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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
後継騒動編
22/107

第21話『賽は投げられた』

みなさん、お久しぶりです。

作者のひらたまひろです。

現実が忙しすぎて執筆時間がなかなか取れなくて、約5ヶ月ぶりの更新ということになります。

ほんと、1日24時間じゃ足りませんね。

さて、それは置いておいて。

今回から『後継騒動編』の開幕です!

遂に、遂に……!

遂に、物語が動き出します!

(なげぇよもっと前から物語を動かせ)

さて、それでは私はひとまず下がらせていただきます。

本編の方をお楽しみください!


 磐田神社の本殿にて、日渡萌加と濱竹安久斗の会談が始まった。


 会談と言っても、畏まったものでは全くない。ただ単に萌加と安久斗の会話というだけである。


「それで、今日はなんの用件?」


 若干の雑談をして笑い合い、気分を軽くした後で萌加が安久斗に質問した。


「今回、濱竹こっちで人類反乱があっただろ? そのことで少しな」


 萌加の質問に安久斗が答える。


 萌加はその答えに首を傾げる。


「状況なら大智が見て確かめてきたし、色々知ってるけど?」


「その色々とは、具体的にどんなことだ?」


 萌加に対し安久斗が質問をすると、


「反乱が2回起きたこととか、人類が優れた武器を有していたこととか」


 と萌加が答える。そして間を置いて彼女は言った。


「裏に神類が絡んでいたこと、とか」


 それを聞いた安久斗が笑う。


「やはり知っていたか」


「大智が情報持ってきたからね」


 萌加は何食わぬ顔でそう言い返すが、それは濱竹にとって大問題である。


「なあ、」


 安久斗は一気に真面目な顔になって萌加に訊く。


「お前それ、誰かに言ったか?」


「え?」


 萌加は首を傾げて少々困惑したように答える。


「誰にも言ってないけど……?」


 その言葉に安久斗は安心する。


「なら良かった」


 そう言って、萌加に釘を刺す。


「裏に神類が絡んでいたってことだがな、今後一切、他言無用で頼む」


「え、どうして?」


 萌加の疑問は自然である。人類反乱の裏に神類がいたなどという大きな事実を秘匿にする必要は皆無だからだ。その事実を連邦加盟国に告げて、情報を共有し合えば、裏に潜む神類を炙り出すことや捻り潰すことが簡単になるからだ。


「それは言えない。この事件の真相に関しては濱竹の秘匿事項とすると決定したからだ。まぁでも、ひとつ言うなら、それが今できる最善策であるということだ」


 安久斗の言葉に、萌加はまたも疑問をぶつける。


「あおいたちには報告するの?」


「しない」


 即答で返ってくる。


「どうして? 靜には伝えた方がいいんじゃない? 統率国同士で情報を共有しておけばもしも有事になってもスムーズに事が進ように思えるけど」


「そんなことは分かっているさ。だが、しない」


 安久斗が間髪入れずに返す。


 萌加はその理由を知りたかった。しかし、直感的にこれ以上質問するのは良くないような気がして思いとどまる。


「分かったよ。そこまで言うなら、それが正しい判断なのかもね。わたしは他言する気はないし、約束は守るよ」


「感謝する」


 安久斗はそう言って、大貴と花菜を見た。


「そういうわけだから、頼んだぞ」


「はっ、我々も他言は致しません故、ご安心ください」


 大貴が代表して答えると、安久斗が笑いながら言う。


「お前らは心配してねぇよ。お前らに頼みたいのはな、お前の弟に他言すんなって伝えてくれってことだよ」


 そう言った安久斗であったが、直後に真顔になって少し強い口調で言葉を放った。


「もし誰かが情報を漏らしたなら、日渡おまえらだろうがそん時は本気で晒してやるからな」


 神類の言う『晒してやる』という表現は『首を晒す』という意味だ。


 かつて、神類同士の戦いで敗戦国となった『神』と『臣』と『巫女』は、戦勝国の首都に首を晒された。それ故に、この『晒してやる』という言葉は、普通の『晒す』という意味以外にも『国を潰す』という意味で使われることがある。ここで安久斗が使ったのは後者の意味であり、誰かがうっかり口を滑らせた場合、日渡は濱竹により潰される運命を辿るというのである。


 その意味を理解した大貴と花菜の顔が青褪める。そして思いっきり頭を下げて、


「強く、肝に銘じておきます!」


 と叫びに近い声で誓う。


 これには、萌加も黙っていなかった。


「安久斗、そこまでやることなの? これって一種の脅迫じゃない。なに、もしかして喧嘩売ってんの? 買ってあげようか?」


 普段、穏やかな性格をしている萌加であるが、この言い方は癪に触った。


 強めの口調で安久斗に言うが、安久斗はそれを鼻で笑う。


「寝言は寝て言えよ。勝てない相手に喧嘩はするもんじゃないぞ?」


「なにその言い方。普通にイラッとするんだけど」


 さらに不機嫌になる萌加。


 しかし、安久斗がそれを気にすることはない。


「あのな、これは法の話をしてんだ。他国の秘匿事項を他国が言いふらした場合、それは宣戦布告の対象となる。それは知ってるだろう? 今回、もしこの国の誰かがそれを言いふらせば、不本意だがその法の適用範囲に該当すんだよ。だから、そうなる前に『ガチだぞ?』って脅したんだ。分かったか、ロリ神」


「ロリ神ってなによ!?」


 萌加が反発する。


「事実だろ。どっからどう見てもロリじゃねぇかよ」


 安久斗が馬鹿にしたように笑いながら言う。


「ひどい! ねぇ普通に傷ついたんだけど」


 萌加の目が若干潤む。


「安久斗様、ほどほどに致しましょう。それ以上やると国際問題に発展する可能性が……」


 ひくまが焦ったように安久斗を止める。


「そうか? 萌加がそんな短気だとは思えんが」


 対する安久斗は全く問題ないかのように言う。


「わたし、あんたが思うより短気なの!」


 萌加が今にも泣きそうな声で叫ぶ。


 萌加は密かに、幼女のような自分の体に劣等感を抱いていた。神の名に相応しい威厳がなく、それ故に揶揄われることや見下されることも少なからずある。


 しかし、優しい性格であるがために感情を全面に出して怒ることをしないので、安久斗のように萌加を揶揄う神たちは萌加が劣等感を抱いていることに気付かないのだ。それだから安久斗は気にすることなく萌加を弄っていたのだが、今回の事案で萌加が今までの弄りに密かに傷ついていたことを安久斗は察した。


「ま、気を悪くしたなら謝るぜ」


 安久斗もまた、優しい神である。黒い歴史も数多く持つが、今となってはかつての面影など怒らせない限りはどこにもない。そうであるため、安久斗は萌加を傷つける気は更々ないのだ。


 萌加は安久斗の言葉にひとつため息を吐き、気持ちを切り替えてから話し出す。


「それ以外に用件は?」


「ない」


「……」


 安久斗の声で会話が終わる。


「じゃあ……」


 萌加は帰るように促そうとしたが、それは安久斗によって遮られる。


「あくまで『俺は』だがな」


「じゃあ、誰か他に用事があるってこと?」


 萌加がそう訊くと、安久斗は笑う。そして花菜を見て、


「お前、大智たちのとこに行け」


 と言う。


 命令された花菜にはその理由がなにも分からないが、安久斗からの命令となると断ることができない。


「分かりました。失礼します」


 そう言って、花菜は本殿を後にした。


 大貴にも安久斗の命令の意図が分からなかったが、連邦最高位の永神種に対してそれを質問することはできない。


 一方の萌加だが、彼女は安久斗の意図を察していた。


「安久斗、もしかしてこっちが本題なんじゃないの?」


 萌加が笑いながらそう訊くと、


「さぁな」


 と素っ気ない声で返すが、その口許は少しだけ緩んでいた。


「さて萌加。せっかく日渡まで来たからには観光がしたい。案内を頼んでいいか?」


 安久斗が萌加に依頼すると、萌加の顔が明るくなった。


 理由は簡単、正当な言い分で神社を抜け出せるからだ。


「ってことで大貴、わたしは安久斗を案内してくる!」


「あ、お供します」


 そう言う大貴だが、萌加が目を細めて言い返す。


「いやいいよ。それよりも、調べたいことがあるんじゃないの?」


「いや、でも……」


「いいの、いいの。有事の事態が起きても安久斗がいるし。それにわたしだって弱くはないから」


 そう言って立ち上がる萌加に、大貴はため息を吐く。


「そこまで言うなら分かりました。お気をつけて」


「ひくま、お前も付き添う必要はない」


「はっ、お気をつけて」


 大貴の言葉の裏で、安久斗がひくまにそう告げる。それに対して、ひくまは深く頭を下げる。


「さ、行こっか」


 萌加の声で、安久斗は立ち上がり本殿を後にする。


「そんじゃ、俺は部屋に篭ります。ひくまさんは控室として俺の家をお使いください」


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 それを聞いて大貴が微笑み、本殿の横にある自室へと姿を消した。




ーーーーー

ーーー




 私は安久斗様の命令を受けて、控室として使われている大智の家の居間へとやってきた。


 扉を一枚隔てた向こう側からは、なにやら楽しそうな笑い声が聞こえる。


 私が引き戸を開けて中に入り、土間から居間を見渡す。するとそこでは、何やら楽しそうな光景が広がっていた。


「ほんとやめて。お腹痛いから」


「砂太郎、落ち着こうか。ね、一回やめよう」


「……」


「ダメだ、流石に我慢できない」


「面白すぎです。あはははは」


 そこで私が見た光景は、砂を取り囲むように座った大智たちが笑い転げているものだった。


 でも、ただの砂ではない。


 その砂は、シュールにピクピクと絶妙に気味の悪い動きをしている。


「なに、これ?」


 私がそう訊くと、笑い転げていた大智が答える。


「将軍の一発芸で、砂踊りってのなんだけど、じわじわ笑えてくるの」


 将軍って誰?


 いや、それは訊いちゃいけなさそうだ。巫女の私が濱竹幹部の面々の前でそう尋ねるのは失礼ではないだろうか。


「お、ひとり増えたな」


「うわぁ!?」


 砂からいきなり眼帯をしたおじさんの生首が浮かび上がって、私は思いっきり仰け反る。


 なになになになに!? このおじさん誰!?


 腰を抜かした私を見て、大智と大志は大笑い。


 ムカつくわ、特に大智。


 私がビビってるのを見るのがそんなに楽しいか?


 そう思っていると、目の前にあった生首が砂に持ち上げられて180センチほどの高さにまで上がった。そして砂が下から上へどんどん上がり、堅いの良い体を形成した。


 そして、完全な姿になって私に話しかけてきた。


「驚かせて悪いな、嬢ちゃん」


 その、あまりにフランクな眼帯おじさん。


「俺は中田島砂太郎。濱竹軍総長をしている。軍総長には将軍という愛称があるから、将軍と呼ばれることが多いな。よろしく」


「ひ、日渡の巫女の豊田花菜です。よろしくお願いします」


 私が驚き未だおさまらずという具合で答えると、将軍は豪快に笑った。


「なんだ、緊張なんかしなくていいぞ?」


 緊張じゃなくて、あなたのせいで驚いたんです。間違えないでください。


 ……と言ってやりたかった。だけど、他国ーーしかも濱竹ーーの幹部であることと同時に位が高いのでそうもいかない。


「お気遣い、ありがとうございます」


 私はそう言って姿勢良く一礼をした。


「いや、タメ口でいい。嬢ちゃん巫女だろう? 俺なんかより立場は上だし、神以外は敬わなくていいだろう?」


 しかし、将軍にそう言われた。


 濱竹の階級では確かに巫女は絶対的存在だ。でも、それは濱竹の話。日渡ではそこまで絶対的存在ではない。濱竹と日渡では基準が異なるのに、地位の問題を濱竹の基準で考えていいのだろうか。正直とても疑問に思う。


「そうね、畏まらなくていいわ。でも、私たちもタメ口を使わせてもらうわ。若い子との親交は持っておくべきだもの」


 しかし、そう思っていたところに女性の声が聞こえた。


 かっこいい系に極振りしたような容姿のナイスボディの方だった。


 憧れる女性像ってあんな感じだ。すごく大人って感じ。


「敬語だと距離を感じるしね。大智くんみたいにフレンドリーな方がこっちも接しやすいよ」


「いや、大智はフレンドリーなんじゃなくて常識がないだけです」


 次に口を開いた白髪の若い男性に向けて私はそう答えた。すると男性は確かにと納得したように笑う。


 大智が酷いぞと反論しているが、事実なので放置。そう言われたくないなら性格を変えなさいとしか言いようがない。


「でも、敬語はいらないよ?」


 笑い終えるとキリッとして、私にそう言う。


 そ、そこまで言うなら……


 きっとこれ以上断り続けるとかえって失礼だ。今が潮時ではないかと私は自分に言い聞かせる。


「分かりました。じゃあ、少し砕けた話し方にしますね」


 私はそう言って全員を見渡す。みんな笑いながら頷いていた。


「楽しそうじゃないか」


 突然、土間からそんな声がする。


 私たちは一斉に土間を見て、全員が姿勢を正して深々と礼をする。


「いやいや、今はそんなことしなくていいから。頭を上げて」


 そこにいたのは、濱竹の臣、浜松ひくま様だったのだ。


 頭を上げろと言われたら、上げるしかない。命令なのだから。


 私たちは緊張しながら頭を上げる。


「ひくま様、どうなさいましたか?」


 質問したのは中田島将軍だった。


「いやぁね、安久斗様が日渡観光に行きたいと仰って、萌加様と街に出られたんだよ。それで、お帰りになるまでこちらで待つように大貴さんから指示があってね」


 萌加様が、日渡の街へ……?


 それは大丈夫なのだろうか。


 目撃した者全員を大逆罪に掛けなければならないのではないだろうか。


 ……いや、流石にそれはないか。萌加様が街に出ても神だと認識しない者がほとんどだろうし、安久斗様も名前こそ知られているが容姿までは知られていない。


 つまり、神様一行を見たところで誰も何も思わないということだ。


 じゃあ問題ないか。


 問題だったとしても見逃そう。そんなので処される民がいてたまるものか。可哀想すぎるだろう。


 ……あ、大智は例外ね。


「では、ひくま様も一緒にどうですか?」


 突如そう提案した猛者がいる。


 もちろん、大智だ。


 濱竹勢は驚いたように目を見開いているし、私も全力で焦っている。


「え、いいのかい?」


 しかし、ひくま様はノリノリでその提案に返事をする。


「問題はありませんが……」


「臣様と一緒など恐れ多くて……」


「あ、座椅子お持ちします!」


 濱竹勢は混乱を極めている。それもそうだろう。普段は許可なく会話することも許されない臣と同一円状に並んで会話をするのだ。それはあまりにも抵抗があるだろう。


「あぁ、座椅子は要らないよ。この瞬間だけは、君たちと対等に話してみたいんだ」


 ひくま様はそう言って微笑んだ。


 対する私たちは困ったような笑みしかできない。


 だけど、みんなが腹を括ったような顔をしてそれを許可した。


「臣様の意見に、我々が口を挟むなどあり得ません」


 と。


「だから……。はぁ。対等ってなんだろうな」


 ひくま様の困ったような呟きが私にははっきりと聞こえた。




ーーーーー

ーーー




 そうして、ひくま様と花菜が加わった。


 花菜に対して挨拶をしていなかった濱竹勢は自己紹介を済ませ、花菜も改めて自己紹介をして、なんだかんだですぐに溶け込んでいた。


 しかし、ひくま様と対等に話すことなど濱竹勢には難しいようで、口調は少しだけ砕けてはいるものの、失礼にならないような言葉を慎重に選びながら会話をしているように感じた。


 ちなみに僕らは花菜とひくま様が来るまで何をしていたかというと、お茶会である。神様同士で話し合いをしているときに待ち時間が暇すぎたので、将軍の提案によりお茶会をすることになったのだ。


 雑談がメインだが、大志が濱竹にすごく興味を示していたので、濱竹勢は大志からかなりな質問攻めに遭っていた。それがひと段落ついたときに、一発芸の砂踊りが始まったのだ。


 花菜が加わったことで、喜々音さんがよく口を開くようになった。同年代の同性がいるというだけで随分と居心地が良いらしく、心なしか表情も明るくなった……ような気がする。


 というのも、相変わらずの無表情なのだ。


 感情を表に出さない性格だろうなとは思っていたが、これほどにまで表情が出ないのも珍しいのではないだろうか。偏見だけど、ここまで無表情だと他者との賭け引きとかにすごく強そう。


 そんなこんなで数十分が経過した。


 ひくま様との会話にも結構慣れたようで、濱竹勢は今まで気になっていたであろう質問をひくま様にぶつけている。


 将軍や綴さんなんかは歳が近いだけあって友達みたいな調子で話しかけている。


「息子さんは元気?」


「おいおい、嫁さんとはどうなんだよ?」


 など、普段なら絶対に質問できないような家庭の事情にまで足を踏み込んでいた。


 そんな中、全く予期していなかった事態が起きた。


「そういえば、昇竜行政区の極峰くれはさんいるじゃないですか」


 花菜がいきなり全体に投げかける。


「あの妖精かたって、日渡うちの臣の大貴さんと付き合ってるんですか?」


「ちょっ、おまっ、ばか!」


 花菜の口を慌てて塞ごうとするが、手にお茶を持っていたのが仇となって遅れを取る。その結果、花菜は全部を言い切ってしまった。


 僕は、この危険性に気がついていなかった。


 というか、花菜は付き合っているという確かな情報を把握していたわけではなく、まだ不確かな情報しか持っていなかったことに気がついていなかった。


 今思うと、確かに花菜は『たぶん』という憶測で話を進めていた。それは事実確認がまだ終わっていないことを暗示していたのだが、僕は完全にスルーしていた。


 ってかそれって普通、本人にやらない?


 なんでこの濱竹勢メンツにやるんだよ!?


 よりにもよって、小林氏がいるしさぁ!?


 しかし、濱竹勢も目が点になっている。


 お、これはまだ勘違いで乗り切れる説が濃厚だぞ!


「あぁ、そうらしいな。この前の最高議会で大貴さんが嬉しそうに惚気てたし」


 ……と、思っていた時期が僕にもありました。


 まさかのひくま様、事実を知っていらっしゃった……


 あぁ、詰んだ。


 これは小林氏、ショックだろうなぁ……


「あっはははは、そうなのか? さっぱり知らんかったな」


「驚いたわ。初耳よ」


「へぇ……」


 小林氏以外の濱竹勢はオーソドックスな反応を示している。


 しかし、小林氏は冴えない。


「残念だったな、かささぎ!」


 そこに将軍が追撃をする。


 バシンッ! と小林氏の背中を叩くと、豪快に笑い始めた。


「あれ、私もしかして、要らないことした?」


 花菜がここでようやく事実に気付く。


「あ、ご、ごめんなさいっ!」


 慌てて謝る花菜に、小林氏は優しく言う。


「別にどうってことないさ。全く気にしていないからね」


 それが嘘であることは誰もが知っている。


 逆にここまであって嘘だと思えないのも察しが悪いだろう。


 気まずい空気が漂う中、ひくま様が話を変える。


「そういえば、大智くん。君はこの街については詳しいかい?」


「え、あ、はい。それなりに」


 一体どんな意図でそれを質問したのだろう。そう思っていると、ひくま様は「だったらちょうどよかった」と言ってニヤリと笑う。


 そして僕に言った。


「今夜、おすすめの店に案内してくれないかい?」


「はい!?」


 驚き、桃の木、山椒の木である。


「今夜、我々は日渡に一泊することにしよう。今から帰っても夜道を歩かねばならないし、安久斗様もまだ観光しておられる。今日帰るのは現実的ではないだろう? だったら泊まるほかないだろう?」


 ひくま様の目的は何か別のところにあるように思えるが、筋は通っている。それを聞いて、泊まらないで帰ってくださいと追い出すわけにもいかず、僕らはそれを承諾するしかない。


「わ、わかりました。案内しますね」


 僕が答えると、ひくま様は笑う。


「もちろん、ここにいる全員でだ。さ、今夜は呑むぞー! 俺の奢りだ!」


 みんな、ひくま様の奢りと言われて、素直にどうもと受け取れないのだろう。皆が申し訳なさそうに遠慮をしている。


「……一回言ってみたかったんだよ」


 ひくま様はそう言って少し拗ねた。


「あ、多分お金は心配入りません」


 花菜がそう言い、


「巫女の権限で無料にできます」


 と付け足した。


 それ、どうなの? 経済回そうよ、この国貧乏なんだからさ。取れる時に濱竹かねもちからむしり取らなきゃいつか破綻するよ?


「いやいいよ、普通に割り勘で」


 それはひくま様も思っているようで、花菜に対してそう言った。


 花菜は少し唸ったが、結局割り勘の意見に折れた。


 そうして夜になり、僕らは『みっけ』という食事処に入った。


 みんなで食事を楽しんで、たわいのない話に花を咲かせて親睦を深めた。


 綴さんの酔っている姿を見れるかと思って期待したが、彼女は僕らの前では決してお酒を飲まなかった。


 大人である将軍と綴さんと小林氏とひくま様は夜通しで飲み明かすようだが、まだ子供の僕と大志と花菜と喜々音さんは、日付の変わらないうちに神社に返された。


 そして4人でお泊まり会状態になり、しばらく思い出話や生い立ち、家族について語っていると、最初に大志が寝落ちして、直後に花菜もフェードアウトしていった。僕は初めて喜々音さんと長話をした。


 眠たい中話していたので、詳しい内容はもう覚えていない。きっと、とてもどうでもいい会話をしていたんだろうなと思う。ただ一つ覚えているのは、喜々音さんの笑い声を聞いたということくらいだ。静かな笑い声だったが、笑わないと思っていた彼女が笑ったことは、僕の心に深く焼きついたのだった。




ーーーーー

ーーー




 神紀4997年、夏至前12日、午前2時半頃。


 自室にて兎山伝書の第1巻を読み終えた大貴は、真剣な顔をして悩んでいた。


 正直、萌加の喪われた記憶に迫るのに、兎山伝書はミスチョイスであったと大貴は感じていた。


 明の言う通り、兎山伝書には萌加の記憶に迫る部分は全くない。あるのは萌加が兎山に預けられた理由くらいで、それは既存知識である『靜の勢力拡大』と『祖神種しずの加護を示す証』だ。萌加についてはそれ以外に記載がなかった。


 しかし、大貴はどこか『違和感』を感じていた。


 その『違和感』が何かが分からなくて、現在こうして悩んでいる。


(俺はどこに『違和感』を感じているんだ? いったいそれは、どこに……)


 兎山伝書の内容を脳内で振り返り、納得がいくかいかないかをもう一度確かめる。


(俺が調べているところとは確実に合わない。萌加様の喪った記憶にこの部分は関係ないからな。でも、なぜだ。どこかが引っかかる……)


 悩んで、悩んで、悩んで。


 考えて、考えて……


 それを繰り返して、彼はついにその『違和感』の答えを見つけた。


 瞬間、寒気と憎悪、疑いと期待が彼の心の中で入り混じった。


「もしかして、萌加様は……」


 脳内を整理すべく、彼はそう口に出して呟いた。


「そう、正解。さすがね」


 途端、そんな声が部屋に響く。


「誰だっ!?」


 大貴はそう言って警戒体制を取る。刀置きに置いてある刀に手を掛け、部屋を見渡す。しかし大貴の行動に被せるように、その声の主は優しく語りかけた。


「でもね、あなたは知りすぎた」


 そこで大貴の意識は途絶えた。


 自分に何が起こったのか、何一つとして理解しないままに。

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