日渡の磐田神社に集合させるように。これは命令よ。破ったら晒すからね」


 その睨んだままの状態を保ってあおいは言葉を発する。


 それに一同が頭を下げた。


 永神種は同格だとされているけれど、やはり祖神種には勝てないね……


 この気迫は凄いよ、ほんとに。


 あの俣治ですら頭下げてるし。心から靜が敵じゃなくてよかったって思うよ。


「萌加、日渡には『臣殺しに伴う特別措置』を適応して、次の臣が決まるまで『直接神治』をしなよ。君ならできるだろ?」


 するががわたしにそう言った。


「わかったよ。ありがとう」


 わたしはそう答え、軽く頭を下げた。

 するがは少しだけ微笑んだが、すぐに表情を引き締めて安久斗に何かを耳打ちした。


 安久斗はするがの言葉に真剣な表情で頷いた。


 その様子を見ていたら、しみずが全体に向かって口を開く。


「少しボクから話をさせてよ。日渡の臣殺しのことなんだけど、犯人が他連邦のやつである可能性も捨て切れないじゃん? だからさ、犯人が逃亡しないように今から連邦の国境を閉鎖しようと思うの。もう逃亡している可能性も否めないから、他連邦と隣接してる国は今日の2時半以降に国境を越えて移動している者がいないかすぐに確認してくれる? あと、もし移動してるのがいたら、そいつがいつ入ってきたかも調べてね」


「はいっ! しみずたんの命令とあらば、この流水ながれむすび、たとえ火の中水の中、地の果てにだって赴く所存でありますっ!」


 しみずの直後に言葉を発したのは、流水国の神、むすび。彼は見た目カッコいいくせに、狂信者とも言えるほどにまでしみずを愛している。しみずの命令に忠実だから、流水国はある意味では靜の属国になっているんだよね。


「あんた、他連邦と国境接してないでしょ」


「いいや、どうして俺がしみずたんの命令を無視することがあろうか!」


 直後に咲良に突っ込まれているが、本人は気にしていない様子。ほんと、懲りないやつ。


「じゃあその鬱陶しいのをやめてくれ」


 しみずがため息混じりに呟いたのを、わたしは聞き逃さなかった。


 ……しみずもだいぶ苦労しているみたいだね。


 そんなことを思っていると、あおいが全体に言葉を放った。少し落ち着いたのか、それともわざとなのか、さっきまでの気迫は感じられない、かなりフランクな話し方になっていた。


「それじゃ、解散ね。日渡に協力してくれる国々も、とりあえずは解散。取り調べとか調査の協力がメインになると思うから、出番まで待ってて。あ、でも安久斗と恭之助は萌加に付いていてあげて。臣が殺されたんじゃ、不安だろうし。私たちもすぐ行くから」


「待つのは自国じゃないほうがいいよね?」


 あおいにそう尋ねたのは、崖川あさひだった。


「あーそうね。なるべく私たちが呼びに行きやすい場所がいいから……」


「浜松神社を開放するから使え。向こうには巫女がいる。連絡は入れておこう。あとは向こうの指示に従ってくれ。色々厳しくて面倒な奴だが、悪いようには扱わないはずだ」


 あおいが悩んでいると安久斗が答える。


 果たして、おなちゃんに任せていいのかは不安だけど、まぁあの子も巫女だし大丈夫だよね。


「分かった、ありがとう」


 あさひはそう言って、西部諸国の神々をまとめ始める。


 そうして、3年ぶりに開かれた連邦諸国永神種議会は閉会した。


 わたしと安久斗と恭之助は、日渡に向けて飛び立つのだった。




 日渡へ移動中、安久斗がわたしに声をかけた。


「大智は、お前のことを知っているのか?」


「知っているといえば知っているよ。ただ、わたしを永神種として認識はしていないと思うけど」


 わたしの答えに、安久斗も恭之助も戸惑ったような声を上げる。


「日渡は臣と巫女以外はお前を見たことないんじゃないのか?」


「名前だけ知っているってことかい?」


 それらの質問に、わたしは首を振った。


「普通に接触はあるの。街でわたしがさぼ……こほん。視察をしているときに知り合ってさ、下神種のもえちゃんとして何度か話したことはあるんだ」


 その返答に、安久斗が唸った。


「となると、顔が割れているってことか」


「まずいことなの?」


 わたしが返すと、安久斗は目を細めて言った。


「いや、普通なら大した問題はないんだがな、相手が相手だ。おそらくだが、あいつ、お前を見たら分かりやすく困惑するんじゃないか? そういう性格に思えるのだが……」


 あー、たしかに。声に出るか顔に出るかは分かんないけど、みんなに知り合いって疑われるのは間違いない気がする。


「なるほど、それだとそれに関する言及が始まって議題がそっちに行きかねないから、対策を練らないといけないってことか」


 安久斗の考えを汲み取ったのか、恭之助がそう言う。


「そういうことだ。まぁ大した問題じゃないんだがな、色々面倒じゃないかと思ってな」


 さすが恭之助。勘が鋭いのか、読心術でも持ってるのか、安久斗の考えをすぐに読み取った。


 彼、悪いひとじゃないんだけど、少し怖いんだよね……


 なんか、心を読まれてる感じするし。


 まぁそれは置いておいて、今は大智対策を考えないと。


「そうだね。じゃあどうしよう」


「それなら、ありきたりかもしれないけど考えがあるよ」


 わたしが言うと、恭之助が口を開いた。


「なんだ?」


 安久斗がそう訊くと、恭之助がニッと笑いながら答えた。


「ズバリ、人違い作戦さ」


「なんだ?」


 安久斗がさっきと全く同じトーンで聞き直す。


「ま、つまるところ、彼が知っている性格とは全く違う性格を見せつければいい。萌加ちゃんとは思えないくらい厳格にしてみたり、威圧してみたり。脅してもいいかもしれないね。とにかく彼が別人だと錯覚するくらい性格を変えて接することで乗り切ろうってわけさ」


 恭之助の言葉に、わたしと安久斗は頷いた。


「分かった、やれるだけやってみる」


 わたしはそう言って微笑むと、安久斗は笑って「おう」と言い、恭之助はグッと親指を立てた。


 そうしてわたしたちは、磐田神社に降り立つのだった。




ーーーーー

ーーー




「やはり返事は来ないな」


 関東統一連邦の頭脳、南四連邦の盟主国、東輝とうきにて、2者による談話が行われていた。


「まぁ、あそこはずる賢いから。それに想定内でしょ? まだその時じゃないわけだし」


「ま、そうだがな。で、若菜。お前の彼氏からの情報はどうなんよ?」


「うるさいわね、黙りなさいよ。いっぱいあげてるでしょ?」


「確かに濱竹の人類反乱の情報はもらったけどよ、靜連邦の内情に関しては……」


「私も知らないわよ。ていうか、私も知りたいわよ」


 話し合いをするのは、盟主である祖神種、東輝洋介とうきようすけと、その親友の祖神種、夏半若菜かなかわかなである。


 関東統一連邦は、祖神種絶対主義を掲げて全国支配を目指している。統一連邦と名乗り出した最初の連邦であり、その名の通り数多くの連邦を落としてきた。落とした連邦は傀儡にすることもあれば併合することもあり、抵抗の度合いによって調節している。


 現在、この世界最大の面積と軍事力を誇る連邦であり、正面から戦えば勝ち目はないとされている。その面積、果ては北の大地から南の海の島々まで及んでいる。実にこの世界の8分の3は関東統一連邦の範囲なのである。


「そろそろ北の新干潟しんひがた連邦が降伏するだろう。手紙を断った末路として、靜連邦を脅迫するのはどうだろう?」


「無駄ね。多分その前に動いてくるわ。ま、詳しい情報はまたすぐ手に入るからいいけどさ」


 洋介の提案を若菜は一蹴し、そして笑う。


「ね、今回さ、私思ってることがあるんだけど」


「ん?」


「敢えてさ、靜連邦の茶番に付き合ってみない? たぶんあの手この手で私たちから逃げようとすると思うの。で、それに付き合ってみる」


「なんで?」


「暇だからよ。退屈しのぎにはちょうどいいんじゃない? 3年間くらいさ」


 ふむ、と洋介は考える。


 確かに最近は暇ではある。領土も大きくなり、軍も強くなり、武力侵攻をすれば面白くもないくらいにすぐに手に入ってしまうこの世の中。


「よし、じゃあこれはどうだろう」


 洋介は若菜に提案する。


「靜に付き合いつつも、裏から連邦を崩す。そして一気に畳み込んで、吸収する。つまり、完全なおもちゃにしようじゃないか」


「ふふっ、もう既に同じようなことを濱竹で試したのに、変なの」


 若菜はその意見に笑ったあとでこう答えた。


「でも、嫌いじゃないよ?」


「それじゃ決まりだ。そうとなれば、安陵を呼び出そうか。計画変更を伝えないとな」


「にしても、安陵って凄いわよね。皇神種のくせにあのぞわぞわするような狂気的発想。私、サイコパス度合いだったら負けてる自信あるもの」


「だから残したんだろうが。何かしらやってくれるなって見込んでよぉ」


「ほんとにね」


 そんな会話をしながらも不敵な笑いを浮かべた2人は、秘密裏に計画を練っていくのだった。




ーーーーー

ーーー




 いやぁ、急に呼び出されて驚きましたよ。


 いよいよ殺されるのかと思いました。


 祖神種絶対主義の社会で生き残った皇神種ってのも、肩身が狭くて困りますね。


 さて、下っ端は下っ端らしく働きますか。


 今回は作戦の変更をいただきました。


 夏半様が丁寧に紙で栞を作ってくださり、なんかお仕事って感じですね。


 テーマは相変わらず靜連邦の攻略ですが、攻略方法は少し道筋が書かれていますね。えーっとなになに?


『我々が靜連邦を攻略する合図となるのは、靜連邦が内戦状態に陥った時である。お前の仕事は、靜連邦を適切な時期に内戦状態にすることである。手段は問わない。だが、その内戦は大きければ大きいほど我々に利益が出るだろう。』


 ……ほほぅ、これはまた大きく出ましたね。


 靜連邦を、内戦に。


 ふむむ。思い浮かぶには思い浮かびますが、その状態に持っていくまでもうワンステップ欲しいですね。果たしてどうしましょうかね。


 靜連邦を二分化するのは簡単ですが、きっかけがないとできません。そのきっかけとなり得る事件を起こせれば勝ちなのですがね、それが見当たらないのが現状ですね。


 ただまぁ、救いなことに時間はまだたっぷりあります。もう少し考えて、しっかりと計画を練ってから動きましょうか。そのうち靜連邦の情勢も変わるでしょうし。


 とりあえず、今は安陵くにに帰りましょう。考えるのはそれからです。


 それではみなさん、また今度。


羽宮志穂 身長154cm 年齢■■■■歳

東輝洋介 身長176cm 年齢■■■■歳

夏半若菜 身長153cm 年齢■■■■歳

安陵栗伊門 身長168cm 年齢■■■■歳

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